女神異聞録デビルサバイバー2 with ペルソナ 作:時価ネットこみなと
SundayⅠ
「ペルソナッ!!」
小一時間前まで観光客で賑わっていた浅草の仙草寺。
あの有名な雷門前には誰もいず、廃墟と化していた。コンクリートでコーティングされた地面は割れ、最新の建築技術で震度7の地震にも耐えうると言われていたビルが傾いていた。
そんな浅草の提灯前では、一人の少年、鳴上悠と複数の狼が戦っていた。
正確に言えば、狼の形をして刃渡り1m弱の西洋刀を持った悪魔『コボルト』。
それに対して鳴上は鉄パイプを手に取り、健闘していた。
戦いに慣れているのか、鳴上はコボルト達の攻撃を避けながら一体ずつ確実に倒す。
その時折、鳴上はカードを握り砕くと、鳴上の背後から突然高下駄を履き、白い鉢巻を頭に巻き、黒い長ランを着込んでいる一昔前の番長姿がモチーフにされたペルソナ『イザナギ』が現れた。
「ジオ!!」
稲妻が鳴上の背後へ襲いかかったコボルトに落ちた。
稲妻に撃たれたコボルトは、漆黒の煙と共に跡形も無く消滅した。
数が多すぎる、と鳴上は呟いた。
一年前であれば『特別捜査隊』のメンバーがいて、能力によってサポートをし合っていたが、今は誰もいない。
しかも所持していたペルソナもイザナギのみとなっていた。
鳴上は親と再び暮らしてから久しぶりに召喚したので、理由も分からない。
「ぬわあああああ~!!クッソー!新田さ~ん! どこだ~ぁ…。」
男性の声が聞こえた。
しかし鳴上は声に構うこと無く、残りのコボルトをイザナギの剣で一掃した。
「おわ!な、なんだ!?」
鳴上が振り向くと、黄色いマフラーに身を包み、鳴上と同じ学校指定である灰色のブレザーを着た男性がいた。
男性は驚いた様子でイザナギの傍にいる鳴上に話しかけた。
「なんなんだそいつは!!あ、悪魔か!?」
男性はイザナギに指を差しながら一歩後退りをした。
「悪魔とは失礼な。これはペルソナ、悪魔じゃない。」
鳴上はイザナギを消して、男性に歩み寄る。
「志島君!大丈夫!!」
浅草の仙草寺の入り口から一人の少女が志島の元へ駆け寄ってきた。髪はショートカットで胸は大きく、結構可愛めの少女だった。
「に、新田しゃん!」
「無事でよかった。…あれ、あなたは確か、春に転校してきた、鳴上くん…」
「新田さん、近づかない方が良い!そいつさっきまで悪魔と一緒に戦っていた!!」
「悪魔?それなら私達もできるはず…」
新田と呼ばれた少女はピンクのケータイを取りだし、あるメールを志島に見せた。
「えーと、このメールを見る限り、僕達は駅で倒した悪魔で戦えるんですね」
「…うん。だから私たち以外にも悪魔を使える人がいても、おかしくないよ」
志島がメールを読み終えると、新田は何かを思い出して、志島に伝えた。
「あ、そうだ…!志島君、ここは危ないから早く離れないと大変な事に…」
「え?いったいどーゆーこ――」
ズズッ。
小さな地鳴りが鳴上達の鼓膜を揺らした。
地鳴りの発生源と思われる石柱が光ったかと思えば、石柱は地面に吸い込まれ、代わりにヘンテコな謎の装置が現れた。
「おわっ…!?こ…今度は何だよっ!」
志島が驚きの声を上げながらも、謎の装置に近寄ると、突如謎の装置から黒い炎が天に向かって舞い上がる。
不幸中の幸いか、黒い炎は真上に轟音と共に放出されただけで済み、鳴上達は全員無傷であった。
黒い炎が消えたと同時に、鳴上は謎の装置から何かが飛び出してきたのを感じた。
「な…あ、提灯が!?何だよコレ…!」
鳴上は謎の装置から提灯へ視界を移動させると、あの浅草名物の巨大な提灯が消え去っていた。
刹那、黒の雷が発生、そして人間の姿形とした、人間では無いモノが鳴上の前に現れた。
「…!?志島くんの動画にいた、お化け…!」
「フフフ……ようやく出られたわ。ああ、長かった。私はハクジョウシ。貴方たちが封印を解いてくれたのね?お礼に…殺してやろうか」
白装束の着物を身に纏った白髪の白い肌をした人間ならざる者『ハクジョウシ』。
ハクジョウシが現れた瞬間に周りの温度が急激に低下した。鳴上は直感した。こいつは氷結を司る悪魔だと。
「う…あああああっ!誰か…誰か助けて!バケモンだっ!」
志島はハクジョウシに恐怖を覚え、叫ぶ。完全に腰が抜けた志島はその場に座り込んで、逃げる事もままならない。
対する新田も突然の悪魔襲来に呆気に取られ、冷静な判断が出来ずにいる。
「あら?坊やは逃げようとしないのね…。勇敢なのか…それともただの阿呆かしら?」
鳴上は真面に動けない新田と志島の前に立ち、ハクジョウシと対面している。
表情を変えず、ただ鉄パイプを構えた。
「そんな玩具で私を倒そうっていうの?本当人間って馬鹿ね」
ブフ、とハクジョウシが魔法を唱える。
それに合わせ鳴上はその場から離れた。鳴上のいた場所には氷の結晶が地面に突き刺さっていた。
鳴上はカードを握り砕いた。
イザナギが出現し、小さな稲妻がハクジョウシを襲う。
直撃したはずだが、ハクジョウシへのダメージは小さかった。鳴上は先程も感じていたが、イザナギの力も昔に比べ極端に下がっていた。ジオダインを発動させたはずなのに、威力はジオと変わらない些細(ささい)な攻撃力。
しかし、ここで引いたら二人は死ぬ、と冷静にハクジョウシと戦闘を続けた。
「貴方…何、その力。悪魔でも無ければ天使でも無い、その力。…まさか噂に聞くペルソナ使いかしら?」
「ご名答。ではこちらからも質問だ。お前等こそ、本当に悪魔なのか?」
「正真正銘、本物の悪魔よ。悪魔は初めて見るのかしら、ペルソナ使いさん。」
ハクジョウシが息を吸い込む。一瞬の隙を見つけた鳴上はイザナギでハクジョウシを仕留めに掛かった。
しかしハクジョウシは速かった。吸い込んだ息を吐き出すと、氷の礫(つぶて)が風に乗ってイザナギを襲った。
イザナギのダメージが鳴上にフィードバックされる。額からは血を流れ出した。流れた血が鳴上の右目に流れ込み、鳴上の視界が狭まった。
「君たち…!?なぜここにいるっ!」
青い髪に鋭い瞳で美人な顔立ちの女性が志島達の前に現れた。女性は志島と新田の前に立ち、鳴上の激闘を傍観する。
「クッ…これは、すでに封印が解かれて…!」
女性は唇を噛み締めて悔しそうな表情を浮かべる。謎の機械はハクジョウシの封印器だということが女性の言葉から推測できる。
「そこの君、余り無茶をするな!今から私がハクジョウシの相手をする!その間、君は私の援護に回ってくれ!!」
女性はケータイを取り出して構えると、黒い雷が発生させて西洋の鎧を纏いし妖精、名を『タムリン』という。
タムリンはイザナギを相手しているハクジョウシの背後を斬りつけた。
二対一に陥ったハクジョウシは、分が悪いと顔を顰(しか)めた。
「出て来なさい!我が同胞たちよ!!」
ハクジョウシの呼びかけと共に、コボルトを筆頭とした悪魔が多数召喚され、鳴上達を囲んだ。
「あ、た…助けてくれっ!ば、ばばば化け物に囲まれ…?!」
「…甘えるな!君達も『悪魔使い』だろう!?力を貸せ!!」
狼狽えていた志島に一喝する女性。この状況で女性はハクジョウシを相手するのに手一杯だ。他の悪魔を相手するには手が回らない。
「志島君!召喚アプリを!!」
「…あ、お、おう」と志島は新田の言う通り見覚えの無いアプリを起動させた。
黒い雷が志島たちの目の前に落ちて、一体ずつ悪魔が召喚された。
志島の前には青く丸っこいハニワみたいな『ポルターガイスト』、
新田の前には小さな少女の背に羽が生えた『ピクシー』がそれぞれ召喚された。
「うおおっ!?ほ、本当に出た…!うっ…けど、やっぱ怖えぇ~っ!」
「す、凄い…!これが『悪魔召喚アプリ』…。」
自分の悪魔を呼び寄せられたことに自信が付いたのか、志島達はハクジョウシが呼び寄せた悪魔の駆除に当たった。
ハクジョウキが呼び寄せた悪魔は、ハクジョウシに比べ弱く、志島達でも問題無く倒せるレベルだった。
「なんなのよ、貴方達…人間(エサ)の癖に、さっさと悪魔(わたしたち)に喰われなさいよ!!」
タムリンが攻撃の主軸となりイザナギは距離を置いて攻撃魔法で攻撃に、ハクジョウシは防戦一方だった。
「ふっっっっざけんじゃないわよ!!魔力も持たない、悪魔と契約しなきゃなんの力も持たない人間風情が、悪魔様に楯突くんじゃないよ!!!!」
ハクジョウシは火事場の馬鹿力で桁違いの魔力を放出した。放出された魔力は巨大な氷塊と化して女性の真上に出現した。
さらに鳴上と女性が逃げられないように、氷の壁が氷塊の大きさに合った円状に囲んだ。
咄嗟(とっさ)に女性はタムリンで氷塊を破壊しようとしたが、想像以上の魔力で造られた氷塊は傷を付けても、まさに氷山の一角程しか破壊できない。
「無駄よ!貴方達はここで死ぬのよ!!」
「…くっ。私もここまで、か」
「――諦めないでください!」
鳴上は女性のすぐそこに立ち、天に浮かぶ氷塊を見上げる。
カードを砕き、イザナギを召喚させる。
イザナギは造り出した電撃を剣に纏わせ、氷塊のド真ん中を突き刺した。しかし氷塊の重力には逆らえず、徐々にイザナギと共に氷塊が降りて来る。
「うぉおおおおおおおおお!!」
イザナギのフィードバックで体中が悲鳴を上げる。
筋肉の繊維が数本切れ、骨が少し撓(しな)っている感覚が鳴上を襲う。
氷塊に刺さっている剣から電撃が放出され、徐々に氷塊から光が照らされて、まるで巨大な電球のように見える。
「まさか…人間風情が、悪魔の力を借りずに…私を、悪魔を倒そうっていうの?!」
「砕けろおおおおおおおお!!!!」
イザナギの剣を中心に、氷塊にヒビが広がる。
そしてヒビから電撃が漏れ出し、氷塊は原形を留められ無くなる。
細かく砕け散った氷塊は、イザナギの電撃を帯びて、美しく地上に舞い降りた。
「ま、まさか、こんな少年如きに…我々が、敗北を……」
ハクジョウシは力を尽き果たしたのか、散り散りとなってこの世から消えた。
ハクジョウシが消えたことを確認した鳴上は、緊張の糸が切れたのかその場で気を失った。