女神異聞録デビルサバイバー2 with ペルソナ 作:時価ネットこみなと
「ニカイア、ってあの死に顔動画の?」
迫真琴から悪魔の召喚について詳しくレクチャーを受けていると、ごく最近聞いたことがある単語が出てきたので、鳴上は思わず言葉を発した。
「知っているのか。なら、話が早い。そのサイトに登録した者の中で一部の人間が、悪魔を召喚できるアプリを自動的にダウンロードされた。私たちが利用していた悪魔召喚機より高性能で、我々も今普及の最中だ」
「そうなんですか?」
「ああ。このアプリを確認したのが、実はついさっき、つまりこの大災害の後なんだ」
ある程度のレクチャーを終えると、迫は懐からとあるモノを取り出した。
黒色のスライド式携帯電話だった。それは、鳴上の所有物の一つだった。
「一応、君に返しておく。悪魔召喚アプリはまだ入れていないが、ジプスの特殊通信網に登録した。私やジプス関係者とは連絡が取れるようにしたから、いつでも連絡して貰っても構わない。……最も、こちらから連絡する方が多いと思うが。
君が希望すれば少し時間がかかるが、悪魔召喚アプリを入れられる。どうする?」
「大丈夫です。俺にはペルソナがありますから」
そう言って、鳴上は携帯電話を受け取った。
「一つ、君に忠告をしておく」
東京タワーの周辺にある広場まで車で送った鳴上に、運転手の迫が言った。
「悪魔が大量に出現している場合、そこには大抵悪魔召喚アプリが暴走した携帯電話が有るはずだ。それを破壊すれば悪魔は出現しなくなるが、出現してしまった悪魔は消滅しない。
それと、これは私からの餞別だ」
車のトランクから、迫は布に包まれた棒のようなものを差し出した。
鳴上は不思議に思いながらその棒を受け取り、纏っている布を解いた。
布の中には、一本の日本刀のようなものがあった。
「迫さん、これは一体……」
「妖刀《村雨》のレプリカだ。本物の《村雨》ではないにしろ、悪魔にそれなりのダメージを与える」
「そんなもの、俺が貰っていいんですか?」
「構わん。この装備はジプスの戦闘員に支給されるものだが、生憎扱える者が刀の数より少ない。ハクジョウシとの戦いで、君が鉄パイプを刀のように扱っていたのを思い出してな。良ければと思ったのだが、どうだ?」
「いえ、助かります。ありがとうございます、迫さん」
「ああ。また夜に会おう」
そう言い残して、迫は車を発進させ、次の目的地へと向かった。。
と同時に、鳴上の携帯電話から可愛らしい女性の声が響いた。
『新着の死に顔動画がアップされたよ!』
携帯電話の画面にはウサミミの可愛らしい少女の映像が映し出された。胸元も大胆に開いており、かなりエロい格好をしている。
そこで鳴上は一ヶ月前に親友の陽介に誘われてニカイアに登録したことを思い出す。
その時は半信半疑で登録し、しかもこの瞬間までまともに起動していなかったので、アプリをインストールしていたのをすっかり忘れてしまっていた。しかし悪魔召喚アプリがインストールされていない。
何故なんだろうと鳴上は考えながら着信したメールを開く。
そのメールには動画が添付されており、鳴上はなんとなく、その動画を再生した。
「?! ――なんだ、この動画っ」
そこに映し出されていたのはライブ会場だった。
よく見れば、映像に写っているライブ会場は一週間後に久慈川りせのライブが行われる場所だった。よくCMで流れているため、鳴上は覚えていた。
ライブ会場の真ん中には、一年前まで共に戦った仲間である久慈川りせがペルソナを召喚して、悪魔と戦っていた。
しかし久慈川のペルソナは情報収集とサポートに特化した非戦闘型のペルソナ。久慈川は後ろにいる誰かを守るように懸命に戦っていた。
だが、久慈川は悪魔の力の前でなすすべなく、無残に斬り殺されてしまった。
そして、斬り殺された久慈川の後ろに隠れていた帽子を被った二十代前半ほどの男性も、無抵抗に雷の魔法でその身を焦がされ、死に絶えた。
「クッ! この動画は、本物なのか?!」
死に顔動画、ニカイア。
初めてこの動画を受け取った鳴上は、この動画が現実に起こるものなのか、それともただのフェイクなのか正しい判断ができなかった。
しかし鳴上は、その動画が本物であるかどうか深く考えずに、ただ走り出した。
大切な仲間を救うべく、ただひたすらに駆けていった。
もう二度と、大切な人を失いたくない。そう強く思いながら。
FROM :Nicaea
SUBJECT:死に顔@久慈川りせ
日曜日、都内某所にて死亡予定の久慈川りせの
死に顔動画がニカイアサイトにUPされたよ!
「あーもー! なんで私がこんな目にあうのよ!!」
二年前の夏に突然芸能活動休止を発表し、去年の始め頃より芸能活動を再開したアイドル・りせちーの愛称でお茶の間に知られている久慈川りせは自身のペルソナ《カンゼオン》を召喚し、戦っていた。
来週行われるライブ会場の下見にマネージャーと来たものの、数時間前に起こった地震でマネージャーと別れ離れになり、ここに来たらマネージャーに合えると思い来たものの、そこへ悪魔を連れてきた男性が来てから、ずっと戦っていた。
相手は低級悪魔の《コボルト》や《ノッカー》、《アガシオン》だったが、それでも戦闘慣れしていない上に非戦闘型のペルソナを所有している久慈川だと、なすすべがない。
「いやーごめんごめんお嬢ちゃん。まさか携帯電話からあんな悪魔が出てくるなんて思わなかったよ」
「思わなかったよ、じゃないわよ! なんで私だけが戦ってるのよ!! アンタも戦いなさいよ!!」
「ムリムリー。だって俺、君みたいに悪魔呼べないし」
「これは悪魔じゃないわよ?! ペルソナって何度言えばわかるの?!」
そんなやりとりをしながら、久慈川は相手をアナライズしてなんとか攻撃を避けている。
――こんな時に先輩たちがいれば――。
ここにその先輩たちが来る事はない。皆東京から遠く離れた稲羽市にいるはず。助けになんか、誰も来ない。
いや、違う。一人だけ、来る可能性がある。
久慈川の思い人であり、一つ年上の少年鳴上悠。でも、と久慈川は思う。
幾ら鳴上でも、出来ることと出来ないことがある。久慈川がピンチの時に、助けに来ることなどありえない。幾ら鳴上でも不可能、非現実的だと。
それでも、彼女は願った。
彼が助けに来てくれることを。物語の王子様のように、颯爽と格好よく登場することを。
でも、それは妄想に過ぎない幻。
ノッカーの衝撃魔法《ザン》とアガシオンの雷撃魔法《ジオ》によって、久慈川のペルソナ《カンゼオン》が消滅した。
カンゼオンの消滅は、久慈川の精神が限界だということを表す。ペルソナは人の精神を具現化したモノであり、ペルソナ消滅=精神の限界だ。
久慈川はその場に座り込んでしまった。幾ら頭で立てと足に命令しても、足に力が入ることはなかった。
『美味しそうなニンゲンだ。食いやすいように切り刻んでやる』
コボルトがその刀を振り上げた瞬間、その刀身に雷が落ちた。
雷が落ちた刀を持ったコボルトはそのまま黒い煙とともに消滅した。
まさか、と久慈川は周囲を見渡した。
ライブ会場の最後列に、人影が見えた。
久慈川の瞳に涙が溢れ出した。
その人影は、まさしく彼女が待ち焦がれていた鳴上悠、その人だった。
『なんだキサマは!! ワレワレのショクジをジャマするな!!』
残りの悪魔が鳴上に標的を変更し、襲いかかった。
鳴上は、その腕に持つ村正のレプリカの鞘を抜いた。
「はぁぁああああっ!!」
銀色に輝くその刀身が、一体の悪魔を切り裂いた。悪魔は黒い煙と共に消え、等身は銀色に輝き続ける。
『な、なんだその刀は?!』
悪魔たちが一瞬、その刀と鳴上の力に呑まれた。
その隙を鳴上が逃す訳もなく、イザナギを召喚した。
イザナギの大剣がノッカーの体を切り裂き、鳴上の村雨がアガシオンの胴体を貫いた。
そうして、圧倒的な力で全ての悪魔を倒した鳴上は、ゆっくりと久慈川のもとへ歩み寄った。
その姿は、さながら白馬に乗った王子様。待ち焦がれた光景のはずなのに、あまりにも非現実的な展開に久慈川の頭の中でちょっとしたパニックが発生した。
「大丈夫か、りせ?」
彼女に手を差し伸べる鳴上。その手を久慈川は戸惑いながらも、握った。
「嘘……どうして、先輩が?」
「りせが困っているとき助けに来るのに、理由なんているのか?」
久慈川はそのまま、鳴上の胸に飛び込んだ。
まるで子供のように泣きじゃくりながら、鳴上の胸元で感情を爆発させた。