思ったより長くなっちゃいましたがそれは置いときましょう。
それではどうぞ。
身だしなみは問題ない。
大切なことを言うんだ。今日は口調も改めよう。
そういううちに目的地に着いた。
「どうも......久しぶりです。元気に、してたかな?」
彼女にとって最後のライブが終わって僕達はもう一度会うことを約束した。
つい最近冬が始まったかと思ってたのに、気が付けば薄く積もっていた雪は無くなり、暖かな春を感じさせる風が吹いている。
そよそよと吹き抜ける中、僕は彼女とまた話すことができた。
今日は......すべてを伝えるために。
彼女を知って思ったこと、考えた事、そして...彼女への僕の想いを。
「お久しぶりです。は、はい...ファイナルライブ、見に来てくださってありがとうございました」
「こちらこそ。とても...可愛かったと思いますよ?感動もしましたし....、もう小泉さんのステージで踊ってる姿を見ることができないのはとても残念ですけどね」
僕は思ってることを素直にそのまま伝えると、少し頬を染めながら『だ、ダメですよ~は、恥ずかしいです』って俯いている。
その姿が本当に愛おしくて、可愛らしくて。
変にニヤついているだろうか....彼女に変に思われていないだろうか。
「というか、よく僕の事を見つけることができましたね。五万前後の観客がいたはずなんですけどね...」
「なんて言うんでしょうか...観客を見渡したらふと、貴方の顔が目に留まったんです。
それですごく嬉しくなって最後のライブが...私にとっては最後だって思えなくなったんです。どうしてでしょうね...」
すっと視線を落とした先には僕が手にしている缶コーヒー。
「そういえば、貴女はいつもそのコーヒー飲んでますよね?好きなんですか?」
「え?え、えぇまぁ......」
僕がいつも飲んでる缶コーヒーは微糖。小学生の時に興味本位で飲んでみたんだけどそれが思った以上にハマったらしくて、コンビニやら自販機やらで見かけると必ず買っている。
もはやお供と言っても過言ではないだろう......
「とても気に入っているんですね」
「うん、興味あるなら飲んでみますか?」
「ふぇっ!?」
「あ、いや...ごめんなさい」
しまった。余計な事を口走ってしまった。
僕はすっと右下に視線を逸らし、彼女もそれによって黙り込んでしまい、どうしようもない気まずい沈黙が訪れる。
「あの...」
「は、はい!?」
僕は伝える。その為に今日はこうしてここに来た。
余計な事は伝えない。ただ思い思いの気持ちをぶつけふだけ。
向こうはスクールアイドルで、みんなの注目の的だとか、僕はどこにでもいるような凡人だとかそんなのは関係ない。
それ以前に僕は1人の男であり、彼女も1人の女の子なのだ。
だから。
だから。
彼女の瞳をしっかり見つめて僕は伝える
「僕は.....貴女のことが、小泉花陽さんのことが好きです。」
この時の僕は一体どんな顔をしていただろうか.....
しっかり笑っていられたのか?それとも作り笑いだったのか?そもそも笑顔を見せることができたのか。
そんなことは僕にはわからない
でも。
でも。
彼女がその後に口元を隠して大粒の涙を流していることを理解出来た時。
「.....ふぇっ?」
「ごめん、なさい.....」
その小さな女の子、小泉花陽は既に僕の腕の中に収められていた。小さくて華奢な体。このまま強く抱きしめ過ぎるとぐしゃりと潰れてしまいそうなくらいか弱くて、だけど柔らかくてずっとこのまま抱きしめていたい。
「あ、あの.....?」
「ずっとこうしていたかったんです。小泉さんがスクールアイドルだからとか、そういう理由じゃなくて、もっと単純に、『抱きしめたい』とか『近づきたい』とか、そんな事ばかりです。一種の依存とでも言ってもいいかもしれません」
「依存.....ですか?」
「はい、僕には君がいないともう.....ダメなんです。頭がどうにかなってしまいそうなんです」
そう。
僕が小泉花陽という女の子に会ってからというものの、彼女の顔を想像しない日は無かった。
街中ですれ違うカップルを横目にこういう関係になりたいとか、1人で黙々勉強してると不意に小泉さんと勉強できたらなぁと何かをしている度に考えてしまった。
僕と小泉花陽という女の子の二人の世界を。
「こんなんになって、正直自分も気持ち悪いなって思ってます。たった1回会っただけで、狂うように君の事ばかり考えてしまって.....それでも、好きなんです。小泉さん、君の事が」
「わ、私は.....」
「小泉さんの気持ちを.....教えてください」
僕は、僕の想いを全てぶちまけた。
今度は小泉さんの気持ちを真摯に受け止めるだけ。
僕の想いを受け入れてくれたなら、それはそれで望む結果で嬉しい。
もし、拒絶なら.....それはしっかり受け止めるつもりだ。
花陽ちゃんの目は未だに潤んだまま。
「私は.....」
目元がきゅっと縮まって、次ぐに言葉が、答えが紡がれると僕は引き締める。
「私も.....貴方の事が、す、好きです」
花陽ちゃんの応えが脳内で反芻された。
「そう、ですか。そう.....ですか.....」
「ふえっ!?ちょ、ちょっと泣かないでくださいよぉ!」
「ご、ごめんなさい。小泉さんからそういう返答もらえて嬉しくて....。正直振られると思ってましたから。」
「そんなことはないですよ。初めて会ったときから気になってましたし、私も貴方と同じようにいつも貴方のことを...その、考えてましたから。こういう場所を二人で歩けたらいいなぁとか、お家で二人でお話しするのもいいなぁなんて」
小泉さんからの嬉し恥ずかしの発言に思わず僕は彼女の体に顔をうずめてしまった。
「ちょ、ちょっとぉ」と真っ赤になって抵抗するけど、そんなことはお構いなしに僕はさらに強く顔をうずめる、小泉さんと”恋人”という関係になれた以上、ある程度のタガが外れかけている。
ここは外。それでも僕と彼女以外誰もいない、静かな公園。
「小泉さん」
「.........」
「あの、小泉さん?」
「...名前」
「え?」
「...名前で、”花陽”って呼んでほしいです」
上目遣いと涙目の萌えコンボ。
可愛過ぎて彼女を直視できない!!
まるで小動物のように僕を見てくる彼女はギュッと僕の手を掴んでくる。
「は、花陽...ちゃん」
「っ!!えへ、えへへ♪」
僕は自分の彼女を初めて名前で呼んだ。
”花陽”って。舞台で踊っているとファンの人は”花陽”とか、”かよちん”って読んでるけど、実は僕はライブのときも実際会っていた時も呼んだことがない。
だから今こうして花陽の名前を呼んだけど、他のファンの人とはまったく違った意味を持っている。
心の片隅でちょっぴり優越感に浸りながらこれから起こるであろう花陽ちゃんとの日々を僕は想像していた。
「じゃあさ、僕のことも名前で呼んでほしい」
「え?あ、貴方の?」
「うん、僕の名前を。僕の名前はーーー」
━━━━━━
僕はこうして彼女に出会って恋をして、新しい人生を彼女と歩み始めた。
大学も花陽ちゃんと一緒に過ごして、卒業して...そして、僕たちは晴れて結ばれた。
本当に幸せだった。
僕たちの人生には山あり谷ありだった。
だけど、彼女がいてくれたから、僕を支えてくれたからこうして頑張っていけたんだと思うと。
だけど。
だけど。
人間というものは愚かだ。
そして人間の愚かな部分と言えば”慣れと飽き”。
あんなにも人を愛していたのにいざとなるとまるでゴミのように投げ捨てる。
人とはそういうものだ。
だから僕は持ってしまうんだ。
”罪と罰”を。
僕と花陽ちゃんがどんないちゃちゃな人生を歩んできたのかはまたいつか話す機会があるだろう。
だけど、今はそこよりも聞いてほしい話がある。
受け入れなくてはいけない現実を。
僕が犯した罪を。
さぁ、時が来た。
いままで隠したものを吐き出す。
ごめんね......花陽ちゃん。
こんな僕を許してくれ。
いかがだったでしょうか。
次回はいきなり現実に戻るので1話を読んでおくとすんなり入れるかもしれません。(露骨な宣伝)
それではまた次回。