悪魔が始める異世界生活   作:K-15

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Mission20 アウグリア砂丘

 翌朝、雲の影から日の光が見え始めた頃に一行は村を出た。竜車は街道を東に向かって進む。その先にあるアウグリア砂丘を抜けて、魔女が封印されている封魔祠を目指す。

 竜車の手綱を握るオットーは、目の前の地竜が大人しく自分の言う通りに動いてくれる事に喜びを感じている。

 

「砂丘に合わせて地竜を入れ替えたけど、ここの地竜は気性が穏やかでいいなぁ。ちょっと体が大きいのが心配だったけど、これなら砂丘超えも行けそうだ」

 

「おい、オットー! 道を間違えんじゃねぇぞ?」

 

「道なんて間違えませんよ。あんな大きい目印があるんですから」

 

 アルデバランの忠告に笑って受け流す。オットーの言う通り、アウグリア砂丘の先にあるプレアデス監視塔は街道からでもよく見える。

 今はまだつま楊枝のように小さいが、進むにつれて段々と大きくなる監視塔。見逃す筈もない目印。

 街道を数時間進み続け、足元の地面が乾いた砂に変わると一行はアウグリア砂丘の入り口に到着した。

 

「あの目印の塔に向かってまずは進みます。距離からしても今日は塔までしか行けないでしょう。そこで野宿して、また明日アウグリア砂丘を渡りましょう」

 

「すんなりあそこまで行ければいいけどな。魔獣が多いのは知ってたけど、宿屋のオヤジが言うには、この砂丘には瘴気が漂ってるらしい。だから行く奴行く奴みんな諦めて帰って来るか途中で野垂れ死ぬ」

 

「アルデバランさん、驚かせないでくださいよ~!?」

 

「まぁ、ここまで行き当たりばったりで来たんだ。何とかなるだろぉ!」

 

「えぇ……不安になってきた……」

 

 手綱を引くオットー、地竜は短い四本足を動かしアウグリア砂丘に足を踏み入れる。

 ミルーラの村で借りた地竜は鱗が山吹色で、手足は太く短い。先端はいずれも丸まり、鋭い爪がスパイクのような役割を果たし、砂の傾斜を滑る事なく登ったり降ったりできる。

 短い足でゆっくり、でも着実に前へ進む地竜の荷台の中で、ネロはブルーローズに弾を込めて外を睨む。

 

「いつ、どこから襲って来るかわからねぇからな。エミリア、気を抜くなよ?」

 

「大丈夫よ! 精霊さんも元気だし、今日の私は絶好調なんだから!」

 

「はぁ~……」

 

「ムゥ~ッ! いいもん! ネロに頼らなくたってできるもん!」

 

「頼むから外に落ちるのだけは止めてくれよ? 拾えねぇかもしれねぇぞ」

 

「落ちたりなんてしないもん!」

 

 機嫌をそこねるエミリアはそっぽを向く。が、向いた先の砂山がわずかに動いたように見えた。

 

「あれ……見間違い?」

 

 風で砂が動くのではない、砂の山が動いたように見えた。そんな筈はないと目を凝らしてもう一度砂の山を見る。

 風と共に砂が流れる音にかき消されて音はよく聞こえない。それでも確かに砂の山は動いた、今度は縦に。

 膨れ上がるソレにエミリアは生唾を呑み込み、背中に冷たい汗が流れる。

 

「ネ……ネロ?」

 

「今度はなんだよ? ってか、最近のエミリア生意気だぞ」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

「遅れて来た反抗期か? でも、それくらいの自己主張はしないとな。あんまり大人しくしてると付け込まれる」

 

「あのね……砂が……」

 

「けど、あんまり突っかかるな。鬱陶しく思われるぞ?」

 

「ネロ、何か来てるッ!」

 

 エミリアが叫ぶ、同時に動いていた砂山が更に上へ盛り上がり、盛り上がり、砂の山を崩すと中から生物が現れた。それは巨大なミミズ。

 テカテカ光る肌、骨のない体はグネグネ動き、先端の頭と思われる部分には巨大な口だけがある。

 地竜の足音とネロ達が発する声による空気の揺れを頼りに巨大なミミズは獲物を見つけ出す。強靭な牙は何本あるか数え切れず、十メートルを超える巨体に目が離せないエミリアは緊張で体がすくむ。

 

「あ……あぁ……」

 

 瞬間、甲高い音が響き渡る。二発の弾丸が牙を撃ち砕き、体を貫く。開けられた風穴からは緑色の体液が溢れ出す。

 振り返った先ではネロがブルーローズを構えていた。

 

「ネロ……」

 

「何をビビッてんだ? にしても気持ち悪いな……さっさと終わらせるぞ」

 

「うん、わかった!」

 

 連続してトリガーを引き激しいマズルフラッシュと共に弾丸と飛ばす。悪魔の固い甲殻を撃ち砕く為に開発したブルーローズ。

 その威力があれば巨大なだけのミミズの体など簡単に貫ける。

 トリガーを引いた数だけ、二つ三つと穴が増えていく。けれどもドロリと流れ出る粘着質な体液は、傷付いた体の穴を塞いでしまう。

 

「ブモォォォぉぉぉッ!」

 

「チッ! 銃だと埒が明かねぇ」

 

「任せて! アル・ヒューマ!」

 

 両手を前に突き出し呪文を叫ぶエミリア。大きく口を開いて牙を見せる巨大ミミズに向かって更に巨大な氷が発生する。

 角ばって形も歪なそれはミミズの上顎と下顎を貫く。

 

「ガ……ぁギャ……」

 

「これでもあまり効果がないの?」

 

「いや、充分だ」

 

 貫く氷から体液が溢れ出るが体の動きは止まらないし、獲物であるネロ達に向かって突っ込んで来る。

 しかし、前に出るネロは口元を歪ませると右腕を大きく振り被った。

 

「ハァァァッ!」

 

 悪魔の右腕から魔力で作り出された更に巨大な腕が現れると、向かって来る巨大ミミズの顔面の氷に叩き込む。

 強烈な衝撃が巨大ミミズに伝わる。同時に氷は勢いよく奥へと押し出され、突き刺さった角が肉を斬り裂く。骨のない体の肉をメリメリ裂くようにして。

 透明な氷がドロドロの体液で見えなくなりながら、更に奥へ奥へめり込んでいく。

 

「ッ!? ――ぉぉぉぉ――」

 

「これならどうだ?」

 

 今までと違い歪な切断面から大量の体液が噴き出す。そして勢いの止まらないエミリアの精霊術で作られた氷は巨大ミミズを半分に分断する。

 体が斬り離されれば、さすがの魔獣でも力を失い絶命した。重たい体がゆっくりと、砂の山の上に倒れ落ちる。想像以上の重量に地面が揺れ、衝撃に砂が舞い上がった。

 

「くたばったか……触っちまったよ、汚ねぇな」

 

 殴った瞬間に触れた部分をコートで拭う。視線の先で倒れた巨大ミミズはもう動かない。が、血の臭いを嗅ぎつけ他の魔獣が死体を中心にして次々に集まってくる。

 群がる魔獣は巨大ミミズの死肉を貪っていた。

 

「ネロ、大丈夫?」

 

「あぁ、何ともねぇ」

 

「あの魔獣、こっちには襲って来ないわね」

 

「餌に夢中なんだろ。あれ見てるとアマゾンのピラニア思い出すな」

 

「ピラニア?」

 

 ゆっくり動く竜車の荷台に戻るアルデバランも外の巨大ミミズの様子を伺った。そしてネロの言葉を聞くとこの世界に来る前の事を思い出す。

 

「懐かしぃ~! ガキの頃にケーブルテレビで見たぜ、ディスカバリーチャンネル」

 

「でぃすか……え? 何て言ったの??」

 

「ディスカバリーチャンネル、嬢ちゃんが知ってる訳ねぇか。川に牛を流してピラニアに食わしてる間に人間が川を渡るんだよ。そうだよ、それと一緒だよ」

 

「でぃすかーばい……ぴらにあ……」

 

「嬢ちゃん、別にこんなの覚えなくていいぞ?」

 

 顎に手を当てて真剣な表情で暗記しようとするエミリアを諭す。

 一行は早急にアウグリア砂丘の洗礼を浴びるも難なく退ける事ができた。けれどもこの地の試練はまだまだ続く。

 

///

 

 道のない砂丘を進んで数時間。砂の山を登り、平坦な砂場を歩き、谷を降りまた登る。どれだけの時間が経過したのか太陽だけは徐々に西へと傾き、今や頭上でサンサンと輝く。

 額から汗を滲ませるオットーは手綱を握りながら、ポツリと言葉を漏らした。

 

「おかしい……」

 

「オットー、何か言ったか?」

 

「アルデバランさん、おかしいですよ? もう何時間も経ってるのにあの塔に全然近づいてない」

 

「あぁ? お前の気のせいじゃねぇのか?」

 

「絶対に違いますよ! 後ろのミルーラの村も遠くならない。と言うか、あれだけ砂の山を登ったり降ったりしたのにまだ見えるのがおかしいんです!」

 

「そう言われると……確かに……これが宿屋のジジィが言ってた砂丘の瘴気かもな」

 

「僕だって行商人としてそれなりにやってきてます。この砂丘の瘴気のせいで目的地に全然近づいてない。どうするんです? このまま進み続けたら不必要に地竜の体力だって消耗しちゃいますよ? 夜にでもなったらそれこそ……」

 

「わかってる、今考えてる!」

 

 アウグリア砂丘全土に広がるこの瘴気、足を踏み入れた者は何人であろうと逃れる事はできない。

 過去にこの砂丘に挑んだ冒険者達も瘴気の存在に苦しめられ、撤退を余儀なくされた組は数知れず。自分達も撤退すべきか、それとも当てもなくさまよいながらも目印の塔を目指して前進するか。

 二人で考えていると荷台からネロとエミリアも顔を覗かせた。

 

「どうした? 魔獣は来てねぇぞ」

 

「それよりも厄介な問題だ。このままじゃあの塔まで行けねぇ。宿屋のジジィが言ってた瘴気、想像以上に厄介な代物だ」

 

「で、どうするんだ? 対策はあるのか?」

 

「あるわけねぇだろ、そんなの一回でもしたことあるのか?」

 

「確かに……GPSでもあれば行けたりしてな」

 

「冗談言ってる場合じゃねぇぞ。ここで立ち往生はマジでヤバイ。いつまた魔獣が来るかわかったもんじゃねぇ」

 

 頭を抱えるアルデバラン。ネロも両腕を組んで視界に延々と広がる砂場を見渡す。すると右腕が微かに、青白く発光した。

 

「あん? そうだ……これなら行けるかもしれねぇぞ」

 

///

 

 荷台から顔を出すエミリアは時々現れる魔獣に対して精霊を駆使して魔法を放つ。空を飛ぶ鳥型の魔獣、砂の上を難なく走る四足歩行のトカゲの魔獣、初めて見る魔獣ばかり。

 氷漬けにされた魔獣が砂の中に沈むのを見て、エミリアはホッと一息つく。

 

「もう大きな魔獣は襲って来ないわね。でも塔まで遠いなぁ」

 

「少しずつでも近づいてるだけさっきまでよりマシだろ?」

 

「夜までにはつくかなぁ?」

 

「さぁな、アイツに聞けよ」

 

 言って後ろに振り返るネロは背中をビクビク震わせるオットーを見た。

 オットーは手綱を握りながら自らの境遇を恨む事しかできない。

 

「どうしてこんなことに……」

 

 彼の前には木材と糸でぶら下げた人形が。否、悪魔の一部があった。

 青白く発光するソレは触れるとしっとりした質感と粘液のような物が。髪の毛の長い女性のような見た目をしたソレは、瘴気の中でもオットー達を正しき道へと導いてくれる。

 

「瘴気はなんとかなってるけれど、こんな薄気味悪い物をずっと見てないとダメなのか?」

 

 ネロが元の世界で倒した悪魔の一部。一度取り込んだ右腕から取り出したソレをコンパスの代わりに使用して、青白い発光が強い方向へ竜車を動かす。

 けれども生きている筈のない、もはや只の物体でしかないソレを視界に入れるだけで酷く不安になる。

 

「うぅっ……なるべく見ないようにしよ」

 

 そうやって進み続ける竜車。時々、魔獣の妨害に遭いながらも、ネロのブルーローズやエミリアの魔法によって近づく前に撃ち落とされる。

 魔獣ならば二人の攻撃で何とかなるが、次に現れた存在はそうはいかない。目を見開くオットーは弱音を吐く。

 

「あのぉ~、今からでも帰りません?」

 

「帰るってどこに帰るんだよ? 進むしかねぇんだ、行けオットー!」

 

「無茶苦茶だ!?」

 

 アルデバランに言われて引き返す事もできない。オットーの前に現れたのは巨大な竜巻。周囲の砂を巻き込んで更に威力を増し、一メートル先でさえ何があるのか見る事ができない。

 まともな装備もない状況で中に突入すれば前後不覚になるだけでなく、砂のせいで呼吸すらままならなくなる。

 そして竜巻はこちらから近づかなくても向こうからやって来る。もの凄い速度で、周囲の砂を薙ぎ払いながら。

 あと数秒もすれば竜巻の中へ突入してしまう。瞬間、エミリアが呪文と唱えた。

 

「アル・ヒューマ!」

 

 竜車ごと分厚く大きな氷が球形に覆う。竜巻の豪風へ突入しても、砂の一粒すら体に当たらず、風で髪の毛がなびく事すらない。

 

「これなら砂も風も何ともないよ!」

 

「エミリアさん……凄いですよ! もう本当に死ぬかと思いました!」

 

「えへへ、そんなことないわよ。それに塔までもう少しなんだもん。最後まで頑張らないと」

 

 涙目になるオットーと誇らしげに胸を張るエミリア。氷の壁のおかげで竜巻の中でも難なく進む事ができる。

 しかし視界は全く見えない。でも今は頼れるコンパスのおかげで目的地まで迷う事はない。青白い光を頼りにして、時間は掛かりながらも一行は竜巻の中を着実に進む。

 

「氷の壁……考えたな、エミリア」

 

「ロズワールがやってるのをマネしただけだよ」

 

「それでもだ。この中で魔法使えるのはエミリアだけだからな。頼りにしてる」

 

「ネロ……うん!」

 

 力強く頷くエミリア。自分の存在が肯定されたことに思わずにやけてしまう。

 竜巻の中では強力な風が吹き荒れており、魔獣に襲われる心配もこの時だけはない。

 一時の休憩を挟みながら、竜車はようやく竜巻を抜ける。

 

「やりましたよ! 竜巻も抜けた! このまま塔まで――」

 

 喜んだのもつかの間、今までずっと見て来た砂地から色とりどりの花畑に目の前の景色が変わっていた。

 手綱を引き地竜の歩みを止めるオットーがボソリと呟く。

 

「花魁熊……」




アニメどころか原作を追い抜く勢いでストーリーを展開しております。
ネロやエミリアは無事にプレアデス監視塔まで行けるのか?
ご意見、ご感想おまちしております。
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