悪魔が始める異世界生活   作:K-15

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Mission7 魔獣

 左手に握る剣、レッドクイーンを地面に突き立てアクセルを吹かす。噴射機構からバルバルとエンジン音が鳴り響く。

 

「オラァッ!」

 

 前に向かってジャンプするネロはそのまま目の前の魔獣目掛けてレッドクイーンを叩き付けた。同時に噴射機構から炎が吹き上がり更に剣を加速させ、刃は魔獣の肉へ食い込むと地面にめり込む。

 一撃で魔獣を殺すレッドクイーン。地面から刃を引き抜き肩に担ぐネロはグローブのはめられた右手で中指を立てて魔獣達を挑発する。

 

「ほら、遊んでやるからもっと来いよ!」

 

「グがァァァッ!」

 

 ネロに一斉に飛び掛かる魔獣達。だが多少数が増えたくらいで負けるような相手ではない。ネロが今までに戦ってきた悪魔はもっと強靭で、もっと巨大で、氷や炎を纏い魂さえもむさぼり食う。

 レッドクイーンが炎を吹く。袈裟斬りし、斬り上げ、横一閃し叩き付ける。一振りするだけで肉が斬り裂かれ、骨が粉砕され、肉片と共に血が飛散し周囲の木々を汚す。

 次々と地面に転がる魔獣の死体にラムとレムは息を呑むしかできない。

 

「あの剣の強さだけではない。戦い慣れてる」

 

「精霊術も使わず、騎士でもないのに魔獣を容易く倒してる」

 

「エミリア様の恩人と聞いたけれど……」

 

「アレだけの強さを持つ人なら噂でも聞きそうだけれど……」

 

「「彼は何者なの?」」

 

 また一匹、魔獣を斬り捨てる。けれども右前足だけでまだ動ける状態。体をよじって立ち上がろうとするが、頭部をネロのブーツの底に踏み付けられる。そして動きを封じられた体にブルーローズの銃口を至近距離から向けられた。

 

「くたばりやがれ!」

 

 激しいマズルフラッシュと銃声が響く。一回、二回、三回、強力な弾丸が発射された。避ける事も防ぐ事もできない魔獣の胴体には風穴が空き、大量の血が流れ出る。

 戦い続けるネロだがその額には汗一つ流れておらず、弾を使い切ったブルーローズから空の薬莢を捨てて新しい弾を込める。

 けれども数え切れない数の魔獣を倒したにも関わらず、闇の中から覗く殺気を帯びた赤い目がこれも数え切れないくらいあった。

 

「ストレッチもこんなもんか。いい加減、雑魚を相手にするのも飽きてきたぜ。居るんだろ、親玉が? さっさと出てこねぇと全部ぶっ潰すぞ?」

 

「ぐぅぅぅぅ」

 

 吠える魔獣達の気配が遠ざかっていく。自分達の力では勝てない事を悟ったのか。しかし、もう一つ別の気配が近づいて来る。それは他の魔獣と比べてあまりにも小さく、毛糸を玉にしたような子犬のような存在。だが、漂わせる殺気は他の魔獣よりもはるかに強い。

 

「まさかこんな子犬が親玉か?」

 

「グゥッ……バゥッ!」

 

「悪いけど餌は持ってなくてね」

 

 軽口を叩くネロだが、子犬の魔獣が一声唸り声を出すとその姿が変貌していく。

 毛糸の玉のように小さかった体が爆発的に肥大化し、鋭い爪と牙がむき出しになる。強靭な筋肉と骨、三メートルはありそうな全長は別の個体にさえ見えた。

 

「ヒュゥ~! そうこなくっちゃ! おい、次はどんな芸だ? お手でもやるか?」

 

「グがァァァぁぁぁッ!」

 

 空気を震わせ大地さえも揺らす咆哮。正面に立つネロのコートも風になびく。

 でもそれだけだ。ブルーローズを引き抜くと間髪入れずにトリガーを引いだ。爆音が鳴り響き二発の弾丸が巨大な魔獣に突き進む。が、弾は剛毛に防がれ血は流れない。

 走り出すネロは続けてトリガーを引き続け、魔獣は木々をなぎ倒しながら獲物を追い掛ける。

 ブルーローズから発射される弾丸では致命傷には至らず、巨体に似合わず俊敏に動く魔獣はすぐに追い付くと強靭な牙で噛み付く。

 

「おっと!? 遅いんだよ!」

 

 ジャンプして避け、瞬時にレッドクイーンに持ち替えて袈裟斬り。刃は魔獣の胴体の肉を斬り裂くが、三メートルを超える巨体を殺すにはこの程度では足りない。

 着地するネロに爪を振り下ろす魔獣。咄嗟にレッドクイーンで受け止め爪と刃とがぶつかりあい火花が飛ぶ。続けてもう片方の前足で爪を突き立てる。

 ネロもレッドクイーンで横に振り払い、ぶつかり合う爪を相手の巨体ごと押し返した。

 

「グゥぅぅっ!?」

 

「いいね、楽しくなってきた!」

 

 だがネロは気がついていない。ダメージこそ負っていないが、右手を隠していたグローブがいつの間にかやぶられている事に。

 

「ハァッ!」

 

 レッドクイーンを軽々と振り回し魔獣の肉を斬る、斬る、叩き斬る。だが相手も己の爪を振り下ろし、牙でネロを噛み砕かんと大きな口を伸ばす。

 大きく前のめりになりながら強靭な顎で噛み付くが、瞬時に横へステップして避けられてしまい、牙は生えていた木をへし折っただけ。

 

「おい、どうした? 魔獣って呼ばれててもこんなもんか? 肩透かしもいいところだ」

 

「バゥッガウッ! がぁぁぁッ!」

 

 鞭のようにしなる尻尾が挑発するネロに向かって飛ぶ。それは空気を斬り裂き音速を超える。

 が、レッドクイーンのアクセルを全開にして炎を噴射させた。その推進力は強力すぎてネロの体が後ろに滑ってしまうがこれを見越していた。鞭は地面に当たり、ネロはアクセル全開で両腕で斬り上げる。

 

「ぶった斬る! オラァァァッ!」

 

 普通なら推進機構の爆発力に体ごと持っていかれそうになるが、ネロは腕力で強引に振り回す。炎を吹き出す刃が尻尾を切断。体ごと回転させもう一度斬り上げると更に根本から斬り落とす。

 

「ギャアアアぁぁぁッ!?」

 

「ヘッ! 本気出してみろよ!」

 

 斬り落とされた尻尾の切断面から血が流れ落ちている。

 殺意をみなぎらせる魔獣。

 鋭い爪が振り下ろされ、鋭い刃が振り下ろされる。同時に放たれた攻撃は同時にぶつかり合い、激しい火花と衝撃波でネロの脚を一歩だけ後退させた。

 魔獣はもう片方の前脚でネロの体を貫こうとするもネロの反応も早い。返す刀で更に斬撃を加えようとする。が、別方向からの攻撃により魔獣の体勢は崩れてしまう。

 魔法により発生する風の刃が振り下ろされた脚を斬りその動きを止めた。

 

「あの攻撃は--」

 

「やるなら協力した方が楽ではないかしら?」

 

 見ると右手を掲げるラムの姿が。そして時間差で魔獣の頭部に棘の付いた鎖付き鉄球が直撃する。

 思わず後退してしまう魔獣の先には、メイド服のまま体に似合わない武器を振り回すレムの姿。

 

「あまり余裕を見せていると逃げられるかもしれません」

 

「わかったよ、次で決めてやる!」

 

 風の魔法で足元を攻撃して姿勢を崩し、その隙きにレムの鉄球でダメージを与える。着実に傷を負い、血を流し弱っていく。

 レッドクイーンを片手に走り出すネロ。ラムとレムも合わせて連携を取る。

 

「ラムが相手の肉を削るから、そこにレムが打ち込んで」

 

「そうすれば一時的にでも魔獣の動きが止まるはず」

 

 風の刃が前足の肉を斬り裂き、鉄球が骨をも砕く。自重を支えきれなくなった魔獣がガクリと前のめりに倒れるたその時、地面を蹴り大きく飛び上がったネロが背中に着地した。

 そして、レッドクイーンの切っ先を首元に突き刺す。

 

「ぐギャァぁぁぁッ!?」

 

「暴れんなって! 今からテメェの首をぶった斬ってやるからよぉッ!」

 

 レッドクイーンを両腕の力と体重を乗せてもっと深く突き刺す。傷口から溢れ出る血、裂ける肉の痛みに震える魔獣。

 グリップを握るネロは推進機構のアクセルを全開にした。アクセルを開ける度にエンジンが唸り、爆炎が吹き出し剣身を奥へと、奥へと、更に奥へと突き刺す。

 同時に右へ左へレッドクイーンを傾けてガリガリと骨ごと断ち切る。

 

「これで……終わりだァァァァッ!」

 

「ッ--ー!?」

 

 魔獣の頭部が斜めに傾いたかと思った瞬間、ボトリと地面に落ちる音がした。少し遅れて足場にしていた魔獣の胴体が力なく倒れる。絶命したのを確認したネロはレッドクイーンを背中に背負い、ジャンプして地面に降りた。

 

「終わったな? 他の雑魚共はどうした?」

 

「恐らく逃げ出したでしょうね。でも魔獣の侵攻がここまで来てたのは予想外ね。ロズワール様に報告しないと」

 

「--っ--」

 

「それは任せるよ。できればあの男には会いたくない」

 

「ネロ様と言えどロズワール様を冒涜すればその口を引き裂きますので、お忘れなきよう」

 

「--ょ--ま--」

 

「はいはい、わかりました。俺が悪いんだろ?」

 

「はい、は一回でいいのよ? まったく、礼儀を知らないお客様ね、レム……レム?」

 

「いちいち細かいこと言うな。終わったんだ、さっさと森から出よう」

 

「レム!? レム! どうしたの!」

 

「ま--ょ--じ--ま--じょ--まじょ--魔女!」

 

 レムの目の色が変わった。握っていた棘付きの鎖付き鉄球を力の限りネロに向かって投げ付ける。

 レッドクイーンをアタッシュケースに分解して戻そうとしていたせいて片膝を付いているネロ。背中からレッドクイーンを手に取るのでは間に合わず、残っている`右腕`で反射的に鉄球を受け止めた。

 

「オイ、冗談だろ?」

 

「ゔぅぅぅ~~ッ! 魔女、魔女魔女、魔女まじょマジョ、魔女ォォォッ!」

 

「チッ、聞こえてねぇか。ラム、早くコイツを--」

 

「アナタ、その手は……」

 

 チラリと見ればラムの表情も強張っていた。目を見開き、酷く驚く彼女。

 視線の先にあるのはコートの袖、破かれたグローブ。そこから覗かせるのは普通の手ではない。

 ゴツゴツした爬虫類のような硬い皮と鋭い爪。どう見ても人間の手ではない。

 

「その手は何なの……」

 

「違う、これは--」

 

 説明しようとするが暴れまわるレムは止まらない。鉄球を引き寄せ力任せに振り回す。

 

「魔女は……魔女は潰すッ!」

 

「エミリア様に近づいたのはこの為だったのね。魔女の手下だなんて!」

 

  ラムも右手を伸ばし風の魔法で攻撃を仕掛ける。ネロは飛び上がると同時に右腕を伸ばし遠くの枝を掴み、攻撃を避けて後方に下がった。

 でも一回避けたくらいで攻撃が止まる訳がない。レムの握る鉄球が木々をなぎ倒しながら再び迫る。

 

「チッ! 人の話ぐらい聞けよな!」

 

 ブルーローズの弾を鉄球に打ち込む。連続してトリガーを引き、強力な弾が鉄球の勢いを殺して地面に引っ張られる。

 

「魔女、魔女ォォォッ!」

 

 雄叫びを上げるレムはその可憐で小柄な見た目からは想像もつかない怪力でまた鉄球を振り回す。

 彼女の全身から漂う覇気は禍々しく、頭部からは十センチほどの白い角が伸びている。もう以前の可憐なメイドではない。

 ネロも背中からレッドクイーンを抜き振り下ろす。が、激しい火花と鋼がぶつかり合う甲高い金属音が響き両者の攻撃は弾かれる。

 地面を蹴るレム、瞬時に距離を詰めもう片方の手で殴りかかった。同時に別方向からはラムの風の魔法が飛び、ジャンプして避けるがレムまでは無理。

 渾身のパンチが目前から繰り出され、レッドクイーンの剣身で受けるが衝撃に吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐあ゛ぁぁぁッ!?」

 

 地面に足が付いていない状況では身動きすらできず、大木に背中からぶつかりようやく止まる。

 衝撃に木が揺れ頭の上から葉が数枚落ちてきた。あまりの衝撃に吐き出したくもない空気が肺から出る。

 

「がはッ! クッ!? 今のは効いたぜ、やってくれるな……」

 

「あは! あははははは! 魔女は--」

 

 ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、メイド服を身にまとう少女が近づいてくる。その笑い声は地の底から響くようで、その瞳からは理性が消失しており、その頭部からは白い角が生えていた。

 レムから放出する覇気はネロが戦ってきた相手と似ている。

 

「悪魔か……」

 

「魔女は--死ねぇぇぇッ!」

 

「死ねるかよ!」




次話で書き溜めが尽きてしまいます。
ご意見、ご感想おまちしております。

ここから完全に原作とは違う展開になっていきます。原作が未完結という事もあって独自解釈も多くなりますが読んでいて楽しめるでしょうか?

  • 独自の展開でも良い
  • 原作に遵守して欲しい
  • 女性キャラの出番が増えれば良い
  • 日常シーンがもっと増えればいい

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