「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
インペリアルコーポレーション本社に一台のXJジャガーが停車した。
ジャガーの前後には黒塗りのセダンが護衛についている。
セダンとジャガーにはインペリアルコーポレーションのロゴマークがペイントされている。
車から白衣ではなく珍しくスーツ姿の三夏が下りた。
社内に入ると西野が一人、立っている。
「私はあなたの教育係りではないんですがね、社長代理どぉのぉ」
「私も不本意ですが社長直々の指示とあれば仕方ありません」
今日はクライアントとの会議だ。社長代理を務めている西野の補助として三夏も同席することとなったのだった。
今までは基本的に社長と開発部門主任の三夏の二人だった。
ここでインペリアルコーポレーションと言う企業を説明しておこう。
その活動は兵器の製造開発、政府・民間からの依頼を受けた施設などの警備、ISの開発と幅広い。
警備のため私設部隊も有する。
社名『インペリアル・コーポレーション』。会社ロゴはクラウン・クラウンと言い、王冠をかぶった道化を使用している。
また、社内にはI.S.S.(Imperial Security Serviceの略)と呼ばれる保安警察があり、主に幹部の警護等を行う他に、公にはできない特殊任務にも従事している。
(日本ではIS開発以後、それを扱う企業などは警察機関を持つことを許可した)
「右手を上げて敬礼した方がよろしいですかぁ?」
会議室のドアを開けた三夏が言う。
それは椅子に腰掛けている男性の胸元に輝く第一級鉄十字勲章を見ての発言だった。
「無用だ。これは家に伝わる家宝のようなものだ。ナチ崇拝をしているわけではない」
「それは失礼しました」
三夏は悪びれた様子もなく椅子に腰掛けるとテーブルに足を投げ出して組んだ。
「彼女は?」
「我が社の社長代理です覚えておかなくても結構ですよー」
西野は三夏の背中を思いっきりつねった。
「〜〜〜〜っ!?」
「社長代理の西野と申します。以後お見知りおきを」
「うむ。よろしく頼む」
三夏は涙目でつねられた場所をさする。
「クソ暴力女だ……」
「何か?」
「…………」
「それでぇ、本日のご用件ですが……。欧州第三支部の技術、並びに人員をあなた方に提供して欲しいとのことですが。……これだけの戦力の導入…戦争でも起こされる気ですか?」
ペラペラと書類をめくりながら三夏が言う。
「自己防衛だよ。ただのね」
西野が発言する。
「待ってください。それは正式なご依頼として受理してもよろしいのですか?」
その問いに男性は答えない。
代わりに……
「それ相応の額を出そう」
「分かりました」
話はまとまったようだ。
三夏は読んでいた資料をテーブルの上へ投げた。
「では私たちはあなたに会ったこともなければ存在すら知らない、こんな密会は無かった、よろしいですね?」
頷いた男性に突如ノイズが走りし姿が消えた。
「続いて議会を開催します」
西野の言葉にテーブルには10人ほどのスーツ姿の男女が現れた。
すべてホログラムだ。
「フランス支部パリ本部の実験進行状況は以前として変わりません。なお生産体制に問題はありません」
「ロンドン本部も同様です」
「同じくイタリアもであります」
たんたんと西野へと業務報告が伝えられてゆく。
「分かりました。では次の議題に移ります。北米支部、例の件について報告をお願いします」
「はっ」
北米支部の責任者が報告を始める。
「先月、何者かが我が支部のメインサーバーに侵入し支部の見取り図を奪取していきました。幸い機密情報は何重ものプロテクトのおかげで無事でありました」
どよめきが起きる。
「……静粛に。他には?」
「今のところ異常はありません」
「分かりました。各支部へ通達します。警戒体制のレベルを通常から5に引き上げます。十分注意するように」
全員が了解の意を示したところで議会は終了した。
「どう思いますか織斑博士」
「十中八九、篠ノ之束で間違いないでしょうね」
「やはりそうですか。I.S.S.に捜査をさせた方がいいですね」
二人のこのもの言い。犯行の動機を考えない態度。どうやら二人には束が何の目的で北米支部にハッキングをしかけたのか見当がついているようだった。
「ご懸命な判断だと思いますよー。では、この私が直々にI.S.S.の指揮をとりましょう」
「ダメです。あなたにはIS学園での職務があるはずです」
「いやしかし……」
「異論は認めません」
「相手はキチガイn「異論は、認めません」……」
真っ白な廊下を三夏が早歩きしてゆく。
「あの融通のきかないブスめがぁぁぁぁぁ!」
『
駅で一人の少女が立ち往生していた。
改札の電光掲示板には緊急事態の文字が流れる。
避難を促すアナウンスが虚しく響く。すでに駅には誰もいない。それどころか街自体から住人が消えてしまったようだった。
「ったく!何なのよいったい!……」
少女は悪態をつきながら近くの電話ボックスまで歩くと乱暴に受話器を取り耳に当てた。
だが受話器からは駅と同じアナウンスが流れているだけで使えない。
少女の額に怒りの筋が浮かぶ。
彼女は起こっていた。何年も疎遠だった父親から突然呼びつけられたのだ。ただ「来い」と書かれた手紙一枚で。
碇アスカ。それが彼女の名前だ。
そして手に持っていた写真へと目を向けた。
そこには黒髪の綺麗な女性が写っている。横にはペンで私が迎えに行きますと書かれており、さらに胸に矢印を引っ張りここに注目とも書かれている。
いったい何がしたかったのだろうか。少女にはその意味がまったく分からなかった。いや、分かりたくもなかった。
「迎えに来るなら早くしなさいよ!」
そう叫んだそのとき人影を見た。
銀髪、紅眼の少女がこちらを見つめていた。
一瞬の沈黙。
鳥が羽ばたく音が聞こえた。誰もいない静寂の中で羽ばたきの音はとても大きかった。その音に気を取られ目線を戻すと少女の姿は無くなっていた。
「……な、何なのよ。あたし変なもんにとり憑かれてたりしないでしょうね」
アスカは不気味に思い少女を見なかったことにしたのだった。
突然、地面が揺れた。
地震ではない。何か巨大なモノが歩くように。
「こ、今度は何なのよ!?」
アスカの目に怪物の姿が映り込んだのだった。
「は?」
あまりの非現実的な光景にアスカは立ち尽くしてしまった。
UNと書かれたVTOLやミサイルが怪物を攻撃するがまったく効果は出ていない。
終いにはVTOLが撃墜されアスカの頭上から降ってきた。
「きゃあぁぁぁぁ!!ふ、ふざけんじゃないわよ。あたしが何したっていうのよ!」
』
青いルノーが滑り込んできて少女を助けた場面がテレビから流れている。
ピッ。
突如、画面が真っ暗になった。
「あー!」
「あーじゃありせんよ。なに人の部屋でのんびりDVDを見てるんですか!?」
杉山はリモコンをテーブルの上に置くと腰に手を当てて三夏に文句を言う。
「見たいから見ていたんだ」
「そういうことは自分の部屋で!」
「あぁのぉ部屋にはテレビはおろかラジオすらない! そして私はあのゴミ溜めにはいたくない! 毎晩毎晩増えていく酒の缶やら瓶を見ていると恐怖すら覚える!」
「人を指ささないでください。……掃除ぐらいしたらどうですか?」
「私に掃除の知識などない」
「はぁ……って、もうこんな時間。博士、行きますよ」
杉山は時計を確認すると三夏の腕を引いた。
「どこに?」
「入学式ですよ! 一夏君の記念日です。ほら行きますよ!」
「断る! 私はそんなくだらない式に出席するつもりはない!」
「はいはい」
「待て何をする! 放せ! はぁなぁせぇー!」
杉山は三夏を引っ張り部屋を出ていった。
大ホールでIS学園の入学式が行われていた。壇上で生徒会長がお祝いの言葉を述べている。
「何だか甘酸っぱい気持ちを思い出しますね」
「私は誰かが吐いた牛乳を拭いた雑巾の臭いしか思い出さないね。反吐が出そうだ」
杉山の発言にあからさまに嫌な顔をする三夏。
「みんなしっかりしたいい子たちみたいですね」
教師のために用意されたスペースで杉山が笑いながら言う。
「どこがだ私には腐った蜜柑にしか見えないがな」
「またそんなこと……」
「見てみたまえぇ、あのガキどもの自信に満ち溢れた表情を。たかだか15、6でもう選ばれた人間気取りとは笑わせる。女が強い女が絶対だと信じてやまない差別大好きのバァカァなぁクソガキどもだ」
「そんなことありません!」
「今の世界に疑問も持たず、ただただ大人たちが敷いたレールの上を走ってる哀れな傀儡。彼女たちは時代に飼い慣らされた羊でもあるわけだ。」
「…………」
「そして、あそこで偉そうにくっちゃべってる生徒会長様が羊の群れの総締めというわけだ。羊飼いはさしずめ理事長といったところだな」
「彼女たちは差別家じゃありません! 必ず異議を唱えて立ち上がる子が出るはずです。世界を変えるために」
「ありえないねぇ。例えその先に崖があろうとも、みんなが進むその方向へ進む、それが群れというモノだ。まぁ、それはどぉでもいい、私には関係の無いことだ。全員崖から落ちて転落死すればいいさ、バカは死んでも治らないだろうがねぇ」
「あなたは何で物事をそんな曲がった捉え方しかできないんですか! もっと本質を見るべきです。ご自分の心で」
「本質ぅ? そんなモノは存在しない、物事の本質など誰も知ることはできない。個人の捉え方で様々に変わるんだよ。そして似たよった考えを持つ人間が多ければ多いほど、それは肯定される、多数決の原理だ。君が今まで本質だと思っていたモノはただの上辺だ。君個人の勝手な一つの考えにすぎない。この勘違い女め」
三夏はそのままホールから退場していった。
「…………」
「…………」
一年一組の教室の前。
そこで三夏は固まっていた。ある人物を見たことに対する驚きからだ。相手もまた目を見開いて驚いている。
これがIS学園での山田真耶と織斑三夏の初めての出会いだった。
「……あ、あなたはあのときの」
最初に口を開いたのは真耶だった。
「なぜここに朝ドラ二号がいるんだ」
「まさか、あなたが織斑博士……?」
「どうしたんですか?」
すると三夏の裏から杉山がヒョコりと顔を出した。
「あ、もしかして真耶先生ですか? 初めまして一夏君の専属整備士の杉山です。それでこっちが……」
「管理官の織斑三夏です」
三夏は手を裏で組み反り返ると口を歪めて言う。
「……副担任の山田真耶です」
どこかギクシャクした雰囲気に杉山は首を傾げる。
「何ですか博士?」
「私は世の中の狭さというモノを今まさに痛感している」
「は?」
「みなさん入学式おめでとうございます。私は副担任の山田真耶と言います。三年間よろしくお願いしますね」
教卓の前に立った真耶の言葉に生徒たちは反応しない。
どうやら一夏のことが気になって仕方がないようだ。
無理もないだろう。
「そ、それじゃあ自己紹介を……あ、その前に」
どうやら杉山と三夏のために時間を割いてくれるようだ。
「あちらのお二人は織斑君の関係者の人たちです。どうぞ自己紹介を」
そう促され照れながらも教卓の前に立つ杉山。
「みなさん初めまして。杉山と言います。織斑君の専属整備士という扱いになっていますが、他の先生方とあまり立場は変わりません。分からないところや質問があれば、ぜひ気軽に話しかけてください。よろしくお願いします。向こうの方は織斑三夏博士です」
どうせ三夏は自己紹介などしないと思い気を利かせる杉山。
生徒から拍手が聞こえ杉山は笑顔で頭を下げた。
「せっかくですから。何か特別授業のようなものをお願いできませんか? ISを研究している方のお話にはみんなも興味があると思いますし」
「え!? いやいやいや私なんかが」
「何でも好きなお話をしてあげてください」
生徒たちから再び拍手が沸き起こった。
「えーそうですか? しょうがないなぁ」
言葉とは裏腹に杉山は嬉しそうだ。
「えっとじゃあ……」
「はい、ちゅうもぉぉーく!!」
「きゃっ」
言いかけたところでいきなり三夏が杉山を押しのけて教壇に立った。
「えぇそれではぁ、私からみなさに覚えておいて欲しいことが一つだけありますぅ」
某人気ドラマの金○先生のような仕草と口調で語り出す三夏。彼は黒板にでっかく人という字を板書した。
「えぇ〜人という字はぁ人と人とがお互い支え合ってできているワケではぁありましぇーん!!」
三夏は腕を使いバツ印を作る。
そしていつもの口調でしゃべり出した。
「一人の人間が、両足を踏ん張って大地に立っている姿の象形文字です! 人は一人で産まれ、一人で生きていき、一人で死んでいきます。高校時代の人間関係は、この先の長い人生において、ほとんど役には立ちましぇん! それどころかくだらない友情で縛り付け、自由な人生を阻害する腐った鎖でしかありましぇぇん! そして、この学園は、みなさんに歪んだ世界観と価値観、先入観、差別意識を植え付ける洗脳の最終機関だ。あえて言いましょう。このクラスはいやこの学園はクソです! 腐った蜜柑だけの蜜柑箱です! この場にいるだけで吐きそうだ。山田先生、何でも好きなことをとおっしゃったのでお言葉に甘えます。自分たちは何の努力もせずに手に入れたこの世界はさぞかし居心地がいいことだろう、女は偉い優れている、だから劣等種である男は自分たちに従っていればいい、そう思うのも当然だ、だってみなさんは自分で考えることもしない愚か者だから。しかぁし! みなさんが踏ん張って立っている女尊男卑という大地は、雨が降ればすぐに崩れるボロボロの脆い大地でしかありません。篠ノ之束というキチガイが製作したISというわけの分からないモノによって成り立っている世界だ。そんな不安定なモノが支えである限りこの世界は長くは続かない! そのことをよく覚えて、この楽しい充実した三年間を楽しみたまえ。山田先生、私からは以上です」
「…………」
真耶をはじめ生徒の誰も何も言わなかった。
思い沈黙が教室を包む。中には三夏を睨んでいる者もいる。だが、
決して口は開かなかった。開けるはずもなかった。
一番前の席で一夏だけがため息をついている。
「自己紹介をするのならどうぞー」
夜の11時に投稿予約したはずなんですが僕のミスで昼に投稿されてしまいました(´・ω・`)
ご感想などいただけたら嬉しいです。