「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
一夏は自室のベッドに寝転んで羽を伸ばしていた。
箒は部活のためこの場にはいない。学園に来てからというもの一夏には一人の時間がまったくなかった。
すると、誰かがドアをノックした。
「どうぞー」
「邪魔するぞ」
訪問者はラウラだった。
「要件は……ま、言わなくても分かってるよ」
「うむ」
「座ったらどうだ」
ラウラは促され、箒のベッドへと腰を下ろしと一夏と向かい合う。
「どこから話すか……」
語り出したラウラの言葉に一夏は静かに耳を傾けた。
「私は普通の人間ではない。鉄の子宮から生み出された試験管ベイビーだ。戦うことを目的に作られた消耗品。それが私だ」
「…………」
「私はそのことに何の疑問も抱かなかった。自分で言うのもなんだが私は他の隊員と比べ優秀だった。だが……ISの登場がすべてを変えた」
ラウラは嫌な過去を思い出し顔を歪めてうつむく。しかし、語ることはやめなかった。
「ISの登場からしばらくして、軍は私たちに特殊な改良を加えた」
「改良?」
「ヴォーダン・オージェ。ISとの適合性向上のために行われたものだ。私はその不適合により左眼は醜く変色し、能力を制御しきれずISの実績は最悪。結果、落ちこぼれの烙印を押された」
ラウラは自嘲の笑を浮かべ眼帯を外すと一夏に瞳をさらした。
そして、すぐに眼帯を付け直す。
「そんな存在意義を失った私を再び最強の座につかせてくれたのが織斑教官だった。あの比類なき最強の姿。美しい戦い。私は教官を尊敬した、崇拝していたといっても過言ではない。あの人のようになりたかった」
「…………」
一夏は口を挟まない。
ラウラは一度、千冬にどうしてそんなにも強い存在になれるのかと聞いたことがあった。
そこで弟である一夏の存在を聞かされた。
「お前のことを語る教官には優しさがあった。鋭く尖った雰囲気など微塵も感じさせず。穏やかにお前の……家族のことを語っていたよ」
「千冬姉が……」
「その教官の姿を見て私は絶望にも似た感情を抱いた。私の思い描く教官が壊れてしまう、そう思った。今にして思えば私はお前に嫉妬していたんだと思う」
「嫉妬?」
「そう。他の誰でもなく私、一人だけを見て欲しいと。だから、教官のモンド・グロッソ2連覇を逃した遠因を作ったという都合のいい理由でお前を憎んだ。教官に相応しいのは自分だと思い込ませようとした」
「…………」
「教官の特別な存在になりたかった。だからISの訓練にもより一層力を入れた。……だが教官の私を見る目は変わらなかった」
あの人のようになりない。あの人から特別な存在として思われたい。
しかし現実は変わらない。
家族とはなんだ?
どうしてその存在から力を得られる?
どうしてその存在が特別だと思われる?
考えても答えは出ない。
ラウラの心は千冬に憔悴していた。
そして何より、千冬から大切にされている織斑一夏に興味が湧いた。
家族という存在に興味が湧いた。
ラウラは行動した。
千冬と同時に管理官として出向して来た織斑三夏の元へ行き、自論を展開した。
三夏は千冬の父親だ、彼に認められさえすれば千冬も。そう考えた。
『子どもが大人に勝てると思か?何の訓練も受けていない一般人のガキがだ』
『そ、それは』
『人間というのは自己中心的な生き物だすべてを自分に都合よく考える。それは悪いことではないが、それを貫くには根拠と証拠がいる、もっともっとよく考えて賢くなれそうでなければ自分の考えを他人に飲み込ませることなどできはしない!それはただの戯言にしかならない!』
完膚なきまでに叩きのめされた。
『こんな下らないことでいちいち私の貴重な時間を無駄にさせるな、馬鹿者め』
あっけなく一蹴された。
自分の見苦しさを自覚しながら、それでもラウラは食い下がった。
『クラリッサ君!』
『お呼びでしょうか管理官』
『この道徳的で勉強熱心な少佐にいろいろと教えて手伝ってあげたまえ私はお昼寝をする』
『はっ!了解しました』
それからラウラとクラリッサは行動を共にしていた。
『あの……何とお呼びすれば?』
『私に名前などない。好きに呼べ』
『では、隊長で』
『うむ』
『それで、隊長。私は何をすれば?』
『クラリッサ大尉、家族とは……いや、何でもない。……とりあえず、織斑一夏のことを調べてくれ。徹底的に』
『はっ』
それからラウラは千冬の弟である一夏のことを知りはじめた。
今までの都合の良い自己解釈をすべて捨て、織斑一夏を知ろうとした。
親がいないこと、千冬の大会連覇を邪魔してしまったことへの後悔、最近では少しでも強くなるために努力していることなど。
どこか自分と近い気がした。
自分にも親はいないし、千冬に認めてもらうために努力している。
やはり以前は三夏の言っていたとおり戯言を都合よく並べていただけなのかも知れない。
家族。
自分を再び最強に鍛え上げてくれた強い姉に自分の歪んだ考えを圧倒的な正論で改めさせた聡明な父親。
素直に羨ましいと思った。
知識としてはインプットされていても自分が絶対に感じることのできないモノ。
『クラリッサ大尉』
『何でありますか?』
『教官を姉にして管理官を父親にし、なおかつ織斑一夏を一番近くで観察できる方法はないものか』
『……結婚ですかね』
小さくクラリッサがつぶやいた。
『何だと?』
『織斑一夏と結婚すれば織斑教官を義姉に管理官を義父にできます。そして何より織斑一夏を一番間近で観察できます』
『結婚か……』
『そうすれば隊長がお知りになりたい、家族という存在を知ることができるのではないですか?』
『…………』
『気に入ってしまったのでしょう?織斑一夏のことを』
『私はまだ何も……』
確かにラウラは一夏に対する憎しみをまったく抱いていなかった。
むしろ親近感さえ持てるようになっていた。
しかし、この気持ちが何なのかをラウラは理解できなかった。
言葉に詰まったラウラを見てクラリッサの目が怪しく光る。
『隊長、一つお教えしましょう!日本では気に入った相手を俺の嫁と言います!』
『……?話が良く分からないのだが』
『これは重要なことです。しっかり覚えておいてください』
『だ、だから』
『いいですね?』
『り、了解した……』
クラリッサが暴走しだしたのはこの頃からである。
『まずは地盤を固めましょう。管理官から名前をもらい名付け親になってもらうのです。ある意味、既成事実ですね』
『上手くいくだろうか』
『私に任せてください』
クラリッサが黒い笑みを浮かべてラウラの問いに答えてから数日後、クラリッサは三夏から『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という名前をもらってきたのだった。
この日から彼女にラウラという名がついた。
以上のことから、あの一夏は俺の嫁宣言へと繋がったようだ。
話を聞き終えた一夏は頭を抱えていた。
「それで俺に結婚を申し込んだと……」
「そうだ。それが私の願いを、すべて合理的に叶えるための最も有効な手段だ」
確かにそうであるが、一夏にとってはたまったものではない。
「なぁラウラ、結婚てどういうことか理解してるのか?」
「男と女が愛し合い所帯を持つことだ。ならば問題ない。私を愛せ織斑一夏、私もお前を愛することに務めよう」
「どうして、そう極論になるんだお前は!」
「間違ってはいないだろ?」
「…………」
「それとも、こんな醜くい私が不気味か?」
「違う」
一夏はそれだけは強く否定した。
「それなら、なぜ……」
「なら聞くが、俺がお前の部隊の訓練に着いて行けると思か?」
「それは無理だ。そもそも、基礎訓練がない。腕立て伏せ一つまともにできないだろう」
当然のように言うラウラ。
「それと同じさ」
「?」
「物事には順序がある。結婚にもな。俺たちには基礎訓練が必要なんだ」
「…………」
「俺もお前もまだまだガキだ。自分のことも満足に知らない。まずは自分を理解することから始めたらどうだ?その上でお互いをよく教えあおう。先の長い人生だ。そのぐらいの時間は使っても無駄にはならないと思うぜ?」
「うむ……」
「簡単に人を愛することなんて、できるはずがないんだよ」
「……それでは結婚ができないかも知れないではないか」
「なら、仕方がなかったと諦めろ。他人の都合に合わせるほど俺は暇じゃないし優しくもない」
「…………」
「結婚したいなら俺を惚れさせることだな」
ラウラは押し黙ってしまった。
シュンとして、怒られたあとの子どものようだ。
少しばかりかわいそうに思った一夏はそんなラウラの耳元でささやいた。
「いいこと教えてやろう」
「なんだ?」
「俺はお前を素直に可愛いと思ってるぞ?」
「…………」
しばしの沈黙。
そして……
「!!?。か、可愛いだと?私がか!?」
「そんなに驚くことか?」
「そ、そんなことを言われたのは初めてだ。その…反応に、どんな顔をすればいいのか困惑する」
「……笑えばいいと思うぜ」
翌日。
午前の授業を終えた一夏に真耶が近づいた。
「どうですか?練習は上手くいっていますか?」
「それが何とも……」
一夏は恥ずかしそうに頭をかきながら言う。
「何か困ったことがあれば言ってくださいね。知識ぐらいは教えることができますから」
一夏はそんな真耶に感謝した。
「私は教師なのでどちらか一方を応援することはできません。でも、頑張ってくださいね」
「はい」
するとそこへ三夏がやってきた。
「一夏」
「あれ、三夏兄。珍しいな、ここへ来るなんて」
「君に渡しておこうと思ってね。受け取りたまえ」
三夏は数枚のディスクを一夏に手渡した。
「……これは?」
「セシリア・オルコットのISデータと戦闘パターンその他もろもろのオマケつきだ。有効に使ってあのコーカソイドを叩きのめすのだ!」
それを聞いて真耶が黙っているはずがなかった。
「ちょっと待ってください!」
「何ですか山田先生」
「これは明らかな不正じゃないですか!?織斑君に極端に力を貸すなんてオルコットさんに不公平です。我々教師は生徒の一人だけを贔屓してはいけないんです!」
「0点の回答だ朝ドラ二号。これは不正でもなければ贔屓でもない。作戦、つまりは戦略だ!」
「こんなの間違ってます!」
「勝負に正しいも間違いもない踏みつけるか踏みつけられるか!そして踏みつけられるのは余裕をぶちかまして食堂で周りの生徒から若干引かれるほどのお嬢様臭を醸し出し優雅にティータイムと洒落込んでる愚かな白人娘だ!」
「それは屁理屈です!」
「そして私は教師という立場以前にインペリアルコーポレーションの研究者であり自分が所属する会社の代表生に力を貸すのは何ら問題ではないだってこれは重要なデータ採取の一環なのだからー」
「そんな……」
「何なら会社や理事長に異議申し立てでもするといい、どぉーせ門前払いだろうけどねぇー」
「三夏兄、言い過ぎだよ」
涙目になってしまった真耶を見兼ねて一夏が三夏に注意をした。
「これは失礼、山田先生。悪気があったわけではありません無知なあなたに少しばかり講義をしてしまいました。いやぁ本当にですぎたマネをしてしまい申し訳ない……が、これであなたも少しはマシになったでしょう。では私はこれで」
三夏は軽い足取りでその場から去っていった。
「資料は見させてもらったよー相変わらず素晴らしい諜報力だ。報酬は弾んでおくよ」
三夏は端末で誰かと陽気に話していた。
「近々こちらに来るのだろう?残りはその時に受け取ろう。ご苦労だったなー」
会話が終わったところで杉山が三夏に話しかけた。
「誰だったんですか?電話の相手」
「草の者だ。最近ますます腕が上がってきたようだそろそろ我が社の諜報部にスカウトすることを勧めておこう」
「はぁ……」
三夏のいつもと変わらない受け答えに杉山はため息をついた。
「と言うか私の部屋に入り浸るのやめていただけませんか?」
「こう言っているがどう思う千冬君」
「硬いことを言わないでくださいよ。あなたと私との仲でしょう」
千冬はビールを片手にスルメをつまみながらテレビを見ている。
「あ、あなたたちは少し自分の部屋を片付けることをしないんですか!?」
「「そんなことできるはずがないだろ」」
「…………」
杉山は力なくうなだれた。
三夏は自室から持ち込んだワインをグラスに継ぐと優雅に回して香りを楽しんでいる。
「千冬君もワインをどうだ?安物だがなかなかイケる。スタバの帰りに買ってきた」
「ビールを飲み終わってからいただくよ」
千冬は缶ビールを振りながら答えた。
「そういえば聞きましたよ。真耶先生を泣かせたそうじゃないですか……。もう少し大人の態度をとってください!」
「あの君の分身のような理想を夢見る童顔教師に現実と言うものをレクチャーしてやったまでだ人生の先輩としてな」
「いい先生じゃないですか。しっかり生徒の気持ちを考えてます」
「どこがだ、私には生徒の顔色を伺いながらご機嫌を取りなおかつ自分の理想を叶えようとしているちぐはぐ教師にしか見えないがねぇ。そんなことより君は自分の仕事をしたまえ来週の試合までに機材の調整を済ませておくんだ。一夏の教育には優秀なアドバイザーがついたようだし問題ないだろう」
アドバイザーとはラウラのことだろう。
そう思い当たった千冬は前から気になっていることを三夏に質問してみた。
「なぁ兄さん」
「ん?」
「兄さんがボーデヴィッヒの名付け親だそうだが、なぜそんなことを?兄さんは絶対にしなさそうなことなのに」
「…………」
「博士?」
杉山もそれなりに興味があるようだ。
「…………え?」
白を切る三夏。
「いやいや、聞こえてないはずがないでしょ」
「……兄さん、まさかクラリッサの色仕掛けでコロリと」
「…………」
三夏はグラスを持ちながら笑顔のまま動きを止めてしまった。
「図星か……」
「まぁ、そんなことだろうと思いましたけどね」
「うるさぁーい!私はシャワーを浴びてくる!覗くなよ朝ドラぁ」
「覗きませんよ!バカ!」
そう言って三夏は席を立った三夏を千冬が引き止めた。
「由来ぐらい教えてくれてもいいだろう」
三夏は去り際に
「酒の名前だ」
そう答えてドアを閉めた。
「「…………」」
人の名に酒の銘柄を付ける三夏の精神とはいったい……。
何かを言いたくても言う相手はすでにいない。
二人の間には何とも言い難い雰囲気が流れた。
一時間というめっちゃ短時間で書いてしまった(汗)
……あれ、一夏がなぜかカッコよくなってしまった…。
でも、いくら恋愛に疎くてもあそこまでハッキリ宣言されたら気づきますよね。うん。納得しよう。そうしよう。
誤字などあれば教えてください。
ではではー。