「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
「さて、試合まであと5日だ」
ラウラは一夏の部屋にいた。
ラウラはベッドの端に腰掛け腕を組み、一夏は同じベッドに寝転んで天井を見上げていた。
「そうだな」
「練習機が借りれない専用機も届かない、となるとできることは一つだ」
「天にでも祈るか?」
「馬鹿者、真面目に答えろ。自分のことだろう」
「敵を知ることだな。徹底的に」
「明確な答えだ。やはり物分りがいいな」
部屋のもう一つのベッドの上にはプロジェクターが置かれ壁には持ち運び式のスクリーンがかけられていた。
さっそくラウラが接続されたPCを操作しようとする。が、どうにも納得できない者がいた。
「なぜ部屋でやるのだ!アリーナかどこかを借りればいいだろう!私のベッドを使うな!」
実際、箒の言うとおりなのだが、公の場を使用するとセシリアに裏で準備をしていることを勘ずかれてしまう。
ただでさえ実力に差があるのだ。下手に警戒されてしまえばさらに苦しくなる。
敵には自分たちを舐めていてもらはなくてはいけないのだ。
「うるさい。外野は黙っていろ」
「こ、この……」
「立っているならばちょうどいい。電気を切れ」
部屋の主に対する態度とは思えないふてぶてしさでラウラは箒に命令するように言う。
「…………」
箒は額に筋を作りながらも大人しく従った。
それと同時にスクリーンにはセシリアの戦闘シーンが映り出す。
イギリスでの模擬戦のようだ。
通常ISの実験データや戦闘映像がその国から国外へ持ち出されることはない。
国防、軍事、の最高機密だ。
だがインペリアルコーポレーションにはISを貸し出してもらっているために、こうしてデータを渡さなければならいのだ。
もちろん納得などできるはずはないが下手に隠し立てをしてISを回収されてしまっては一大事だ。
こうして提出された世界各国のIS開発状況は逐次、日本政府や友好関係にあるドイツ政府へと送られている。もちろん有料ではあるが。
映像を見ながらラウラが資料を片手に解説を入れる。
「イギリスの第三世代型IS、ブルーティアーズだ。見てわかるとおり射撃を主体とした中距離型でBT兵器を使用する。ビット型の武器が多数搭載されていることが特徴でレーザーとミサイルが使用できる」
一夏は解説を聞きながら真剣に映像に見入っている。
「そのビットは四機だけなのか?」
「いや、計六機のはずだが」
しかし画面には四機のビットしか展開されていなかった。どれもレーザービットのみだ。
一夏とラウラは同時に何かに気づく。
「なるほど」
「ほぉ、お前も気づいたか」
「あぁ。まったく汚いな」
「ふん、勝負の世界にそんなことなど通用しないぞ。あれはヤツの立派な戦術だ」
「確かに。勝ち負けだけだからな」
そんな二人のやり取りに箒は着いていくことができずに不服ながらも尋ねた。
「どういうことだ?なぜ四機しか使用していない?」
その問いに一夏とラウラが順に答える。
「もしものときの保険と一気に方をつけるための作戦だろうな」
「あぁ、敵が近づいた瞬間にドカンだ」
ラウラが映像を指差しながら説明する。
「展開されている四機はどれもレーザービットだ。残り二つのミサイルビットは常にヤツの懐にある」
「なぜミサイルなんだ?」
今度は一夏が答えた。
「レーザーより、より確実に敵にダメージを与えられるからだろうぜ。威力も命中力も格段に上だからな」
「なるほど」
箒は納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
「問題はヤツの手の内が分かったのに作戦が立てられないことだ。嫁の専用機が近距離タイプか遠距離タイプかによって対処法はずいぶん変わる」
相変わらず一夏の呼び方は『嫁』のようだ。
「回避や注意はできても攻撃できなきゃ意味がないからな」
「まったくだ」
「はぁ……お手上げか」
ため息をつく一夏に対してラウラは何かを考えている。
「どうした?」
「結局、相手にダメージを与えられればタイプなどは関係ない」
「それはそうだけど……。そんな隙をオルコットが作るとは思えないんだけど」
「作らないのなら作らせてやれいいのだ」
「そんなことできるのか?」
「できる。アレを使えばな」
「アレ?」
そう言ってラウラはベッドから立ち上がった。
「少し待っていろ。とってくる」
「これだ」
しばらくして戻ってきたラウラは一夏に黒い物体を投げ渡した。
それがどういうものなのかは一夏にもすぐに分かった。
戦争映画などでよく見る手投弾だ。
だが、その物体は手榴弾とは違い丸い筒状で缶のような形をしていた。
「手榴弾か?」
「似たようなものだが少し違う。それは爆発はせずに光線を放つだけだ」
「……なぁるぅほぉどぉー」
ラウラの考えを察して一夏の口調が変わり口元には笑みが浮かぶ。
ラウラが持ってきたものはIS用のスタングレネードだった。
これは一瞬だけ光で敵の視界を奪い、ジャミングで敵ISのハイパーセンサーやレーダーなどを使用不可能にすることができる優れものだ。
現段階では試作品のためデータ収集を目的として限定的にではあるがインペリアルコーポレーションからドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼへと提供されたのだった。
「その隙をついて俺がオルコットにキツイ一発を叩き込めばいいわけか」
「そういうことだ。まったく察しが良くて助かる。さすがはあのお二人の血縁だ」
「そりゃどうも。で、一番ダメージを与えられるのはどこだ?」
「やはり頭部だろうな。シールドバリアーを貫通することが理想だが、それが無理だった場合でもそれなりに効果はあるはずだ。敵が混乱したところで一気に畳み掛ければいい」
「了解」
「いいか、今回の勝負はお前が圧倒的に不利だ。長引かせれば勝ち目は無くなるぞ。スタングレネードは二つあるが失敗すれば同じ手はもう通用しない」
「短期決戦か」
「そうだ。一瞬で終わらせる気で臨め」
「ダメだったときのためにオルコットの弱みでも掴んでおくか?」
「私には諜報力などないぞ?」
「……マジか。あと一つぐらいは手の内を作っておきたいんだけどな」
「スキャンダルは……ダメだ、ここには女しかいない」
「捏造するか?」
「相手の身に覚えがないことを言っても一蹴されてしまうだけだぞ」
「そりゃそうか」
そんな二人を見て忘れ去られて空気と化していた箒が怒鳴った。
「貴様らは正々堂々と勝負をする気はないのか!!さっきから聞いていればスタングレネードと言い弱みと言い卑怯だぞ!」
「勝負は勝たなければ意味がない。無様な敗北などに意味などない」
ラウラは当然のように答えた。
「いいか、お前はISを剣道などのスポーツと対等に扱っているが、それは間違いだ」
「なんだと……」
「ISは兵器だ。人を殺すための道具だ。ISの試合は殺し合いのシュミレーションだと思え。殺し合いにルールなど無用だ。勝って生き残ること、それだけだ」
「…………」
「力こそがすべてだ。それ以外を求めるな。道徳など犬に食わせてしまえ」
「お前……」
箒は拳に力を込める。
二人が睨み合い場の空気は重くなった。
「そもそも私はそのために造られた、ただの消耗品……私は……」
「何と言った?」
ラウラはうつむきながら小声で言う。
箒には聞き取れなかったらしく首を傾げた。
「ひ弱なモノなど必要とされない……」
冷たく言い捨てるラウラ。その表情は凍っているように見える。
凍てつきどこまでも暗い闇。
それはラウラのあからさまな力への執着だと一夏には見えた。
やはりどこかでラウラは自分の存在意義を力だと思ってしまっているのだろう。
「ま、箒の言うことにも一理あるか。さて二人とも飯でも食いに行こうぜ」
一夏は空気を壊すようにワザとらしくベッドから起き上がりそのままドアの方へと歩いて行く。
「お、おい。一夏、待てまだ話は」
箒が引き止めるが一夏はそれに構わない。
「飯食いながら聞くって。ほら行こうぜ、ラウラ」
「おい一夏!だから待てと言っているだろう!」
「はいはい」
一夏は軽くラウラの肩を叩きラウラに先ほどまでの雰囲気が戻ったことを感じると足早に部屋を出ていった。箒はそのあとを追いかける。
「あ」
肩を叩かれたことで正常な思考が戻ったラウラは二人のあとを追うために部屋を出た。
そして歩いて食堂へと向かうのだった。
「あれも一種のトラウマか……。そこら辺の人間よりよっぽど人間らしいと思うけどな」
一夏は箒に追いかけられながら食堂へと向かうの途中でそんなことを言った。
「どうしたのだ?風邪を引くぞ」
首にタオルをかけた一夏がベランダで夜風に当たっているのを見て箒が言う。
「ん」
「何か考えごとか?」
「ラウラにさ、家族の存在が何かって言われたときにちょっとな……」
「家族か……」
「俺がこれまで生きてこれたのは千冬姉や三夏兄、小清水さん、杉山さんのおかげだ。みんな大切で、家族も同然だ」
一夏はくるりと体の位置を変えて手すりに後ろから肘をかけた。
「だけど、たまに思うんだよなぁ。もしも本当の両親が俺たちを捨てなかったらどうなってたのかって。今とは違う未来があっただろうって」
「……一夏」
「あ、勘違いするなよ。俺は別に今の自分が不幸だなんてこれっぽっちも感じてない。むしろ幸せだ」
「…………」
「両親のことを知りたい気持ちはあっても今さら会いたいとは思わない。それに、生きてるかどうかも分からないしな」
「親のせいでお前と千冬さんの人生が狂ってしまった、か」
「はは、否定はできないなぁ」
「私も似たようなものだ」
箒は感傷に浸ったように一夏の隣の手すりに持たれかかり夜空を見上げる。
「私の人生はあのきてれつな姉のおかげで狂ってしまった。お前とも会えなくなったし、両親の下からも離された。定期的に各地を点々とする毎日で親しい友人も作れず一人ぼっちだったよ。……案外、似てるのかもな私たちは」
「嫌なところが似たもんだ」
「ふふ、確かに。だが私もお前と同様、今の生活が不満とは思わない。決して十分ではないが……」
箒は一夏の目をしっかりと見る。
「また、こうしてお前と会えた。今はそれだけでいい」
「箒……」
一夏は少し驚いたがすぐに笑顔になった。
微笑み合う二人。
そんな二人に冷たい夜風が当たる。
「さすがに冷えてきたな」
「あぁ、少々肌寒い」
「なら中に戻るか」
「…………」
すると箒は部屋に入ろうとした一夏の肩に頭を預け寄り添った。
一夏も動きを止める。
「温かい」
「箒?」
「悪い、もう少しだけこのまま」
「……了解」
「一夏」
「ん?」
「オルコットとの勝負……健闘を祈ってる」
箒はラウラに言われたことを自分なりに考えたようだ。まだ理解することはできないが、今は幼馴染を応援しよう。
「ありがとな。心配すんな、オルコットには負けないよ。俺の夢を叶えるためにも……。まずは、これが第一歩だ」
「そうか。なぁ、その夢とは、どんな夢なのだ?」
「……また、教えるよ」
「ぷっはっ〜。あー生きかえる……」
某超法規機関の作戦部長のようなセリフだ。
「たまにはビールも悪くないな」
「そうだろう?黒ビールだぞ兄さん黒ビールだ」
「よくやった褒めてつかわす」
すでにほよ酔いの三夏と千冬が酒を酌み交わしている。
杉山の部屋はすっかり溜まり場と化してしまっていた。
「……あの、この部屋は三人仕様じゃないんですけど」
「「心配するな」」
「……もういいです」
杉山は力無く肩を落とした。
「試合まで5日だが一夏は大丈夫だろうか」
「なんだ?普段とはかけ離れたセリフを」
「姉としては心配なんだ」
「それは教師としてもだろぉ?」
「…………」
千冬は表情を隠すために三夏から顔を背けた。
「そ、そう言えば一夏のISだが、なぜそちら側で用意しなかったんだ?わざわざ学園に頼むなんて」
「頼んだ覚えなどないそっちが勝手に用意したんだ」
「しかし報告書には」
「我々は一夏に専用機を与えるはずだった。現に会社は各部隊に配備されていたISを調整していたんだからな」
「……何と無く理由は分かった。……あいつか」
最後の言葉だけ千冬は小さくつぶやいた。
三夏の言葉には少し嘘があることを杉山は知っていた。
インペリアルコーポレーションが所有しているISはそれだけではない。ISコアは世界に467個しか存在しないことになっているが、実際には三夏が束から奪い取った設計図を元に、見よう見まねで適当に制作した複製コアが数個だけ存在している。その登録外の複製コアは混乱を避けるため表には出さず社内でのISの耐久実験など廃棄を前提とした実験に使われている。
三夏が言うには「詳しいことは分からないが作る分には作れる」とのことだ。
三夏は自身も独自のスーツを設計しているらしくあまりISには興味は無いようだ。すべてはこの自分にとって面白くない女尊男卑の世界を破壊するため、束に勝利するためなのだろう。
缶ビールのプルタブ開けた杉山が会話に入る。
「でも、どういうことなんですかね?」
「君はそんなことも理解できないのか……簡単なことだーあのクソ兎が裏でこそこそやっているんだろう」
「束ちゃんが……。でも何のために?」
「そんなこと知るか!だが、一夏がISを起動させた件といい専用機の件といい確実に戦術においてはあの兎より劣っている」
「……博士、束ちゃんと話し合うことはないんですか?そうすれば互いに歪み合わなくても」
「ありえないねぇーそれに戦術で劣っていても戦略では私が優っている勝のは私なのだー。コテンパンに踏みつけてくれるわー!」
酷い言いようだ。
仮にも目の前には束と友人の千冬がいるというのに。
杉山は心配して千冬を見た。
「だぁー!なぜ9回裏で逆転されるのだ馬鹿者め!根性を見せろ根性を!」
先ほどからやっていたナイター中継に夢中で、三夏たちの話しはまったく聞いていないようだった。
千冬にとっては話題をすり替えるだけのあまり興味の無い質問だったらしい。
「…………」
杉山は若干、呆れ顔だ。
「千冬君〜人に質問したのだから最後まで聞いていたまえぇ」
「し!今いいところなんだ!静かに!」
「…………」
眠い……(´・ω・`)
さてと、戦闘描写をどうしよう(汗)
苦手なんですよ……。
一夏君は勝てるんでしょうかねぇ。
あと、なぜこんなにロマンチックでキザっぽくなったし!
……毎回、書き終わったあとに疑問がorz
早くシャルを出したいなぁーーー!!
と言うか全キャラだしたいなぁーーー!
まだまだ先は長いですね(´・ω・`)
最終回は何話になることやら……。
誤字や矛盾点があれば教えてください。
ではでは〜。