「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
「社長代理、怒ってるんじゃないですか?」
千冬と三夏が座っているテーブルに紅茶を並べながら杉山が問いかけた。
しかし三夏は特に気にした様子も見せずに白手袋をはめてチェスの駒を磨いている。
「怒らせておけばいい。やはりチェスは水晶に限るねぇ」
「減俸にされても知りませんからね」
「あぁ、この輝き……」
実は三夏はこの間の試合で採取した一夏のISデータをインペリアルコーポレーションに提出していなかった。
「ねぇ、ヤバくないですか?」
「ぜんぜーん、光を反射するナイトの美しさよ……」
「真面目に聞いてるんですか、博士」
「うるさい君は自分の仕事をしたまえ」
「もう、すべて終わってますよ」
「私のお茶汲みに専念するのだ」
「やりませんからね、そんなこと!」
「ならば腐った蜜柑たちとでも戯れてくるといいそして君も腐ってしまえ」
「どぉしてそういうことしか言えないんですかあなたは!」
相変わらずの二人をよそに千冬はテーブルに置かれたクッキーをかじりながら紅茶を飲み、テレビニュースを眺めていた。内容は政治だ。
ちなみに場所は例のごとく杉山の部屋である。
「それに今、本社はそれどころじゃないはずだ。軍から兵器の大量受注があったからなてんてこ舞いに違いない」
「え……?。どうしてですか?」
「近々、日本軍が大規模な演習を行う」
「……戦争でもないのに」
「だからこそだよ憲法の改正とISという技術革新の独占によって日本は再び列強の仲間入りを果たした。今では世界有数の軍事力を持つ大国家だ。どこの国も日本の顔色を伺ってゴマをする。とどのつまり周辺国への牽制、諸外国と国内へのパフォーマンスだな」
「…………」
「それともう一つの理由があれだ」
三夏はテレビを顎で指した。
そこに映る総理辞任の文字。
「日本の回転ドア政治はアドバンテージだけで選ばれた無能な女政治家の大量出現から歯止めが効かなくなった。政府があんな不安定な状態で軍上層部を指揮することなどできるわけがないヤツらは常に軍拡を望んでいる」
「日本は徴兵はしていませんよ」
「徴兵だけが軍拡ではない。それに徴兵はしていなくても人は集まるのだよ。実際にドイツやアメリカなどは事実上、徴兵制度は廃止されている。今も徴兵を続けている国はそれをやらなければ軍事力を維持できない弱小国家だ技術が無いから兵員の数で誤魔化しているんだよ」
「…………」
そして三夏は独自の見解を口にした。
「ISとは女にとって諸刃の剣だ。ダメな政治で女の株は落ち一方で軍拡から男の需要と地位は高まる。しかし女はISを手放すことはできない。軍拡をやめさせようにも無能な政治家は軍を抑えめない。まさに滑稽だ見ていて面白い」
「…………」
「まぁ今やIS無しに国防は語れない。軍がISを必要としているのもまた事実だ」
「じゃあ、やっぱり今までと変わらないじゃないですか」
「まだしばらくの間はな。軍という絶対的な統制下に完全に取り込まれればISもただの兵器として扱われパイロットもただの兵士として扱われる。男女関係なく階級だけがものを言う世界だ。それにそうなれば整備や燃料、弾薬などすべてを軍が握り管理する女だけでISを使い男を相手に戦争することは不可能になる」
例を上げるならば、ラウラたち軍人は上官の命令には逆らえない。それがたとえ男であったとしても。そもそも女尊男卑という概念が存在しない。戦場に男女の優劣などという下らない争いを持ち込めば敗北するだけなのだから。
アラスカ条約により国際的にISはスポーツという位置づけにされてはいるが条約はほとんど役には立ってはいない。
少しずつ……。だが確実にISは女性たちの首を締めつつあった。
少し前、三夏が語ったとおりに世の中は進んでいる。
しかし、ほとんどの女性はその危機に気づいてはいない。
「いつか近い未来、世界は手綱を締めねばならないときがくる君も巻き込まれないようにせいぜい気をつけたまえ」
「…………」
「このクソ学園が日本軍の管轄下に入れば早い話しなんだがなぁー」
「学校は生徒たちが勉強して友情を育むところです!」
「相変わらずの朝ドラヒロイン全開だなーいいか、そもそも学校という制度自体が軍隊を作り上げるためにできたものなのだ」
農民などを対象に本格的な学校制度を導入したのはフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトと言われている。
それまでの貴族限定とは違い強い軍を作るために国民全員の能力レベルを一定の水準までに引き上げ、なおかつ思想操作や国家に忠誠心を持たせることを目的としていた。
「今は違うもん!」
「違わなぁーいバーカバーカバーカバーカバーカ」
「うぅぅ!!」
するとテレビを見ていた千冬が口を開いた。
「一夏のデータを渡さないということはまだ調べることがあるんだろ……何か気になることでもあるのか?」
「君も薄々感じているんじゃないか?あの白式の特性に」
「まぁ…な」
「何の話しです?」
「知らないのであれば自分で調べたまえ」
「む〜」
「あ……そういえば忘れていた……。まぁ今度でいいか」
何かを思い出した三夏だったが慌てた様子もなく紅茶を飲む。
ドアをノックする音が響く。
「今、開けますよ〜」
そこにいたのは一夏とラウラだった。
一夏は部屋に入ると三夏と千冬の前に立つ。
「一夏、どうしたんだ?」
「ねぇ二人とも……」
「「?」」
「あの部屋はなんだ?」
「「は?」」
「休日に二人が杉山さんの部屋にいる理由は?」
「「あの、部屋にいられるスペースが無いからだ」」
「……ならやることがあるんじゃないか?」
「やることだと?……酒は買い溜めしてあるし。兄さん、何か思い当たるか?」
「さぁな。というかそこを退きたまえテレビが見えないだろ」
とぼけたように言う二人。
「掃除だよ!どう考えたって掃除しかないだろ!」
「「あーぁ。それか」」
指をさしながら、がなりたてる一夏に顔を見合わせる千冬と三夏。
「それは前々から私も思っていたが私にできることではないので述べなかったまでだ」
「少しぐらい片付ける気にはならなかったのか……」
「「いや、ぜんぜん。できないことはやらない主義だ」」
「…………」
「それに部屋を汚すのは主にこっちだ私ではない」
三夏は千冬を指さしながら言う。
「部屋に散乱してる書類と資料は三夏兄のだろ」
「…………」
「はぁ……杉山さんから聞いたとおりだ。あんまり人に迷惑かけたらダメだろ。千冬姉もだぞ」
一夏はため息をつき呆れぎみだ。
息子に呆れられる父親と弟に注意される姉。
なんとも情けなく見える。
おのれ朝ドラぁ!
何も一夏に言いつけなくてもいいじゃないか杉山さん!
三夏と千冬は似たようなことを考えているのだった。
「さ、掃除掃除。俺とラウラが手伝うから早く終わらそう」
「「…………」」
「返事!」
「「……は〜い」」
渋々ながらも立ち上がる。
「……私が掃除道具を持ってこよう」
「兄さん場所は分かるのか?」
「案内したまえ」
「分かった。一夏、少し待っていろ」
「お二人とも、私もお手伝いします」
「兄さん、どうする?」
「まぁいいだろ軽そうだし」
千冬と三夏にラウラがついて行った。
一夏は言われたまま杉山の部屋のまえで三人が戻るのを待つ。
30分後。
「遅い……」
「まさか迷ってるってことはないよね……」
待てど暮らせど三人は戻らない。
いくらなんでも遅すぎる。
「どうしたんですか?」
たまたま通りかかった真耶が二人に声をかけた。
「あ、山田先生。あの、千冬姉と三夏兄を見ませんでしたか?」
「え?あの二人だったらさっきボーデヴィッヒさんを抱えて外出しましたよ?」
「「は?」」
「?」
時間が止まった。
「ま、まさか……」
「逃げた?」
「あの……よろしかったのですか?嫁を騙すような……」
「いいのだよぉ。どーせ私たちが掃除したところで余計に汚くなるのが目に見えてる」
「だな。……家事はからきしダメだ。まったく小清水さんのありがたさが身に染みる」
千冬と三夏の二人はラウラを伴ってとりあえず街へとやって来た。
「さて、ここからは別行動だ私はスタバに行く」
一人で歩き出した三夏のあとをラウラと千冬がついていく。
「なんのつもりだ?」
「私一人にボーデヴィッヒの面倒を押し付ける気か?」
「三人別々に動けばいいだろ」
「ボーデヴィッヒはまだ日本に慣れていない。こんな場所に置いていけるわけないだろ。それにあいつを連れ出したのは私たち二人だ。連帯責任だ」
「ふん……勝手にしたまえ」
「あ、甘い!」
ラウラはキャラメルマキアートを飲み、目を輝かせて幸せそうだ。
千冬はブラックコーヒー、三夏はベンティカプチーノを注文した。
「とりあえず、これからの計画でも立てるか……」
コーヒーカップを片手に千冬はつぶやいた。
それから三人は当てもなく街を散策した。主にラウラの案によって動いていた。
嫌がる三夏を千冬とラウラが無理やり連行し映画を見た。
嫌がる三夏を無理やり連行しサーティーンのアイスを食べた。
嫌がる三夏を……
そんなこんなで気がつけば午後6時を過ぎていた。
「酒が飲みたい」
「酒ですか?」
「あぁ」
そんな会話をする二人の横では三夏が心底うんざりした表情でベンチにうな垂れていた。
「これは悪夢だ……。やっぱり子供などいらん」
よほどラウラのおもりが堪えたようだ。
一方の千冬は満更でもない様子だった。世界最強、女神の称号を持つ者でもやはり人間。今はただの弟思いの姉なのだ。
そして完全にオフの顔をしていた。
「兄さん近くに知ってるバーがあるんだ。行かないか?」
「…………」
「無言は肯定と取るぞ。よし行こう」
「いらっしゃいませ」
そこは前に杉山と真耶の三人で飲んだバーだった。
そこで千冬は驚き目を見開いていた。
「こ、小清水さん?」
千冬は出迎えてくれたバーテンへ恐る恐る話しかけた。
「はい。お久しぶりでございます」
「どうしてここに?」
「はい。少しの間、博士からお暇をいただいたので、前々からやってみたかったバーテンダーをさせていただいております」
「……前に来たときにはいませんでしたよね?」
「えぇ。私が来たときには千冬さんはすでにお眠りになっておりましたので。それはそれは気持ちよさそうに杉山さんとお二人で」
そう言われ千冬は恥ずかしそうに黙ってしまった。
「早くどきたまえ。小清水さんお久しぶりです」
後ろにいた三夏はすたすたとカウンターに腰を下ろした。
ラウラもそれに続くと三夏の隣に座る。
「さぁ千冬さんもどうぞお座りに」
千冬は言われるがままにラウラのよけへ行く。
「ご注文は?」
「マティーニを、ただしジンではなくウォッカでお願いします。銘柄は任せます」
「私は……とりあえずギムレットを」
「いや、千冬君にはホワイトレディーを」
「兄さん……」
「君にピッタリだろう?」
「…………」
「私はオレンジジュースを」
「かしこまりました」
左側の隅の席では若いバーテンダーがカップルから注文を受けていた。
「あたしファジーネーブルちょうだい。彼にはスプモーニね」
「はい。すぐにお持ちします」
「うん、美味い!」
千冬はこの短時間ですでに5杯目に突入していた。陽気に笑いラウラの肩に手を回している。
ラウラはオレンジジュースのグラスを両手で握り顔を赤くしている。目が据わっているように見えるのは気のせいだろうか。
「……酒乱め」
「千冬さんもいろいろと溜め込んでいるのでは?」
「いーえこいつは毎晩こんな感じです」
そのときラウラがいきなり立ち上がり敬礼した。
「わたくしはー!お二人が大好きでありまぁぁぁす!!」
三夏はラウラを見て怪訝な顔をになった。
酔っ払ってる。
「小清水さんラウラにアルコールを?」
「とんでもございません」
三夏はラウラのオレンジジュースのグラスを手に取り中の液体を一口舐めた。
「……小清水さんこれは酒です」
「えっ」
すると二人の会話を聞いていた笑いバーテンダーがはっとして顔を向けた。
「……あ、あの……僕が間違えてしまったかもしれません」
思い当たる節が一つだけあった。
先ほどカップルが注文したファジーネーブルというカクテル。これはピーチリキュールをオレンジジュースで割ったもので普通のオレンジジュースとほとんど見分けが付かない。また味も甘く子供ですらジュース感覚で飲めてしまうのだ。
グラスもまったく同じだったためどこかで取り違えてしまったのだろう。
「お姉様!」
「なんだボーデヴィッヒ」
「抱きついてもよろしいでありましょうか!」
「ふっ問題ない」
三夏はラウラと千冬を覚めた目で眺めていた。
「あのどこぞの総司令のような一言には触れないでおくとして。千冬は酒乱でラウラは下戸かデコボココンビめ」
午後8時。
「ん〜むにゃむにゃ……」
「えへへぇ教官の寝顔だぁ〜」
カウンターで顔を赤らめた千冬が眠っている。ラウラはその顔をしばらく凝視していたがそのまま千冬に寄り添うかたちで眠りについた。
「ははは、寝てしまわれましたか。疲れているときはアルコールの回りが早いと聞きますし」
小清水は仲良く眠る二人に優しく肩掛けをかぶせた。
「小清水さん。そろそろこちらに来てはもらえませんか?部屋の調整ももうすぐ済みます」
「はは、そう言っていただけるとは。私、嬉しい限りでございます。博士があのような設備の整った、しかも美味しい食事をとることのできる所へお行きになって、いつクビにされてしまうかと心配しておりました」
「やはり小清水さんの料理には敵いませんよ」
「それでは近いうちに」
「お待ちしてます」
店内に客の入店を告げる鐘の音が響いた。
「いらっしゃいませ」
「また来ちゃいまし…た?えっ!?お、織斑博士!?」
「朝ドラ二号……」
「はぁ〜博士の使用人だったんですか……」
「えぇ。近いうちにIS学園に伺うことになります」
「はい、楽しみにしてます!……また先輩は潰れちゃったんですね」
「かなりのハイペースでしたので」
真耶は呆れ笑で千冬の姿を確認した。
「あ!そう言えば博士、一夏君と杉山さんがお二人を探してましたよ。部屋の片付けぐらいしたらどうですか?」
「断る」
「はぁ……」
真耶はため息をつきながらダイキリに口を付けて二口ほどで飲み切ってしまった。
「小清水さん、バラライカを」
「はい」
「私はプースカフェください」
「君はバカか」
「いいじゃないですかぁ。前に写真で見たらすっごく可愛いかったんです!」
「黙れあんな集中力と時間が必要で、出来上がりはさして美味しいものでもない綺麗以外に取り柄のないカクテルなどバーテン泣かせの何物でもない」
「……う」
「ただのリキュールを何種類も常温で飲んで美味いわけがないだろバァーカ」
「……マ、マルガリータください」
涙目で真耶は注文を変更した。
「はぁ……私は教師に向いていないんでしょうか?」
「知るか」
「ん〜答えてくださいよぉ」
それなりに酔いが回ったところで真耶は自分の悩みを打ち明けたが三夏はあっさりとそれを一蹴してしまった。
「どーせまた自分の役立たずぶりに落ち込んでいたんだろう自暴自棄女め」
「うぅ……」
「いいか子どもに社会常識や道徳を教えるのは小中学校の教師だ。高校で学ぶことなど所詮は後付けの知識に過ぎない。高校教師は生徒たちに追加知識を与えて問題を起こさないように監視するのが仕事だ。それ以上のことをする義務は無い」
「それは!……」
「それは違うか?今の私の言葉に異論があるのならばこの場で意味の無い反論などせずに自分で考えて行動しろ自分の理想こそが正しいのだと私に証明してみろ」
「自分の理想?」
「他人に助言など求めるなすべては君の人生だグダグダ悩む前に少しは挑戦してみろ」
「博士……」
「そして当たって砕けて木っ端微塵になってしまえ」
「どーうして余計なこと言うんですか!今、ちょっと感動してたのに見直しかけてたのに!」
「朝ドラ二号に見直されてやる義理は無い」
「もう!」
時刻は午後11時。
夜はまだまだこれからである。
「もう一杯だぁぁぁ!!」
「お付き合いしますお姉様!!」
潰れていた二人も、いつの間にか復活していたことだし。
次回豫告。
日本ヘトヤッテ來タ少女。
ソノ少女ハ一人ノ少年ニ思イヲ馳セテイタ。
少女ヲ待ッテイマ道化ノ使イ。
佛蘭西カラノ代表候補生。
ソノ裏デ交錯スル黒イ陰謀。
次回、鈴物語。
「次回の主役はあたしよ!」