「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
008
あたしは支給されたIS学園の制服へ袖を通した。まだ転入までには時間があるが、好奇心に負けてしまった。
脇。
脇がポッカリと空いた制服。
何処かの巫女でもあるまいし。
しかし、これ以外に制服は無い。あたしは甘んじてこれに身を包むことを決心したのだった。
自分で言うもの何だが、似合った。
さて、それはともかくとして。入学までにやらなければならないことがある。
部屋にはすでにあたしが頼んだ物が届いていた。黒いケースを開ける。
中にあるのは、主に小型カメラだ。一夏とデュノアの部屋を監視する為の物でも4台以上が必要となる。それだけ無ければ、死角をカバー出来ないからだ。
プライバシー?
知る物か。
後ろめたい感情など遠の昔に割り切った。
「何か、スースーして落ち着かないわね」
「と言うことはノーパンか」
「どわぁ!? あ、あんたどっから湧いて出たのよ! そして、あたしはノーパンじゃない! スースーするのは脇であって股じゃない!」
いつの間にかラウラがあたしの横に立っていた。まったく気配が無かった。幽霊なのだろうか。
「人を虫の様に……。失礼な奴だな」
「うるさい。突然、卑猥な言葉と共に現れたことを考えれば虫よりタチが悪いわ」
「ちなみに私は……」
「いや、聞いてないから」
「スパッツとは素晴らしい物だな」
「何で人が言わせないようにしたのに、ヒントと言うか、NGワードをさらりと抜かしてやがる!」
「いや、これだけではまだ私がパンツを履いているか履いていないかは分からないだろ」
「どーでもいいわよ。そして、何処からそんな話題になった」
「あれ? 私がスパッツの下にパンツを履いているかどうか、と言う話だったのではないのか?」
「ちげーよ! 全然すっかり丸っとまったくちげーよ! ……スパッツ履いてるの?」
「履いていないが?」
「はぁ……。ごめん。あんたが分からなくなってきたわ」
「ふむ。では話を戻そう。結局行き着くのは、パンツを履いているか履いていないかと言う表面的な問題では無く、どうしてパンツを履かなくてはいけないのかと言う根源的な問題だろ」
「戻す程の話もしてねーよ! そして、戻した話がそんな話題であるのなら、あたしはこれ以上この話を続ける気は無いわ!」
「ノーパンは日本の文化だと聞いていたが、違うのか? まぁいい。後でクラリッサに聞くとしよう。おい、鈴、地下の射撃場に来い」
「は?」
ラウラは唐突に言う。先程の応答との温度差にあたしは呆気にとられた。
「行くぞ。何を惚けている」
あたしはラウラに続いて白い真っ白過ぎる廊下を歩いた。
009
銃。
人を殺すモノ。命を奪うモノ。
だが、それと対象に、人を守るモノ。命を救うモノ。
そのモノの価値観の違いは文化的違いでもあるのだろう。
日本とアメリカを例に上げてみよう。
アメリカの場合。
銃は日常にあるのが当然だ。自分の身は自分で守る。常に持ち歩くとまでは言わないが、手の届く範囲に置かれている。
つまりアメリカでは銃は人を守るモノとしての意識が強い。
あるのだから持つ必要があり、あるのだから身を守る必要がある。
日本の場合。
まず銃と言うモノ自体に触れる機会が無い。警察官やら軍人やら特殊な職業に就いている者は例外であるが、自衛隊の国防軍化で銃刀法が緩んだにもかかわらず、依然として日本社会に銃は普及していない。
日本に於いて銃は人を殺す物騒なモノでしかないのだ。
無いのだから持つ必要も無く、無いのだから身を守る必要も無い。
……やはり文化の違いと言うより、危機感の受け止め方の違いなのだろうか。
殺られる前に殺るのがアメリカ人。
殺られたら殺られっぱなしの平和ボケした日本人。
……日本人も角が取れて、随分と、まん丸になったものだ。一昔前は大国アメリカを相手に一億玉砕を唱えて躍起になっていたくせに。
まぁ、それもこれから変わっていくことだろう。
あたしの目の前で、ずらりと棚に陳列されている銃の列。多種多様。まさに選びたい放題。
「好きな物を選べ。どれか一つ、お前に支給しよう」
「え?」
「ISが使用出来ない状況に陥る可能性もある。我々の立場上、持っておいた方がいいだろう」
確かにそうだ。
IS学園なら未だしも、街中でISを展開すれば、国際問題になりかねない。
あたしは国家代表候補生だ。自己防衛で済む話ではないだろう。最悪、IS操縦者の資格剥奪になりかねない。今のあたしの立場上、インペリアルコーポレーションが揉み消してくれるかもしれないけれど、その様な騒動が起こらないに越したことはない。
「あんたや一夏と同じ物でいいわ。撃ち方は軍で習ってる」
「では、ワルサーP99だな。サプレッサーも渡しておくか」
銃と弾倉があたしの手に渡された。
銃は重い。よく、武器の重さは命の重さ、だと言う者がいる。一見すれば、とても深い言葉の様に思えるのだけれど、銃は間接的な役割りしか果たしていない、実際に直接、命を奪うのは、たった9ミリの豆の様な金属の塊。
刀、剣、ナイフ、銃、弾丸、毒。
全て人を殺めるモノだけれど、重さは様々で、毒に至っては数グラムだ。
つまり、結局は、人間の気持ち次第で命は軽くなり重くなる、と言うことだ。
昔、織斑千冬と織斑三夏の二人が似たような事を言っていたのを覚えている。
あたしは銃に弾倉を込めるてからスライドさせると、安全装置をかけて腰のホルスターに押し込め、試し撃ちをする為に場所を移動する。
「人を撃った事は?」
「あると思う?」
「……いや」
「まぁ、いざとなったら、躊躇わずに引き金を引くわよ。死になくないから」
「そうだな」
010
「…………」
朝。
食堂。
朝食。
「…………」
朝食はあるのだけれど、あたしはそれに手をつけていない。じっと湯気の上がる温かい料理を見ている。
誰もいない食堂で、あたし一人がそこに座っていると言うのは、まるで、この空間の所有権があたしにあるようだった。あたしだけの空間。子供の様に、もう二度と家には帰らなくても大丈夫だと思ってしまう、暗示にも似た自信感、優越感、……独占感。ただ、もう帰る家は無いのだけれど。
「そこ、いいか?」
ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「あんたさ、学校に行かなくていいの?」
「問題ない。私は季節はずれなインフルエンザで絶賛発熱中だからな」
「元気じゃん」
「そうだ。元気だ。ゆえにこれは嘘だ」
「は?」
「人生で初めての仮病というやつだ。ちなみに私は今まで風邪にもかかった事がない」
「あっそ。それで一夏はどうしたのよ」
「織斑一夏はショッカーと戦うためにアメリカに向かった」
「仮面ライダーか!」
「私も変身するぞ」
「何それ、すげー見たい!」
そんな会話の後、手前に腰掛けたラウラは、あたしとあたしの前に置かれている朝食とを交互に見る。
「食べないのか?」
食べないのではなく食べられないのだ。食欲はあるし、食べたくない訳でもない。
原因は主に手と腕だ。更に突き詰めれば、昨日の射撃場での事だ。
感覚がなまっていたのは、少なからず自覚はしていたのだけれど、まさか、ここまで腕や手に負担が掛かるとは思ってもいなかった。
病名、筋肉痛。
「ふむ。なるほどな」
ラウラは唐突にフォークを皿の上のベーコンに突き刺したかと思うと、それをあたしの口元に運んだ。
「はい、あーん」
「あ?」
「ほれ、あーん」
「いや、その……」
「この朝食は一夏の手作りだぞ」
「食べます! 早く食べさせてくださいお願いします!」
その朝食が、本当に一夏の手作りだったのかどうかと言う分かりきった事実は別として、誰かに食べさせてもらうのは、数年ぶりだった。
「これはこれはぁ。朝から美少女のお二人が、あーん、してるところを見られるなんてラッキーだねぇ。ねぇミヤッチ」
「話を振らないでくださいよ……」
「あっれぇ。嬉しくないの? あ、もしかしてミヤッチ、あっち系?」
「ち、違いますよ! 何ですか、あっち系って!」
「否定しておいて分からないのぉ? あっち系はあっち系に決まってるでしょ。そんなんだからいつまで経っても小さいんだよ」
「関係ないでしょそれは!」
そこには、ベストにスーツを着込んだ長身の男性と、低身のクリーム色のジャケットの男性が立っていた。
ラウラは、この二人を知っている様な素ぶりだ。
「誰よ」
「あぁ。この、お二人はな……」
「あーいいよいいよ。自己紹介は僕らでするから」
説明しようとするラウラを長身の男性が制して喋る。
「どぉも。国際IS委員会、IS不正使用等防止関連趨勢監視室室長 兼 IS委員会執行部特別監査室室長なぜか代理の如月です。どおぞ、よろしく。で、そこのちっこくてコンパクトなのが僕の助手の間宮君」
長い。
とにかく長い、長すぎる肩書きだった。
「コンパクトって……。間宮です。よろしくお願いします」
軽く手を上げた如月とは対象的に間宮は丁寧に頭を下げた。
IS委員会の人間だと言う二人。
つまりはIS関連において、事実上のトップと言う事だ。そんな役職に就いているのは男。
理由は簡単だ。二人が日本人だからに違いない。
「それで、お二人はどうして、ここに?」
ラウラが問い掛けた。口調は丁寧で、いつもの様に、ぶっきら棒な喋りではない。
「あ〜、ちょっとあいつの顔を覗きに来たんだよ。しっかし、無駄足だったけどねぇ。あいつIS学園にいるらしいじゃないの。あ。いや、君ら二人の美しい馴れ合いを見れただけでも、足を運んだ意味は、少なからずだけれど、あったと思うよ」
「……あなた方もフランスの件を?」
ラウラは確信に斬り込む。
「まぁねぇ。ここが動くから僕らも動かざるおえなくなった、って感じかなぁ。与えを享受されている者は、与えを享受させている者には逆らえないのさ」
「賢明なご意見ですね」
「ついでにイギリスにも寄ってくんだけどね。定期監査だよ。ほら、あの英国企業連合のトップやってた貴族の夫妻が、事故死したでしょ。そこからイギリスIS関連企業への委員会の監視の目が強くなった。いや、監視を強めるように命令されたのかもねぇ。どっかから」
「あの列車事故ですか……」
「本当に事故だったのかは、疑問が残っちゃってるけどねぇ」
「…………。警察が事故と言ったのならば、事故なんでしょう」
「たださぁ、英国企業連合は海外から侵入する企業を跳ね返すために作られた一種の防衛組織だ。扱う分野は幅広い。もちろん兵器も……。そんな鬱陶しい組織のトップだよ? 消されたって不思議じゃあないでしょお。事故で片付ければ、得をする人物や組織が出てくるんだよねぇ。特に、この会社。そして、委員会を動かせるほどの力を持っていたのも。これ、偶然かな?」
「さぁ」
「まぁ、その貴族の一人娘が頑張って私的財産は守り抜いてるらしいけど。それでも、連合の権利や市場の主導権なんかは根こそぎ持っていかれた……」
「…………」
「今となっては分からない事だけれど。……フランスの件。潰そうと思えば出来た筈なのに、そうしなかったってことは。今度はフランスを狙ってるのかなぁ?」
「ふっ。さぁ私には分かりません。全く何にも」
「あぁ、語弊があったみたいだね。イギリスの場合は進出が目的だった。今回は、役にも立たないのに、こんな馬鹿な事を仕出かす企業を潰してコアを回収する事が目的。どうかな?」
「どうでしょう?」
「君らなら何か知っているんじゃないのぉ?」
如月とラウラは、意味あり気な笑みを浮かべている。
途端に如月が表情を崩した。
「今の言葉に意味は無いけどねぇ。どうする気もない。ただ気になって、モヤモヤしてたんだよねぇ。ま、後から分かる事だから、いいか。……それじゃあミヤッチ。僕らは、そろそろお暇しようか。お二人はごゆっくりぃ」
「え? あ、はい。それじゃあ」
そう言って二人の男は立ち去った。
「本当に何者なのよ……」
「あの男、管理官とは大学での同期だそうだ」
「……類友って奴ね。何でも見透かした目をしてた。あたしの苦手なタイプだわ」
「お前のタイプは一夏だろ?」
「…………」
「そう恥ずかしがるな。見てれば分かる。鼻の下が伸びてるからな」
「伸びてねぇよ!」
「怒るな。訂正する。恋する乙女の鼻の下をしていた」
「馬鹿にしてるでしょ! そうなんでしょ! 言い方の問題じゃないからな!?」
「いたって真面目だ」
「はぁ……それにしても、どうすんのよ。あいつの言ってた事、結構当たってる」
「何もしないと言っていたのだから、こちらも別に構えている必要は無いだろう」
「なぁんか、あの傍観者面が気に食わないのよねぇ」
「ふん」
「可能性は無きにしも非ずよ? その辺は、あんたに任せてあるんだから、しっかり頼んだわよ」
「了解しているさ」
「で、聞かせなさいよ。イギリスの話」
「今、聞いた通りだ。イギリス貴族の、やり手実業家が事故死して、インペリアルコーポレーションが結果的に得をした。それだけの話だろ?」
「分からないわよ? 案外、本当に殺してたりして」
「どうだかな……」
「次に消されるのは、あれね」
「あれとは?」
「ほら、ちょっと前まで、裏を牛耳ってた。暗部の一族」
「確かに、あり得ない話でもないな」
「ま、何にせよ」
「あぁ、私達には関係の無い話だな」
「早く、残りを食べさせなさいよ」
「……顎で使われている気分になるのは気のせいか? お、そうだ。忘れていた」
ラウラは軍服のポケットから何やらカードを取り出した。
「お前の免許証だ。受け取れ」
「……ん〜?」
「どうした?」
「やっぱり写真は太って見えるわねぇ」
「いや、そんなもんだろ」
「…………」
やはり、こいつは腹が立つ。
あたしはラウラへの腹立たしさを紛らわすために、残りの時間、どうやって暇を潰すかをじっくりと考える事にしたのだった。
鈴物語編はこれにて終了です。
次回から、三人称に戻ります。……鈴の一人称は書いていてかなり面白かったですね。また、別の作品で書けたら、と思います(^^;;
今回は、少し短くなってしまった気がする。すみません(汗)
しかし、書いてて思ったんですが、ISの主人公&ヒロインズは、不幸な人が多いですよね。主に、家庭事情がですが。
両親が蒸発したり、離婚したり、死んでしまったり。
優秀な姉、その姉の存在がコンプレックスの妹。どいたらも接し方が分からず、溝が出来てしまっていたり。
天才の姉もとい天災の姉によって、人生が変わってしまった妹もいますし。
母親が死に、父親にいいように利用される妾の子とか……。
浅い台詞を言わせてもらえるなら、皆を幸せにしてやりたい……。
いろいろ深く考えてしまったらライトノベルが、全然、ライトじゃなくなってしまった。
さしずめヘビーノベルですね。うわ、需要なさそう。
ではでは〜。