「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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第2話

都内の一軒家。

かなりの豪邸のようだ。

 

「ここよ」

 

「お邪魔します」

 

「おじゃまします」

 

「こら……」

 

杉山は恐る恐る入る二人を小さく叱った。

 

「ただいま…でしょ」

 

「「!」」

 

「ほら……」

 

「「た、ただいま……」」

 

「おかえりなさい」

 

照れ臭そうに言う二人を杉山は笑顔で招き入れた。

だが……

 

「なぁにぃがお帰りさないだ。人の家の玄関で安っぽい三文芝居をやるな、朝ドラのヒロインかお前は」

 

「人を指ささないでください! 失礼ですよ」

 

「黙れ朝ドラぁー! 早くどけ私が通れないだろ。それに私はまだ同居など認めてないからな!!」

 

口論を繰り広げる二人にどうしたらいいのか戸惑う織斑姉弟。

 

「あぁ帰られましたか織斑博士。杉山さんも……そちらの方たちは?」

 

室内からは白髪混じりのダンディな恰幅のいい男性が現れた。とても優しそうな人物である。彼は織斑三夏に雇われ、身の回りを世話している小清水という使用人だ。

 

「小清水さん夕食の仕度をしてくれたまえ。その時にゆっくり話すことにしよう。私は準備ができるまで風呂に入ってくるから、そのつもりでお願いします」

 

「承知いたしました。あぁ、ささお嬢様とお坊ちゃんもどうぞ中へ。温かいココアを用意いたしますよ」

 

二人を部屋に見送り小清水は杉山へ耳打ちした。

 

「何か訳ありのようですな」

 

「……すいません。ご迷惑でしたか?」

 

「いやいや、孫ができた気分でございます」

 

はははと陽気に笑う小清水に杉山は頭を下げるばかりだった。

 

「さぁココアでございます。熱いのでお気をつけて召し上がってください」

 

「は、はい……ほら一夏」

 

「うん」

 

一夏は千冬からココアの注がれたカップを受け取ると小清水に軽く頭を下げてから口をつけた。

 

「美味しい……」

 

「良かったな、一夏」

 

「うん!」

 

「ははは、元気になられたようですな。ささ、千冬さんもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

それから調理をしている小清水に杉山は簡単な説明をしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、美味しい!!」

 

テーブルの上には小清水が腕によりをかけて作り上げた高級レストラン顔負けのフルコースが並んでいた。

縦に置かれた長いテーブルに千冬、一夏、杉山の順に腰掛け三夏は一人感じの違う革張りの椅子に腰掛けテーブルの上手で食事をしている。

杉山は小清水の料理を頬張り、グラスに注がれたワインを口にした。

 

「このワインもすごく美味しいです!」

 

「それは何よりです」

 

「当たり前だ。このワインはシャトー・ラトゥール大五シャトーの一つだぞ。本来、君のような三流研究員には一生味わえない代物だ」

 

「何でまたそんな高いものを……?」

 

「飲まなきゃやってられないからだよぉ? それと君のワインは近所のスーパーで買ってきた、定価550円の安物だ」

 

「えぇ!? ひどい!!」

 

「嘘だ、馬鹿者め」

 

「どっちなんですか!」

 

「その場の雰囲気とノリで、ただただ美味しいです! と連呼している味音痴の朝ドラヒロインがそれを飲む資格などない、返せ」

 

「嫌ですー!!」

 

「まぁまぁ、お二人とも……そろそろ本題に入られては?」

 

小清水が二人を落ち着かせ話題をそらした。

 

「博士には、この子たちの保護者兼後見人になってもらいます」

 

「こぉとぉわぁるぅねぇー」

 

「もう家庭裁判所には連絡しておきました。後は書類を提出して認可してもらうだけです。私がすべてやっておきますから、心配しなくてもいいですよ」

 

「この国の司法はいつからそんなに甘くなったんだ。それにお前のその行動力が研究に向けられないのが非常にざんねんだよぉ。その書類を持ってきたまえすぐに破り捨ててやる」

 

「嫌ですー」

 

「私は養うとは言ったが、そんなことをするなどとは一言も言っていない。そもそも家に連れてくるつもりさえなかった」

 

「何馬鹿なこと言ってるんですか? 子どもを養うとはそういうことです。ちゃんとしてください」

 

「このクソ朝ドラヒロインめ」

 

「何ですか!? さっきから朝ドラ、朝ドラって! いいじゃないですか朝ドラ面白いですよ!」

 

「はっ、あんな三文芝居のどこが面白いんだ、毎朝毎朝飽きもせずにダラダラ放送しやがって、不快なことこの上ない、私の爽やかな朝には不要なモノだ、大迷惑でしかないねぇぇ。迷惑防止条例にのっとり今すぐに裁判所に放送中止の判決を下してもらいたいぐらいだ。それが私の切なる願いだよ」

 

「いー! だ」

 

「ガキかお前は」

 

そんな様子を見ていた千冬が側に立っていた小清水に尋ねた。

 

「あの……」

 

「何でございましょう」

 

「二人は、いつもあんな感じなんですか?」

 

「あんな感じとは……?」

 

「えぇっと、なんていうか……仲が悪い」

 

「いやいや、お二人はとても仲良しでございます」

 

「えっでも……」

 

「喧嘩するほど仲がいい、でございますよ。はははは」

 

「何で杉山さんはあの人の下に?」

 

「あぁ、社長の気まぐれでしょう。ま、結果オーライと言いましょうか」

 

「は、はあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

寝癖でボサボサの髪のまま小清水の朝食を食べる三夏に千冬があるプリントを渡した。学校の書類であろう。昨日はゴタゴタしていて渡す機会がなかったのだ。

 

「おじさんこれ……」

 

「誰がおじさんだ、私のことはお兄さんと呼びたまえ。で、何だ? これは授業参観? こっちは……保護者面談? なぜ私に渡す」

 

「あなたが親だから。私は大丈夫なので、せめて一夏の授業参観には出てもらいたいです」

 

「…………。小清水さん10日に何かご予定は?」

 

「ありませんが」

 

「ならちょうど良かった。私のかわr「私はあなたに一夏の親として出席してもらいたいんだ!!」……」

 

千冬が叫ぶ。

親がいない、これは明らかに社会的に異常なことだ。子ども社会ではそういった特殊な人間を排斥する傾向が強い。つまりはイジメだ。だから千冬はなんとしても三夏に一夏の親として出席して欲しいのだ。

そこへパジャマ姿の一夏が眠い目をこすりながら起きて来た。

 

「いいところへ来た。一夏君、君の授業参観だ、誰に来てもらいたいか指さしたまえ」

 

「……おじさん」

 

しばらく考えて一夏が三夏を指さした。

 

「おじさんではなくお兄さんと呼べ! 千冬君、君の日程は7日だったな」

 

「え、はい。でも私のは別に……」

 

「面倒ごとが一つだろうが二つだろうが変わらん、ついで! だ。感謝しろー」

 

「ありがとうございます」

 

「あぁ、お礼を言われて当然だー」

 

すると唐突に一夏が三夏に近づいた。

 

そして……

 

「てい!」

 

「いったぁぁぁ!!? いきなり足を、しかもスネを蹴る奴があるか!!」

 

「おじさんムカつく」

 

「お兄さんだぁぁ!!」

 

「おじさん」

 

「今すぐ出ていけクソガキぃぃー!!」

 

朝、7時30分の織斑さん家。

 

共同生活初日のできごとであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは織斑さんは、娘さんには進学校に進んでいただきたいのですね?」

 

メガネをかけた中年の女教師が成績表を見ながら三夏へそう尋ねた。中学校三年生の大切な時期だ。面談が始まって10分ほどそろそろ大詰めだ。

三夏はおもむろに女教師の手を取ると熱く語り出した。

 

「えぇその通りです。彼女は優秀だ、しかるべき道がある、この子はこれまでに辛く不幸な経験をしていました、私は親として千冬には幸せな人生を送ってもらいたいのです!!」

 

「お、お父さん……」

 

女教師は目を潤ませて頷く。

 

「任せてください! 私が全力でサポートいたします」

 

「どうか千冬をよろしくお願いします先生!」

 

「はい!」

 

千冬は唖然としてその光景を見ていた。

 

面談が終わり三夏と千冬は教室を後にした。

 

「よし、これでいいだろう。私は好印象だ、男手一つで可愛い我が子を懸命に養う姿に、あの女は心打たれていた。めんどくさいことはあっちでほとんど引き受けてくれるはずだ」

 

「あなたって……」

 

千冬は三夏の猫かぶりのひどさにただただ呆れてしまったのだった。

 

「なんだねー?」

 

「頼むから、一夏の授業参観でそんなことを口走らないでくださいよ」

 

「善処しようー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁぜぇ私が君と授業参観に出席しなくてはいけないんだ」

 

教室の後ろ、他の子どもの保護者に囲まれながら三夏と杉山が一夏の授業を受ける姿を見ていた。

耐えきれなくなった三夏が杉山に悪態をつきはじめる。

 

「しょうがないじゃないですか。一夏君がどぉーしてもお姉さんも来て欲しいって言ったんですから」

 

「その暑苦しいドヤ顔を近づけるなガニ股」

 

「が、ガニ股じゃないもん!!」

 

「いーや、ガニ股だね」

 

「ちがうもん!!」

 

「ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股ガニ股!」

 

「うーー!!!!」

 

「後ろの方は静かにしてください!」

 

教師に注意されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬姉!」

 

「どうだった? 授業参観は楽しかったか?」

 

小学校の校門の前で千冬が一夏を待っていた。学校が終わり急いで駆けつけたようだ。

そんな千冬に一夏は楽しそうに今日のできごとを千冬に聞かせている。

 

「ありがとうございました」

 

千冬が杉山にお礼を言う。

 

「いいのよ」

 

「私へのお礼は無いのかぁ?」

 

「兄さんもありがとう」

 

「よろしい」

 

「ありがとー、お姉さんにおじさん」

 

「お兄さんだ、いい加減学習しろ。だいたい、このガニ股のどこがお姉さんだ」

 

「お姉さんじゃないですか! どっからどう見ても」

 

「どっからどう見ればお姉さんなんだ、私には一層おばさんにしか見えないねー」

 

「お姉さんです! ね、一夏君!」

 

「うん、お姉さん!」

 

「私はどうだ?」

 

「えへへ、おじさん!」

 

「杉山君、こいつ蹴りとばしてもいいかな?」

 

「やめてください。大人気ないですよ」

 

「ふんっ」

 

「あ、そうだ。二人とも小清水さんがお祝いに今日はご馳走作って待ってるって」

 

「本当に!?」

 

「うん」

 

「やったー!!」

 

「良かったな、一夏。私も楽しみだ」

 

「何の祝いなんだ……」

 

「博士が、この子たちの父親デビューをしたお祝いです」

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

和気あいあい? としているそこへ一人の乱入者が現れた。

 

「ちーちゃぁん! いっくぅーん!」

 

「うわっ! た、束!?」

 

「束姉だ!」

 

「会いたかったよ、ちーちゃん学校が終わったらすぐにいなくなっちゃうんだもん、探しまわったよ! さみしかったよ! さぁ愛のハグをしようよ、ちーちゃん!!」

 

「やめろ!!」

 

千冬はウサ耳を付けドレスのような服を来た束と言う少女の顔面を掴み腕に力を込めた。

 

「痛い痛い痛い! ちーちゃんの愛が痛い!」

 

「愛でも何でもないわ!」

 

そう言って千冬は束の顔から手を離す。

 

「あー、痛かった。あ、いっくん久しぶりだね!」

 

「うん!」

 

「今日も元気元気だ!」

 

「元気だよー!」

 

「さぁ、ちーちゃん。束さんといっくんと三人で遊ぼう!!」

 

束は側にいる三夏や杉山に見向きもせずに一方的に話を進める。

杉山はそんな束の姿が自分の横にいる上司の姿とどこか被っているように思えた。

 

「今からか?」

 

「そうだよ! 束さんの家に行こうよ」

 

「悪いが無理だ」

 

「え? 何で? ねぇ、何で?」

 

束は千冬に誘いを断られたことに驚き何度も問いかける。

予想もしていなかったような表情だ。

 

「これから家族で夕飯なんだ」

 

「…………」

 

「だから今日は遊べない」

 

「知らないよ、そんなの。ねぇ、束さんと遊ぼうよ」

 

「束……」

 

「家族って誰? ちーちゃんにはいっくんしかいないんだよね? だったら束さんの家にくればいいじゃん」

 

「私たちには父親ができたんだ」

 

「だれ? それ」

 

「私だが?」

 

三夏が会話に入った。

 

「へー、君がちーちゃんのお父さんなんだ。ならお願いがあるの」

 

「なんだ?」

 

「今すぐに、ちーちゃんといっくんのお父さんをやめてよ。束さんの邪魔になるから」

 

「束!!」

 

その言葉にさすがの千冬も激怒した。

だが三夏は笑っていた。何も気にしないかのように。だが何かに気づいているかのようだった。

そして……

 

「いぃやぁだぁねぇーー」

 

憎たらしくそう言った。

 

「何で私が中学生のガキの言うことを聞かなければいけないんだ、もう少し考えてから発言したまえ不思議の国のアリス君」

 

「言うことを聞かないと……」

 

「聞かないとどうなるんだ? 会社をリストラされるのか? まずい写真やネタを世間にばら撒いて私を社会的に抹殺するのか? やめておけ、どぉせ無駄だ」

 

「そんなことを言って良いのかな? 束さんは天才なんだよ?」

 

「自分のPCをハッキングされても分からないようなウスノロが天才ねぇー、天才の定義も低くなったモノだな。杉山君、大変だよ今からか君も天才の仲間入りだ、未来は暗いぞ」

 

「バカにしてますよね!? ねぇ!」

 

「どういうことかな……?」

 

三夏の言葉に束の沈んだ声がした。

 

「だから自称天才の君のPCをハッキングしたと言ったのだよ」

 

「ありえないね」

 

「それこそありえないね、なら言ってやろうかPCに入っていたあの兵器の詳細をー」

 

「!!?」

 

「以上の見解から、君は私には勝てない」

 

束は信じられないように目を見開いていた。

 

「ついでに言っておこう。あれを学会に発表したところで無駄だ、誰からも相手にされないし、見向きもされないさ。では私は帰る、さようなら」

 

くるりと体を回転させて三夏は歩き始めた。

杉山が慌ててそれを追った。

 

「博士、もしかして彼女が」

 

「鋭くなったじゃないか朝ドラ。そう、あのガキがISの開発者だ」

 

「でもあの言い方はどうかと思います。子ども相手に」

 

「いいか、あんなモノを作れる奴を子どもと思うな。それにあのぐらいじゃ諦めないさ、必ず動く」

 

「え?」

 

「さぁ帰ろー」

 

そんな二人に千冬と一夏も追いついて来た。

夕暮れが早くなり空には薄っすらと星が見えていた。

 

「ISは兵器なんかじゃない……」

 

一人残された束はぼそりとそうつぶやいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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