「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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第20話

インペリアルコーポレーション本社。

土曜日。夜。

鈴ちゃんの、お部屋。

 

「はぁ……暇ねぇ」

 

全ての準備を終えてしまえば、やることなど無いわけで。鈴はベッドに体を横たえて、面白くもないテレビを見ていた。

 

「ふん? ……おぉ! ……おぉ!? おぉーー!? 勝ったぞぉー!」

 

「うるさい! さっきから何やってんのよ」

 

ラウラがスマートフォンの画面を睨みながら、悶えたようにしている。

 

「最近、ハマったゲームアプリだ。テトリス感覚で、パズルで、育てて、進化で、敵を打ち倒して……楽しい」

 

「意味不明な説明ね……。と言うか何で、あたしの部屋にいるのよ」

 

「まぁ暇だからな」

 

「なら学校に行きなさいよ。不登校か、あんたは」

 

「私をあんな社会不適合者と一緒にしてもらっては困る。ヒッキー? ふっ。ヒッキー……」

 

「全国のヒッキーに謝りなさい。苦労してるのよ? 知らないけど」

 

「国力低下の病巣だな。頭を下げる気など、さらさら無い。癌よりタチが悪い」

 

「あんたは……」

 

「私は管理官からの指示でお前の世話係をしているんだ。まだ、日本に慣れてないだろ?」

 

「まぁ、久々だしねぇ」

 

鈴がいた頃より、日本もずいぶんと変わっている。よく通ったファミレスや喫茶店などが、無くなってしまっていた。他人から言えば些細な変化かも知れないが、本人にしてみれば、思い入れのある場所が消えるということは、やはり寂しいものだ。ずいぶんと変わった、と言っていいだろう。

 

その間も、テレビは淡々と旅番組を流している。

 

内容はカンボジアのアンコールワットの特集だった。

 

「アンコールワットか。あの大きさを見れば人生観が変わる、と誰かが言っていたな」

 

「人生観が?」

 

「あぁ。ガラリと」

 

「……魅力無いわねぇ」

 

「なぜだ?」

 

「……それ見て、お金が嫌いになったら困るわよ。あたし」

 

「…………」

 

「でしょ?」

 

「確かにな」

 

何とも言えない納得と沈黙。

少しばかり場の空気が重くなった。

 

そこから番組の話題が切り替わり、鈴の母国が偶然にも液晶パネルに映り込んだ。

 

ラウラが口を開く。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「お前はもう国へ帰る気は無いのか?」

 

この質問に意味は無い。ただ何と無く気になったに過ぎない。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「私情では二度と帰らない、つもりよ。帰るとしたら仕方なく……」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「なら一度は帰るチャンスはあるんだな」

 

「え?」

 

「自分の国だ。捨てる前に、しっかり見ておけ。悪いこともすべてだ。例え、お前の憎む母親であっても、必ず目に焼き付けろ。それが、お前が人から産まれたという証明だ」

 

「…………」

 

「そして、過去の美しく楽しかった日々を、辛く厳しかった日々を、思い出し忘れるな。それが、お前にかつては温かい家庭があったことの証明であり冷たく固まり砕け散った家庭があったことの証明」

 

「そんなモノ……」

 

「過去にすがり続け、それを求めることに意味は無い。だが過去を糧とし今を生き、時折、感傷にひたることが人生というものじゃないのか? その感傷が、感謝であれ未練であれ後悔であれ、それは人生の確かな蓄積だ」

 

「…………」

 

「正直に言うと、いや、これを言ったらお前は気を悪くするかもしれないが、私はお前が羨ましくなるときがある」

 

「あたしが? どこが?」

 

「そうやって人間関係に四苦八苦することができるところだ。私はそれが、とてつもなく羨ましくなる。何も無かった私にはな」

 

その言葉を発するラウラの表情に変わりはなかったが、鈴はそれを何も言わずに見つめた。

 

「あんたってさ……。自分が試験管ベビーなのに引け目とか感じてるの?」

 

「……知っていたのか」

 

「あんただけが、あたしの事情を知ってるのも癪だしね。で、どうなのよ。引け目があるの、無いの?」

 

「……無いと言えば嘘になる」

 

「そう。馬鹿らしいわね」

 

「何?」

 

「あぁ、あんたのことじゃないわよ? 馬鹿らしいのは、そう感じさせるこの世の中」

 

「…………」

 

「そもそも何で人造人間やクローン人間はダメで、同性愛はOKなわけ? 神に対する冒涜なんてどっちも一緒でしょ。男と女、二つで一つになるように神様に作られてるなら、それに従えって話よ。同性愛者たちは人権やら何やらで、それを隠してるだけ。突っ込むところなんていくらでもある」

 

「…………」

 

「結局は何もかも、あたしたち人間の匙加減なのよ。だからあんたが、その変な矛盾だらけの価値観に引き目を感じる必要なんてないのよ」

 

それだけを言って鈴はテレビの電源を切った。

 

「まぁ、同性愛がいけないってことじゃないけどね」

 

「ほぉ、なら私がキスしてやろうか」

 

「あたしに触れたらぶっ殺すわよ、あんた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日。夜。

IS学園。

 

「やったぞー! ついに広い部屋だ! 文化的な生活が戻ってきたー! テレビがある! フローリングにトイレにはウォシュレットも付いてる! テンピュールの抱き枕も取り寄せた! 小清水さんもじぎに来る! 完璧だ!」

 

嬉しさが滲む三夏の声。

念願叶ってようやく新たな部屋が用意されたのだった。

 

「やはり広い部屋はいいな。お、テレビもあるのか」

 

「よかったね千冬ちゃん」

 

「えぇ」

 

「…………」

 

三夏のよく知った声がした。

 

ぎこちなく首を回した先には、いつもの黒スーツに身を包んだ織斑千冬の姿があった。脇にはバッグを抱えている。横には杉山もいる。

 

「なぜいる……」

 

「なぜと言われてもな……。ここは私の部屋でもあるんだぞ? 見ろちゃんとベッドも二つある」

 

「お前には前の部屋があるだろ」

 

「なんだ聞いてなかったのか? あの部屋は、住む者に不公平になるからという理由で、物置として使うらしいぞ」

 

「…………」

 

「おぉ、ベッドがフカフカだ」

 

「泥酔して床で寝るような奴には必要ない物だな」

 

「……ナンノコトダ、ニイサン?」

 

「どうでもいいが酔っ払って私のベッドに潜り込んでくるんじゃないぞ蹴り落とすからな」

 

「ナンノコトダ、ニイサン? ア、ソウダ。独逸カラノ差シ入レデ本場ノ麦酒ガアルンダ。飲モウ飲モウ」

 

三夏の言葉に千冬はブリキのようなぎこちない言動になり、杉山はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「その某シャフトが手がけている人気怪異アニメのカット割のような喋り方を今すぐやめたまえ。そしてそのビールはまだぬるいだろ」

 

「よし、なら引っ越し祝いに飲みに……んん! 食事に行こう」

 

「食堂と言わない時点で酒場に行きたいのが見え見えだ。お前は私に多額の借金があることを忘れるんじゃないぞ」

 

「分かってる分かってる。あと数年もすれば返せるさ」

 

ふと三夏は考えた。自分が言ったこととはいえ数年は縁を切ることができない。改めてその長さを実感する。

そして、目の前には再び相部屋となった千冬がいる。

 

三夏の不満を沸き立たせるには十分な理由だ。

 

「今すぐ全額返せ。それが無理なら軍でも企業でも契約してがっぽり契約料をふんだくれ」

 

「何の契約をしろと言うんだ……。それに月の返済金額はすでに決めてあるだろう。余分には払わないぞ」

 

「払え払え払え! 今すぐ払え! IS関連のCMにでも出演すれば億単位の契約金が手にはいる! それが嫌なら今すぐ私に別の部屋を寄こせ!」

 

「子どもですかあなたは!」

 

それまでのやり取りを聞いていた杉山からツッコミが入る。

 

「多額の借金って……。だいたい、何から何まで最高級品というのはどうなんですか? 普通でいいでしょ普通で。石鹸一つが三万円なんて意味が分かりませんよ」

 

「石鹸ではなくジェイドクリスタルだ!」

 

こんな会話から考えても、千冬の借金はかなりの額になるが、それが払えているのだから世界最強は儲かるらしい。

 

世界を支えるIS。パイロットの育成、ISの開発や研究、維持に湯水のごとく金が使われる時代。

そんな時代だからこそ、世界最強であるブリュンヒルデのブランド力は凄まじい。

 

「ほとんど運転してない高級外車を月単位で、ころころと買い替えたり、都内に三件も入っている通わないスポーツクラブやジムに、海が嫌いなのに持っている大型クルーザー二隻、上達しないヴァイオリンの個人レッスン! 無駄遣いも度が過ぎます」

 

「何一つ無駄なものはない」

 

「全部無駄です!」

 

「私は日本経済いや世界経済を一人で回しておるのだ。それに人の経済事情にいちいち口を出すな」

 

「以前、株で失敗して、やりくりに困ったときに部署の経費の大半を使い込んだのはどこのどなたですか! あのときは本当に大変だったんですからね! 小清水さんがいなかったらどうなっていたか……」

 

「うるさいうるさい! 部署の責任者は私だぞ! ばれなければいいのだ! 実際、使った金は全額きっちり、ちゃんと返しただろ!」

 

「書類上では、そうですが実際にあなたが返したのは必要最低限の金額だけでしょ! 横領ですよ横領!」

 

「その金が私の天才的で豊かなアイデアを引き出すのだ。ちゃぁんと使った以上に会社の利益は上げてるよぉーだ」

 

「私たちのことも考えてくださいよ!」

 

「お前たちのことなど知ぃるぅかぁー。使った金は補填しておけば何の問題もなーい。いいか金は使うためにあり人間は金を使うために存在しているのだ」

 

ビシッと若干反り返りながら三夏は杉山を指さした。

 

「……お金が無くて困ってる子どもたちや苦しんでいる人たちもいるんですよ? もう少し大切に使うべきなんじゃないですか?」

 

「だから大切に大切に使いまくってるんじゃないか。金を使えない人間はこの世にいる意味がない。だいたい金も無いのに子どもなど作る方が間違っている。救いの募金? 焼け石に水だ。焚き木に札束だぁ」

 

「本当に酷い人ですねあなたは!」

 

「酷いかどうかは見方によるぞ。朝ドラぁ。いいか貧乏人や弱者をこの世界からなくす方法は二つだ。気の遠くなるような大金を用意するか、いないモノとして見捨てるか。中途半端に助けるから苦しみが増すのだ。生命力の無いモノは手を加えなければ勝手に消える。ずるずると長引かせれば世界そのものがダメなる」

 

「それでも希望は……」

 

「この世に希望の神など存在するものか。存在するのは人を奈落へと引きずり込もうと常に付け狙っている現実という名の魔物だ。その魔物に対抗する剣であり、身を守る盾が金だ。金が無い奴は魔物には格好の獲物だ」

 

「それなら少しでも恵まれない人たちに……」

 

「だぁかぁらぁそれが中途半端だというんだスカポンタン。そんな微々たる金で何ができると言うんだ。お金様は寂しがり屋だ仲間がいるところに集まりたがる。逆に仲間がいないところには集まりたがらない。はい、この話終わりー僕はお食事に行くー」

 

「あなたは、いつかお金で身を滅ぼしますよ。お金は諸刃の剣でもあるんです」

 

「寝言は寝てから言いたまえ。そんな日は永遠に来ない」

 

「来るもん!」

 

「来ない来ない来ない来ない!!」

 

千冬は缶ビールを開けながら、二人の口論が終わるのを待っていた。

 

「……うん、美味い。が、腹が減ったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったですねぇ。フランス料理なんて久々に食べました」

 

杉山が満足気に言う。

 

「あ、このワインを頼む。色は……赤だ」

 

メニューを見てワインの銘柄を店員に伝えた千冬が、まだ残っていた料理に口をつけた。

 

三夏は笑顔の杉山を見て眉間にシワを寄せた。

 

「引っ付いてきてよく食う奴だな」

 

「だって本当に美味しかったんですもん……」

 

「まぁいいじゃないか。私が誘ったんだし」

 

「ふん」

 

三夏はポケットから銀色のライターと煙草を取り出すと、口にくわえて火を付けた。

 

「あ、私は今週の木曜日は学園にいないからな」

 

「どこが行くのか?」

 

「進水式と言う名のパーティーに来賓として招待されていてな」

 

杉山が疑問を口にした。

 

「進水式って何のです?」

 

「何だ知らないのか。軍が建造したIS搭載汎用型空母の進水式だ」

 

「? IS搭載? それなら既存艦で間に合うんじゃ」

 

「載せるだけなら何でもいい、ISの飛行距離を考えればそもそも空母を造る必要すらないが、有事の際に海空戦になった場合、補給や修復ができない。しかしISに対し多用な能力を持つ空母があれば洋上の重要な拠点として使えるわけだ」

 

「確かに」

 

「軍は同型艦をまだ建造するらしい」

 

「そんなに戦力を保有するって……」

 

「何も不思議なことではないだろぉ。世界の覇者がイギリスからアメリカに、そして日本へと変わっただけのことだ。かつての覇者たちも強大な軍事力で世界を支配していたのだからな。我が社も儲かるしいいことだ」

 

三夏はそう言って煙草を灰皿で揉み消した。

 

「兄さん」

 

「何だ?」

 

「例のフランス企業代表の件だが、理事長には話を通しておいた。今回の件はそちらに任せるそうだ」

 

「素晴らしい。よくやった褒めてつかわす!」

 

千冬の報告に三夏は愉快に笑う。

 

「博士。どうするつもりなんですか?」

 

「デュノア社にはそれ相応の報いを受けてもらう。当然だろ?」

 

「確かにデュノア社がやろうとしていることは悪いことかも知れませんけど……」

 

やはり杉山は割り切れないのだろう。彼女は優しい。だが、それは甘さでもある。

 

「いいか覚えて起きたまえ杉山君。やられたらやり返す、倍返しだ!」

 

「おい。兄さん、役が違うぞ」

 

睨みをきかせて言い放つ三夏に、千冬は小さくツッコミを入れた。なぜだか本人にも分からないが、入れなければならない気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、こちらですよぉ」

 

開襟型の黒い軍服に黄金の道化の社章を付けた男が、フランス人の一行に声をかけた。

 

黒い軍服の男は部下とともに彼らがこちらへやって来るのを待った。

 

フランス人の一行が手前に来たのを見て黒い軍服の男は喋り出した。

 

「どうも、皆さん。私はインペリアルコーポレーション、I.S.S.のシュナイダー大佐。長旅でお疲れではないかな?」

 

フランス人一行の先頭にいた青いスーツの男が口を開いた。

 

「いえ……」

 

「そうですか! それはよかった。しかし、顔色は優れないようだが?」

 

「……ご心配なく。それで、IS学園の方たちは……」

 

「あぁ、すいません。いろいろありまして。我々が任されたのですよ。もちろん、学園側にもIS委員会にも了解は得ています」

 

「…………」

 

青いスーツの男の顔つきが少しだが険しくなった。

 

「さて、ここからは我々が、シャルル君のエスコートを引き受けます」

 

「それは困る。社長からは学園までお送りするようにと……」

 

「チケットを拝見」

 

「何?」

 

「チケットを」

 

シュナイダーは絶えず笑みを浮かべ、手を差し出した。青いスーツの男は仕方なく飛行機のチケットをポケットから取り出すとシュナイダーに渡した。

 

「失礼」

 

シュナイダーは受け取ったチケットに目を通す。

 

「ん〜。ビジネスクラス……。ムッシュのお顔が優れないのももっともだ。ファーストクラスに変更して差し上げろ。お連れの方々のチケットも」

 

そう言ってシュナイダーは部下にチケットを預ける。

 

「さて、ムッシュ。何の心配もありませんよ。我々は警察権限も持っているし、有事の際は部隊も動かせます。責任を持ってシャルル君をお守りしますので、ご安心を」

 

「しかし」

 

「我々が信用できないと?」

 

「そう言うわけではありませんが」

 

「結構! では、ファーストクラスにの搭乗口はあちらですので、お間違えのないように。チケットは後ほど受け取ってください。ムッシュ、いい旅を」

 

青いスーツの男は、もう食い下がることはなかった。

 

大人しくシュナイダーにシャルルを引き渡し、ファーストクラスの搭乗口へと向かった。

 

「邪魔者はいなくなったな。シャルル君、シュナイダー大佐だ。君を責任を持ってIS学園までお送りしよう。改めてよろしく」

 

先ほどからうつむいていたシャルルにシュナイダーは握手を求めた。

 

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「礼儀のいい子だ。長旅で疲れてはいないかね? お腹は?」

 

「えっと、少しだけ」

 

「まだ時間は余るほどある。食事をしよう。少しばかり聞きたいこともあるのでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都内の高級ホテル。

 

展望レストランにて。

 

「ここのシュトゥルーデルは最高なんだ。祖国のモノと比べても、あまり劣らない」

 

食事はすでに終わっているらしく、シュナイダーとシャルルの前にはデザートが置かれていた。

 

「さぁ、食べて」

 

シャルルは一口食べて、微笑んだ。

 

「どうだね?」

 

「美味しいです」

 

「それは、よかった」

 

シュナイダーも笑顔でクリームがたっぷり乗せられたシュトゥルーデルを口に含んだ。

 

「では、君が学園に編入する前に、少しばかり注意事項と、聞いておきたいことがある」

 

「は、はい」

 

「君は世界で二番目のIS男性操縦者だ。当然、付け狙う輩も出てくることだろう。そこで、まぁ、単純なことだが外部の人間に不用意に近づかないこと」

 

「はい」

 

「外出の際は必ず教員に書類を出すことを忘れないでくれたまえ。注意事項は以上だ。簡単だったろ?」

 

「えぇ」

 

「次に、君がここに来た理由を話してくれないかな?」

 

「……確か、提出した書類に」

 

「あぁ。だが、私は君、本人から聞きたいのだよ」

 

「分かりました。僕がここに来た理由は、僕と同じ境遇の人がいると聞いて。あとは僕の安全のために」

 

「ふむ。詳しくは聞いていないねかな?」

 

「社長の息子といっても、僕は子どもですから……」

 

「それは社長から直接命令されたのだね?」

 

「えっ?」

 

「どうだね?」

 

「は、はい。確かにお父さんから直接」

 

「そうか。どうも、ありがとう」

 

「いいえ」

 

「しかし、デュノア社の機密管理には驚かされる」

 

「…………」

 

「一夏中佐ですら、あれだけの騒ぎになったのに、君の場合はこんなにスマートに事が運んだ。我々も見習いたいものだ。そう思わないかね?」

 

「ぼ、僕は何も」

 

シャルルはバツが悪そうに目を泳がせた。

シュナイダーはそれ以上、このことに関しては何も言わなかった。

 

「ところで、君は母親に似ているのかな?」

 

「そう思いますか?」

 

「いや、母親にも似てはいないか。少なくともデュノア夫人にはね。ま、よくあることだ。両親に似ないことなどね。私もその一人だよ」

 

「…………」

 

シュナイダーは、そう言って席を立った。

 

「学園に行くまでは、まだ一日ある。旅の疲れをゆっくり癒すといい。それでは、おやすみ」

 

シャルルはシュナイダーが出口へと姿を消すのを、黙って見つめた。

 

テーブルに置かれていたキャンドルが炎を揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、最後に新たなオリキャラ、シュナイダー大佐が登場しました。
彼にはこれからも、ちょくちょく出てもらう予定です。


ではでは〜
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