「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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第3話

「博士ー!」

 

織斑さん家の前で杉山の大声がする月曜11時過ぎ。

 

「こんにちわ」

 

小清水が玄関の扉を開け杉山を招き入れた。

廊下を歩く二人。

一夏の千冬はすでに学校へ登校しているためいない。

 

三夏は庭に造られたガラス張りのテラスで優雅に紅茶を飲みながら読書をしていた。

 

「博士!」

 

「クビだー!!」

 

声をかけられた三夏はいきなり立ち上がると杉山を指さして叫んだ。

 

「何でですか!」

 

「私の休日を邪魔しに来る奴はクビだ!このアンポンタン」

 

「意味が分かりません!」

 

「私が休日だと思ったら休日なのだいちいち呼びにくるな」

 

「それなら朝8時までに連絡してくださいよ!」

 

「ふん!」

 

「もう……」

 

「で何の用だ?」

 

「え?」

 

「今日は私が出席しなければならない行事も会議も無いはずだなら急ぎの用と考えるのが普通の人間じゃないのかね?」

 

「博士にお願いが……」

 

「嫌だ」

 

「なら社長命令ですボーナスも出るそうですよ」

 

「早く聞かせたまえ!」

 

「もう…蟹頭村と言うところへ行って欲しいそうです」

 

「えーどこだそのまさに辺境の地ですーみたいな名前は聞いたこともないそこで何をやる?」

 

「我が社が最近力を入れてるクリーンエネルギーの実地調査です。人手が足りないそうなんですよ」

 

「やっぱり嫌だ行きたくない」

 

「緑豊かな綺麗な山々や川があるんですよ?食べ物も美味しいですよ?ワラビとか」

 

「私は自然より人工を選ぶねアスファルトでカッチカチ舗装された道路スイッチ一つで一年中快適な温度を保つエアコン機器テレビに自動車パソコンにケータイどれも科学の結晶だ素晴らしい大好きだそれにその得体の知れないワラビとかいうものより小清水さんの料理の方が断然!いいに決まっているだろ」

 

「 ワラビ知らないんですか!?あんなに美味しい山菜なのに!!?」

 

「知らん!」

 

「それにそんなんじゃ地球はダメになっちゃいます!緑は大切なんです!!」

 

「今すぐダメになるわけじゃない私が死ぬまで保ってくれればいい死んだ後のことなんて知ったこっちゃないねぇー私はこの庭の花壇と緑地公園だけで十分だ」

 

「あなただけでしょうが!!」

 

「そんなに緑が見たくて川の音が聞きたいのなら通販で心の安らぐ音源集でも買って永遠と川の音をリピートさせながら緑の色紙を部屋の片隅でずぅーと眺めてろ君にはそれがお似合いだー」

 

「きーー!!」

 

「君一人で行って来たまえ私は文明が発達したところじゃなければ行かない社長には私から連絡しておこう」

 

「そんなぁ……」

 

「あの……」

 

悔し紛れに頭をかきむしる杉山に小清水が声をかけた。

 

「はい……」

 

しょんぼりと答える杉山。

 

「先ほど蟹頭村とおっしゃいましたか?」

 

「小清水さんこいつに取り合わないでもいいですよーそろそろお腹空いたなー」

 

三夏はソファーで欠伸をしながら背伸びをした。

 

「私も連れて行ってもらえませんかな?」

 

「小清水さん!?」

 

三夏がソファーからずり落ちる。

 

「私も博士にご厄介になり都会暮らしが長くなります。幼少の頃、野をかけ山をかけていた。懐かしい思い出でございます。今一度それを感じたいのです」

 

「なら一緒に行きましょうよ!」

 

「はい、ぜひ」

 

二つ返事で話が決まってゆく状況を三夏はぽかんと見ているしかなかった。

 

そして小清水が申し訳なさそうに三夏に言った。

 

「博士。すいませんが私めにしばらく休暇をいただけませんか?」

 

「当然の権利だと思いまぁす」

 

杉山がそれを援護する。

 

「と、泊まる場所とか……」

 

「大丈夫です旅館があります。あ、私のいとこがそこで働いているんですよ」

 

「よろしいですかな博士」

 

「その間の私の食事は?洗濯は?部屋の掃除はぁぁぁぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーそうなんですか」

 

夕飯を突きながら千冬が杉山の話を聞いている。

 

「千冬ちゃんもどうかなぁって思って…あ、受験勉強があるならもちろんそれを優先してもらってかまわないから」

 

「日程は2泊3日なんですよね?……いいですよちょうど連休ですから。いい気分転換になりますし」

 

「本当に!?」

 

「はい。でもいいんですか?私たちが行っても」

 

「うん。そんなに大した仕事じゃないから。すぐに終わるよ」

 

「そうですか」

 

千冬の了解を得て嬉しそうな杉山。

 

三夏と一夏は静かにおかずを口にする。三夏の機嫌はとても悪そうである。

 

「一夏君はどうかな?」

 

「……え〜」

 

乗り気ではなさそうだ。

 

「僕も行かないといけないの〜?」

 

「き、強制じゃないんだけど……」

 

「見ろ行きたくない者もいるんだ周りを巻き込むな行くなら一人で行け」

 

「僕は家にいたいなぁ〜……っ!?」

 

千冬が一夏を睨んでいる。

一夏の動きが止まり額には汗が浮かぶ。

最近一夏が三夏に似てきたのを千冬は良く思っていない。

 

「わ、わぁい僕お山見たいよぉ〜すっごく楽しみ!!」

 

「ヘタレめ」

 

三夏はわざとらしい演技をする一夏を横目で見ながらそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レトロなバスが田んぼに囲まれた田舎道を走る。舗装などされていないため揺れに揺れている。

 

「……まさしく田舎だ私が嫌いな場所そのものだなんだこの風景は某ドラマのロケ地じゃあるまいし湖に足がとび出たりしてないだろうな…うぷっ気持ち悪い……」

 

悪態をつく三夏に対し乗り気ではなかった一夏は意外と楽しそうに流れる景色を見ていた。

 

表札が立っているだけの場所へバスが停車する。

そこでは顔にあどけなさを残したお下げ髪の女性が待っていた。

各自、荷物を持ってバスから下りる。

 

「お姉ちゃん久しぶりやねー!」

 

お下げ髪の女性はやはり田舎特有の訛りがある。

 

「久しぶりー可愛くなったね!!」

 

「お姉ちゃんも芸能人みたい!」

 

「いやぁ私服だよ〜。あ、紹介するね。この人が事務員の小清水さん一夏君に千冬ちゃん。いとこの幸子です」

 

「幸子です。よろしくお願いしますぅ」

 

お互いの自己紹介をしている杉山たちの間を顔を青くした三夏が無理やり押しのけて通り茂みまで小走りに行くと胃の中のモノをぶちまけた。

 

「……あれが私の上司の織斑三夏さん」

 

すると幸子は三夏の下へと近づく。

 

「東京の偉い人だそうでぇこんな田舎までわざわざ……」

 

幸子は吐く三夏にペコペコ何度も頭を下げる。

 

「うわぁー最悪だー雨降りそうだしうわぁー服が汚れた最悪だー小雨降りそうだし……」

 

三夏は幸子のことなど気にしていないようだ。

 

「小清水さん私の着替えをってあれぇ?私の荷物は!?」

 

小清水の足下には何も置かれていなかった自分の荷物さえも。

 

「持ってきておりません。ただいま休暇中ですので」

 

「えぇ!?なんにも!?」

 

「私が旅に持ち歩くモノはこれだけです」

 

小清水は唯一持っていた手提げを開け中から歯ブラシを取り出してなぜか誇らしげに掲げた。

茫然として立ち尽くす三夏。

 

「さ、参りましょうか」

 

小清水が言う。

 

「はい!こちらです。あ、お荷物お持ちします」

 

幸子に皆が続いていた。

一人残された三夏の横をバスが走り去る。

 

そして……

 

「犬神家へご案内か」

 

何かに目線を合わせてキメ顔でそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこれは……」

 

「蟹頭ワラビです。美味しいですよぉ」

 

旅館に到着した杉山たちは同じ広間で早めの夕食をとっていた。ちなみに部屋割りは小清水、三夏が一人部屋。杉山、千冬、一夏が三人部屋である。

 

御膳に乗せられた料理を見て三夏が顔をしかめた。

質素なモノだったからだろうが三夏以外は誰も不満も言わずに食べている。

 

「変えてくれ、そうだなボンゴレパスタが食べたいな」

 

「無いですよそんなの。ワラビ美味しいですよ?」

 

「小清水さん何か作っていただけませんか?」

 

「私ただいま休暇中ですので……」

 

「…………」

 

「すいません。それしか用意がなくて……」

 

申し訳なさそうな幸子。

 

「だいたい何で宿泊客が私たちだけなんだどうやって経営してるんだこの旅館ありえないだろう」

 

「む、村の人たちは親切な人ばっかで畑で採れた物を分けてくれますしここは綺麗な地下水がありますから水道代もあまりかかりませんし…あ、もちろんタダでもらってるわけじゃないですよ?私たちもいろいろと差し上げてます」

 

「物々交換?今の時代に?おいおい冗談だろここは文明レベルが原始時代だもう少しマシに言ったとしても平安時代だ貨幣制度が無いのかこの村は。今だにこんな村があることが信じられん貨幣の循環を阻害し日本経済の成長と発達にまったく貢献していないそれどころか日本の貨幣経済を退化させている恐ろしく反社会的な村だいっそのことどっか近くの町や市と合併させるべきだインフラは十分に整備できないだろうが少なくとも経済は明治くらいにはレベルアップするだろう」

 

「バカなこと言わないでください。ここはこのままでいいんです」

 

「案外その方が村のためかも知れないぞー朝ドラよ」

 

「?それってどう言う意味ですか?」

 

「さぁな。さて私は部屋に戻るとしようどうもご馳走様でした」

 

「お、お粗末様です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

一夏の部屋はその他の者たちとは違い特別室だった。幸子が気を利かせたのだろう。

だがその部屋には仏像や誰かも分からない肖像、タイの何とかと言う神様の面に名も知らない美術家が作った座りにくい椅子などなど…まさにひどい部屋だった。

 

「最悪だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行ってくるね」

 

「お姉ちゃんどこに行くん?」

 

靴を履いている杉山に幸子が言った。

 

「ちょっと風車を見にね」

 

「風車ってあの電力発電の?」

 

「そうそう」

 

「あれができて本当に助かってるんだよ。停電も少なくなったし街灯も建った」

 

「でもまだまだ十分じゃないよね」

 

「贅沢は言えないよ」

 

「大丈夫!現地調査が済めばもっといっぱい建てもらえるから」

 

「本当に!」

 

嬉しそうに話す二人を三夏は黙って見ているだけだった。

 

「うん!じゃあ行ってくるね」

 

「気をつけてね」

 

「ほら博士、行きますよ」

 

「嫌だ山道は嫌いだ」

 

「もう!ほら早く!!」

 

「おいこら引っ張るな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!問題はなさそう。後は報告書するだけですね博士」

 

調査もひと段落したころ。

村を一望できるところで杉山と三夏は休憩していた。

本当に和ないい所であると杉山は思う。

 

「楽しそうだな」

 

「はい!…私、夢だったんです」

 

「夢?」

 

「人の役にたちたかった。だから私はあの会社に入ったんです。今は…勝手に部署移動させられてあなたの部下になっちゃってますけど……。やっと役にたてました!!」

 

嬉しそうに笑う杉山。

 

「……ここは合併は本当にしないのか?」

 

「しませんよ。みんな村の名前を大切にしてますから。私もして欲しくないです。合併すればここの自然は壊れてしまいます」

 

「ならこの村は近いうちに無くなるな。市や町ならまだ難しいだろうが小さな村には抵抗力など無いからな」

 

「え?」

 

「さっき役にたてたと言ったな?」

 

「い、言いましたよ?」

 

「確かに役にはたったてると思うぞ特に化学関係会社の人間には」

 

「……意味が分かりません」

 

「本当におめでたい奴だなウチの会社がたかだか数百人のためにこんなモノを造ると思うか?村で使って残った分を売ったとしてもまだまだ電力は余るんだぞ?だったらその意味は何だ?ヒントをやろうこの発電装置を計画通りに建てたとしてその発電量は重化学工場を軽く6件はまかなえる」

 

「……まさか」

 

「そのまさかだ」

 

「……私、ここでは無理だと報告します」

 

「それは許可できない事実を報告したまえ」

 

「そんなことをしたら村は自然はどうなるんですか!」

 

「事実を報告したまえ」

 

「嫌です。……私たち科学者は人の幸せのために仕事をするんじゃないんですか?」

 

「いいや我々は科学の発展のために仕事をするんだ」

 

「村が自然が犠牲になってもいいんですか!」

 

「我々は科学を極めるだけだそれが結果としてどんな結末を招こうともな」

 

「でも!!」

 

「なら言ってやろう。ここにやって来る工場は世界の技術をリードするつまり日本が世界をリードすんだ。君のやっていることはそれを妨害する行為だ日本には資源がないあるのは技術だけだそれすら無くなれば日本は先進国という今の地位から転がり落ちる。君は前に言ったないつか地球がダメになる子供たちのために自然を守らなければと、だがな日本から技術を奪えば地球がダメになるより前に子供たちには辛く厳しい世界になる、違うか?」

 

「…………」

 

「確かに二者択一とはいかない難しい問題だが我々は神じゃないただの科学者だすべてを科学の進歩に発展に捧げるそれだけだそれをどう使うかは政治家のお偉いさん次第だよ」

 

「……なら国民の意思は」

 

「政治に民意などない選挙で政治家を選んだ時点で国民の仕事は終わってる偏った信念を持つな政治や環境問題は我々の専門外だ。まぁ今言ったことは私の単なる考えにすぎない憶測だ社長が何を企んでるのは見当もつかん帰るぞ杉山」

 

そう言って三夏は旅館へと帰っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー文明的な生活ってすっばらしぃー!!」

 

我が家に帰った翌朝、三夏はリビングを満足げに見渡して腕を開きながら側に立っている杉山に見せつけるように叫んだ。

 

「小清水さん朝食を!」

 

「はい、ただいま」

 

そうして運ばれてきた朝食はいつもどおりの洋食だった。

 

食べ慣れたはずのモノなのに三夏の表情は硬い。浮かない顔だ。

 

「う〜ん」

 

「博士、いかがなさいました?」

 

「あー小清水さん…その……」

 

歯切れが悪い三夏。だが小清水は察しがついたらしく。

 

「ただいまご用意いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。蟹頭ワラビの漬け物とご飯でございます。醤油をかけてどうぞ」

 

三夏は不本意そうに茶碗を持つとおもむろに口へかき込んだ。

 

「小清水さん私もいただいていいすか?」

 

「杉山さんもですか?ははは、かしこまりました。すぐに用意いたします」

 

ちょうど半分ほど食べたところで……

 

「うん!まずぅぅぅい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はパロディ強めでした(^^;;
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