「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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第29話

杉山さんのお部屋。

いつもの面々に加えて、白衣を身にまとった美しい女性たちが書類やら端末やらを持ち、三夏への報告をしている真っ最中だった。研究員はすべて三夏が見繕った者たちだ。

 

「これで例の全身装甲のISに関するデータはすべてです」

 

「あのISはI.S.S.の検証も終わったので、こちらの部署で保存せよと社長代理がおっしゃっていました」

 

「博士ー、私たちレポートを作りました!」

 

「あ、ずるい! 私も書いたんです、ぜひ見てください!」

 

「私のもー!」

 

「はいはーい! 全部もらうから並んでぇ!」

 

それぞれが三夏に自作のレポートを手渡す。

 

「ごくろぉ〜。いやぁ、美しく可憐な女性の働く姿はいつ見ても良い物だねぇ」

 

「あら、嫌ですわ、博士ったら」

 

「いやいや、僕は感じたことを言葉にしているだけだよ。やはり職場には華がないとねぇ」

 

「ふふふ。御上手ですこと」

 

ごった返す室内で千冬、一夏、鈴、ラウラ、杉山に加えて真耶と、フランスから戻ってきたシャルロットが小清水の料理を頬張っていた。

 

「可憐じゃなくて悪かったですね……。私だって渡してあるのに」

 

テーブルに座っていた杉山は料理をがっつきながら、ソファーで美女をはべらし上機嫌の三夏に悪態をついた。

 

一夏たちも、あちらはあちらで別の会話をしている。ただの雑談に近いものだが。

 

「あの、その、あまり気にしない方が……」

 

真耶が気遣いの言葉をかけた。

 

「……そうだね」

 

「なぁ、山田君に杉山さん」

 

そこに千冬が入ってきた。

 

「ん?」

 

「何ですか?」

 

「……私には可憐さがあるか?」

 

「「え?」」

 

「……いや、何でもない」

 

意図が分からず言葉に困っている二人に、千冬はすぐに質問を取り下げたのだった。

 

「そう言えば真耶ちゃん、何か話があるんじゃなかったの?」

 

「あ、そうでした。今日から男子も大浴場が使用できるようになりました、って伝えに来たんですけど、すっかり忘れてました」

 

てへっ、と笑う真耶。

 

「そうなんだ。良かったね、一夏君」

 

「そうですね。でも、少ない男子が大浴場を使っても無駄かも……」

 

「よーし!」

 

苦笑いの一夏に対して三夏は喜びの声をあげた。

 

「みんな、水着は忘れずに持ってきてるねー? 僕とお風呂に入る人ー!!」

 

白衣の美女たちは笑顔で「はーい!」と答えた。ノリノリで手を上げている者もいた。彼女たちが杉山の後釜を狙っているのは一目瞭然だ。

三夏はインペリアル・コーポレーションにおいて絶大な発言権を持っている。実質的なNo.2の付き人を狙うのは当然のことだろう。

 

「あっちで着替えて大浴場に集合だー! 水着が着れないなら僕が手伝ってあげるからねぇ、いぇーい!」

 

「博士、ご一緒してはいけません」

 

口ではそんなことを言う三夏だったが、美女たちの後をついて行こうとしたため、さすがに小清水に止められていた。

 

「イッツパーティータイム! うっひょー! 小清水さん、小清水さん、とっておきのお酒を持ってきてねー!!」

 

スキップをして、子どものような笑顔で、腕を羽のように大きく羽ばたかせながら三夏は部屋から出て行ってしまった。

 

「「……不潔」」

 

それが杉山と真耶の素直な感想だった。

 

千冬は……

 

「……とっておきの酒? ふむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味い!」

 

「…………」

 

湯気が立ち込める大きな浴室で漆黒の水着を着けた千冬はキリッと冷えたシャンパンを豪快にあおった。

 

美女に囲まれている三夏が眉間にシワを寄せた。

 

「なぜいるのだ。今日は男子浴場のはずだろう?」

 

「ん? 酒が飲めると聞いてな。広い湯船で、冷たく冷えたシャンパンをあけるなんて豪勢じゃないか。それに水着なら男女に分ける必要もないからな」

 

千冬は上機嫌でグラスに注ぎ終わったボトルを氷が入ったバケツに戻した。

 

「それでお前は何でいる?」

 

三夏の目が千冬に隠れるようにお湯に浸かっている杉山を捉える。

 

「ち、千冬ちゃんに連れてこられたんですよ! 私の意志ではありませんからね!? だいたい学園の施設をこんな……」

 

「君は口を閉じてさえいれば、見た目は及第点だ。これ以上、しゃべるな」

 

「な、何ですか及第点て! どこ見てるんですか!?」

 

杉山は顔を赤くして、たわわな胸を隠した。

 

「僕、何だか肩が凝っちゃったなぁー」

 

「私がマッサージしてあげます」

 

「あー、ずるい! あたしがマッサージする!」

 

杉山の言葉を無視して三夏は水着の美女といちゃついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。

 

一夏たちも風呂を堪能していた。もちろん水着を着用している。

 

「極楽極楽」

 

頭にタオルを乗せた鈴は顔を緩めた。

そんな鈴のを見ていたラウラが眉を顰める。

 

「お前はオヤジか」

 

「うっさいわね。これが日本の文化なのよ」

 

「なるほどオヤジ文化に侵された少女か。ちびまる子ちゃんめ」

 

「浴槽に突っ込んで1000まで数えてあげようか?」

 

「……私は水中でも息ができる。無駄なことはやめておけ」

 

「人外スペックをさらりとカミングアウトしてんじゃないわよ。あんたはカッパか」

 

「私はラウラだ」

 

「んなこと知ってるわ! ……だいたい何で良い歳してスク水なのよ」

 

「これしか無いからな」

 

「あっそ……」

 

疲れてしまった鈴は突っ込みことをやめて、体を洗うために浴槽から出た。

 

「ほら、あんたも行くわよ。背中、流してあげるわ。男子もいるから奥の方に行くわよ」

 

「では頼むとしよう。鈴お父さん」

 

「よぉーし、金タワシでピカピカにしてやるわ」

 

「とう!」

 

「あ! こら待て逃げるな!」

 

そんな二人の姿を一夏は温かい目で眺めていた。まさに平和だと感じる。

 

「ふふ、楽しそうだね」

 

一夏の視線が左の少女に向けられた。シャルロットである。

 

「そう思うか?」

 

「うん。一夏は違うのかな?」

 

「……違わないな」

 

「ね?」

 

「なぁシャルロット」

 

「何かな?」

 

「ここへ戻ってきて良かったのか?」

 

「三年間はここが僕の居場所じゃなかったの?」

 

「……それは一例であって、デュノア社の社長の座に居続けることもできただろう? そうじゃなくても元いた実家に帰るとか。選択肢はいくつもあったはずだ。どうして自分を苦しめたISに関わるような場所に戻ってきたんだ?」

 

杉山の部屋では話せなかったことだった。別に聞かれてまずい話しではない。あのときは鈴とラウラがシャルロットと友人関係の再確認をしていたのだった。今までと変わりなく友達でいることを約束してくれた二人にシャルロットは涙した。感謝の言葉を言い続けるシャルロットに、鈴とラウラは「礼を言われるようなことは何もしていない」と平然と答えた。だが、涙を浮かべて笑うシャルロットを見て二人は微笑みを抑えることができなかった。もちろん一夏も。

 

「そうだね。僕は織斑博士から自由と居場所を探すチャンスをもらった。それにはすっごく感謝してるよ」

 

「だったら」

 

「一夏は言ってくれたよね。少なくとも三年間はここがお前の居場所だって」

 

「あぁ」

 

「あのときの一夏、本当に僕のことを心配してくれてたよね。顔を見たら分かるよ。だからね、ここで探そうと思うんだ。僕の居場所を」

 

「…………」

 

「一夏が僕の肩をつかんで、つなぎとめてくれたから、僕はここにいたいと思ったんだよ?」

 

シャルロット・デュノアは一夏に恋をした。彼からすれば同情だったのかもしれない、だけど自分のために懸命に話をしてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

なんとも簡単に惚れてしまったものだと思った。一夏と二人で暮らすことになった部屋割り、もしかしたら相手は一夏ではなく鈴だったかも知れない。彼女だって一夏と同じことをしてくれたことだろう。そうなればシャルロットは一夏に惚れることなどなく鈴と親友になっていたことだろう。

 

すべては偶然だ。

 

だけれど、それでいい。

運命に予定表など存在しないのだから。惚れた相手がたまたま一夏だったと言うだけのことだ。タイミングしだい、相手を好きになるのも本能しだいだ。結局、恋を理由で語ることなど無意味なのだ。一夏と出会って恋をした。それでいいじゃないか、とシャルロットは考えている。

 

「そうか……。ならこれからもよろしくな、シャル」

 

「シャル?」

 

「親しみを込めたんだが、嫌だったか?」

 

「嫌じゃない! シャル、シャルかぁ〜。いいよ、すっごくいいよ!」

 

シャルロットは心底嬉しそうだ。

 

「ははは、良かった」

 

そして、一夏も浴槽から出ていった。

 

織斑一夏君。君に感謝やお礼を伝えたところで、お前を助けてくれたのは織斑博士だと言って、君が素直に受け入れてくれることは思う。確かに僕の身体は博士が自由にしてくれた。でもね、絶望に縛られていた僕の心を自由にしたのは、あのとき僕を説得してくれた君なんだよ? だから、お礼だけはちゃんと言わせてください。

 

僕の心を助けてくれて、僕に抗う意味を教えてくれて、僕に生きる気力を与えてくれて……

 

「本当にありがとうございました」

 

だから、僕はあなたに恋をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年一組のホームルームはざわついていた。

 

「シャルロット・デュノアです。ニュースで知っていると思いますが、皆さんを騙して本当にごめんなさい。また、仲良くしてくれたら、嬉しいです」

 

深々と頭を下げるシャルロットにクラスからは拍手が湧き上がった。

 

その様子に見て、鈴はシャルロットにウインクを、ラウラは腕を組みながら笑い、一夏は箒から向けられる貫かれんばかりの視線に冷や汗を流した。

 

「それで一夏。シャルロット・デュノアとは何も無かったのだな?」

 

「断じてない」

 

案の定、箒に問い詰められた一夏なキッパリと疑いを否定した。

 

「そうか。ならば良しとしよう」

 

「そりゃ助かった」

 

「お前はシャルロット・デュノアの件を事前に知っていたのか?」

 

「あぁ。気づいてたのか?」

 

「いや。ただの勘だ。もう一つ言うならば、会社からの命令……いや、博士からの頼みと言ったところか」

 

「ご明察。女の勘は凄まじいな」

 

「ふふ。侮らない方がいいぞ」

 

「心しておくよ」

 

「何はともあれ大変だったのだろう? お疲れ様」

 

「……労わってくれるのか?」

 

「問答無用で叩き伏せた方が良かったか?」

 

「……素直に受け取っておきます」

 

「よろしい。ではな」

 

そう言って箒は去っていった。

 

放課後。一夏は一息つく間もなく大勢の女子生徒に囲まれていた。

 

「織斑君、私と組んでトーナメントに出場しようよ!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「私も!」

 

「ちょっと、彼とペアになるのはあたしなの!」

 

「そんなこと誰が決めたのよ!?」

 

まるで告白されているようだった。

そうしている内に女子生徒どうしが内輪揉めを始めたため、一夏はそっとその場から退散した。

 

「はぁ……」

 

肩を落とし、ため息をつきながら一夏が廊下を歩く。

そこへ、鈴、ラウラ、シャルロットの三人が現れたのだった。

 

「モテモテねぇ。良いご身分なこと」

 

「……嫌味か? 言い寄られるのは気分がいいが、周りで揉められるのは気分が悪い」

 

「選り取り見取りとは、このことだな」

 

「ラウラもか? 泣くぞ? 僕、泣くぞ?」

 

「一夏ってモテモテなんだね」

 

シャルロットがジト目で駄目押しの一言。

 

「だぁぁぁー!! うるさいうるさいうるさーーい! 俺の気持ちも知らないでうるさーい!! いいか次、俺にそんなことを言ってみろ! 金輪際、お前たちとは口を聞かないからなー!!」

 

「……はいはい。悪かったわ」

 

「冗談だ」

 

「あはは、ごめんね?」

 

三人は苦笑いで、軽く謝ったのだった。

 

「……それで、三人はどうしたんだ?」

 

「あたしたちじゃないわ。用があるのはこっちよ」

 

鈴んが横に立つラウラを親指でさした。

 

「ラウラが?」

 

「うむ。嫁よ、私とペアを組んでくれ!」

 

「……ペアを? 鈴は?」

 

「あたしは出ないのよ」

 

「サボりか」

 

「ぐっ。……ち、違いまーす」

 

「……サボりか」

 

「ぐぐ……」

 

「それでどうなのだ! 私とペアになってくれるのか!?」

 

「……いやぁ〜」

 

「ダメだというなら24時間付っきりで説得する構えだ!」

 

「脅迫もいいところだな、おい!」

 

「では、返事を聞くとしよう」

 

「はぁ……。分かった。ペアを組むよ」

 

「そうか! ペアを組んでくれるか!」

 

ラウラは嬉しさのあまり拳を握り締めて笑った。

 

「シャルロットはどうするんだ?」

 

「僕? ん〜、どうしよう」

 

シャルロットが顎に手を当てて悩んでいたところへ箒がやって来た。

その視線はラウラだけを捉えている。

 

「篠ノ之箒か」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

二人の鋭い視線が交わる。

 

「私はお前を倒す!」

 

「ほぉ、雑魚の分際で偉そうに宣戦布告に来たと言うわけか。見上げた心がけだな。いいだろう、望みどおり叩き潰してやる」

 

「こちらのセリフだ」

 

「はっ! 馬鹿馬鹿しい、できるものか」

 

緊迫が立ち込める中、新たな人物が加わった。

 

「あら、何やら賑やかですわね」

 

「お嬢様か……」

 

「あちらのお二人の間で、火花が散っている気がするのは、気のせいではないようですわね」

 

「……よく見てらっしゃる」

 

この二人にもどこか険悪な雰囲気が流れている。

その様子を鈴とシャルロットは裏から見ていた。

 

「それで、用はなんだ?」

 

「あなたに再戦を申し込みに来ました。次こそは私が完勝いたします」

 

「ほぉ、完敗の間違いじゃないのか?」

 

「前回、ギリギリだった人がそんな大口を叩いてよろしいので?」

 

「前回、ギリギリだったお嬢様にはキツイんじゃないか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「泣いて詫びさせてあげます」

 

「高飛車も相変わらずだ、やってみたまえ」

 

「あなたのペアの方は?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「そちらの方ですか。……ならばちょうどいいですわ」

 

セシリアは不適な笑みを浮かべて一夏から目を反らすと箒の方に向き直った。

 

「篠ノ之さん、私と組みませんか?」

 

一夏の眉が上がった。

 

「私が、オルコットと?」

 

「えぇ。見たところ、そちらも何か因縁がおありのようですし、私もこちらの男性と再戦を果たしたい。そして、この男性のペアはボーデヴィッヒさん。……どうですか?」

 

「しかし……」

 

「私も代表候補生ですわ。あなたがボーデヴィッヒさんと戦いたいのであれば邪魔はしません。ただ、下手な相方を選んでしまえば、織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒを一人で相手しなくてはいけなくなりますわ。いくらなんでもキツイのではなくて?」

 

「…………」

 

「私と織斑一夏、あなたとラウラ・ボーデヴィッヒ。事実上、一対一。損な提案ではないと思いますが? それに、私はある程度の情報も持っていますわ」

 

「……分かった。よろしく頼む、セシリア・オルコット」

 

「こちらこそ、篠ノ之箒さん」

 

セシリアと箒はお互いに握手を交わすとその場を去った。

自分を一瞥したセシリアを一夏は面白くなさそうに見送ったのだった。

 

「ぼ、僕も見学にしようかなー」

 

「そ。なら、あたしと一緒に博士のところにいましょ」

 

鈴は一夏の後ろへと歩み寄った。

 

「墓穴を掘ったって感じ?」

 

「……まだ結果が出ていない。結果的に成功すればいいんだよ」

 

「そう。それじゃ、試合を楽しみにしてるわ。……ラウラをよろしくね」

 

「あぁ」

 

鈴の後をシャルロットが追いかける。

 

「何の話をしてたの?」

 

「大した話じゃないわよ」

 

「そう。なら、いいんだけどね」

 

「少しだけ教えといてあげるわ。……人はISのみで生きるにあらず、よ」

 

「……どう言うこと?」

 

「それは自分で考えて答えを出しなさい」

 

首を傾げるシャルロットに、鈴は楽しそうに笑いかけると体をクルリと回させて廊下を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったのか?」

 

「と言うと?」

 

箒が言っているのは、先ほどのことだろう。

本当に自分と組んで良かったのか? そう言うことだ。

 

「良いも何も、私が言い出したのです。今更、撤回はしませんわ」

 

「そうか」

 

「えぇ。では、さっそく作戦会議といきましょうか」

 

「作戦会議?」

 

「はい。……あの方達のやり方はあなたもよくご存知なのでは? ボーデヴィッヒさんは当たり前ですが、織斑一夏もかなりの実力をつけているはずです。何か策を立てなければ」

 

「そうだな」

 

「私のお部屋にいらしてください。紅茶とクッキーくらいならお出しできますわ」

 

「分かった。悪いな」

 

「いえいえ。これから私たちは相棒なんですもの。私のことはセシリアとお呼びくださいな。私も名前でお呼びしますので」

 

「改めて、よろしく頼む。セシリア」

 

「はい。こちらこそですわ、箒さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラスの中の氷が溶けてカランと透明な音が響いた。

三夏は研究室で美女たちから渡されたレポートに目を通していた。いつものように隅には小清水が控えている。

 

「小清水さん」

 

「は」

 

三夏は読み終わったレポートの束を机で叩いてまとめると小清水を呼んだ。

 

「何でございましょうか」

 

「これを」

 

「はい」

 

「すべてゴミです、処分してください」

 

「は?」

 

「お願いします」

 

「……かしこまりました」

 

小清水はレポートの束を受け取ると、テーブルの上に一つだけ別のレポートが置かれていることに気がついた。三夏が唯一手元に残したものだろう。

 

「やはり杉山さんのレポートに敵う物は無かったと言うことですか……」

 

「たまたまでしょう」

 

静かに答える三夏。

 

「杉山さんは優秀なお人ですからな」

 

「頭が良いだけでは科学者は務まりませんよ? 世間知らずの秀才はいいように利用され、手柄を取られ、血反吐を吐いて見つけ出した成果を自分の思いとは反して悪用され、罪悪感に苛まれ、終いには再起不能になる。特に、はなから善行を行うことしか考えていない、無欲でお人好しで精神の脆い奴は」

 

「だからこそ、ご自分の近くに置いて厳しく接しているのでは? 自分が見込んだ方だからこそ……」

 

「あのポンコツ娘にそれだけの価値があると?」

 

「それを決めるのは、博士ご自身なのではないですか?」

 

「ふっ、あり得ませんね。過大評価も甚だしい」

 

口ではそう言う三夏だが、彼の真意は誰にも分からない。

そのとき研究室のドアが開け放たれた。

 

「おーい、兄さん。来てやったぞー」

 

酒のボトルを持ったご陽気な千冬はドカドカと室内に入ってきた。

 

「何しに来たんだ?」

 

「酒の相手をしてもらおうと思ってなー」

 

「私は忙しいのだ」

 

「そう硬いことを言うな。ほれほれマッサージもしてやるから」

 

「はぁ……。分かった」

 

三夏が渋々、許可を出すと千冬はそばにあった椅子に腰を下ろした。

 

「んん! 私は何かつまみになる物を作ってまいります」

 

小清水はお盆を抱えて部屋を後にしたのだった。

 

「今日はウイスキーか」

 

「君に酒を教えたことを今更ながら後悔しているよ」

 

「私は感謝してるがな。兄さんのおかげで毎日楽しく酒が飲める」

 

「…………」

 

三夏は黙ってグラスの酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁーー!! 肩がー! 私の肩がー!!」

 

「すまない。少し力を入れすぎたようだ」

 

「どこが少しだ! 骨が粉砕されるかと思ったぞ!!」

 

「大丈夫だ。次は上手くなってるさ」

 

「もう二度とお前にマッサージなんか頼むかぁぁぁぁぁーー!!!」

 

 

 

 

 

 




トーナメントは一夏&ラウラと箒&セシリアとなりました。
……はたしてどうなることやら。


しかし、三夏のセリフは難しい(汗)
簡単な悪口ばかりを長々と並べていると、本当にただの嫌な人格破綻者になってしまう(^^;;
最近になって、そんなことを思いました。本当に今更ですがww




ではでは〜
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