「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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第30話

杉山さんの部屋。もとい、織斑ファミリー憩いの場。

 

テーブルには今日も美味しそうな小清水の手料理が並ぶ。

 

「今日はシンガポール料理でございます」

 

小清水が丁寧に説明をする。料理を見た一同から小さな歓声があがった。

 

「兄さん」

 

「何だ?」

 

「今日は趣向を変えてスパークリングワインにしてみたぞ」

 

「ほぉ」

 

晩餐に飲む酒の銘柄を選ぶのは、もう千冬の役目になっているようだ。

 

「美味いな」

 

「そうだろう。私が選んだのだからな。ん? また何か買うのか?」

 

千冬が積み上げられたカタログを見つけた。

 

「あぁ」

 

「何を?」

 

「まだ決めてない」

 

「は?」

 

「適当に見繕っていろいろ買う」

 

「いや、通販じゃないんだぞ?」

 

「いいのだよ。よく言うだろ、金と脳味噌は使うためにある、とな」

 

どうでもいい雑談をしているあたりがすっかり飲み仲間である。ここ数年、千冬が酒の味を覚えてからは、ずっとこんな感じだ。

 

 

 

 

「てか、あんたらは大丈夫なの? 呑気に食事なんかしてて」

 

「そうだよ。もう間近なんでしょ?」

 

チリクラブを頬張る一夏とラウラに鈴とシャルロットが言う。

 

「「何が?」」

 

「ハモるんじゃないわよ。トーナメントの話よ。特に心配なのはあんたよ、一夏」

 

「俺かよ」

 

「ちゃんと作戦は練ってあるんでしょうね?」

 

「とぉーぜんだ! 俺が負けることなどあり得ない」

 

「自信たっぷりじゃない。前回はオルコットが油断してたから五分五分の試合ができたんでしょ? 今回はどうするのよ」

 

「基本的には前と変わらないぞ。お嬢様を罠にかけて吊るし上げる」

 

「そんなに簡単にいくかしら?」

 

「要は先入観さ」

 

「先入観?」

 

「前回はお嬢様が、男は弱いものだ、と決めてかかっていたことを逆手に取った。今回も同じさ」

 

蟹へと目線を落とす一夏。

 

「そう、蟹だ」

 

「蟹?」

 

一夏はフォークで蟹を突き刺すと、それを顔の位置まで上げて横目で見た。

 

「蟹が横にしか歩けないと思っていたら大間違いだ」

 

ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべたまま。

 

「と言うことで、杉山さんにお願いがあります」

 

「んぐっ! わ、私に? ……ごほっ……」

 

いきなり話を振られて喉を詰まらせる杉山。横にいた真耶が慌てて彼女の背中をさする。

 

ちなみに真耶も自然とここで食事を取るようになっていた。

 

「ちょっとだけ協力してください。俺の専属整備士として」

 

ね? と一夏は微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学年別トーナメント、当日。

 

ピットにはラウラと一夏が試合前の打ち合わせをしていた。打ち合わせと言っても中身はほとんど無かったが。

 

「嫁はイギリス娘だけを相手にしていろ。時代遅れのサムライ女を片付けたらすぐに応援に向かう」

 

「……本当にいいのか? フォローは」

 

「必要ないさ。一夏、お前は私が必ず守ってやる」

 

二人の相手は箒とセシリアだった。世の中は一部の人間に対しては、本当に上手くできているものだと思う。

まさに、出来過ぎである。あからさまに仕組まれている。

 

「ま、ラウラがヤバくなったら勝手に助けに行くさ」

 

「……好きにしろ。それで、アレは大丈夫か?」

 

「あぁ、拡張領域にはまったく余裕がなかったから、こっちに」

 

一夏はISを使って手首には何やら白いブレスレットがはめられていた。

 

「独立型の小型パッケージ、杉山さんに頼み込んで作ってもらったよ。急ごしらえな上に容量が少ないって言ってたけど。まぁ、大丈夫だろ」

 

「十分だ。手筈は理解しているな?」

 

「あぁ、前と戦法は変えないんだろ?」

 

「そうだ、まずは出鼻を挫く。オルコットはきっと嫁が戦法を変えてくると読んでいるはずだ。一方……」

 

ラウラの言葉の続きを一夏が発した。

 

「あのお嬢様は長年培ってきた戦闘スタイルを変えることは、まず無い。相手の動きに注意して的確に潰してくる、だろ?」

 

「……あぁ。奴は必ず拍子抜けするはずだ。こちらのペースに引き込め」

 

「分かってるよ。それじゃ、行きますか」

 

アリーナへの入り口に向かって歩く二人。ロングブーツ特有の靴音が響く。

 

「……二対二の試合が一対一か……相手もそうだといいんだけどな」

 

一夏の危惧をよそにラウラは自信に満ちていた。

 

「行くか」

 

気を引き締めるためなのか一夏はネクタイの歪みを直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナで四人は対峙していた。

 

四つの眼光が交じり合う。

 

「今回はどんな手をお使いになるつもりなのかしら?」

 

「言うと思うか?」

 

「いいえ。ただ聞いてみただけですわ」

 

「一つだけ教えてやるよ」

 

「何ですの?」

 

「蟹さ」

 

「は? ……意味が分からないことを。まったくあなたと言う人は」

 

「ヒントはやったぞ」

 

「こんなものはヒントじゃありませんわ。もっとマシなヒントはなかったんですの?」

 

「お生憎様ー」

 

白と青の操縦者はどこがワクワクしているようにも見えた。

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「何だ、雑魚?」

 

「……覚悟しろ」

 

「貴様がな、モッピー」

 

「も、モッピー?」

 

箒の目が一層厳しくなる。対するラウラは黒い笑みを浮かべている。

 

こうして試合開始の火蓋が切られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お行きなさい、ブルーティアーズ!!」

 

セシリアが操る四機ビットが一夏に火を吹く。

 

一夏はレーザーをよけ続けるだけで攻撃に転じる様子はない。

 

「また、前と同じ……」

 

彼が何を考えているかは知る由もないが、確実に何か奥の手を持っていることは確かだ。

 

そうしている内に二機のビットが一夏に切り裂かれ撃墜された。

まるで挑発するように一夏はセシリアを一瞥するが、やはり攻撃をしかけてこない。

その行為がセシリアの苛立ちに油を注ぐ。

 

「なぜこちらに攻撃をしかけてきませんの! 馬鹿にしているのですか!?」

 

ビットを下げたセシリアはライフルを構えて一夏を狙う。

 

「あっぶねぇ……。どこ狙ってるんだー?」

 

再び挑発するかのような言葉が発せられた。

 

「……っ!」

 

セシリアは一瞬何かに焦ったようにライフルを構え直す。だが、それは一夏ではなくラウラを撃ち抜いたのだった。

 

掴まれていた箒が、すかさず間合いを詰め、ラウラの腹に一撃を食らわせた。痛みにラウラの顔は歪み、腹部を押さえて前のめりになる。箒は攻撃をやめることなく、さらに追い打ちをかけるように打鉄の刀を振るう。

 

「危なかったですわ」

 

それを見てセシリアがつぶやいた。

 

「…………」

 

「あなたワザと私を挑発していましたね? ボーデヴィッヒさんから私の意識を外し、あなたに集中させようとしていたようですが、残念でした」

 

「少しは周りを見てるんだな、お嬢様」

 

「私は代表候補生でしてよ?」

 

皮肉を言う一夏と得意げに言うセシリア。

 

これが一夏が危惧していたことだった。一対一とは言ったもののそれは公式なルールではない。セシリアは箒に邪魔はしないとは言ったが、助太刀をしないとは言っていない。もちろん、一夏とラウラと約束もしていない。暗黙の了解は、時として、どう転ぶか分からない。だって、やってはいけないとは誰も言っていないのだから、罪にもならない。

 

中距離型のセシリアだからこそ出来る芸当だった。

 

あれはラウラと箒の戦いだ。彼女たちのための戦いなのだ。邪魔を入れなくなかった。

だから一夏は彼女の意識からラウラを外そうとした。だが、それは失敗してしまった。

 

「もう逃げ回る必要もないな」

 

吹っ切れなように一夏は雪片弐型を構える。

 

「やっとやる気になったようですわ、ね!!」

 

語尾を力ませてセシリアが叫ぶと同時に何発ものレーザーが放たれた。

 

一夏がいた場所をレーザーが通り過ぎる。

 

「イグニッションブーストですか……やりますわね!」

 

俊足で移動する一夏をビットが追尾する。一夏の前をセシリア本人からのレーザーが遮った。

 

「捕らえましたわ!」

 

二機のレーザービットが一夏の周りを囲み、前にはライフルで狙いを定めるセシリア。ミサイルビットの二機も一夏をロックしていた。

 

一夏とセシリアが近距離で直線上に並んだ。

この状況でも夏は笑っていた。焦ることもなく、この時を待っていたと言わんばかりだった。

 

「これにて私とあなたの劇を幕引きといたしましょう!! 私の勝利で!」

 

「そんな幕引きは断固拒否する!」

 

その刹那、奇声にも似た叫び声がアリーナを震わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

箒の一撃は簡単にラウラにさばかれた。試合が始まってからはこれの繰り返しだった。

それでも斬撃を繰り返す箒に、ラウラは平然とそれを受け流し、時折、右手のプラズマ手刀で箒を痛ぶっている。まるで、遊んでいるかのように。

 

「弱いな」

 

「くっ!」

 

ラウラのレールカノンが火を吹く。箒は体を捻り何とか避けるが爆風でシールドエネルギーを削られる。

 

「少しは実力があるのかと思っていたが残念だ。正直、つまらない」

 

「うるさい!!」

 

ラウラはブレードを振り下ろした箒をの手を掴むと背中のワイヤーブレードを使って締め上げた。

 

「ぐっ……」

 

「単純な奴だ。お前のような奴を何と言うか知っているか? 馬鹿と言うのさ。さっさと終わらせるか」

 

そのとき一筋の光がラウラの腕を射抜いた。

 

「あのれオルコット……」

 

箒はすかさずブレードでワイヤーを切り裂き、間髪入れづに斬撃を繰り出す。

 

「くっ!」

 

左のプラズマ手刀はすでに使い物にならず、ラウラは箒の攻撃を防ぎきることができなかった。

渾身の一撃がラウラの左腹部にヒットした。

絶対防御が発動するほどの衝撃に、痛みに顔が歪み、体制も前のめりになる。

 

「がっ……」

 

だが、ラウラは力を振り絞って箒の顔面に右ストレートを叩き込んだ。

 

二人はその場に倒れて動かないが、どうやら意識はあるようだった。

 

しばらくして、先に動いたのは箒だった。ブレードを地面に突き刺し支えを作って立ち上がる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

箒が息を切らしながらラウラを見下げる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。私の勝ちだ」

 

ラウラが静かに答えた。

 

「なぜとどめを刺さない」

 

「まだやるのなら立ち上がれ、そうでなければ降参しろ」

 

「私の意思など関係ないだろ。早くとどめを刺せ。情けをかけるな」

 

「嫌だ」

 

「ふざけているのか! 結果的にお前が死ぬかもしれないんだぞ」

 

「ふざけてなどいない。よく聞け、ラウラ・ボーデヴィッヒ。これは戦争じゃない、試合だ! 私は戦場など知らない、お前の考えを理解することもできない。だが、これだけは言っておくぞ。これは試合だ! これが私の知っている世界だ! だから何を言われようが気にしない! 情けなどいくらでも与えてやる!!」

 

箒の叫びにラウラが目を見開いた。

 

「お前の世界……だと?」

 

「そうだ、これが私の世界だ。何もしないのならそこで寝ていろ。私はセシリアに加勢に行く。シールドエネルギーは少ないが手助けぐらいはできるだろうからな」

 

 

 

 

 

 

え?

ちょっと待て。こいつがオルコットの元へ行くと言うことは、一夏が不利になるってことじゃないのか?

 

私はあのとき一夏になんと言った?

 

お前は私が守る、と言ったんじゃないのか?

 

約束したんじゃないのか?

 

ならばなぜ篠ノ之が立っている? なぜ私が倒れている?

 

私はあいつを、一夏を守りたいんだ。

 

初めて心惹かれた男すら私は守れないのか?

 

私に力が無いからいけないのか?

 

私は弱いのか?

 

嫌だ。

 

私は強くなりたい。教官のように、管理官のように、大切な何かを守れる力が欲しい。

 

私に笑いかけてくれる者を守りたい。

 

嫁を、織斑一夏を守りたい!!

 

『汝、力を欲するか?』

 

何?

 

誰だ、お前は?

 

『汝、力を欲するか? 力を求めるか? 何者をも打ち倒す絶対的な力を求めるか? 』

 

力を?

 

あぁ、欲しいさ! お前が何者かは知らないが、力を与えると言うのなら早く寄こせ!!

 

比類なき絶大な力を! 私に寄こせ! 私に与えろ!!

 

早く!!

 

『我を求めよ』

 

求める! お前を求める! 力を求める!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那、ラウラのISが形状を変えた。彼女の叫びと共に、彼女の闇ように、ドロリと。

 

ラウラの体が黒い何かに包まれてゆく。

 

動けない箒の元へ一夏とセシリアが駆けつけた。今は勝負などとは言っていられないことを二人は直感で感じ取っていた。

 

「な、何ですの!?」

 

「私にも分からない。ボーデヴィッヒが急に苦しみ出したと思ったら……」

 

つぶやくように言う箒に一夏が尋ねた。

 

「箒、ラウラは間違いなく苦しんでいたんだな?」

 

「あ、あぁ」

 

彼かの目の前で黒い何かは形を変え、新たな物へと変容していた。

 

織斑千冬の影に……

 

「馬鹿野郎……」

 

一夏のプライベートチャンネルに通信が入った。

 

「織斑君! 早く避難をしてください!」

 

「一夏君、早く逃げて!」

 

「山田先生に杉山さん……」

 

裏からは鈴とシャルロットの声も聞こえる。

 

「山田先生、すいませんが、それはできません」

 

「な、何言ってるんですか! えっ、ちょっと織斑博士!?」

 

真耶のマイクを三夏が奪い取ったようだった。

 

「一夏」

 

「三夏兄……」

 

「君の手で片付けることができるか?」

 

「やってみせる」

 

「ならばよし。好きにやりたまえ」

 

そこで通信が切れた。

 

「ありがとう、三夏兄」

 

話を終えた一夏が不安気な箒とセシリアに向き直った。

 

「二人とも、ちょっと行ってくる」

 

「ま、待て! あれは化け物だぞ!?」

 

「違うよ、あいつはラウラさ」

 

「し、しかし……」

 

そこにセシリアが口を挟んだ。

 

「一人でおやりになるおつもりですか?」

 

「ん? あぁ……」

 

「本当にお馬鹿さんですのね、あなた」

 

「何とでも言え。止めても聞かないぞ」

 

「別に止めませんわ。ただし、私も加勢いたします。決着がついていないのに死なれては私が迷惑しますので」

 

「……頼む」

 

「はい。それにお馬鹿な男は嫌いじゃありませんわ」

 

「馬鹿じゃない」

 

白と青は笑いあうと黒に向かって行った。

 

箒は見守ることしかできない自分がとても情けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さん! 私が援護いたします、その隙に」

 

「分かった! 頼む、セシリア!」

 

「はい!」

 

レーザーとミサイルが黒いISに撃ち込まれ、弾幕を張った。

 

一夏は黒い刃を交わし相手の懐に入ろうとするが、相手の動きが早く苦戦を強いられた。

 

白い刃と黒い刃が音をたてて交じり合う。

 

「一夏さん、零落白夜を!」

 

「ダメだ! エネルギーに余裕がない、このまま畳み掛ける!!」

 

凄まじい剣戟が繰り広げられる。

 

「ラウラ、早く目を覚まさねぇとあの二人からこっぴどく叱られるぞ!!」

 

一夏の白い刃が黒い刃を押し込めて動きを奪う。

 

黒いISは空いていた腕を振り上げ、一夏めがけて振り下ろそうとしたが、セシリアによって撃ち抜かれ、吹き飛んだ。

 

黒いISが一夏を引き剥がすために無理やり刃を動かした。

 

一夏のブレードが弾かれて地面に刺さる。

 

「一夏さん!!」

 

セシリアが一夏の名前を叫びライフルを構えるが間に合わない。

 

振りかざされた黒い刃が一夏を捉えようとした刹那、数発の銃声がこだましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を吹き飛ばされた黒いISは動きを止め、形が崩れはじめた。

 

「ぎ、ギリギリセーフ?」

 

そうつぶやき冷や汗を垂らす一夏の手には、杉山製の独立型の小型パッケージから粒子変換されたIS用の連発式ショットガンが握られていた。

 

一夏は倒れこんだラウラの体を優しく支えてやる。

 

「まったく手のかかる奴だな」

 

セシリアが近づいてきた。

 

「それが隠し球だったのですね。だから私と近距離で対峙したときあんな顔を……」

 

「あぁ、蟹は縦にも歩く、接近型ISは銃を使えないわけじゃない。……俺の勝ちだったな」

 

「何を言ってますの? それでも私が勝っていましたわ」

 

「俺だろ!」

 

「私ですわ!」

 

一夏はため息をつくとラウラを抱いたまま歩きだしたが、すぐに足を止めた。

 

「お嬢様」

 

「何ですの?」

 

「助かった。ありがとう」

 

「……別に、いいですわ。それと!」

 

「ん?」

 

「これから私のことはセシリアとお呼びなさい! いいですわね、一夏さん!」

 

セシリアはそれだけ言うと顔を赤らめてピットに向かって飛んで行ってしまった。

 

「りょーかい、セシリア」

 

一夏はセシリアの背中を見ながら笑顔で言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

ここは? 夢か?

 

「ラウラ」

 

一夏か?

 

すまない、私はお前を守れなかった。それどころか、傷つけようとしてしまった。

 

「本末転倒だな」

 

返す言葉もない。本当に、すまない。

 

「いいよ。俺もお前も無事だったんだからな」

 

なぁ、一夏。

 

「何だ?」

 

やはり私は兵器なのだろうか?

ひたすら力を求める化け物なのだろうか?

私は人間でいいのだろうか?

 

「さぁな。お前はどんなんだよ?」

 

私は……分からない。

 

「なら、お前は化け物か?」

 

ち、ちが……。

 

「断言できないんだろ? なら化け物なんじゃないのか?」

 

違う! 違う! 私は! 私はお前たちと同じでありたい!!

 

「そうか。ならそれでもいいんじゃないか? お前がいいんなら」

 

…………。

 

「譲れないモノを持って、何を言われようが、お前がそうありたいのなら、それでいいんじゃないか? 我儘でも、傲慢でも、割り切れなくても、絶対に譲れないモノを持ってる。まぁ、諦めも、引き際も大切だが、それも同じぐらい大切なモノだろ? 欲深くて、人間臭くてさ」

 

わ、私はこれからどうすればいいのだ?

 

「何?」

 

だ、だから、私はこれからどうすればいいのだ!?

 

「自分で決めろ」

 

おい! 一夏!

 

待ってくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ」

 

目を覚ましたラウラは起き上がらずに辺りを見回す。

 

「起きたか?」

 

「教官……」

 

「まったく、手のかかる奴だ」

 

椅子に腰掛けた千冬は目覚めたラウラを見て安堵したように言った。

 

「すいません……」

 

「いいさ、これも仕事だからな」

 

千冬なりの照れ隠しなのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

「礼なら一夏に言ってやれ。私が来るまでお前を見ててくれたのだからな」

 

「え? あれは夢……ではなかったのか? どっちなんだ……」

 

「さて、私は行くぞ。体力が回復したら兄さんのところへ行ってこい」

 

「……はい」

 

ドアに手をかけた千冬をラウラが呼び止めた。

 

「あ、あの!」

 

「何だ?」

 

「私は誰なのでしょうか?」

 

「……お前はラウラ・ボーデヴィッヒだろ?」

 

「…………」

 

「ラウラ、お前は私にはなれない。織斑三夏からもらった名前を大切にすることだな」

 

「…………」

 

「返事は?」

 

「は、はい!!」

 

「よろしい」

 

そう言って千冬は部屋から出ていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスクに腰掛けた三夏の前には一夏、ラウラ、箒、セシリアの姿があった。

 

「では、この件に関しては他言無用だ。分かったかな?」

 

四人が返事をすると、三夏はラウラに尋ねた。

 

「ラウラ君」

 

「は、はい」

 

「君のISにはVTシステムが組み込まれていた。何か心当たりは?」

 

「あ、ありません」

 

「よろしい! では、この件での君、並びにドイツ軍の責任は不問とする。以上だ、下がっていいよー、私はお昼寝をするから」

 

「ま、待ってください! 本当によろしいのですか、管理官!?」

 

「何だ? きっちりかっちり責任を取らせて欲しいのか?」

 

「い、いえ」

 

「なら話は終わりー」

 

「ありがとうございました!」

 

ラウラは深々と頭を下げた。

 

「よかったんですか?」

 

四人が退室した後に杉山がそう言った。

 

「すでに破棄したとはいえ、あれは我が社の製品だ。これ以上問題にするのは厄介だからな。それに制作した研究員は今回の件には無関係だ」

 

「……責任の取らせようがない、ってことですか?」

 

「醤油ことー」

 

「以前どこかに提供されたはずの欧州第三支部の研究員は?」

 

「そんなところまで知らなぁーい。どうでもいいが、これ以上の詮索はするなよ、朝ドラ」

 

「でも!」

 

「まぁ、後は兎がやってくれるだろー。すでに研究所が消えてるかも知れないぞぉ?」

 

「束ちゃんが?」

 

「たまには役に立つな。清掃員にでも転職すればいいのになぁー! ははははははー」

 

「…………」

 

三夏は愉快に足を組み直した。実際に三夏の勘は的中することになるのだが。

 

欧州第三支部が、これを見越して切り捨てられたのかどうかは杉山には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之箒……」

 

廊下でラウラが箒を呼び止めた。

 

「な、何だ?」

 

ギクシャクしたやり取り。

しばらくして、ようやくラウラが口を開いた。

 

「わ、悪かった。……謝る」

 

「こちらも、大人気なかった。すまなかったな」

 

箒はVTシステムのことを思い出した。

 

「あれがお前の知る戦場なのだな……。確かに私は何もできなかった」

 

「私もだ。試合でお前に勝つことができなかった」

 

「そうか」

 

「あぁ」

 

「そ、それとだな。私のことは、その……箒と呼んでくれてかまわない」

 

「で、では、私のこともラウラでいいぞ」

 

「承知した」

 

そう言ってお互いに握手を交わしている二人の様子を一夏と鈴が静かに見守っていた。

 

「ま、結果オーライね。よかったわね、一夏」

 

「一安心だ」

 

「でも、ヤバかった事に変わりわないじゃない」

 

「いいんだよ、仲直りしたんだから! さぁ、飯に行くぞー。小清水さぁーん、ご飯ー!」

 

「待ちなさいよ! あたしも行く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝のHRで事件は起こった。

 

「はぁー、また大変だったわね」

 

「まったくだー」

 

「お疲れ様、一夏」

 

「ありがとー、シャル〜」

 

机にうな垂れる一夏に鈴とシャルロットは苦笑いをする。

 

「垂れ一夏だね」

 

「……ぷっ、何よそれ。あははは……」

 

そこへツカツカとラウラがやってきた。何かを決意したように硬い表情をしている。

 

「一夏!」

 

「ん〜?」

 

一夏がゆっくり顔を上げた刹那、いきなり胸ぐらを掴まれて無理やり立たされた。

 

「ちょっラウ、むぐっ!」

 

言い終わる前には一夏の唇が柔らかい何かに遮られた。

 

それは、ラウラの熱い口付けだった。ねっとりと舌を絡ませた、ディープキス。

 

「お前は絶対に私の嫁にする、異論は認めん! 覚悟しておけ!!」

 

ラウラが赤面しながらビシッと一夏を指さして宣言した。

 

「ななな、何やってんのよあんたはーー!!?」

 

「そうだよ! ハレンチだよ!!」

 

唖然として動けなかった鈴とシャルロットの怒りが爆発するが、ラウラはそれを勝ち誇った表情で一蹴した。

 

「一夏! あんたも何か言ってやりなさいよ!」

 

「そうだよ!!」

 

一夏に詰め寄る二人。だが、とうの一夏はと言うと……

 

「ちょー柔らけぇ……」

 

上の空でそうつぶやいただけだった。

 

「一夏ぁぁぁぁぁ!!」

 

「何て顔をしてんのよあんたはぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「嫁よ、もう一回しよう!」

 

そんな様子を見て箒はショックのあまり固まって真っ白になっていた。

 

「き、キスしたのか? 一夏が? ラウラと? え?」

 

「箒さん、大丈夫ですの?」

 

「一夏のファーストキスが……あ、あ、あ……」

 

「はぁ……」

 

セシリアは頭を抱えてため息をついた。そういう彼女もまた一夏のキスを見て若干苛立ったのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこの書類の山は……」

 

「まだまだあるぞ。そっちの端末にも入ってるからな」

 

「だからなんで!?」

 

「兄さんが言ったんだろ。ラウラとドイツ軍の責任を取り消すと。なら、その処理をやるのは当然だろ」

 

「うわぁぁぁぁん! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「泣くな、泣くな。私も手伝ってやるから。な?」

 

「ぐずん。……うん」

 

「よし。ほら、やるぞ。早く終わらそう」

 

「……不幸だ」

 

 

 

 

 

 

 




さて、ラウラと箒の戦いも終わりました。

しかし、戦闘を書くのは難しい……。
上手く書けたかぁ(^^;;



リーガルハイ、番外編?2も書いているんですが、裁判は難しい!
次回は羽入君も登場する予定ですww

ではでは〜
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