「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
インペリアル・コーポレーション、会議室。
「人類みな兄弟!」
三夏が白衣をなびかせ座っていた椅子から立ち上がった。
まるで劇のように。
「とってもいい言葉ですよねぇ。みんなで仲良く平等にという意味の言葉、うちの馬鹿部下が信じてやまない妄言です。では、皆さんこの世界に支配者はいないと思いますか? ……ご心配なく、ちゃぁんといますよ。そして、それは我々ではなく、篠ノ之束です」
「篠ノ之博士がなんだと言うんだね?」
円卓に座る議員の一人が口を開いた。
「何も分かってらっしゃらない脳味噌お花畑のようなので、ご説明しましょう。いいですかぁ、我々、人間は時代の流れには逆らえません。……時代はいつも一部の天才によって流れを変えてきました。今回もそうです。ただし! 今回はタチが悪すぎる。大発明をした科学者は讃えられることはあれ、決して祭り上げられてはならない。しかし、この世界は神様、仏様、篠ノ之束様なのです。今や彼女は神と同格の天上人だ。由々しき事態だとは思いませんかぁ? あの天才を容認し、あまつさえ祭り上げているこの時代は。いつの世も、科学者は科学の発展のために尽力してきました。そう、人々の暮らしを豊かにするために、戦争で勝つために、研究に没頭してきた。科学は万人に使われなければ意味がない。これが大前提です。使って欲しいから誠心誠意、研究するんです。……彼女はそんなこと微塵も考えていませんよ。あんな奴は科学者でも何でもない、下民に玩具を与えて楽しんで傍若無人に振る舞っている神様気取りの化け物だ」
「ば、化け物とは、言い過ぎなのでは?」
はっきりと言い放つ三夏に議員のは怯んでいるが、社長代理である西野は三夏から目を離さない。
「では何を持って人間とするのか、仲間とするのか。人の形をしているから? 言語を話すから? 頭が良いから? 違う。……それは常識と価値観ですよ。簡単に申し上げましょう。金には価値がある。これが私の言う常識と価値観です。そうでしょう? 皆さんの今の立場だって金で保証されているんです、これが良い例ですよ。人間は独自のコミニティーを形成し生きている。だが、しかし! 篠ノ之束に我々の価値観や常識は通用しない。彼女にとって、地位も名誉も金も、道端に落ちているゴミ同然なのです。言わば彼女は癌だ。突然変異の異質な知的生物。それが篠ノ之束です」
「……何が言いたいのかね?」
「私はここに提唱します。我が社独自のマルチフォーマルスーツの開発に着手すべきだと!」
「待ちたまえ。それは篠ノ之束博士を全面的に否定することになるんだぞ。我が社の損害は計り知れない」
「その通りね」
「あぁ。博士とは、より良い関係をだな……」
西野以外の重役たちがそれぞれに首を降る。
「だからこそです。篠ノ之束は異質な存在ではあるが、ISで新たな世界秩序を創り上げるだけの力がある。我々の世界に何の興味も持たない神など、危険以外の何ものでもないとは思いませんか? この会社はそんな存在に依存しようとしているんですよ? ……私たちはいつから人の顔色を伺う謙虚で慎ましい集まりになったんですか? 自分たちに都合が悪いようならばどんな相手だって脅したじゃありませんか、消したじゃありませんか。プライドはどこに消えた。この会社、世界第一位の巨大軍事企業、インペリアル・コーポレーションのプライドは、小娘に頭を下げるような安いものだったんですか?」
机に片手を付き身を乗り出した三夏はまっすぐ西野を睨むように見つめた。
「…………」
「我々は篠ノ之束と渡り合えるだけの力がある。篠ノ之束の覇道を撃ち破り無に返す王道の力が。神にへりくだりNo.2になることに何の意味がある? 天下を征する力を持ちながら、なぜ虐げられねばならない? はっきり申し上げましょう。皆さんが保身に走りたいのであれば、篠ノ之束と対立する以外に道はない! 世界は我々人間のものだ、異質な存在のものではない。……篠ノ之束が創る未知世界、一寸先は闇ですよ?」
「待ってください! 双方でよく話し合ってから」
「お口にチャック!」
裏に控えていた杉山の発言はすぐさま一蹴された。
「…………」
「かつて一人の指導者がこう言いました。並外れた天才は凡人に配慮する必要はない。……凡人に配慮しなかった結果、彼は燃え盛る街の地下で拳銃で頭を撃ち抜き惨めに死にました」
「…………」
「私がお願いしたいことはただ一つ。この計画を許可していただきたい」
「たとえ世界戦争になろうとも私は一行に構わない、……ですか?」
「惨めに死ぬのは我々かも知れない。だが、ただ消されるのはもぉっと惨めだ」
西野は三夏から配られた資料をもう一度パラパラとめくってから顔を上げた。
「……いいでしょう。あなたが行っている、操縦者の性別を選ばない新型マルチフォーマル・スーツの私的研究を公的なものとします」
西野の言葉に三夏から不敵な笑みがこぼれる。
「男性のみなさぁーん、もうすぐ伸び伸びと暮らせる世界がやってきますよー! 女性のみなさんもご安心を! 何もすぐにISがなくなるわけではないし、女尊男卑の根は深い。いかに無能なポンコツクソ女だったとしても一定の評価をされる時代になるでしょう! ぜひお楽しみに。では、失礼しますよ!」
「待ちなさい」
「何ですか?」
西野に呼び止められる三夏。
「計画については承認しましょう。ですが、あなたの会議室での態度は認められない点が多々あります。ここはブロードウェイではありません。ちゃんと場に見合った態度でお願いしなさい」
「社長代理ぃ何をふざけたことを……」
「私なふざけてなどいません。本気です」
「…………」
「どうしたのですか? 早くしなさい」
「……予算をくださーい、お願いしまーす」
恐ろしく感情の無い声で三夏は言った。
「よろしい。確かに許可しました」
三夏はふてくされたようにドカッと椅子に腰を下ろした。
「まったく相変わらずのクソ女め!」
西野への文句を言いながら三夏がドカドカと廊下を歩く。
「あれは言い過ぎじゃないんですか?」
三夏の後ろを歩いていた杉山が言う。
「あれとは何だ?」
三夏は足を止めて杉山に向き直った。
「束ちゃんを酷く言ったことですよ。彼女だって考えがあるかも知れないのに……。偏見でモノを言うべきではないです」
「考えだとぉ? まったく君の頭はどこまでポンコツなのだぁ、さすがに悲しくなってくる。それにだ、偏見だからといっていったい何が悪い。あの話もすべて私の憶測だ、根拠など何も無い。だが、私はクソ兎のことなど何も知らないし、知りたくもないし、大っ嫌いなのだから偏見を持つのは当たり前だ」
「だからってあれじゃあまるでこの会社が支配者になるような言い方じゃないですか……」
「そうだ。世界の秩序、規範、価値観、常識を篠ノ之束の無秩序と混沌から護ってやるのだから、それぐらいの見返りがあったとしても当然だろう。国すら指一本で動かせるようになれば我々は最強じゃないか。それに、脳みそピーマン君のように良心的に考えたとして、クソ兎の創る世界に終着点などあるのか?」
「え?」
「もしかしたら無いのかも知れないぞ? クソ兎にとってこの世界は、でっかい実験対象でしかない。いろいろやって、飽きればやめて、別のことをやり出す、またそれが飽きれば次に、次に、次に、次に。やりたい放題! しっちゃかめっちゃか! 自分が楽しければ面白ければそれで良し!」
「…………」
「もはや二者択一だ、コミュニティーのルールを守る支配者とルールなんてガン無視の征服者。君ははどっちの味方だ? 君はもう見え始めてるんじゃないのか? この世界が……」
「それは……」
「私は哀れな愚民どもを護る救世主として篠ノ之束を打ちたおーーす! はははははははははーーー!!」
「…………」
いつものポーズのまま早歩きで去っていく三夏。
「世界秩序の維持と変革……」
分かっている。シャルロットのときもそうだった。
力が無い者は何もできない。どちらが片方に着くしかない。
世界は二人の天才によって翻弄されている。
他者がどんなに努力しても手すら届かない境地での争い。
正義と悪はフィクションの世界にしか存在しない。
しばらくうつむいていた杉山だったが、ハッと我に返って三夏を追いかけた。
「博士、帰っちゃダメですよ! まだ仕事あるんじゃないんですか!?」
三夏は主任用のデスクに両足を乗せて組みながら端末を操作していた。
「まぁ正式な書類はこんなもんだろう。後でプリントして西野のところへ持っていきたまえ」
「西野社長代理ですよ、博士。聞かれたらまた怒られますよ?」
「あいつに怒られたって僕は反省しないもーん。だから僕の勝ちだもーんもーんもーんもーん!」
もーん、を連発して足をばたつかせる三夏に杉山はこめかみを軽く手で押さえた。
「勝ち負けの問題じゃないでしょう……。子供じゃないんだから」
「それより社長はどこ行った? まさかまだ南極じゃないだろうな? いい加減凍死してるんじゃないか?」
「今はサウジアラビアらしいですよ。聞いただけなんで私も詳しくは知りませんけど」
「何で?」
「石油でも狙ってるんじゃないかって……」
「こち亀の両さんみたいなオチにならなければいいんだがなぁー」
「あ、あははは……」
杉山はとりあえず笑ってごまかした。そうしているうちに印刷機がプリントを吐き出した。
「ねぇ、博士」
「ん?」
「プレゼンテーションの日程は未定なんですか?」
「あぁ。サプライズだ」
「サプライズって……」
「泡を割るのさ」
「泡を? ……ごめんなさい、分からないです」
首を傾げる杉山のために三夏はただ口元を吊り上げた。
「んふふふ。この私がIS人権バブルを破裂させてやるわぁ」
杉山は何かに気づいたのか三夏に問いかけた。
「まさか白騎士事件のような効果を狙って?」
「あんなテロと一緒にするんじゃない。要は男と女を同じ土俵に立たせてやるのだ。そうすれば簡単に世の中はひっくり返るだろう」
ビシッと右手の人さし指を立てる三夏。
「同じ土俵に立たせてる……」
杉山は三夏の言葉を繰り返した。
「そして徐々に徐々にISをスクラップにしていけば世の中は変わる。あるのは男女を選ばない新型マルチフォーマル・スーツなのだから。後は知らん、女尊男卑でも男尊女卑でも現状維持でも好きなようになればいいさ、すべて自分たち次第なのだからな。男に負けたくないのなら必死に頑張れ、女に負けたくないのなら死に物狂いで努力しろ。共存共栄したいならすればいい。少なくとも、何の努力もしていない実力も無い馬鹿女が無条件で偉そうにすることはなのだから」
「本当に評価されるべきものが残り、性別の差別ではなく努力した者が報われる……ってことですか?」
「どう捉えるかは自分次第だと言っただろ。まぁ私の目的は達成できたがねぇ。あー、慌てふためく無能な癖に偉そうな馬鹿女どもの顔が今にも浮かんできそうだよ。私はやっぱり男性諸君を応援するからねぇー。可愛子ちゃんたちを雇いまくってやればいいのだ!」
三夏は心底楽しそうに椅子の背もたれに倒れ掛かったのだった。
日本晴れの空の下。
IS学園、屋上にて。
「またにはお弁当もいいわねぇ」
「そうだな」
「うん。あ、ラウラ、口についてるよ。ふいてあげるね」
「ん、すまないな」
「子供じゃないんだから、そのぐらい自分でしなさいよ。シャルロットはあんたの母親じゃないんだから」
「いいじゃないか。お前はお父さんだろ? 鈴お父さん」
「今日は絶好のスカイダイビング日和ねぇ。ラウラ、ちょっと屋上から飛ばしてあげるわ。ISを置いてこっちにいらっしゃい」
「とぉー!!」
「だから逃げるな!!」
楽しそうな三人を見ながら一夏が二つある弁当の一つに口をつけた。
鈴と箒のものだ。シャルロットは時間がなく作ることができなかったらしい。
「お、この唐揚げ美味いな」
「本当か!?」
それを聞いた箒がズイッと顔を近づけた。
「あぁ、美味しかったぞ」
「そうか。よかった……」
箒は胸を撫で下ろして安心した表情を浮かべた。かなり不安だったに違いない。
「ちょっと一夏ぁーー! あたしのお弁当はどうなのよぉぉー!?」
ラウラとプロレスごっこを繰り広げていた鈴が一夏に叫んだ。
「お前の酢豚も美味かったぞぉぉーー!」
「あったりまえでしょぉぉー!」
鈴はラウラをひっ捕まえながらいい笑顔で右手の親指を立てた。
一見すれば何の変哲もない平和な昼の風景なのだが、一夏には先ほどからどうしても気になることがあった。
「さっきからそこで何してる、セシリアお嬢様」
箒の影に隠れるように座っていたセシリア。
「……箒さんに誘われただけですわ」
「なら俺を睨むのはやめてくれ。落ち着いて食事ができないだろ」
「なっ!? 睨んでなどいませんわ!」
「いや、睨んでただろ!」
「睨んでません!」
いがみ合う二人にため息をついた箒が仲裁に入った。
「一夏、実はセシリアも弁当を作ってきたんだ」
「あ? ……弁当?」
「そうですわ!」
「何で?」
「箒さんに誘われたからです。深い意味はありません」
セシリアは口を尖らせて小さめのバケットを差し出した。
中には綺麗で美味しそうなサンドイッチが並べられている。
「……まぁ、くれるんなら食べてやる」
「失礼な人ですわね。感謝して食べなさい」
「ならいらん」
「…………」
再び睨み合う二人。
沈黙が続いていたが、セシリアが口を開かずバケットだけを一夏の方に押し出した。
一夏が手を伸ばしたそのとき……
「嫁ぇぇー、助けてくれたらキスしてやるぞぉぉー!」
鈴に技をかけられたラウラが悲痛な叫びで助けを求めた。
「…………」
「油断してしまったのだぁぁ! 助けてくれー! ディープだぞ、ディープ!」
ピクリと一夏の体が揺れた。出された手も動きを止める。
「一夏よ。その沈黙はいったい何だ? 不埒な考えであれば、この篠ノ之箒が斬り捨ててやるぞ?」
そう言って一夏を見据える箒。鈴とシャルロットも冷たい目線を送っている。なぜかセシリアも……。
「ごめーん、ラウラー! 僕、なぁんにも聞こえなぁーい!」
「嫁ぇぇぇぇぇ!!」
一夏はいい笑顔で言い切った。
ラウラの声を完全にシャットアウトした一夏は改めてセシリアのサンドイッチに向き直ると無言のままそれに手をつけようとした。
『一夏、電話だぞ! 私からかも知れないから早く出るのだ!』
彼のケータイが音を出した。ラウラの可愛らしい声で。
何とも表現し難い空気がその場にいた者を包む中で、一夏は無言無表情のままラウラを一瞥すると「俺は無実だ」と小さくつぶやいて電話に出た。
「もしもし? ……了解。すぐに行くよ」
一夏が立ち上がった。
「千冬姉から呼び出し食らった」
「また、お馬鹿なことをしでかしたんですの?」
「俺はお馬鹿なことをしでかしたことは今まで一度もありませんことよぉぉ? ISの調整の件で話があるって言われただーけーでーすーよぉー」
「はいはい、そうですのー、凄いですわねー」
「何だそれは?」
「「…………」」
意味の無いことを続けていても仕方がない。お互い子供ではないのだから。
「……早くお行きなさいな」
「……あぁ。悪いな」
「仕方ないですわよ」
階段を降りてゆく一夏の背中を見ていたセシリアはため息とともに目線を手元のサンドイッチに落とした。
「食べてもらえませんでしたわ。ま、まぁ、よかったのですけれど!」
いつの間にか四人がセシリアのところへ集まっていた。
「美味しそうじゃない。一つちょうだいよ」
「え? 鈴さん?」
「なぁ、私にもくれないか?」
「ラウラさんも……」
「僕も食べたいなぁ」
「私もだ」
「箒さんにシャルロットさんまで……。ふふ、ありがとうございます。さぁ、召し上がってください」
四人はセシリアからサンドイッチを受け取ると、一斉に口をつけた。
「「「「いただきまーす」」」」
パクッ!
本日、午後の授業。
凰 鈴音。
篠ノ之 箒。
シャルロット・デュノア。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
急な体調不良のため欠席。
「みなさん、どうしたんでしょう?」
サンドイッチを泣きながら食べていた四人をセシリアは不思議に思ったのだった。
食べてやるだけが優しさではないとは思うが、彼女の笑顔を見ていたら不味いの三文字を四人が言うことはできなかった。
7時30分。杉山さんのお部屋。
今日は三夏と部屋の主である杉山は本社へと行っているためこの場にはいない。千冬も真耶も珍しく残業だそうだ。
「あははははははは!」
フォークとナイフを持った一夏は夕食であるフランス料理の前菜を前にして爆笑していた。もちろん、鈴、ラウラ、シャルロットの話を聞いたからである。
「それは災難だったなぁ! あっはははははは」
自分が消えた後にまさかそんなことが起こっていたとは夢にも思わなかったので、おかしくて笑いが止まらなかった。
「冗談じゃないわよ! 死にかけたのよ、こっちは。笑うな!」
笑う一夏に怒鳴る鈴。
彼女は比較的に大丈夫そうだが、ラウラとシャルロットは終始無言だ。
「十分元気そうじゃないか」
「あたしはサンドイッチの具が少なかったのよ。端をもらったから中身にむらがあったのね」
鈴はあの記憶くと舌の感覚を消し去るように小清水さん特製のサーモンのマリネを食べた。
小清水は奥で料理の仕度をしているらしく今はいない。
「おいじぃ……ほんどに美味しいよぉ……」
まだ前菜だと言うのに噛みしめるたびに涙が溢れた。ラウラとシャルロットも同様である。ちなみに彼女たちは鈴よりもサンドイッチがクリーンヒットしたらしく何とか体調は回復したものの精神的にかなり参っているようだ。
さっきまでは笑いを堪えていた一夏もこれを見てしまったら流石に笑えなかった。と言うか引いた。彼女たち三人にではなく、これ程までに彼女たちを追い込んだセシリアの料理にである。
「……あの小清水さん」
「はい。何でございましょう」
「最近何かありました?」
一夏は暇を潰すために奥から戻ってきた小清水へアバウトに話しを切り出した。なぜかと言えば鈴たちの食事が異常に遅いのである。本当に一口一口、丁寧に味わいながら食しているのが分かった。
一夏の意図を小清水も読み取ったようだ。
「いえ、これと言って……。そう言えば、今日は一人の生徒さんと仲良くなりました」
「へ〜、どんな……」
一夏が聞き終わる前に、全員が前菜を食べ終わったため小清水はメインの料理を運び出した。
仕方がなく一夏は料理が並び終わるのを待つ。
今日のメインは肉料理らしく、上にかけられたソースが一段と食欲をそそる。
作業を終えた小清水に一夏が話しを戻した。
「それで、どんな人なんですか?」
「はい。私は定期的に食堂で料理の講座を開いておりましてですね……」
「料理の講座を……。凄いですね、小清水さん」
「はは、昔、お料理教室で先生をさせていただいていたことが有りまして。何、たわいもない取り柄でございます」
「その生徒も小清水さんの講座を受けてるんですか?」
「いえ、彼女とは私が講座を終えた後に知り合ったのです。私が食堂でお茶を飲みながら一息ついていましたらお会いしたんです。オペラのお話で大いに盛り上がりまして、そしたらなんと!」
「なんと?」
「彼女は楽しいお話のお礼とおっしゃって夕食のメインディッシュのお手伝いをしてくださったんです」
「へぇ、そんな生徒もいたんですね」
「はい。本当にお綺麗な英国淑女の方でした」
「……エイコクシュクジョ?」
一夏の耳にどこか引っかかる単語が入った。やけに瞬きが早くなる。
「小清水さん?」
一夏の声のトーンが低くなった。
「はい」
「もしかして、セシリア・オルコットですか?」
「確かそのようなお名前だったかと」
一夏の額から汗が一筋垂れた。小清水が答えた刹那、ガシャンと食器の音が響いた。
見れば三人が事切れていた。死んではいないが。
小清水と話をしていた一夏だけがメインを口にすることなく助かった。
「神は我を見放さなかった。ありがとう、神様」
一夏は十字を切って天へと感謝を捧げた。……一夏はキリスト信者ではないが。
「小清水さん」
「はい?」
「二度とそいつに手伝わせないように」
「え?」
「お願いしますね?」
「かしこまりました」
「それと、あそこの三人を部屋へ送ってあげてください。口から泡を吹くほど今日は疲れていたようなので。片付けは俺がやっておきますから」
ニコリと一夏は小清水に微笑んだ。
「御意」
誰もいなくなった部屋で一夏は肉にかかっていたソースをスプーンですくい上げるとそのまま金魚鉢の中に流し込んだ。
ソースが水に溶けるのと同時に中の金魚が痙攣して浮かび上がる。
「あいつの料理は劇物か……」
皿を洗い終えた一夏だったが、夜も遅くなっていたため鍋に残る料理を捨てることまではできず、しかたなく劇物注意と書き置きを貼り付けて部屋へと戻っていった。
「あ〜、疲れた疲れた……」
「ですね。久々の会社でしたし」
「お、二人とも帰ったのか」
「お疲れさまです。私たちも今、終わったところなんですよ」
深夜近くになって三夏と杉山がIS学園に帰宅し、千冬と真耶も仕事を片付けて帰ってきた。
「お腹減りましたね……」
「小清水さんが何か作ってくれてあるだろー。杉山君、用意したまえ。盛り付けぐらいはできるだろ?」
「はいはい。やりますよ〜」
「私も手伝います」
「ありがとね、真耶ちゃん」
二人と入れ替わるように千冬がビールを片手に三夏の横に腰掛けた。
「ほら、兄さん」
「ん〜」
四人分の食事をよそった皿を持って戻ってきた。
「なんかこんな紙があったんですけど……」
「劇物注意ぃ? 意味が分からん。早く食べるぞー」
「そうだな」
深く考えることもせずにそんなことを言う三夏と千冬。
「そうですね」
「美味しいそうですよぉ」
杉山と真耶もそれに乗ってしまった。
「「「「いただきまーす」」」」
パクッ!
翌日。
織斑三夏。
織斑千冬。
杉山。
山田真耶。
体調不良のため欠勤。
篠ノ之箒。
大事をとって欠席。
凰 鈴音。
シャルロット・デュノア。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
病状悪化のため欠席。
「みなさん本当にどうしたのでしょうか?」
「セシリア、お前は二度と料理をするな」
「一夏さん、それはどういう意味ですの!?」
「…………」
いよいよ福音戦が近づいてきました……。
どうしよう(^^;;
※ネタバレになるので詳しくは言えませんが新型マルチフォーマル・スーツは全く期待しないでください(汗)
リーガルハイも次回で最終回(泣)
僕の楽しみが……。
次回からどうやって生きていこうかな……。
ではでは〜