「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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大晦日、特別編

「この物語は二人の女子高生の平凡な大晦日の風景を淡々と書く物です。過度な期待はしないでください。分かったか? 本当に理解したか? ……よろしい。では、いってみよーう!」

 

byラウラ。

 

 

 

 

 

 

 

12月31日。雪の降るIS学園。

 

鈴ちゃんのお部屋。

 

「もーいくつ寝るとお正月ぅ〜♪」

 

「やかましい」

 

「む。鈴よ。どこがやかましいと言うのだ。日本では、年越しになるとこれを歌うのだろう?」

 

「みんながみんな、歌うわけじゃないわよ。それは子どもが歌うのよ」

 

「ほぉ。では、コタツで丸まっておばさんみたいになっているお前には似合わない歌だな。すまなかった」

 

「コタツで丸まるのは猫よ」

 

「……コタツで寝腐っておばさんみたいになっているお前には似合わない歌だな。すまなかった」

 

「寝腐ってねぇよ。言い方を変えれば良いってわけじゃないの」

 

「うるさい、ババア」

 

「…………」

 

「いたたた、足の指で私をつねるな。どれだけ器用なんだお前は」

 

鈴は蜜柑の置かれたコタツの中で俯けになりながら、得意げに足をばたつかせた。

ラウラは口で言うほど気にはしていないらしく、机にうなだれるようにして蜜柑を剥いている。

 

「あ〜、何にも番組やってないわねぇ」

 

「いや、番組はやってるだろ。今、見ているそれは何だ?」

 

「人の揚げ足取るんじゃないわよ」

 

「別に取ってはいないが。ほれ、蜜柑が剥けたぞ。おばあちゃん、いや、お父さんか」

 

「そい」

 

「痛っ……。だから、つねるな」

 

「私はピチピチの女子高生よ」

 

「それは死語だぞ」

 

「死語ちゃうわ。今もちゃんと使われてるわよ」

 

「……主に中年女にな。つまり衰語だな。考えてみろ、私はまだまだ若いでぇすピチピチでぇす永遠ね18歳でぇす、だぞ? 無理があるだろ」

 

「適年齢が使うぶんには大丈夫なのよ! あたしはまだ18にもなってないわ!」

 

「……実は?」

 

「いやいや、そんな振りに乗るほどあたしは馬鹿じゃないわよ?」

 

「なんだ馬鹿じゃなかったのか」

 

「よぉし今すぐあたしのコタツから出て、そこに直れ」

 

「凍え死ぬから嫌だ」

 

「なら、それなりの態度をとりなさいよ」

 

「はいはい」

 

「軽く流すんじゃないわよ」

 

「ところで、このコタツはどうしたんだ?」

 

「ネットで買ったわ」

 

「……便利な世の中になったものだな」

 

「時代は進歩し続けるのよ?」

 

ラウラは鈴に剥いた蜜柑を投げ渡した。

なんとも気の抜けた雰囲気である。

 

「一夏たちは本社に呼び出し、小清水さんは食材の買い出し、千冬さんたちは年末ギリギリまで仕事かぁ。……暇ね」

 

「いいじゃないか。休めるときに休んでおけば」

 

「なんか、あたしたちだけ悪いなぁと……」

 

「心にもないことを」

 

「分かる?」

 

「丸分かりだ。……ゲームでもするか?」

 

「そうね」

 

「では、ツイスターゲームでも」

 

ラウラはどこからかビニール製のマットを取り出した。

 

「おい、待て」

 

「何だ、不満か?」

 

「季節と場所を考えなさいよ。今は年末でここは日本よ?」

 

「せっかく副官が送ってくれたんだがな。寒い季節もくんずほぐれずお互いに温めあって頑張ってください、と」

 

「伝言頼めるかしら?」

 

「いいぞ?」

 

「馬鹿野郎」

 

「……それが伝言か?」

 

「一語一句、間違えずに伝えて」

 

「了解した。しかし、そうするとやることがないぞ?」

 

ラウラは両手を広げて仰向けに倒れ込んだ。

 

「先取りで日本のお正月遊びでもする?」

 

「例えば?」

 

「花札」

 

「ルールを知らん。却下」

 

「福笑い」

 

「誰の顔を使うつもりだ?」

 

「あんた」

 

「却下」

 

「凧揚げ」

 

「寒い。却下だ」

 

「羽根突き」

 

「同上の理由により却下」

 

「……駒回し」

 

「ベーブレードの劣化版だな。却下」

 

「よく知ってるわね、ドイツ人」

 

「お前もな、中国人」

 

「あたしは日本に住んでたからよ。それに年代的には断然、駒回しのほうが先輩のはずなんだけど?」

 

「下克上だな」

 

「あんた、意味分かって使ってるわけ?」

 

「もちろん」

 

なぜか自信たっぷりのドヤ顔である。

 

「……ならいいけど。というか駒回し先輩とベーブレード後輩の話はどうでもいいのよ。……結局、何にもできないじゃないの」

 

「しりとりはどうだ?」

 

「その前には会話のキャッチボールを練習しなさい」

 

「……失礼な奴だ。友達いないだろう?」

 

「隣人部を作る連中よりは友人関係に困ってないわよ」

 

「ガラ肉よ。隣人部を馬鹿にするんじゃない」

 

そう言うラウラの裏に一瞬だけ黒髪の少女の影が見えた。

 

「誰がガラ肉か! ちゃんとあるわ! 肉ついてるわ!」

 

「……ふっ」

 

「…………」

 

ラウラの失笑で会話が止まった。

 

その後、しばらくして、寝ていたラウラの背中が徐々にであるが床の冷たさを感じ始めた。

 

「おい、電気絨毯が私のところだけ冷たいんだが?」

 

「…………」

 

「私のところだけ電気を切っただろ? 左側だけ冷たくしただろ? おい!」

 

「…………」

 

「……ガラ肉と言って、誠にすいませんでした」

 

「よろしい」

 

鈴はコタツから少し這い出して絨毯の電源をいじった。

 

「話を戻すが、何をやるんだ?」

 

「正月遊びは却下なんでしょ? やることないわよ」

 

「倒れてはいけないIS学園24時……」

 

「一応、聞いてあげるわ。何よ、それ?」

 

「朝昼晩の三食すべてセシリアの料理を食べる」

 

「一歩間違えば死人が出るわ! ……そんな年末は絶対に嫌よ」

 

真っ先に逃げ出すのはたぶん一夏だろうと鈴は思った。

しかし、冗談にしても笑えない。

 

「お前はコタツから出る気はないんだな」

 

「子どもは火の粉、大人は風の子って言うじゃない?」

 

「普通は逆だがな」

 

「あんたの常識はみんなの非常識なのよ」

 

さらりと失礼なことを言った。

 

「……お前は曲がらないな」

 

「悪い?」

 

「そこまでくると逆に清々しい。これからも頑張れ」

 

「あんたには負けるけどね」

 

「しかし、東洋での年越しはなかなか興味深いな」

 

「そうなの?」

 

「あぁ、ドイツでは……と言うより欧州ではクリスマスの延長でついでに年越しといった感じだな。まず三が日の休暇が存在しない。12月24日から1月1日までクリスマス休暇なんだ」

 

「へぇ。簡単に言っちゃえば正月よりクリスマスの方が重要ってことね」

 

「まぁ、キリストの誕生日だからな。日本などはキリスト教に馴染みの薄い土地だから仕方がない」

 

「あたし的にもクリスマスなんてどうでもいいわ。……恋人のいないクリスマスなんて」

 

「バレンタインは?」

 

「それもどうでもいい。恋人がいないから……」

 

「つまりリア充は爆発物しろと」

 

「そうね。大爆発すればいいわ」

 

「恋人ができれば?」

 

「最重要イベントよ。一夏といちゃつくわ」

 

「現金な奴め」

 

「なんとでも言いなさい」

 

開き直った人間は強いと言うが、鈴は何を言われても動じないようである。

 

「それと、お年玉というシステムは素晴らしいと思うぞ」

 

「何でよ」

 

「物より金の方がいいだろう? 多様性がある」

 

「あんたの方がよっぽど現金な奴よ」

 

「……世の中は金だ」

 

「しっかしお年玉ねぇ。懐かしいわね」

 

「まだ私たちならもらえてもいい年齢だが? もらったことはないのか?」

 

「小さい頃はもらってたわよ。今はそこら辺の大人より稼いでるから必要ないわ。恵んであげてもいいぐらいよ」

 

さすが三夏に気に入られているだけのことはある。

 

「……お前、本当に子どもか?」

 

「生憎、これでも子どもよ。ちょっとだけ世の中を知ってるだけ」

 

「身体は子ども、中身は中年……」

 

「せい!」

 

「いた! 蹴ったか!? 今、私を蹴ったか!?」

 

「蹴ったわよ! なんか悪いの!?」

 

「痛いだろ!」

 

「それが生きてるって証よ! 良かったじゃない生きてることをあたしに証明してもらえて!」

 

「そんな証明はいらん!」

 

誰も見ていないテレビからは相変わらずバラエティ特番の笑い声が漏れている。そんな午前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御節料理とは美味いのか?」

 

ノートPCをいじっていたラウラが

画面に映った重箱を彩る御節料理を見て何気無くつぶやいた。

 

「美味しいわよ? あたしはあんまり好きじゃないけど」

 

「なぜだ?」

 

日本にいた頃は、鈴の家庭も正月には中華ではなく御節を食べていた。日本好きの父親の影響である。

 

始めの頃はあまり不満はなかったが、織斑家に通うようになってからは徐々に不満を持つようになった。織斑家では残り物が再び食卓に出ることはなかったからだ。

 

ちなみに織斑家では御節料理が出るのは元旦だけである。

 

「三日間、ずっと御節なんだもん。買ってくるぶんにはいいのよ。問題は手作り御節、材料が残ってるから継ぎ足し継ぎ足しで……終いには田作りと黒豆と金団ぐらいしか入ってないのよ。いい加減、飽きるわ」

 

「ふむ。慣わしも考えものだな」

 

「あれはね、主婦たちが正月に働かなくてもいいように考案されたサボり料理なのよ。……正月でもイタリアンを食べてやるわ」

 

「お前は御節に何か恨みでもあるのか?」

 

ラウラが湯飲みを傾けながら、御節への不満をブチまけている鈴へ聞いた。

 

「別にないわよ。ただ好きじゃないだけ」

 

「その割には熱くなっていたがな。ところでイタリアンで思い出したんだが、本場ではフォークとスプーンを使ってパスタを食べることはまずないんだぞ?」

 

「マジ?」

 

「あぁ。もともとイタリアでは前菜にパスタかスープが出るんだ。だから、どちらを選んでもいいようにスープとフォークが置いてあるだけなんだ。それを間違って両方使ったのがアメリカ人、真似をしたのが日本人だ」

 

「あんたって意外と物知りね」

 

「……どこか引っかかる物言いをしてくれるな」

 

「お互い様よ」

 

「お前のお茶だけ出がらしにするぞ?」

 

「コタツから引っ張り出すわよ?」

 

「…………」

 

コタツの力は強し。

ラウラは黙って鈴の湯飲みにお茶をついだのだった。

 

「そろそろ昼だな」

 

「昼ね。お腹減ったわ」

 

「イタリアンの話をしたら、ナポリタンが食べたくなった……」

 

「ナポリタンは日本の料理だけどね。あたしはミートスパゲッティが食べたいわ」

 

「鈴よ、君に決めた」

 

「勝手に決めるな。あんたが買いに行きなさいよ。あたしはミートスパゲッティ」

 

「……ここは王道のジャンケンで決めようじゃないか」

 

「望むところよ」

 

二人は右の拳を突き合わせた。

 

「「ジャンケン……ぽん!」」

 

鈴、グー。

ラウラ、チョキ。

 

勝者、凰 鈴音。

 

「ほら、早く行きなさいよ」

 

「…………」

 

「ほら」

 

「鈴! これは三回勝負だ!」

 

「はい却下。早よう、行け」

 

鈴はビシッと親指でドアをさした。

 

「……一人で二食は持てないぞ?」

 

「簡単よ。二往復しなさい」

 

「……くっ、悪魔め」

 

「悪魔じゃないわ。ただの勝者よ」

 

渋々、食堂へ向かうラウラを鈴は笑顔で手を振って見送った。

 

「あ、ラウラー。粉チーズ忘れないでねぇー」

 

「……了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

「美味かったな……」

 

「お腹いっぱいね」

 

「「…………」」

 

和やかな昼食が終わった刹那、笑顔だった二人の顔が険しくなり、目が光った。

 

「「最初はグー! ジャンケン、ぽん!」」

 

鈴、チョキ。

ラウラ、パー。

 

勝者、凰 鈴音。

 

「なぜだぁぁー!」

 

「甘いわね、コタツの神を味方につけたあたしに勝てると思ってるの?」

 

高笑いをしながら悔しがるラウラを見下す鈴。

 

「そのコタツの神をブン殴ってやりたい。そして、お前もブン殴ってやりたい」

 

「ふふふ、負け犬の遠吠えは見苦しいわよ」

 

「また二往復か?」

 

「もちろん。そうだ、帰りにアイス買っていていいわよ? はい、お金」

 

「……好きな物を買っていいのか?」

 

「どうぞー」

 

「待ってろ。すぐに買ってくる!」

 

ラウラは空いた皿が乗ったトレーを持つと食堂へと急いだ。

 

鈴が影でニヤリと黒い笑みを浮かべたことにラウラが気づくことはなかった。

 

「扱いやすいわねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて夕方。

 

「あけまして…おめでとうございます……と」

 

ケータイを開いているラウラに鈴は疑問を持った。

 

「何やってんのよ?」

 

「ん? あけおメールを打っているんだが?」

 

「その微妙な略し方はともかく、まだ早くない?」

 

「回線が混む前に送ってしまうんだ。ちょうど暇だからな。それに、新年のお祝いの言葉を元旦に送らなければならない、と誰が決めた?」

 

欧米ではクリスマスカードに新年を祝う言葉が書き添えられることが多く、日本の年賀状の役割も兼ね備えている。

まさに欧州人ならではの考え方だ。

 

「……あたしも今のうちに送っとこっと。ラウラ、ケータイ取って」

 

「ほれ」

 

「サンキュー。……でも、ちょっと抵抗感あるかも」

 

「なら、あけましたらおめでとう、と送ればいい」

 

「そっちの方がもっと抵抗感があるわ!」

 

結局、鈴もラウラに便乗しお祝いのメールを友人に一斉送信した。

 

「……おい」

 

「何よ?」

 

「私にまで送る必要があったのか? 目の前にいるのに」

 

「じゃあ、あんたは何であたしに送ってきたのよ」

 

「なんとなくだ」

 

「あたしもよ」

 

ラウラと鈴のケータイが同時にメールの着信を伝えた。

 

「教官からだ」

 

「あたしにもきたわ。……織斑家に7時に集合しろ、年越しのパーティーをする? へぇ、いいじゃない。だから小清水さん、買い出しに行ったのね」

 

「箒やセシリアも来るみたいだな。……よし、これで小清水さんの年越し蕎麦が食べられる」

 

「あんたは食べ物のことしか考えてないの?」

 

「失礼な。ちゃんとお前たちをどう出し抜くかも考えてるぞ」

 

「教えてくれてありがと。絶対にあんたから目を離さないわ」

 

「いや、鈴よ。気持ちは嬉しいが、私には一夏という嫁が……」

 

「意味が違うわよ!? 勘違いで振られるとか悲し過ぎる!」

 

「嫁と私の幸せを願ってくれ」

 

「だから違うわ! あんたに理解力は無いのか!」

 

「……思い人と二人っきりのお正月も悪くないな」

 

「あんた、もうドイツに帰りなさいよ。日本語が理解できないなら。ねぇ? 貨物室のファーストクラスを用意してあげるから」

 

「それはただの貨物室だろ。私を箱に押し込めるつもりか?」

 

「ご名答」

 

「丁重に断らせてもらおう」

 

「こう、グルグル巻にして……」

 

「だから、丁重に断らせてもらおう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴、早く仕度をしないと間に合わないぞ?」

 

ラウラが制服の上着を羽織り、ネクタイを締めながらコタツから立ち上がった。

 

「……コタツから出る勇気がない」

 

鈴がコタツの掛け布団に顔を埋めるのを見てラウラは少し呆れてしまう。

 

「お前、さっきはコタツの神とか言っていたが、コタツの魔物に呪われたんじゃないのか?」

 

「ん〜」

 

「まったく手のかかる奴だ。ほら、出ろ」

 

ラウラは布団に顔を埋めながら渋る鈴の腕をつかんで勢いよくコタツから引っ張り出した。

 

「あたしの生命力が半減したわ……」

 

「安心しろ。人間はこんなことでは死なん。馬鹿を言っていないで仕度をしろ」

 

「分かったわよ」

 

鈴は素早く身なりを整えてラウラの待っているドアへと向かう。

 

「初詣も行くんだっけ? あんたは来年の抱負はもう考えたの?」

 

マフラーを首に巻きながら鈴が言った。

 

「もちろんだ。子宝祈願をせねばならん。抱負は一夏と子を作ることだな」

 

「……あたしは今、考えたわ。あんたを少しでもまともにすることよ」

 

「私はとってもまともだ」

 

「どうだか……」

 

「まったく、お前は。……来年も良い年だといいな」

 

「そうねぇ」

 

「鈴」

 

「ん?」

 

「また、よろしく頼む」

 

「こちらこそよろしくね」

 

「うむ」

 

そう言って二人は電気を消して部屋を後にしたのだった。

 

 

 

来年も良い年でありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編とはまったく関係ありません(^^;;

それでは、皆さん良いお年を!

ではでは〜
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