「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。   作:よし

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お久しぶりでございます。


32話(仮)

 臨海学校へと向かう車中。

 鈴の隣で海を見たラウラが叫んだ。

 

「海だー!!」

 

「……元気ねぇ」

 

「海を見たらこれが定番だろう。無理やり捻り出しているのだ」

 

「やめなさいよ。嫌なら……」

 

「別に嫌ではないが……。お前は普通過ぎるだろう。何か、こう、少しでもいいからテンションを上げたらどうだ? というか無理やりにでも上げて私のテンションと合わせろ。私が寂しいだろ、私が浮くだろ」

 

「結局楽しんでんじゃないのよ。あんた、最近いろいろとキてわね。第一、この歳で海を見てもテンションなんか上がらないわよ」

 

「海を見たことがあるのか?」

 

「小さい頃にね」

 

「お前に今より小さい頃があったのか」

 

「バスから叩き落すわよ?」

 

「海だ〜♪ 海だ〜♪」

 

「走ってきなさいよ。ねぇ? ねぇ?」

 

「怒ると小じわが増えるらしいぞ? 私は友達としてお前がババアになるのには耐えられん」

 

「あんたが怒らしてるんでしょうが! 友達としてマジでバスから叩き落すわよ!?」

 

「まぁ落ち着け。ほら、飴ちゃんをあげよう」

 

「いらないわよ」

 

「ほら、飴ちゃんをあげよう」

 

「何で二回言ったのよ」

 

「人の行為をにする無下にする奴は嫌われるぞ。特に飴ちゃんをもらうときはな」

 

「飴にどんな思い入れがあんのよ、あんたは。それと飴ちゃんて言うんじゃないわよ。大阪人かあんたは」

 

「……飴くんをあげよう」

 

「言い方変えればいいってわけじゃないのよ?」

 

「それはさておきだな」

 

「勝手におくんじゃないわよ」

 

「飴ちゃんの好意を無下にする奴は……」

 

「誰だそれは」

 

「嫌われるぞ?」

 

「誰によ」

 

「一夏に」

 

「あんたの匙加減じゃないのよ。……ちょっとショックだからそういうこと言うんじゃないわよ」

 

「ミニショック?」

 

「ミニストップみたいに言うな」

 

「とにかく飴ちゃんをやるぞ」

 

「いい加減にそこは曲げろよ。飴!」

 

「ちゃん!」

 

「ちゃん、言うな!」

 

「「…………」」

 

「……受け取れ」

 

「だからいらないわよ! というか普通はイライラしてるときにはカルシュウムでしょうが」

 

「お前が朝昼晩、牛乳を飲んでいるのを私は知っているぞ? だから甘いものにしてやったのだ」

 

「いや、言わなくていいから」

 

「お前が無い胸を気にして朝昼晩、牛乳を飲んでいるのを私は知っているぞ?」

 

「だから言うんじゃねぇよ!!」

 

「健気な奴だと思ったぞ」

 

「誰が感想まで付けろっつったぁぁぁぁぁ!!!」

 

「まったく気を使ってやった私に逆ギレとは。はぁ〜」

 

「殴っていい? ねぇ殴らせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか、博士?」

 

「うぅ……死ぬぅ……人類の宝が死んでしまうぅ……」

 

「だいぶ参られているようです」

 

「…………」

 

「相変わらず乗り物に弱いですね」

 

 額に濡れタオルを乗せた三夏に杉山が声をかけるがまったく反応がない。

 そんな様子に杉山は少し呆れぎみにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですの?」

 

「……大丈夫。何も問題ない。……うぷっ…おぇ……」

 

「問題ありですわね」

 

 セシリアの隣では一夏が顔を青くして座席にうなだれていた。

 

「……ISを展開すればバスに酔うこともない」

 

「はいはい。ほら、お水ですわよ、お馬鹿さん」

 

「……誰が馬鹿だ! うっ!」

 

「あぁ、もう! 何を大きな声を出しているんですの!? 大人しくしていないとリバースしますわよ!」

 

「うぅ〜。バスなんて嫌いだぁ……バスなんて嫌いだぁ……」

 

「ふふ、まったく。いい絵ですわ」

 

 さすがのセシリアも弱っている相手に牙をむくことはないようだが、それを見るのは楽しいらしい。

 

「……ドロップでも舐めたらどうですの?」

 

 人は優越感に浸ると変に優しくなるそうだ。例えば自分よりテストの点数が低い相手に、無責任な励ましをしたりする。

 今のセシリアはまさにそうだ。一夏はそれが気に入らなかった。

 

「昭和か。今はキャンディーの時代だろう、英国人」

 

「キャンディーもドロップも同じですわ。正確に言えばドロップはキャンディーの一種です」

 

「誰が正確な違いなど聞いた。俺が言ってるのはニュアンスの違いだ。ドロップは古臭い、キャンディーは今どき」

 

「あなたの勝手な考えを押し付けないでくださるかしら?」

 

「ついでに言うが俺はチュッパチャプスのプリン味以外はいらない」

 

「……なら、私だけいただきますわ」

 

 セシリアは瓶から綺麗な赤い色をしたモノを取り出して口に含んだ。

 それを見ていた一夏が顔をしかめる。

 

「よりにもよって赤い色を選んだのか」

 

「何ですの?」

 

「世の中には聞かない方が幸せなこともある。それでも聞くのか?」

 

「回りくどい言い方は嫌いですわ。早くお言いなさいな」

 

「……赤色の着色料は虫から抽出した原料を使ったものがあるそうだ。ま、その飴に使われているかは知らないけど」

 

「…………」

 

「ちなみにこれが写真だ」

 

 小さな黒い虫が何匹も密集した写真を一夏が表示した。

 色素だけなら何の問題もない。

 だが、それが口の中に入っていると思うと……

 

「うっ……」

 

 人間とは想像力豊かな生き物である。だんだんとセシリアの顔から血の気が引いてゆく。

 一夏は弱々しくも勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 ちなみに色素の名前はコチニールと言うのだが、コチニールカイガラムシのメスから精製される天然色素のため、そこらで作られた人工色素よりも安全なのだそうだ。

 

「吐くなよ? まさか淑女であるセシリアお嬢様は一度口に入れたものを出したりはしないよなぁ? ……あ、ヤバい……口が塩っぱくなってきた……」

 

「あ、あなたという人は……」

 

「俺を馬鹿呼ばわりした報いを受けるがいい……」

 

「お、覚えてらっしゃい」

 

 

「「うぷっ……気持ち悪い……」」

 

 

 どこか残念な美少女と美少年の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒はなぜか眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。

 

「どうしたの?」

 

 シャルロットに言われてハッと我に返る。

 

「いや、そのだな……」

 

「うん」

 

「水着を新しく買ったんだが……」

 

「うん。一緒に買いに行ったから知ってるよ?」

 

 シャルロットは優しく箒の言葉を聞いた。

 

「あぁ。それでぇ……」

 

「あ、分かった。一夏に見せるのが恥ずかしいんでしょ?」

 

「……そうです」

 

 箒は顔を赤くして素直に認めた。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと似合ってたから。自信を持って!」

 

「そ、そうだな。自信を持たなくてはな!」

 

「うん」

 

 これは嘘ではない。だが、箒の不安は他にもあった、姉である束のことだ。だが、彼女がそれを口にすることはなかった。

 

 元気が出た箒を見てシャルロットが微笑んでいると、後ろの座席からいきなり影が飛び出してきた。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン」

 

「うわ!? ら、ラウラ……」

 

「というわけでお前たちにこれをやろう!」

 

 何が、というわけ、なのだろうと二人は思ったが、あえて口にはしなかった。

 

「「あ、飴?」」

 

「うむ。飴ちゃんだ」

 

「「ちゃん?」」

 

「ではな」

 

 そう言ってラウラは後ろの座席へと引っ込んでいった。

 二人の手には飴玉が一つ。

 それはとても綺麗な赤だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスが到着したのは、立派な温泉旅館だった。数台のバスからは生徒たちがわらわらと出て整列している。

 

「ようこそおこしくださいました」

 

和服姿がよく似合う美人、清洲景子が生徒一行を女中たちとともに迎えた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

千冬が代表で挨拶する。毎年、お世話になっているため顔見知りのようだった。

 

「あの、申し訳ないのですが……」

 

二人の中に小清水が割って入った。

 

「博士をお部屋にお連れしたいのですが……。バスの酔いに当てられたようでして」

 

ぐったりとした三夏を小清水が支える。

 

「だらしがないぞ、兄さん」

 

「やかましい。私は君と違って繊細なのだ……」

 

「あらあら。こちらへどうぞ」

 

「……五つ星ホテルが良かったのですが、それに準ずるサービスを期待しています」

 

「ご期待に添えるように努力させていただきます」

 

三夏と小清水は女中の一人に案内されて一足先に旅館へと向かった。

 

「千冬姉、俺も駄目だ……」

 

「お前は我慢しろ」

 

「今すぐここでブチまけていいのなら我慢する」

 

「はぁ……分かった。行っていいぞ」

 

「ありがとう、千冬姉。……女将さん、今回はよろしくお願いします。至れり尽くせりのおもてなしを心から期待しています」

 

「はい。かしこまりました」

 

一夏も少し顔色の悪いセシリアに付き添われながら三夏のあとに続いた。

ついでに言ってしまえば織斑ファミリーの部屋は別館で一般生徒より数段ランクが上だ。

それだけは三夏が頑なに譲らなかった。

 

「父と弟がすいません」

 

「あちらが噂の?」

 

「えぇ」

 

「よく似た方たちですね」

 

「……はい」

 

「それでは、みなさんもお部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館でお着替えください。分からないことがありましたらいつでも私どもに聞いてくださいまし」

 

千冬が生徒に向き直った。

 

「よし、各自部屋に行っていいぞ。本日は終日自由時間とするが、明日からはISのデータを取るから準備をしておくように」

 

次話へ続く。

 




お久しぶりでございます。
以前の更新から早や6年がたってしまいました。
今回は当時の書き掛けていた次話とともに近況報告というか生存報告というか……言い訳をご報告しようと思います。
6年近く前のものなので、拙い文章ではありますが汗

長い間更新できず申し訳ございませんでした。
更新できなかった大きな理由はありません。
年齢を重ねるにつれて、書くこと以外に時間を割かなければならなくなり、書こう書こうと思いつつ、段々とこの作品への時間、それ以上に創作活動へのを取らなくなっておりました。
リハビリ的に何作か別の小説を書いてみましたが、やはり中途半端になってしまいました。

中高大と進み、すっかりサラリーマンをしている現在ですが、ある人の創作活動へのお手伝いをすることとなり、二次創作ではなくオリジナルの小説の制作に関わっております。

そこで、二次創作ではありますが、中途半端になっていたこの作品をしっかり完結させたいと思います。
本来であればこの作品はアニメ第一期の最終回あたりで完結させる予定でした。
本当にあと数話といったところで、更新を止めてしまい申し訳ございませんでした。

再びこうした活動に関われるようになった中で、半年に1話、1年に1話のペースになってしまうかもしれませんが、可能な限り完結に向けて執筆していければと考えております。
※オリジナルの小説の活動との関係で、再度凍結になってしまうこともあるかもしれませんが、出来る限り頑張っていきます。

もし当時読んでいただいていた方がいらっしゃれば、こんな作品あったなぁと懐かしさを感じていただければ幸いでございます。

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