「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
「博士、社長命令が」
自宅のソファーでまったく上達しないヴァイオリンを弾いていた三夏に杉山が書類を手にして話しかける。
「もう田舎には行かんぞ!もうまっぴらだ私が行ける場所は二つだけだ一つは文明が発達しているところもう一つは洋式便所が設備されているところだけだ!何だあのまさに屈辱的な体位は!俗に言ううんこ座りだぞ!二度と行かない本当に行かない!だいたいなんであの絶滅種が今だに存在しているんだ和式便所の保護区なのか!?あそこは!」
ヴァイオリンの弓で杉山を指す三夏。杉山は眉間にシワを寄せて弓を手で弾いて退かした。
「違いますよ。博士にぜひアドバイザーになって欲しい方がいるそうです」
「誰だそれは私はめんどくさいことはしたくない」
「だから社長命令です」
「…………」
動く気はない三夏。
「特別手当が出るそうです」
「早速出かける準備だ!杉山君急ぎたまえ」
金と聞き壁にかけられていた白衣を手に取ると一目散に玄関を目指していった。
「はぁ……」
首相官邸。
「や、やっぱり緊張しますね」
「ふん、頼られているのは君じゃなくて私だ君は薄い影のように私の後ろにいればいい」
三夏はそう言って白衣のシワを整えると後ろで手を組み堂々と警備の警官が開けた門をくぐっていったのだった。
「君が織斑三夏君か……」
「私を知っているとは光栄です」
「君の会社の社長と私は仲が良くてね。君を紹介してくれたのも彼だ」
「それはそれは……」
威圧感を出した中年の男性が高級革の椅子に踏ん反り返っていた。
「まどろっこしい話は抜きにしよう。君は最近の政治状況を知っているかね?」
「えぇ女が台頭し男性政治家の数が激減するでしょうねぇそしてあなたも次の選挙で総理の椅子を下ろされ晴れて一介の中年男性になるでしょうお気の毒に」
総理は不機嫌を通り越し激怒したように机を拳で叩いた。
「すべてはあのISという兵器が原因なのだ!あれさえ無ければ…こんな不条理な世の中にはならなかった!!」
「心中お察し申し上げます確かにあのISが登場してからは極端な女尊男卑になりつつありますね男尊女卑よりはるかに酷い男が女に奴隷にされてしまう屈辱的な日も近いでしょう」
「そこで君に相談がある」
「何でしょう」
「ISを地上から消し去る手はないか?」
「それは国を案じた総理としての願いですか?屈辱的に耐えかねた男性としての願いですか?」
「それは君が察したまえ天才なのだろう?」
その一言に三夏は黙りしばらくして笑い出した。杉山は黙って二人のやり取りに耳を傾けていた。
「我が社への依頼料は高いですよ?」
「3億出そう。そして君、個人にも礼として1億出すどうだね?」
「結構!」
三夏は総理に近寄ると机の角に腰を下ろした。かなり失礼な態度だがパートナーになった今、総理はそれを咎めなかった。
「あなたが総理の椅子にとどまるのは現段階でまず無理でしょう女の台頭も止められはしない」
「だからISを……」
「総理、一度考え方を変えましょ押してダメなら引いてみろですよプロセスを根本から変えるんですこれは日本を国際的に高位に立たせるチャンスだまずはISを容認するんです」
「そんなことをすればますます!」
「そうすれば各国は技術を欲しISの情報公開とISの提供を求めてくるでしょう絶対にねそして世界中で女尊男卑は加速する」
「…………」
「あなたの仕事はここからですよぉ篠ノ之束を拘束しすべてのISを押収するんですそして日本政府の所有物にすればいい後は簡単です適当に条約でも結んでISは日本のモノだと何重にもオブラートで包んでこっそり書きいれてしまいなさいあれだけの技術を各国のバカ学者が研究したところで吸収できるワケがありません。さてこれで日本は安泰だあなたは満足げに総理を辞めればいい」
「だ、だが……」
「ご心配なく女は政治には不向きだそれは歴史が物語っているどんなときでも世界を動かしてきたのは男の思考力なんですよ。国民は女の政治家を総理大臣を選ぶでしょうその結果女というアドバンテージだけで当選した何もできない無能な政治家が増えるんだそしてそれを選んだ同じ国民が嘆くんだやっぱり女では無理だったと!どんなに頑張ったところで女尊男卑は所詮短命でしょう」
「だがISという根本がある限り!」
「私が責任を持って対処いたしましょう」
「なぜそんなことを、今すぐにでも私は……」
「総理…あなたは鬱憤が溜まっておられる発散しないと体に毒ですよぉ?愚かな女どもが落ちぶれていく様を高みの見物してみたらどうです?南の島でバカンスでもして今までの疲れを癒しながらね」
「…………」
「我が社の所有する島をお貸ししますよ。そして日本の国益を守ったあなたを国民は支持し再び総理の椅子に返り咲く…どうです?」
「……やはり君は策士の才能もあるようだな。いいだろう成功すれば2億だ。1億は前金として受け取りたまえ」
「うほほぉうほほぉー1億もらっちゃったーもらっちゃったもんねー何買おっかなークルザー?ヘリ?いやいやもう一軒家を建てちゃおっかなぁーひゃっほーー!!」
華麗なステップを踏み腰を振りながら意味不明なダンスを踊る三夏。
その後ろを歩く杉山の表情はすぐれなかった。
誰が見ても分かるほど暗い顔をしている。
「……全部計画のうちですか?」
「さぁねー私はくれるといったものを受け取っただけだもーん」
「それに信じられません!なんですか!あれが一国を束ねる代表の姿ですか!?卑怯で傲慢で!!こんな不正までして……」
帰り道、今まで黙っていた不満を杉山は爆発させていた。
「これはビジネスだ相手は我々に金を払い要求したモノを手にいれて満足し我々は貯金通帳をうるおす。いいか覚えておきたまえ権力者の傲慢は謙虚となり不正は正当となるのだ」
「それじゃあ正義っていったい何なんですか……」
「愚問だねぇー正義の定義とは『金で買えるモノ』『考え方、立場によって様々に変化するモノ』だいい加減学習しろこの世はお前が思うような綺麗なものではないそもそも正義なんて言葉は己を正当化するための飾りに過ぎないのだよ」
「…………」
「だいたい女になんて政治が務まるはずがないだろあのXXという男の染色体に一本付け加えられた棒の中にはヒステリックと女々しさが押し込められているんだ!」
「女々しさは男にしか使いません!」
「ならなぜあんな漢字を宛てるんだ?女を二つ書いてめめしいと読むんだぞ」
「知りませんよ!それに女性にも優秀な方はたくさんいます!」
「ほーあの結論から話さず仮定から話し人前でヒソヒソ話をして自分の価値観が正しいと信じて疑わない愚かな群体のどぉこぉがぁ優秀だと言うんだ聞いて呆れるねぇ」
「そんなの屁理屈です!!」
「だが筋は通ってる」
「きーー!!」
「おめでとー!!!!」
織斑家の天井には手作りのアーチが飾られ優勝おめでとう!!と書かれた幕が飾られている。
クラッカーの音が響き小清水がテーブルにご馳走を並べる。
優勝し帰宅した千冬を待っていたのは家族の温かい声だった。
一夏と杉山が千冬へ花束を渡す。
それを嬉しそうに受け取る千冬。
だが一人だけむくれ面の人物がいた。
「なぁぜぇ私の家で優勝パーティをする必要があるどこかレストランを貸し切ればいいだろう」
「いいじゃないですか!ほら博士も何か言ってあげてくださいよ」
「賞金の金額を詳細に私に教えたまえ」
「もー!!何でお金のことしか言えないんですか!最低!」
「これが私だからですよぉー?君に私のアイデンティティを否定する権利などない!この純粋無垢なお子ちゃま娘め反吐が出そうだ、おぇー」
「あぁそうですか!どぉーせ私はお子様ですよぉーだ。べー」
「お前は近所のクソガキと同レベルかまったくそれで成人しているとは…20歳になったら自動的に成人ではなく成人試験を設けるべきだ君のようなお子ちゃまは一生成人などできないだろうなぁーははははーー」
「ムカつくー!!」
「さぁさぁみなさんお召し上がりください」
小清水が台車の上に乗せた肉の塊を切り分ける。
「私自慢のローストビーフでございます」
「す、すごい……」
千冬は関心したように言った。
「ははは、昔スイスのホテルで料理人をしていたことがありまして……なに、たわいもない取り柄でございます」
そう言って笑う小清水。
「あ、あの……」
「何でしょう?」
「料理を教えてくれませんか?」
「いやいや私には……」
「お願いします!料理を覚えたいんです」
真剣な千冬の瞳。
「分かりました。こんな私でよければご指導いたしましょう」
「ありがとうございます!」
「俺も千冬姉みたいに強くなりたい!剣道やりに箒ちゃん家に行く!!」
ローストビーフを頬張りながら一夏が突然宣言した。
「竹を振り回すあれか?それに箒ちゃんとはいったい誰だ?」
「あ、私が説明しよう。篠ノ之箒という娘だ。そこの実家が道場を営んでいるんだよ。私も世話になってる」
「篠ノ之……?」
聞き覚えのある苗字に三夏がピクリと反応した。
「そう。束の妹だよ兄さん」
千冬は不安そうに言った。三夏のことだこれを知ればどんなことを言い出すのやら…と千冬は案じていた。
だが三夏は意外にも何も言わなかった。
珍しいこともあるものだと千冬は驚く。
「まぁいいだろう好きにしたまえところでその箒ちゃんとは友達か?」
「うん!とっても強いんだ!」
「……今を楽しめよ少年」
三夏は一言だけ静かにそう言ったのだった。
「?」
その言葉を一夏は理解できなかった。
しかし4年後に一夏は嫌でも理解することとなった。
仲の良かった幼馴染は政府の要人保護プログラムによって遠くへと引っ越していってしまったのだった。
それは一夏が小学4年生の出来事だった。
「「「「お邪魔しまーす!!」」」」
織斑さん家に元気のいい声が響く。中学生になった一夏の友人たちだ。みな手にはギターやベースなどの楽器やアンプを持っている。
一夏のバンド仲間だ。
凰鈴音、五反田弾、御手洗数馬の三人だ。
鈴は楽器は弾かないが三人の演奏を評価したりしている。
「これはこれは、いらっしゃいませ」
「ただいま、小清水さん」
「後でお菓子をご用意いたしますよ」
「「「いつもご馳走様です」」」
「いやいや」
そして三人は一夏の部屋で練習を開始した。
「そろそろ終わるか〜。もう手が痛い」
弾の言葉を合図に一夏と数馬も楽器を下ろした。
「小清水さんがお菓子を用意してくれてるだろうからそろそろ下に行くか」
「今日は何かなー楽しみだ」
数馬が笑いながら言う。
「ところで一夏の父親って会ったことないわよね」
ふと鈴が今まで感じていた疑問を口にした。
「あー確かに……」
「げっ……あ、会いたいの?」
「あたしは興味あるわ」
「「同じく!」」
「か、帰りは8時ごろって言ってたような……」
「マジかよ…俺、帰らなきゃいけないや」
「俺も。食堂を手伝わないまといけない」
弾と数馬は断念したようだったが鈴は違った。
「いいわよあたしは。家に連絡すれば問題ないわ」
「は、ははは……」
「何度言ったら分かるんだ!一度ありったけの貴金属を身につけて大雨の日にハシゴに登って出初め式でもやるといい落雷で少しはマシになるだろう」
「私が言ったこと間違ってますか!?」
「間違ってない正論そのものだ。だがそれが通用するのは教科書の中かおとぎの国かのどちらかだ社会的にそれは間違ってると言うんだよ!!」
「それこそ間違いです!歪んでます!」
「だから君はアッパラパーだというんだ朝ドラぁ」
「私は私の技術が間違われて使われないように!!」
「だからその考えがバカだというんだ私たちは化学を造るだけでいいその後のことなど知らないねかの大天才アインシュタインも私から言わせればただの愚か者だ何を悔やむ必要があったあの方式のおかげで戦争は終結したんだぞ」
「何百万という人の命が奪われたことにアインシュタイン氏は嘆いていました!」
「街中で人を殺したらただの殺人者だが戦争で敵国の何百万という人間を殺したらそれはもはや英雄だ!!」
「うーー!!分からずや!!」
「どっちがだ私はそれが自然だと言っているだけだ」
「違うもん!」
「いいや違わないね!」
一夏には慣れてしまった日常そのものだが鈴には違ったようでぽかんとしてしまっていた。
そしてようやく口を開いた。
「なんていうか…すごい人ね……」
「は、はは…だろ?」