「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
あまりの驚きに固まってしまっていた千冬だったがなんとか言葉を発する。
「に、兄さん?」
「他に誰に見える?クラリッサ君ご苦労だった下がってよし」
「はっ失礼いたします」
そう言われクラリッサは一礼して退室していった。
ドアの閉まる音がして部屋の中には千冬と三夏だけが残される。
「何で兄さんが…それに顧問って……戦闘指導ができるのか?」
「できるわけないだろ私はあんな野蛮なモノはつかえなぁーい。何のために君が呼ばれたと思ってるんだ?私の仕事は彼女たちのメンテナンスだよ君も知っているだろう?彼女たちが試験管ベイビーだということを」
「まさかその技術を提供したのは……」
「そう我が社だそして彼女たちは我が社自慢の最高傑作になるはずだった失敗作たちなのだよ」
「は?」
千冬は意味が分からなかった。実際に彼女たちは誕生しドイツ軍の即戦力となっている。どこが失敗作なのだろうか。
「先ほどの隊員の名前を知っているか?識別番号0032だ」
「クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ」
千冬は当然のように答える。
すでに彼女は部隊の名簿に目を通しすべての隊員の名前を記憶していた。
「そうクラリッサ・ハルフォーフだ。それが彼女たちが失敗作の理由だよ」
「?」
「名前だよ。彼女たちに個は存在しない自我は存在してはならないなぜなら彼女たちは兵器として産まれた消耗品だからだ。だが違った彼女たちは自分たちに名前を付け識別番号を捨てたそれは自我の発生だ自我は意思となり意思は生命への執着を生み死への恐れを生むこれでは兵器としては成り立たない彼女たちはその他の兵器と同じくモノでなければならなかったのだよ例えばミサイルや銃が意思や感情を持ち人を殺したくないからもう使われたくないと反抗してくるなんてバカな話しはないだろ?笑えないし面白くもない兵器は命の尊さなど考えてはならない。なぜなら兵器は命を奪うのが仕事なのだから」
「…………」
「我が社は破棄を勧めたがドイツ軍上層部はそれを受け入れなかったこの計画に大金を出してるんだ当たり前だろう。そこで何とか元を取る方法を考えたその答えが君だよブリュンヒルデ」
「!?」
「この一年で彼女たちに君の持つ技術のすべてを叩き込んでもらいたい。こちらもできる限りのサポートはするつもりだすでに彼女たちには少し手を加えさせてもらった」
「手を加えた?」
「あぁ瞳にちょっとね」
「でも彼女たちは人間だ」
「……いいだろうついて来たまえ」
三夏は突然立ち上がると部屋から千冬を連れ出した。
そして地下へと続くエレベーターに乗り込んむと三夏はレベル5つまり軍の最重要機密が管理されている階のボタンを押した。
そこを見ることができるのは将官の階級を持っている者の中でも一握りしかいない。
エレベーターは目的の階に数分で到着した。
三夏に続いてエレベーターから出た千冬が目にしたのはずらりと並べられた人間がすっぽり入るサイズの培養器の数々だった。
異様な空気が漂う。あまりの禍々しい風景に千冬は顔をしかめた。
「兄さん……ここは?」
「見たとおりだ母なる部屋だよ一度に300の個体を製造することができる。私は別に彼女たちが人間として生きて行くことを否定するつもりは毛頭ない。ただこれが現実だ彼女たちを指導する君には見せておこうと思ってね」
まさにそこは生命を冒涜し神をこの世の理を恐れぬ愚かな人間の罪の結晶のように千冬には思えた。
「本来ならば君はこの部屋の存在を知らない他の者も同じだこれからもそうであることを願うよ」
「…………」
三夏はそう忠告と口止めをしたあとにその場から離れていった。
千冬はしばらく何も言わずそこにある人間が創り出した負の闇を見続けていたのだった。そのとき彼女は何を思い何を考えていたのだろうか。
それを知ることができるのは彼女自身しかいない。
「で、あんな話をした後になぜこんな場所に?」
夜はどこでも変わらないその風景も国が違おうが変わらない。
街のクラブで千冬は三夏と酒を飲んでいた。
洒落っ気の強いクラブで、働いている女性たちも背中や胸元大きく空いたドレスを着ている。
高級店のようで客はスーツに身を包んだ男性たちだ。
その一方では高価な貴金属をジャラジャラと身につけた女性たちもまた男性の給仕を侍らせている。
「ん?何の話だっけ?あぁ次そこのサクランボちょうだい…あーん。んふふダンケ。今度ぜひ二人きりで食事でもしませんか?」
ホステスの肩を抱いて注文したフルーツを食べさせてもらっている三夏。ご満悦の表情でチップをホステスの胸元に押し込めた。
そんな三夏の様子を不快そうに見る軍服姿の千冬。
「ところで何でそんな格好してるんだ?用意したドレスはどうした?」
「あんなモノ着れるはずないだろ!!」
三夏が用意したのはこの店のホステスよろしく胸元がポッカリと空いた漆黒のパーティードレスだった。
「なぁーんだつまんなぁーい」
「私は帰る!!」
「待ちたまえ」
立ち上がった千冬を三夏は引き止めた。そしてホステスを返して千冬と二人になる。
「せっかくだからいろいろと教えてあげようと思ってねぇ君ももう20だ知っておいて損にはならないだろうむしろ知っておかないと損をする」
千冬は疑いながらも席に座り直した。
「この状況を見てどう思う?」
「不快だ」
「ちっがぁーうそう言うことじゃなぁーい!」
期待外れの言葉だったのか三夏が怒ったように言う。
「ならなんだと言うんだ!」
「この場所に女尊男卑がはびこっていると思うか?」
「あ……」
そう言われ千冬は辺りを見回した。
そこには楽しそうに酒を飲む男女の姿。
「そう少なくともこの場において女尊男卑は存在しないそして男尊女卑も。今この場所は限りなく平等なのだよ恐ろしいくらいに」
「…………」
「真の意味での平等とはこの世に存在しない存在することはあり得ない。なぁぜぇなぁらぁその真の平等を手にするためには我々は今まで努力し積み重ねてきた財産を文化を知識をすべてを放棄して約16,500年前の縄文時代に戻るしかない。偽善者の金持ちや社会主義者が振りかざす平等とは欲にまみれた幻想でしかない社会主義では必ず権力者が現れるし奴らは財産を手放すことは絶対にしない。ならこの場の均衡を保っているモノは何だと思う?それは金だよこの場の客の全員が金持ちなんだ。結局金の無い人間は男女問わず虐げられる」
「……なるほど」
「別に富豪になれとは言わないが世の中の仕組みは知っておくべきだろ?」
「あぁ覚えておくよ。ありが「おぉあの娘の…Dカップか!ぜひ呼ぼう、おい指名だ!早く!」……最低……」
こうしてドイツの夜は更けていったのだつだ。
フランス。
ドイツでの仕事を終えた三夏は千冬と別れてそのままフランスへとやって来た。
この日はインペリアル・コーポレーション・フランス支社とデュノア社との会合が開かれる。
三夏は会議には出席せずにデュノアのIS技術の視察が仕事だった。
ISコアは日本政府からインペリアル・コーポレーションが一括管理する委託を受けている。
そして各国の会社や政府への貸し出しを行っているのだがその中の一つであるフランスのデュノア社が業績不振に陥っているのである。
その原因を探り最悪の場合はISコアを回収する、それが今回の会合の中身である。
何としてもISを奪われたくないデュノア社の研究員は必死に三夏にあれこれと説明しているが悲しいことに三夏の耳には届いていないようだ。
三夏は勝手にあちこち見て回っていた。
「残念ながらフランスの技術は先進国の日独米英より4年ほど劣っていると考えられますさらにロシアや中国にも負けているようですしこれではお話しになりません。よってISの即時回収をオススメしますいやぁ実に心苦しいデュノアさんご愁傷様です私が調査した限りでの報告は以上です」
「うむ。ご苦労だった博士」
三夏はたんたんと報告書の内容を語る。
デュノアの社員は次第に顔を青くさせインペリアル・コーポレーションやフランス政府の役人たちは眉間にシワを寄せて難しい顔になっている。
「デュノア社長。大変申し訳ないが御社との契約の継続は…………」
「ま、待ってください!このとおりです!!何としても技術の向上に務めます!ですからもう一度チャンスを!なにとぞ!」
ISが無くなれば自動的にフランス政府からの援助も打ち切られ会社は風前の灯となってしまう。
そね一言がインペリアル・コーポレーションの重役の口から発せられないようにデュノア社長は頭をテーブルに擦り付けながら必死に下げている。
その様子をまるで興味がなさそうに眺めている三夏。
飽きたのか部屋を物色するように回りはじめた。
「どーにもならないと思いますよー寝言は寝てからおっしゃった方がよろしいですよいやぁそれにしてもいい趣味をしてらっしゃる」
三夏は社長室にあるブランデーを品定めして勝手にグラスに注ぎながらそう言った。
「分かりました…3年です。それだけは猶予を与えましょう。それ以上はありませんよ?」
インペリアル・コーポレーションの重役がため息をつきながら言う。
「は、はい」
「では、我々政府のからの援助もその時期をメドに改めて検討させてもらいます。今回は以上にしましょう」
そう言ってデュノアを残し一同は退室していった。
「くだらない会議も終わったことだしさぁバカンスだー待ってろアルプス!今行くぞー!ふははははははーー」
「素晴らしい景色だ!
雪景色を見ながらカクテルを味わっていた三夏は美人を見つけつ思わず叫んだ。黒髪、どうやら日本人のようだ。
三夏はその美女の元まで急ぐとすれ違いざまにわざと肩をぶつけた。
「きゃっ」
「これはお嬢さん実に申し訳ないお詫びといってはなぁんでぇすぅがぁこのホテル自慢のシェフのスペシャルディナーを振る舞わせてください!フォアグラのチーズフォンデュそしてまるで野沢菜のおやきのようなクレープが絶品ですよろしいですね!」
「は、はぁ……」
戸惑う美人。
「ムッシュ織斑」
そこへ支配人であろう男性がやって来た。
「はい?」
「杉山様という方からお電話が」
「私はいません今後は繋がなくて結構です着信拒否にしておいてください!失礼しましたさぁ行きましょうか美しいお嬢さん!!」
2日後。
「いててぇ…昨夜あなたに踏みつけられた私の足が腫れも惹かずまだ痛みもあるので治療費と慰謝料を要求したいんですが!」
ホテルのロビーで松葉杖をついた痛々しい姿の三夏があの美人に食ってかかる。
「わいせつ行為を強要したことに対する正当防衛です」
「二日連続で部屋にまで来てシャトーマルゴー四本空けておきながらその気が無かったという戯言は通用しないとおもいますがぁぁ?」
「よく言えますね。そっちから散々勧めておいて」
「きぃみぃはこの私が誰だか分かっていないだろぉ?私はな!」
「分かってますよ。お金で何でもできると思ってる勘違い野郎よ!」
「君は男を漁りに来たくせに上等な男を見極めることもできない勘違い女だ!自分がどれだけ綺麗だと思ってる私に言わせれば顔は60点!体は40点!その他を合わせた総合点では平均以下だオマケに性格は私が出会った女性の中でワースト一位だおめでとぉぉぉ!!」
三夏がそこまで言ったところで美人は立ち上がると思いっきり腫れの惹かない足を再び踏みつけた。
「
三夏は激痛のあまりソファーに倒れこんだ。
「あーら、ごめんなさい」
三夏を見下ろしながら美人が悪びれた様子もなく吐き捨てるように言う。
「まぁたぁ同じところを!!訴えてやる!!」
美人はそのまま三夏を無視してホテルから出かけて行ったのだった。
「ちっ…レディなフレンチガールに切り替えよう」
「何馬鹿なことやってるんですか?」
聞き慣れた声に三夏の動きが止まった。
「まさかそんなはずはないこれは悪夢か?よく似たガニ股のフランス人だと信じよう」
「ボンジュール博士。電話が繋がらなかったので直接お迎えに来ました」
「嫌だね私はまだ美人なフレンチガールとイチャつかなければならないという使命があるのだ!!お前はクビだ!さっさと帰りたまえ」
「社長命令です」
「いったい何をするというんだ!私じゃなくてもいいだろ!毎回毎回!何だ!?何か私に恨みでもあるのか!?そんな憶えはまったくないぞ!!」
杉山はしれっとした顔で書類を手渡した。
「戻らなければ減給だそうです」
「…………」
三夏は杉山に引きずられながら
「最悪だ!!」
そう叫んだのだった。
一話で海外編が終わってしまった……orz
あ、今更ながらISの新刊が発売されましたね!!
いやぁ良かった良かった。
後書きを読みましたがイズル先生も相変わらずお元気なようで……(汗)
うん、これからも元気に頑張ってください!w