「凍結中」織斑さん家の奇妙な共同生活。 作:よし
「……一睡もできなかった。痛い痛い痛い関節が痛い…」
布団で丸くなった三夏から悲痛な小さな叫びが聞こえてくる。
「兄さん起きろ。朝飯が食べれなくなるぞ」
すでに着替え終わっている千冬が、三夏を起こしにかかる。
「まだ8時じゃないかー。それに今日は休日だー」
「食堂が開いているのは、朝の9時、昼、夜の6時から8時までなんだ。休みもそれは変わらない」
「やっぱり集団生活はいやぁぁぁぁ!!」
上半身だけを起こした三夏は枕を布団へ投げつけた。
杉山の部屋。
三夏と千冬の二人が、テレビをのんびりと眺めている。仕事もひと段落し、後は新入生たちを迎え入れるだけだ。よって今は暇なのである。
ちなみに一夏はいったん帰宅している。今は小清水の手料理を頬張っていることだろう。
「あの……何でいるんですか?」
杉山が三夏に尋ねた。
「暇だからだー、そしてこの部屋はフローリングだからだ。早くお茶の一杯でも用意したまえ。そんなんだから行き遅れるのだ、もっと気を使え」
「い、行き遅れてなんかいません!! 私はまだ26です!」
「四捨五入で30歳じゃないかー、行き遅れ行き遅れ行き遅れー、ふははははーー」
「四捨五入ってなんですか! デリカシーが無いんですか!! そ、それにあなただって行き遅れのはずですよ!!」
「どーだかなー、早くお茶を持ってこーい」
行き遅れ、のワードに千冬も反応していた。
彼女も、もう二十歳を過ぎている。結婚していてもそれほどおかしくはない年齢だが、今の彼女には彼氏どころか想いを寄せる相手すらいない。
それは彼女も少しは気にしていた。
気にしてはいたのだが、今は忙しい、いずれ機会がくるはず、と適当な理由を付けて誤魔化しているのだ。
「運命の相手か……」
千冬は小さくそうつぶやいた。
「ん?」
視線に気づいた三夏が千冬の方に首を向けた。
「……いや、無いな」
千冬はまた視線をテレビ画面へと移した。
『ここの教会では、近くの孤児院から子どもたちを招いたパーティが開かれています』
テレビはニュース番組になっている。
教会での催し物などの映像が流れ、子どもたちの笑顔が映っている。
リポーターはキリスト教の慈善事業や活動を説明していた。
「いい人たちですね〜」
杉山が感心したように言った。
ちなみに千冬は用事ができて職員室へ行ってしまった。
「どこがだ。あーつまらん、他に何かやってないかなぁー」
三夏はリモコンを使い適当にザッピングする。
「最近の日本人は、そう言うことに無関心すぎです!」
「ふーん」
力説しだす杉山に、それをまったく聞いていない三夏。
よく見る光景だ。
「博士は自分の家がどんな宗教に入ってるのか知ってますか?」
「興味なぁーい、神道かなんかだろ。知らなくても困らない」
「はぁ……」
「だいたいな、奴らが必要に人を勧誘する理由を知ってるのか?」
「それは……みんなに幸せになって欲しいからじゃ」
「本気でそう思ってるのか?」
「はい!」
「はははー、笑わせる。このピーマンめ、頭空っぽめぇー」
「空っぽじゃないもん!」
「功罪相償う」
「え?」
「罪過はあるが功績があるので大目にみられる、という意味だ。キリスト教において功績とは善行。善行とは他人を助け幸せにすることで生まれるものだ。だから連中は人を助ける。そして善行のもう一つはキリスト教の布教。イエスの教えを広めることは、多くの人間を助けることと同義だからな。つぅまぁりぃーあの熱心なキリスト信者たちは、自身の今の幸せと死後の平静、新たな命を得るために人を助けているんだよ。まさに私利私欲で人間らしいじゃないか、人のためと言いながらすべては自分のためなのだ。自分のことしか考えていない自己中心的人間の集まりだな、実に滑稽だ面白い!」
「…………」
「以上の見解を聞いてもキリスト教へ鞍替えするなら止めはしない」
「鞍替えなんてしませんよ! そんな話じゃなかっでしょ!?」
「宗教なんて人類最大の派閥のようなものだー。宗教は人を救う? よく言ったものだ。宗教の対立は戦争となり、万人の命が失われたことを都合よく棚に上げるな、バカどもめ」
「……博士は神様を信じてないんですか?」
「神も仏も天国も地獄も何も信じていない。有りもしないものをどう信じろと言うんだ」
「そんなの分からないじゃないですか!」
「誰も会ったこともなければ、見たことも、行ったことも無いんだ。存在を証明するものは何も無い」
「そんなのただの仮説じゃないですか」
「だが、もっとも合理的な意見だ、すべて説明できる。人は偶然によって、その個の存在として生まれ、グダグダと人生を過ごし、死んで土に帰る。そして、その養分は地球に蓄えられ、再び新たな生命を生む。実に論理的で筋が通ってる。いいか、神も仏も天国も地獄も存在しない、それは愚かな救いばかり求めている弱者たちが、自分たちに都合よく創り出した幻想だ。それと、もう一つバカな君に教えてあげよう。君は寺の坊主と聞いて何を思い浮かべる?」
「お、お経」
「他には」
「質素倹約……?」
「お前の頭は昭和一桁だな笑えてくる」
「?」
「坊主は貧乏なんかじゃないぞ。ヘルメットかぶって、原付に乗ってる姿は、ただのイメージ操作だ」
「そうなんですか?」
「奴らが高級外車をどれだけ好き勝手に乗り回してると思ってる? 寺の地下にはバーまであるんだぞ?」
「はぁ!? ありえませんよ」
「寺と言うのは宗教法人だ。よって税金は免除される。寺の周りには、やたら駐車場や保育園があるだろ? 巻き上げた金は、そっくりそのまま寺のものだ。何にどう使おうが自由。ほとんど坊主が本職を副業的扱いにしてる。いいか、宗教なんてのはそんなものだ」
「…………」
「さて私は出かける」
三夏はおもむろに席を立つと上着を羽織り部屋を出て行った。
「そんなことばっかり言ってると絶対バチが当たりますからねぇー!!」
悔し紛れに杉山が叫んだ。
三夏はス◯ーバックスの前にいた。
モノレールに乗りさらに移動すること二時間。
「遠い! やっぱり遠すぎる! 抗議文の中に、スタバの食堂への出店も入れておくべきだった」
文句を言いながら店内へ入る。
比較的空いているようで、レジの前には二人が並んでいるだけだった。
三夏も、緑の髪をしてメガネをかけた少女? の後ろへと移動する。
「ん?」
三夏の第六感を何かが刺激した。
「朝ドラの臭いがする……」
鼻を動かす三夏。もちろん本当に臭いがあるわけではない。
三夏はそれから辺りを見回すが杉山の姿はない。当然だろう少し前にIS学園においてきたのだから。
「気のせいか……?」
一人目の注文が終わり緑の髪の女性の番となった。
「え、えっと…き、キャメルフラベティーノの…えっとえっと…どうしよう…あ、やっぱり抹茶も……やっぱりキャメルにしよ。これの…ど、どうしよう……読み方が分からない……うぅぅ……グ…グ?……あわわ、ごめんなさい……今、注文しますから!読めますから!大丈夫ですから!」
半泣きになる少女に、店員も苦笑いをしている。ここまで言われてしまっては、店員も読み方を教えてあげることができない。
三夏は、かなりイラついていた。
「えっと…グ…グ…グライト? …ちがうなぁ…うぅどうしよう……「グランデのキャメルフラペチーノをご用意して差し上げてください! 早急に!! ついでにベンティカプチーノも一緒に!」ひぇ!?」
「か、かしこましました。店内でお召し上がりですか?」
「はい!」
我慢できずに三夏が割り込み、代わりに注文をした。いきなりのことに少女は驚いて怯えた声を出し、店員も困惑しているようだ。だが、三夏の剣幕に負けてしまい注文を受け取ってしまった。
会計を済ませ商品を手にした三夏が、少女にキャメルフラペチーノを渡す。
「あ、ありがとうございます……。今、お金を」
「いえ、結構。もう二度と私の前で、まごつかないことを約束してくれれば安いものですから」
「す、すいません…うぅ……」
三夏は席へとついた。
先ほどまで空いていた店の中にはかなりの客が来ていた。皆、それぞれ場所取してから注文へ行っているため、空いている席は少ない。運が良かったようだ。
「あ、あの…すいません……」
「はい?」
あの少女が三夏に話しかけた。
「一緒に座らせてもらえないでしょうか……? あ、あの…席がどこも満員で……」
「……どうぞ」
「ありがとうございます!」
少女は嬉しそうに三夏の向かいの椅子へと腰を下ろしたのだった。
低い背丈、サイズがあっていない大きめのメガネ、あどけない表情、高校生だろうかと三夏は思った。
それから三夏と少女は、たわいも無い話に花を咲かせるわけでもなく、ただただ自分が注文した商品の量を減らしていた。
「あ……」
少女は突然立ち上がり席を離れた。
少女が向かった先には、開かない自動ドアの前で店員が四苦八苦していた。どうやら故障のようだ。
この店には出入り口は二つある。特に気にすることはないだろう。
「あの!」
少女が戻ってきた。
「…………」
「あの!」
あえて無視していた三夏だったが、何度も話しかけてくる少女に仕方なく折れた。
なぜ無視していたのかというと、嫌な予感がしたからだ。
「なぁんでぇすぅ?」
「白衣を着てますが、雰囲気的にお医者さんではありませんよね。もしかしてエンジニア系のお仕事をしてますか?」
「えぇ」
「良かった! ドアを診てあげてくれませんか? 電気系統の接触不良みたいなんですが……」
「もちろんお断りします」
「あり…えぇ!? どうしてですか!?」
「まず一つ、業者を呼べ。二つ、こんなくだらないことで私を働かせるな、私の技術はそんなドアごときを直すためにあるものではない」
「…………」
「第一、出口なら別にありますが?」
「向こうのドアは自動ドアじゃなくて手動なんです。それに、たいして広くありません。お店にいるお客さんの中にはベビーカーを使ってる人もいますし、もし車椅子で来たお客さんにも通れません。業者さんを呼ぶと確実に2時間はかかるんですよ?」
「ですねぇ」
しれっと答える三夏。
「何とも思われないですか!?」
「運が悪かったと思いますー」
「…………」
「さて、私は帰ることにします。幸い私はあちらのドアから出れますので」
少女はとっさに三夏の腕を掴んだ。
あ、こいつだ。と三夏は思った。この時点で三夏の直感は確信に変わる。
先ほどの朝ドラ臭はこいつからだ。こいつは杉田と同類だ。
「放してくれませんかね?」
「嫌です。あなたが直すとおっしゃってくれるまで放しません!」
どうやら本気で言っているようだ。三夏も少女の目を見てそれを理解した。
「……いいだろう直そうじゃないか。ただし修理費は君に請求する」
「おいくらですか?」
「20万だ」
「た、高すぎます!」
「嫌なら私はこのまま帰るが?」
うつむく少女。
これで少女も諦めるだろうと三夏は考えていた。
だが、それは甘い考えだった。
「……分かりました」
「は?」
「私がお支払いします!」
少女は、はっきりとそう言い放ったのだった。
「杉山以上にバカな奴がいた……」
三夏は呆れ返ったと言うより、絶望に近い何かを感じた。
その夜。
IS学園、食堂にて。
時刻は8時を過ぎてもう9時30分になろうかとしていた。
三夏が、生徒に混じって食事をするなど死んでもごめんだと駄々をこねたため、特別にこの時間に食堂を開けてもらっているのだ。
今は春休み中なのだが、期間が短いため、海外から入学していたり、日本人なのだが、実家が遠かったりする現2年生と現1年生のほとんどは、帰郷せずに学園に残っているからである。
「博士、どうしたんですか? そんな顔して……」
「うるさい話しかけるな、朝ドラ。私は日本の将来を案じているんだ、これ以上君のような朝ドラヒロインが増えないことを心の底から願ってる」
「何だか知りませんけどバカにされてますよね私!?」
「はぁ……」
三夏は深いため息をついたのだった。
「……何だこれは?」
部屋に帰った三夏が見たものは、テーブルに置かれた空の缶ビールと半分まで入っている日本酒の一升瓶だった。
その横には顔を赤くし酔いつぶれた千冬の姿。
「さっき後輩の教師が押しかけて来てな……ヒック…ヤケ酒と愚痴に散々付き合わされたんだ……。あそこまで酷い姿は初めて見た……ヒック……」
「私は君のそこまで酷い姿を初めて見た。そうだ記念に一枚写メっておくとしよう」
「うるさい……まったく山田君はどうしたんだ……」
「山田君?」
「山田真耶……今言った後輩の名前だよ」
「何だ、その上から読んでも下から読んでも新聞紙みたいな名前は」
「あー……とにかく私は寝る。雑魚寝だ、雑魚寝……」
千冬はスーツの上着を脱ぎ捨てるとネクタイを緩めて、そのままひっくり返り寝てしまった。
「この姉の姿を弟に見せてやりたい」
シャツ一枚で眠ってしまった千冬に、毛布すらかけてやらないのが三夏である。
一夏の入学の間近のことであった。
次回からいよいよ原作1巻に突入します。
さてさて、ヒロインズはどんな一夏争奪戦を繰り広げるんでしょうかねぇww
ちなみに作者はブラックラビッ党員であります。
追記。
すいません…10話を投稿したんですが気に入らなかったため削除しました(>_<)
10話は再編してから投稿いたしますm(__)m
今後もたびたびこの様なことがあると思いますがご容赦ください……。
なるべくしないようにいたしますので……(;_;)