嵐山。
京都の中でもさらに歴史を感じる景勝地。
その山奥に存在する切り拓かれた土地。
そこに、笹に囲まれた武家屋敷があった。
「だいたいさぁ〜、笹林ってなんだよ笹林って。御先祖様ちょっと安直過ぎない?いくら笹だらけだからって
わざわざ苗字を
先祖に対し悪態をつきながらも、センスが対して変わらないこの少女、地元の高校の制服を身に纏い、眼鏡を掛けている地味めな少女—笹林継子は土蔵の中に居た。
彼女の祖父はこの周辺では名の知れた豪族の末裔だったらしく、土蔵にはいかにも高そうな骨董品が鎮座していた。
「それよりも…、えぇっと…、おじいちゃんの遺品ってどれだろう…。これかなぁ?ちょっと暗くて良く分からないし…。ああもう、よくわかんない!」
携帯電話の明かりを頼りに暗がりを探す。
ズキッ。
「痛ったっ!…ヤバい、何かで手の甲切ったかも。後で消毒しなくちゃ…。」
継子は知らない。その時、自分の右手の甲に血ではない赤い刻印が施された事に。
辺りを見渡すが、目当てのものは見つからないらしい。
「確か…、木刀か何かだって遺言書に書いてあったけど、なんでそれが遺品なんだろう…。」
灯台下暗しとは良く言ったもので、その探しものはすぐ近くにあった。
もちろん、彼女はそれに気づくはずもなく。
「うーん…、もう今日は止めようかなぁ…。また今度、探しに来よう。」
と、諦めかけたその時、
「え…?」
継子は
「ゲホッゴホッ…もう何なの、これ!」
瞬間、全てが繋がった。
マスター、令呪、触媒、そして"召喚陣"。
そう、この土蔵は、祖父が作り上げたもの。
マスターになるに相応しい人間が入った時のみ作動する魔術工房でもある。
故に、数多の礼装が陣の役割を果たした。
そうして、偶然にも、
魔力が土蔵を埋める。
「何…、これ…?」
その量は、一般人である継子ですら感知出来るほどであった。
そして、陣の中央に収束し、そこから人影が現れる。
歳は20代から30代ほどだろうか。頭には鉢巻、そして甚平のような格好をした男だ。
腰には木刀を携えている。
「問おう、お前さんが俺のマスターか?」
その人物は、継子にそう聞いた。
「マス…ター…」
噛み締めるようにその単語を呟く。
「そう。たった今、聖杯の力によって、俺とお前さんは
セイバーが手を差し出してくる。
大きくゴツゴツした、しかし、それでいてしなやかな手だ。
「…ちょっと待って。いきなり過ぎて訳分かんないんだけど。マスター?聖杯?パートナー?何それ?ちゃんと説明して。」
継子が不機嫌そうに答える。
「何?まさか、お前さん初心者か?…仕方ない、俺が全部教える。まず、俺は
「過去?タイムトラベラー?」
「そうすぐ結論を出すものではないぞ、マスター。過去・現在・未来の英雄、その魂—英霊を召喚し使役する。それが聖杯戦争だ。」
セイバーが解説する。
「"英霊"は"サーヴァント"と呼ばれる7騎の器に納まり、契約した"マスター"と共に、"万能の願望器"『聖杯』を奪い合う。…簡単に説明するとこういうことだ。分かったか?マスター。」
「えぇっと…、つまり、私はあなたと一緒に、その、聖杯?っていうのを獲得すればいいのね?」
継子はパンクしそうな頭を少しずつ整理しようとしていた。
「概ね、そういうことだな。…そうだ、マスターに読んで欲しい物があった。」
そう言って、セイバーは懐から一冊の書物を取り出した。
「何これ?」
「俺の考えが詰まった…、言うなれば、トレーニング・ブックってところだな。これを読んで、書いてある事を実践すれば、必ずや、俺のような剣豪になれるさ。」
セイバーの爽やかボイスを他所に、継子は不満そうだ。
「いや、私、剣豪になりたい訳じゃないし。」
「ところでセイバー。どうしてあなたはカタカナ語を知っているの?どう考えても、その格好からして、あんな言葉知らない筈だし。」
継子が疑問を投げ掛ける。
「聖杯に教わった。」
「…はい?」
「俺たちサーヴァントは、現世に召喚される際に、その時代の知識を与えられる。その影響は個人の問題だが、どうやら俺には強く影響したらしい。」
「…なるほど。」
—現代人に優しい仕様なんだなぁ。
継子はそう思った。
「そうだマスター。"令呪"は基本的には取っておいて欲しい。それは非常に重要な物で、損失してしまうと致命的な事になる。」
「令呪?」
思わず首を傾げる。
「…ああ、お前さんは知らないのか。右手にある、刀を模した刻印。それが令呪だ。三画あって、一画につき一回、サーヴァントに絶対命令が下せる。故に、ここぞという時にしか使わない。俺が…」
言いかけたその時、
「セイバー、
「え?」
刀の模様が一つ消え、セイバーに魔力が流れ込む。
「…マスター、今お前さんは…」
「どう、セイバー。これでちゃんと闘える?ほら、私ただの人だから良く分からないし、聖杯をゲットする事が出来ないかもしれないから、
セイバーは思った。
「…ああ、分かった。俺は剣士の英霊、セイバー。この名に恥じぬよう、精一杯努めよう。」
こうして、二組目の少し歪な歯車は回り始めたのだった。