北区、大文字山。
送り火で知られるこの山の中腹に、
この洞窟はある魔術師が"工房"として作り上げたもの。
「触媒、良し。魔力、良し。召喚陣、良し。後は時が来るのを待つのみ。此度の戦い、この私—
皆友常良。
齢30歳程の、魔術師然とした出で立ちの男。
なぜ彼に本名とは真逆の渾名が与えられたのか、なぜ彼は封印指定を受けたのか。
それには、彼の起源と魔術系統が深く関わっている。
『起源:孤高』。
それが彼の背負っている業にして存在そのもの。
一生を誰とも関わることなく生きなければならない運命。
その代償に、彼は強大な力を手に入れたのだった。
他者を一切近づけず、強固な自己を持つ彼は、界隈でも珍しい『
土属性である常良は、土塊を強化して操り、それを用いる戦闘法を得意とする。
故に、彼とこの洞窟との相性は抜群であった。
「八方を土で囲まれた全6層にもなるこの洞窟の中に、自律防衛魔術礼装35基、
そう言って彼は、近くにあったソファに腰を掛けた。
少し疲れたな、一休みするとしよう。
そう思った常良は、静かに目を閉じた。
—今まで、私は誰とも関わらず生きてきた。
30年程の人生だが他人の手を借りることなく過ごしてきた。
しかし、それは
ふと気になって過去の記録を辿ってみたが、私に関する情報は、出生時は疎か両親の事すら確認出来なかった。
私自身は、両親の事を実力ある魔術師と記憶しているが、それはもしかしたら
—私は、一体何者なのだろうか?
いや、このような事を考えても仕方ない。
いずれ探求すべき事だが、今は必要ではない。
これは夢だ。悠久の時の中で忘れ去られていく物。
故に、何も気にすることなどない。
時が来た。さあ、
「さて、そろそろ時間か。今こそ、我が
目を覚ました常良は、洞窟最奥の中央部に描かれた召喚陣と、祭壇に置かれた触媒を交互に見ると、おもむろに立ち上がり集中し始めた。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」
空間内の魔力密度を高める。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
一言一言、刻むように発する。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」
世界へ示すように詠む。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
そして、ありったけの力を込めて叫ぶ。
膨大な魔力の奔流が渦となって溢れ出る。
常良は、それに怯むことなく見据えていた。
「問いましょう、
召喚陣の中央に居たのは、長弓を携え、鎧を身に纏う、小柄な
「これは驚いた。まさかあの武人がこのようなか弱い女とは。いったい、私はどこで間違えた?触媒、魔力、召喚陣、全て完璧だったはずだ!なぜだ、どうしてだ、これでは私の計画が崩壊するのは確実だ!どうしてくれる、この、
彼は、思いつく限りの罵詈雑言をアーチャーに浴びせた。
我を忘れ、怒りのままに詰った。
普段は高慢で冷静な彼が珍しく激情した。
しかし、当のアーチャーは顔色一つ変えずに、
「主殿、貴公が私のことをどう認識してたかは知りませんが、私は見ての通り女です。この世に生を受けた時からずっと女です。確かに、男として育てられてはいましたが、それでも肉体的には女です。もし貴公が私の素性を知りたければ、私のステータスでも見ればすぐに分かるでしょう。」
こう、言って退けた。
「ぐ…、クソが。まぁいい、お前が『本物』かどうか見極める。」
そう言って常良はすぐに確認した。
結果は、性別を除いて、自身の望んだ通りだった。
「ふん、お前の事を認めよう。これから、我が傀儡として存分にその力を発揮するがいい!」
「では、ここに契約を結びます。」
彼は右手を高く上げ、
「ああ、いいだろう。」
こうして、孤独を孕んだ男は、何処までも完璧主義な皆友常良は、決して顔色を変えることない傀儡を手に入れたのだった。