Fate/Sunrise Nation   作:亜美

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ランサー

西京区、桂。

ここにも、今回の聖杯戦争に参加する者が居た。

 

「うーむ、()()の戦いの時はいったいどんな結末だったんだろうか?」

まるで鈍器のような書物を抱えながら自宅の書庫をウロウロしているのは、橋場信秀(はしばのぶひで)

地元でトップクラスの成績を有する秀才。そして真面目な優等生。

学校から帰ってすぐなのか、通っている高校の制服に身を包んでいる。

「資料によると、冬木で『第三次聖杯戦争』が行われたのが1930年頃…だいたい80年前だな。そしてそれを元にして、橋場、中條、笹林の三家が中心となって1950年に開催されたのが、ここでの初めての聖杯戦争ってわけだ。霊地提供は、三家の中で最も歴史があり多くの土地を所有していた笹林家、システム構築は、実際に聖杯戦争に参加しその仕組みを解析した中條家、そして資金提供は、当時一番財力のあった橋場が担当したらしい。まあ、今となっては、管理権限は全て中條家にあるわけだけど。」

 

笹林家は、第二次大戦後のGHQ介入により多くの土地を没収され、魔導の道を捨てた。橋場家は聖杯戦争後の資金繰りに失敗し、細々と続けていくことになった。

そして中條家は、当時に関して言えば、財力も土地も無く、大した影響は受けなかった。

だから、今の管理者は、中條の当主—中條ルナが引き受けている、というわけだ。

 

「えっと…、その時三家が使役していたのが、橋場がランサー、中條家がキャスター、そして笹林家は…、ん?ここだけ文字が擦れて見えないな…。そういえば、当時の笹林家の当主はまだご存命らしい。今度聞きに行くとしよう。」

そう言って、信秀は書庫を後にした。

 

冬木で行われた聖杯戦争は、"始まりの御三家"の魔術の影響で、西洋の英霊しか召喚出来ないが、京都の聖杯戦争は、三家が土地を活かすように改良した結果、()()()()()()()()()()()()()ようになっている。

つまり、開催地補整や知名度補整が掛かった強力な英霊が喚ばれるが、その代わりに、真名がバレてしまう危険性がある。

真名は、正しく英霊そのもの。

故に、相手に真名がバレるというのは、自分の手の内を明かすのと同義。

よって、この戦いを制するためには、真名がバレる前に相手を倒すか、あるいは真名がバレないようににひたすら隠れながら行動するか、若しくは高度な情報戦に限られてくる。

となれば、真っ先に召喚すべきは、()()()()()()()()()()()だろう。彼らは、勇将でありながら智将であり、個々が千の兵に値する力を有する。

が、触媒となる彼らの武具は、多くの場合博物館に所蔵されているために、その使用は不可能である。

もっとも、()()()()()()()()()()()は例外だが。

 

午後10時。

橋場家にとって最も魔力が高まる時間。

信秀は書庫に戻ってくると、その一番奥、最も大きな棚を()()()()()()した。

その先にあったのは、橋場家の魔術工房。

中央には召喚陣が刻まれ、更に奥に位置する祭壇には、代々伝わる()があった。

彼は近くの燭台に火を灯すと、懐から小瓶を取り出し、陣目掛けて投げた。

 

ガチャン!

 

小瓶は音を立てて割れ、やがて火柱となった。

そう、小瓶は火炎瓶だったのだ。

「我が(いえ)に灯し(ほむら)よ、橋場の主が命ず。

我と、我が祖と、我が家と、そして我が英霊(たけみたま)を守護せよ!」

 

炎は燃え広がり、やがて陣に沿うようになった。

「これより、英霊召喚の儀を執り行う。」

空間に、厳かな雰囲気が伝播していく。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

炎が揺らめく。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。」

炎は一段と大きくなり、燃え盛る。

 

「――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

熱量は増し、全てを圧倒する。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。」

炎が中央に集まり、人の形を成す。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

そして、炎は天を()く。

 

炎が搔き消えると、中から一人の男が現れた。

赤い鎧兜に身を包み、先が十字になった槍を構えている。

「問おう、其方が私を呼んだ今際の主であろうか?」

纏う意思は強く、それでいて威圧感を全く感じさせない。

「ああ、俺がマスターだ。よろしくお願いする。」

信秀が手を差し出す。

「承知した。私はランサー。これより、其方の従者となろう。」

そして、ランサーが握手する。

 

「しかし、私は、この光景を一度見た気がする…。気のせいだろうか?」

未だ燻っている工房を見て、ランサーが呟く。

「どういうことだ、ランサー?」

 

「いや、私は今回が初めてではないのだ。そう、確かに前回も召喚された時、最初に見たのは()()()()だった…。」

若干声に覇気がないランサーに対し、信秀の方は、その発言に一条の光を見出していた。

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