Fate/Sunrise Nation   作:亜美

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アサシン

下京区、京都駅。

1日に70万人近い数の人が行き交う、全国でも有数のターミナル駅。

オカルト誌『ムー・スタリオン』のライターである甲斐田時盛(かいだときもり)は、"とある事件"のために京都に訪れていた。

「"行くと正気を奪われる幽霊旅館"…、うん、これはネタになるな。でも、父さんの『怪奇!未遠川の巨大生物‼︎~幻覚か、生物兵器か、それとも異教の邪神か!?~』や、渡良瀬川(わたらせがわ)編集長の『驚愕!三咲町を駆ける黒き獣!!』と『恐怖!観布子市に潜む食人鬼!!』には負けるけどね。まぁ、僕がオカルトにハマったのは、子供の頃にあった"吸血鬼事件"なんだけど。」

 

吸血鬼事件。

2000年頃に彼の地元―福山市で起きた事件。

多くの人が無差別に殺害され、血液が全て抜き取られるという猟奇殺人事件。

遺体の首筋に、歯形のような痕跡が残っていたために、"吸血鬼"がやったのではないかと噂されている。

時盛が直接関わった訳ではないが、ニュースで大々的に報道されたので、かなり印象に残っている。

「はぁ…、僕も早くメインの記事書きたいなぁ…。もうコラムはウンザリだよ…。間桐雁夜さんみたいにウマいモノが書けるわけじゃないし。そういえば、最近は全然名前を聞かないなぁ…。今は何やってるんだろ。」

彼は、自分が尊敬する人物の今について、想いを馳せていた。

 

「しかし、編集長が"気をつけてね"みたいなこと言ってたけど…。まさか父さんじゃあるまいし、怪奇現象に首突っ込みすぎて行方不明、なんてことはしないつもりだけどね。ただ、僕もライターである以上は、しっかりと事実をこの眼に焼き付けたいっていう望みがねぇ…。」

 

彼の父である甲斐田玄行(くろゆき)は、『ムー・スタリオン』の編集長にして、業界一の凄腕ライターだった。

しかし、1998年に観布子市で起きた"食人鬼事件"を取材した際に行方が分からなくなり、現在も手掛かりすら見つかっていないという状況である。

その取材記事は、"遺稿"という形で現在の編集長—渡良瀬川渓子(けいこ)によって発表された。

巷では、『食人鬼に喰われた』というのが定説となっている。

 

「…さて、今日から予約していた、ステーションホテルキョウトは…、ってうわぁ⁉︎」

スマホで地図を見ながら歩いていた時盛は、前からやってきた少女に気付かずにぶつかってしまった。

衝撃でお互いに跳ね飛ばされる。

「痛ったたた…、大丈夫、お兄さん?」

フード付きのパーカーを着てホットパンツを履いた少女が、起き上がりながら尋ねる。

「ま、まぁ…。なんとか、ね…。」

右の掌を擦り剥いた以外は、大したことはなかった。

立ち上がろうとすると、少女が右手を差し出してきた。

よく見ると、怪我をしているのか、包帯が痛々しそうに巻かれている。

「うん、問題なさそうだね。でも、一応心配だから、()()()()()、やってあげる!」

そう言って、彼女が時盛の右手に自分の右手を重ねると、そこがほんのりと温かくなってきた。

見ると、さっきまであった擦り傷は、見事に消え去っていた。

「もう大丈夫だよ、お兄さん。じゃあね~!」

「ま、待って!君、今のはどういう…。」

その場から立ち去ろうとした少女を、記者根性で呼び止める。

 

—これは紛れもないオカルトだ!

 

「だから、"おまじない"、だってば。…もう私行かなくちゃ。」

「せめて名前だけでも…!」

ネタを逃すまいと、必死で食らいつく。

「名前?…うん、最後だから教えてあげる。私はウィル。…じゃあ、今度こそ、バイバイ。」

そう残して、彼女は去ってしまった。

「いったい、何だったんだろう…。」

 

ホテルに到着するや否や、時盛はベッドに倒れ込んだ。

「はぁ〜、疲れた…。いや、特に何かしたってわけじゃないけど。…さて、明日に備えて荷物の整理を…、って、あれ、何だこれ?」

右手の甲に、赤黒い"何か"が刻まれていた。

細長い菱形が3つ、という何とも奇妙な模様だった。

「うーん…、さっきまでこんなのあったかなぁ…。とりあえず、水で落ちるといいけど…。」

ほんの気休め程度に、洗面所へ向かう。

しかし、いくら擦っても全く消える気配はない。

「やっぱりダメだぁ…。これ、どうやったら落ちるかなぁ…。」

諦めつつベッドルームに戻るとそこには、妖艶な雰囲気を放つ()()()()()がいた。

 

ん?ちょっと待って、ナニコレ?

え?なんで僕の部屋の中に着物美人が居るの⁉︎

オプションなの?このホテル限定の京都的サービスか何かなの⁉︎

 

突然のことで回ってない頭を無理やり回転させる。

「え、え〜っと…。どちら様、でしょうか…?」

とりあえず話しかけてみる。

「あら?もしかして…、貴方様が(わたくし)の旦那様でしょうか?」

 

旦那様⁉︎

ごめん、もうわけがわからないよ…。

 

「あの…、"旦那様"っていったいどういう…。」

「私は暗殺者のサーヴァント、アサシン。今より、貴方様に仕えさせていただきます。」

 

ダメダ…、ナニイッテルカワカラナイ…。

 

とりあえず、整理するためにも、色々話を聞いてみることにした。

「…ふーん。ようは、その"聖杯"ってヤツを手に入れればいいんだね?」

「はい。そのためにも、旦那様には気を付けていただきたいことがあります。」

 

それよりも、"旦那様"という呼び方が気になる。

「あのさ、なんで僕のことを"旦那様"なんて呼ぶんだい?」

「それは…、"愛"ゆえにございます。私は夫を亡くした身。つまりは未亡人です。だから、せめて現界しているうちだけは、"夫婦"でありたいのです。」

彼女—アサシンの"願い"が見えた気がした。

 

「うーん、困ったなぁ…。聖杯戦争については一切口外出来ないなんて…。」

こんなにオカルティックなことは、全国、いや世界中を探してもないんだけどなぁ…。

 

「当然でございます。特に、私が勝ち残るためには、情報の秘匿というのがとても重要になってきます。ですので、旦那様にも肝に命じておいてもらいたいのです。」

アサシンが若干強めに言う。

「う、うん…。」

ギリギリで、良心が勝った。

 

「ところで旦那様?貴方様は魔術師ではないのですよね?」

アサシンが変な質問をする。

「? そうだけど?」

「サーヴァントというものは、旦那様—マスターからの魔力供給がなければ、現界し続けることが出来ません。契約した以上は魔力のパスは通っていますが、魔術師ではない旦那様からでは、こうしてただ居るだけでも魔力が尽きてしまいます。ですので、今後のためにも、旦那様に直接魔力を提供させていただきたいのです。」

 

魔力供給ねぇ…。

確かに、今こうしているだけでも、身体中が痺れを感じている。

効率のいい方法があるなら、是非そっちを採用したいところだ。

「別に問題はないけど…、どうやるわけ?」

「同衾…、つまり、"まぐわい"でございます。」

 

同衾?まぐわい?

それってつまり…、()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎

 

「お隣、失礼致します。」

アサシンが、時盛が腰掛けるベッドの中に入ってきた。

「い、いや…、僕たち、まだ出会ったばっかりだし、いきなりそういうのは…、ちょっと公序良俗的にどうなのかなぁって…。」

未だ困惑する頭を、なんとか追いつかせようとする彼に対し、彼女は着物をはだけさせながら詰め寄る。

「何か問題でもございますでしょうか?旦那様と私はもう既に"夫婦"ではないですか。」

 

マズい…。

彼女のペースに飲まれていく。

 

「旦那様…。中々にしっかりとした体つきをしているのですね。」

アサシンの細くて綺麗な手が、時盛を撫で回す。

「ま、まぁ…、一応鍛えてるからね…。」

彼女の手は、さらに下へと延びていく。

「ふふっ。拝見しても、よろしいかしら?」

「や…、そこはダメだって…。」

こちらの意思を無視して、枷が外れていく。

「まぁ!随分と立派な野太刀をお持ちなのですね。これが私の関所を蹂躙していく…。考えただけでも、昂りが抑えられませんわ。」

 

—あ。

意識が急に遠のいていく。

「さあ旦那様?その野太刀で私の関所を突破してくださいませ?」

最後に聞いたのは、そんな言葉だった。

 

外で鳥が鳴いていた。

「うーん…。あれ?僕何してたんだっけ…?」

物凄く淫蕩な夢を見た気がする。

時盛が目を覚ますとそこには、既にホテルのバスローブに着替えた女性が居た。

「旦那様、おはようございます。昨晩は、夜襲お疲れ様でございました。貴方様は、意外と積極的なのですね。さあ、早く服を着てください。」

そこまで言われて初めて、自分が一糸纏わぬ姿だった事に気がついた。

—やっぱり、やっちゃったのか…。

「そういえば、まだ誓いを立てていませんでしたね。…では、改めて。暗殺者のサーヴァント、アサシン。聖杯に招かれし者なり。問いましょう、貴方様が、私の旦那様でございますか?」

アサシンが真面目な顔でこちらを見る。

「あ、はい…。こちらこそ、よろしくお願いします…。」

「契約は今を以って真なるものになりました。…一緒に、頑張りましょうね。旦那様(マスター)?」

 

この瞬間、此度の戦に招かれし者たちが、全て揃ったのだった。

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