仄黒く燻る空に、血の涙を流す赤黒い月。
血を吸ったような色で咲き爛れる徒花と、突き立つ無数の剣ヶ原。
この世界の終わり、果ての果てに、俺はたったひとりで立ち尽くしていた。
いちばん最初に、皆に誓った。
俺が皆を守る。俺がお前を守る。
必ず皆で、生きて帰ろう。誰ひとり欠けることなく、誰ひとり取りこぼすことなく辿り着こう。
皆で、この世界から抜け出そう。
皆に誓った。そう、あいつに誓った。
灰血の花畑に立ち尽くし、ひとりきりで笑う。
なんて、どうしようもない。なんて、くだらない。
この世界の終わり、果ての果ては、あまりにも救いがない無価値で無意味な景色だった。
乾きに乾いた灰の世界の果てにむなしく木霊する笑い声は、眼前に広がる無惨な光景よりもさらに空っぽでがらんどう。
笑っても笑っても全然足りず、俺はいつまでも笑い続けた。気づけばいつの間にやら、膝をついていた。
皆で辿り着く、その誓いを果たせなかったことを詫びたかった。そして、この景色を皆に見せずに済んだことに、なによりもほっとしていた。
だって、だって、これはあまりにもどうしようもない。
こんなもののために、俺たちは戦い続けたのか。こんなもののために、俺たちは進み続けたのか。
こんなもののために、死んでは死んでを繰り返し、数え切れないほどに何度も何度も死んで死んで死んだのか。
剣で肉を切り裂いた時の気持ち悪い感覚がいつまでも消えてくれないと言って、自らの腕を切り落とした奴がいた。槌で肉を叩き潰した時の音が耳にこびり付いて離れない、そう言って鼓膜を潰した奴がいた。呪術で肉を焼いた時の臭いが鼻の中にずっと残っていると言ったのは、いったい誰だったか。目玉の大きなカエルの化け物の体液を浴びて、あちこち皮膚が破れて血だらけになっても顔を洗うのをやめようとしない気の毒な奴もいただろうか。
自分をいじめていたグループの主犯格を殺し、死体に向かって短刀をぐちゃぐちゃと突き立てながら笑い続ける女。付き合っていた彼女を崖から突き落としたその足で、その彼女の友人を口説きに行った男。自分の彼女が手篭めにされるのを見せつけられながら、煮え滾った溶岩の中でぐずぐずに灼かれた男。
亡者になって正気を失い、その手で守り続けてきた級友たちを殺めて回ったお前。
戦い続けることで心を壊していった級友たち。嘘と裏切りと欺瞞の中で心を病んでいった級友たち。
こんなもののために、俺は皆を殺した。こんなもののために、俺が皆を死へと駆り立てた。
こんなもののために、俺は、お前を。
喉が裂けるまで大声で叫びたかったはずが、怒りは空気の抜けた風船のように萎んでしまった。胸がぎりぎり締め付けられるほど悲しいはずなのに、涙は一滴たりとも流れなかった。
ただ、笑うしかなかった。たったひとりで、ひとりきりで、ひたすらにただただ笑った。
黒く燻った空と赤い涙を流す月の下、笑って笑って笑った俺は、散々笑ったその後で一本の螺旋剣の傍にのろのろと這い寄った。
刀身をちろちろと焦がす弱りきった火種は、ぼんやり眺めているその内に気が付けば俺の身体へと静かに燃え移っていた。
腕から広がった痩せた炎は、あくまでも静かに俺の身体を燃やし尽くす。熱さも痛さも感じなかった。
喜びも悲しみも、怒りも後悔も。俺の中には最早なにもない。くべられるのはもう、この空っぽの身体だけ。
焼け焦げていく意識の中で、せめてもと祈る。
もし、次があるなら。この上まだ、やり直す機会が与えられるのだとしたら。
その時は、どうか。出来るなら、どうか。
俺の代わりに、どうか。
どうか皆を。
どうかこの世界を―――――。