《妖怪の賢者》はスキマ妖怪。故にその姿を見たものは居ない。
《楽園の素敵な巫女》は綺麗な巫女。その素朴な性格に惹かれる者は多い。
《普通の魔法使い》は不遇な魔法使い。運が実力の内ならば、彼女は半分の実力で幻想郷を回るのか。
他にも他にも。
そんな少しずつおかしな幻想郷で。ひときりおかしな少女はおかしい事に気付かず……異変を楽しんでいく。
私は今、自然が沢山ある村で何か恐ろしい者に追われている。
ポツンと立っていた電柱に登って難を逃れる。
その何かは、電柱から少し離れた所からただジッとこっちを見ていた。
そこで、ふと『これ、夢じゃない?』と気付く。
途端、見えていた景色が、色が、ぼやけていく。あんなに早鐘を打っていた心臓は平穏に戻り、あんなに軽かった体に肉体が付いていく。
それでも夢の中に居たくて、何かしてみようと近くにある家の屋根に乗ってさっき襲ってきた何かの事を覗き見る。
体感で朝六時かな。そろそろ起きなくちゃ。
その何かはよくよく見たらドレスを着ていた。
目を開けて、枕元の時計を見る。六時五分前か。
何かはこちらを見て、笑いかけてきた。
……あぁ。起きなきゃ。そろそろまずい。遅刻してしまう。
「おはよう」
「ん、―――むぅ」
寝惚けてる。頭のエンジンを温めていって、目が重くて開けられないのに耳はよく聞こえる。だけど理解できない。
起き上がり、改めて時間を確認しようとして手を伸ばすけど、空を切る。
あれ……落とした? 慌てて、でも寝起き故にさして素早くなく、地面を探る。ざらざらと、砂が手につく。
寒っ! あれ、布団は? ていうか、ここどこ!?
周囲を見回すと、目をつぶっても何処に何があるか分かる自分の部屋ではなく、外だった。
「こちらを選ぶとは、面白いですわね」
「うひぃっ!?」ゾクゾクッ
首筋の後ろをなぞるように声がした。後ろを振り返るが、誰も居ない。
ただ、整備されていない道と
「ってかさっきの声は」
「ここですわ」
「あひぃっ!」
今度は脇の下!? 何されてるのってかどこで喋ってるの!?
「ちょ、ちょ、ちょっと!? 誰なの!?」
「私は……八雲紫。スキマに潜む者よ」
今度は左右の森から。まるで木々が喋っているかのようだ。
じゃなくて。
「隙間? つまり、さっきは私と服の『隙間』から話し掛けてきたってこと?」
「そうですわね」
今度は足元。下を見るが誰も居ない。
「……紫さんは見えないほど小さいの?」
「え? ……クスクス。あなたはスキマを見ていないだけよ」
次は頭から。隙間……髪の毛の間かな? なんだか楽しくなってきた。
「ここは幻想郷。あなたは『
「ひぃあっ! 服の隙間は止めて!」
「あらごめんなさい……なら、手と手を合わせてくださる?」
「こ、こう?」
神社でお祈りするように、手を合わせる。
「そうそう。これで安心できるでしょう?」
「あ、はい」
手の間から声がする。変な感じ……まるで手品師になったみたい。
「では改めて。ここは幻想郷、忘れられた者たちの楽園。そして私は《妖怪の賢者》八雲紫。一応聞くけど、貴女の名前は?」
「えっと、
「寧々……《
「え?」
「なんでもないわ」
なんでもないのか。そういえば、紫さんの姿ってどんなのだろう。そっと手を開いてみる。
目が合った。
……いや、目が
「ひぃっ!?」
思わず飛び
「あら、スキマが見えたのね。やっぱり貴女は――」
紫が何か言ったけど。そこから先は聞き取れなかった。
あまりの出来事に失神したから。
スキマ妖怪とは、日常の隙間――ソファの下、電柱の裏、少し開いた扉といったもの――からただじっと見つめてくる妖怪です。
見られるだけなので別に害は無いんですが、実害は無いんですが。常に『見られている』という状況が人間を追い詰めていくのです。
ってなんかの漫画で見た覚えがある。