B級の比企谷くん【ワートリ×俺ガイル】   作:あなたのハートにイオナズン!

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初の試みですが冒頭は八幡視点から変えてあります


聞かせてよ紅蓮の弓矢を

 

 自分体調悪いんで壁打ちいーっすか、と比企谷という生徒がこちらの了承を得ずにラケット片手に集団より外れて往く。

 いつものことだが、だからこそ厚木は内心忸怩たる思いであった。

 学校とは集団生活を学ばせる場である。

 だというのに、高校生という大人と子供の境界のようなその年代は、特に自らだけでもなんとかなるのだという勘違いなどを患い、自ら集団より外れて孤立してゆく者も多くいた。

 これは生物としての危機意識が長い集団社会の中で低迷し、本能的な部分に何かしらの欠陥が生じたのだという説と、逆に立って歩ける生き物に進化しているからこそ、独り立ちを自発的に行う生物としては実に正常な野生的な行動の帰結だ、という説がある。

 どちらだとしても、学校とは社会生活を学ばせる場であり、個人だけで成立する才能を優先させる社会を作らせないように下積みを行わせる目的で若い年齢層を取り囲む簡易的な閉塞社会である。

 そのことを論理にならずとも自覚している体育担当の厚木教諭は、いつもながら自ら集団より外れて往く比企谷をまた引き留め損なったと悔やみ、しかし生徒総数が奇数の為にやはり余らざるを得ず引き留める理由を挙げることが出来ずに、彼が突出してしまう現状に申し訳ない思いを抱いていた。

 体調不良を訴えたにも拘らず、そこらの凡才生徒の5倍速くらいのスピードで壁打ちを繰り返すようになってゆく比企谷を眺めながら、どうしようもない無力感に苛まれる厚木教諭の姿が其処にあった。

 

 どのようにしているのか、独りで3本のラケットを両手でジャグリングのように使い分け、ボールの数もどうにも2・3個では足りないくらい増やして『壁打ちを』する比企谷に、喰種捜査官かお前は、という感想を抱いたところで、集団の中では無駄に衆目を集める生徒・葉山とその連れ合いのペアがボールをあらぬ方向へと弾く。

 

 

「っちょっ、マジパネェー、今のスライスっしょ? 隼人くんうめぇわー」

 

「ははは、たまたまだよ」

 

 

 葉山の自己申告の通りに、そのボールは目的以外のところへと向かっているのだから偶然なのだろう。

 そして比企谷の壁打ちの中に紛れて、しかしそのスピードは衰えることをしなかった。

 何が其処まで執拗に体育館の壁を攻撃せしめるのか、と問い質してみたくもあるが、常人には計り知れない目標へ邁進しているような比企谷を見ていると注意を促すことも野暮ではないのかと思い始めてくる。

 それは笑いながら紛れたボールを探しに来た葉山の相方である戸部も同じだったらしく、眼前に繰り出される目を疑う光景に、彼もまた引き攣った貌で見惚れてしまっていた。

 正直テニスそのものには役に立つのかは不明なスキルだが、傍観者が混じり始めたのでタイミング的にも問題ないかと厚木教諭は笛を鳴らす。

 

 

「よぉし、10分ほど休憩じゃぁ。次はペアを換えてやってみぃー」

 

 

 そう申告するモノの、余っていると自覚しとる者はどうしたって余り続けるのだろうのぉ、と己の無力さを噛み締める厚木教諭なのであった。

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

 やってて良かった佐々木式。

 むしろ有馬式かも知れないが、こういう日頃の運動はトリオン体になったときに己の身体を飛躍的に動かし易くするので、だからこそボーダー自体も『適度な運動』を隊員らに日頃から行うようにと勧告しているのかもしれない。

 無論、一か所で棒立ちになって手塚ゾ●ンを展開するようなテニスではなく、縦横無尽に動き回って得物もそこらへと、時に距離を置くように配置し直したりしながら、アステロイドモドキ(代役)のボールを溢さないように壁を狙う。

 ボーダーを辞めたら壁殴り代行を目指すのも良いかも知れない。

 

 休憩の笛が鳴ったのでボールの弾み方に緩急をつけ、ちゃんとキャッチできるようなスピードに落として受け止めつつ籠へと戻す。

 そのまま投げつけては弾力性のあるボールなので勢いが付き過ぎて籠から飛び出してしまうのだ、人間横着しちゃダメだよね。

 

 

「すっげぇぇぇぇ! ナニソレ!? なんなんそれ!? ナニモノっしょ、えーと、ひき、ヒキタニくん!?」

 

「ヒキガヤだ」

 

 

 なんか後ろで見ていたチャラ男が奇声を上げて興奮している。

 釣られるように後ろにいる、先日の教室で見た気がする金髪は引き攣った貌である。

 というか、よく見ると金髪ロールとグループを組んでいた気がするふたりである。

 何かしら騒ぎ始めた女王様相手に宥めようと口を挟みつつ、弱気が過ぎて一蹴されていたような覚えがある。

 描写されてないけどそういうことがあったんだよ、俺の前だけで世界が過ぎ去るわけじゃねー。

 

 

「なんか用か?」

 

「いやマジスゲェってヒキガヤくん! ボーダー入れるんじゃね!?」

 

 

 B級です。

 が、其処は告げずに興奮するチャラ男を宥めつつ、呆れるように諭しておく。

 

 

「というか、この程度で入れるとかボーダー舐めてねーか? 異世界と戦争やってる機関だぞ? このくらい出来なくちゃ生き残れねぇって、知らねーけど。S級とかになると指先クンッてやったら街ひとつ破壊できるような戦闘力が常識なんじゃねーの? 知らねーけど」

 

「マジかー……、ボーダー試験受けようと思ってたけど、やっぱ受かる奴らはそれくらいできんのかー……、……ってそれドラ●ン●ールじゃねーか! ヒキガヤくんおもしれーっしょー!」

 

 

 掴みはオッケー。……らしい。

 俺は後半マジで呟いたのだが、どうやらギャグと思われたらしい。

 ノリツッコミみたいに手のひら裏手でビシィーッとやられて、うむぅ、と唸る。

 やっぱリア充のノリってよくわからんわ。

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

「あれ、ヒッキーじゃん。こんなとこで何してんの?」

 

 

 ベストプレイスで昼飯食ってるところへ自販機があるせいなのか、ふらりと現れたのはジョイフル本田。

 この場所は風通しも良く、たまにテニスコートで頑張る女子が伺えたりもするお気に入りの場所であったりする。

 いや、スコート穿いてるわけじゃないけれども、頑張る女の子は見ているだけで癒される。

 ただしジョイフルてめーはまだ駄目だ。

 

 

「そのヒッキーってのヤメロよ本田ユイ」

 

「由比ヶ浜だけど!?」

 

 

 誰だよ。

 自己紹介も聞いてない奴の名前なんぞ知らん。

 

 

「そーか、ドーモ、ユイガハマ=サン、ヒキガヤハチマンデス」

 

「なんで今更、知ってるし……」

 

 

 アイサツも出来んのか。

 ニンジャなら常識だぞ、日本のワビサビも汲み取れぬのかオロカモノめ。

 

 

「じゃああだ名で勝手に呼ぶんじゃねー。ていうか許可してないからね」

 

「えー、ヒッキーはヒッキーじゃん」

 

 

 ダメだ、話が通じない。

 コイツもう帰らねーかな、と諦観の意を込めて先ほどの女子へと再び視線を向ける。

 すると、くだんの女子は何故かこちらへと向かってきている最中であった。

 ……ああ、自販機あるしね。

 

 

「あれ、さいちゃんだ。やっはろー!」

 

 

 知ってるのかユイガハマ。

 というか、ナニその頭の悪そうな言葉。南米辺りの部族のアイサツ?

 

 

「あはは、由比ヶ浜さんやっはろー」

 

 

 同じように手を振り振り、はにかみながら返事を返すテニス少女。

 ナニソレ超カワイイ、流行らせようぜ。

 

 

「さいちゃんは昼練?」

 

「うん、今年から部長になったし、もうちょっと上手くなりたくて」

 

 

 と、彼女もまたリア充の一角なのか、すぐさまユイガハマの質問に答える。

 非リアは此処で二度聞きしたりどもったりと、脳の言語野に障害が出てるんじゃないかってくらい会話が弾まないからな。実に大変だ。……俺やん。

 若干の自己嫌悪に苛まれるそんな俺へと、この可憐な少女がちらちらと視線を向けている。

 うむ、ユイガハマもまだまだだよな。此処は率先して俺を紹介すべき。

 と、いうわけで、まずはアイサツ。古事記にも載っている。

 

 

「ドーモ、サイチャン=サン、ヒキガヤハチマンデス」

 

 

 一瞬きょとんとした顔を(ユイガハマはジト目で呆れ顔を)したが、そこはやはり本家美少女。

 すぐに笑顔を浮かべて、

 

 

「どーも比企谷さん、戸塚彩加です」

 

 

 と、姿勢だけを同じように(口調は何処か可愛らしく)返してくれた。

 見たかユイガハマ、いやガハマ。これが真性だ。

 何はともあれトツカサイカな、八幡覚えた。

 

 

「そういえば比企谷くんもテニス上手だよねっ」

 

「え、そーなん? なんか意外……」

 

 

 アイサツを終えて、トツカはヒキガヤに迫るようにきらきらとした目線を向けている。

 近い近い止めて許して浄化されちゃう。

 何故かゲーム的ウインドウみたいな説明文で迫りくるトツカに、俺ことヒキガヤは「お、おう」とどもりつつの返答しかできない。

 チクショウ、せやからこちとらリア充やないっちゅーに! コミュ能力にステ振り失敗してるんだからもうちょっと距離気にしてくれないかなぁ美少女は!

 内心は「ああんいいにほいいぃぃ!」と絶叫しつつ、そんな内心がばれては一大事と返答も曖昧に成らざるを得ない。

 さておき、トツカの話の持って行き方に意外性を抱いたガハマが怪訝な顔をこちらへ向けると、トツカはその目映い(まなこ)のまま説明を続けた。

 

 

「うんっ、ラケットみっつにボールをじゅっこも使ってるのに、縦横斜めに高速機動みたいに打ち続けて全然体幹がブレてないんだっ」

 

「なにそれキモイ」

 

 

 げせぬ。

 

 

 




長くなりそうなので今日はここまで

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