B級の比企谷くん【ワートリ×俺ガイル】 作:あなたのハートにイオナズン!
なんだかんだで戸塚のテニスに関するあれこれを三浦へ押し付けることに成功した日から早くも一週間。
当初懸念されていた部内のモチベーションの問題は、練習に付き合うようになってずるずると三浦がマネージャーのような立ち位置に至った結果なんとかなったらしい。
彼女はどうにも面倒見が意外と良いというかオカン気質というか、初めは戸塚の練習だけを見ていたのだが俺がヨイショと持ち上げたり褒めたり宥め賺したりと色々やる気を出させていたら、いつの間にやら部活そのものを引っ張ってゆく女王様が出来上がっていた。
そんなケミカルチェンジを果たしたテニス部で、元居たやる気の無かった奴らがなんとかなるのかと幾許かの懸念もあったりしたのだが、先頭に立って男子を引っ張る
程よく訓練されてゆくテニス部の新しい扉が開けて往く一方で、俺はというと元の平穏無事なボッチ生活へと戻ってゆくのであった。
べ、別に悲しくなんかないもんねっ!
「それで比企谷、私の授業に遅れた理由を教えてもらおうか?」
「寝坊した妹を送迎して遅れました」
「キミに妹なんていないだろう」
いるわぁ! 目に入れるほどじゃないけど可愛い妹がいてらぁ!
というかこの先生は俺をどういう目で見ているのだろう、以前に呼び出された時といい、どうにも俺のことを目の敵にし過ぎている嫌いがある。
……独身だから若いツバメを狙っている……!? ワガハイ、身の危険……!
「む、キミも遅刻か川崎。重役出勤は感心しないぞ」
と、云われた青みがかった銀髪ポニーの女生徒にはその言葉のみ。
云われた方も、ども、と頭を下げるだけで終了。
「で、なんで遅刻したんだ? 怒らないから言ってみなさい」
俺のターンが終わらない。
おかしくない? モンスターカードをドローしたの? そもそもデュエルもしてないからね?
世の理不尽というよりは俺に対する世間が悪いのでは、と云いたくなる一日の始まりであった。
☆ ★ ☆
由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃が、とあるファミレスにひとつテーブルにて陣取っていた。
別に出番がなさ過ぎて無理やり出演を勝ち取ったとか、出番を勝ち取るために緊急会議を開いているとかそういう話ではなく、単純に由比ヶ浜の中間考査がヤバい為にテスト勉強を要求した結果の帰結である。
それならばいつも集まっている奉仕部というなんちゃって部活動の部室で遣れば良くない?と読者の皆様ならば云いそうではあるが時刻は既に午後六時、早い家ならば夕餉の時刻になっていても可笑しくない時間帯であり、学校からは下校時刻という不文律のもとに追い出される時間帯であった。
季節のパフェとドリンクバーを注文し、小腹を熟しつつ勉学に耽る美少女ふたり。
その実情が互いを補い合う勉強会、というよりは雪ノ下が一方的に由比ヶ浜の分からない問題を教えるという出張版家庭教師みたいな空気となっているのはお察しであった。
「では“風が吹けば――?」
「――電車が止まる”?」
「……少し休憩にしましょうか」
何度目かの珍回答に、集中力が足りなくなっているのだきっとそうだ、とお団子ヘアの頭の出来を諦めない奉仕部部長雪ノ下雪乃。
他人の出来栄えの悪さに辟易とした彼女の受難(自称)はまだまだ終わりそうにもない。
「うあー、ぜんぜんわからないよー、ゆきのーん……」
「……日頃学校で習っていることの復習をしているはずなのに、どうして貴女は此処まで理解が及ばないのかしら……。クラスが違うから教わっている部分も違うのかしら……?」
「う、うーん、きっとそうだよー……。あ、すいませーん、この『果物アイス添えのハニートースト』くださーい」
「夕飯前にまたそんなモノを注文して……。太っても知らないわよ?」
「ゆきのんお母さんみたい。だいじょうぶだいじょうぶ、頭を使ったんだから甘いものを補給しなきゃ! それにあたし太りにくい体質だし!」
と、そこそこ豊満な胸をどたぷんと張る由比ヶ浜結衣。
直視したくない己との差異をあからさまに見せつけられた上で、彼女の特化戦力を主張されたのだから雪ノ下にとっては堪ったものではない。
よろしい、ならば戦争だ。と絶壁の少女は続く授業は手加減をしないモノと心に決めた。
「あれ、どしたのゆきのん、目が怖い……」
それが自分に向けられているモノとは露も知らず、由比ヶ浜は雪ノ下の目線の先に何かがあるのかと振り返る。
よく女子は自分の胸を見られているときは気が付くと口にするが、それって自意識過剰なんじゃねーの?若しくは視界に入った相手ならば気づくよね、と筆者は思う。即ち、存在を感知されない透明人間ならば察知は不可能。イコール、ボッチも認識されずに済むのでは、と推測。やはりボッチは最強だった(確信。
それはさておき、振り返った先に由比ヶ浜はちょっと信じられない光景を目にし、絶句した。
「………………え……?」
その様子に、雪ノ下は訝しげに由比ヶ浜へと声をかけつつ、己もまた視線を向け直す。
「由比ヶ浜さん? どうし――、」
其処に遭ったのは、彼女の高校入学時に言いようがない災難を見舞い、以来懸念としていた少年の姿。
「……比企谷くん……?」
奉仕部顧問の平塚先生にそれとなく話を通し、どのようにしているのかだけでも知っておこうと生活指導を促しておいたはずの彼は、何故か生徒会所属の副会長であり同じ国際教養科の綾辻遥を連れ立って此処に入ってきていた。
彼の名を雪ノ下が知っている事実に由比ヶ浜は気づきもしなかったが、なにやら面倒そうな事態が起こっていることだけは、理由が違えどふたりにも漠然と理解できたのである。
☆ ★ ☆
「ほんとに此処で良かったのか?」
「うん。お互い学生なんだし、これくらいがちょうどいいよ」
お礼そのものを忘れかけていた俺に、ファミレスで食事いっかいで手を打とうと提示された時には耳を疑った。
いや、口調は全然そんな感じじゃなかったけど、随分とお財布に優しい提案に人気が出るのも無理ないなぁ、と納得したものである。
時間的に夕飯前ということで軽くスイーツで済ませようという綾辻に対し、俺はというと帰ったらまた防衛任務に行く流れなのでこの場で食事を済ませてしまおうとフツーにドリアを注文する。
お礼より安く済んでいる気がしないでもないので、ドリンクバーを追加で二人前。
せめてパシリを買って出ようと飲み物を聞いたら、自分も行くと云われて納得する。ああ、高校生にとってドリンクバーって基本イタズラの場だもんな、何を入れられるか分かったものではないのですねわかりました。
文脈的に矛盾しているような気がしないでもないが、距離感を大事にしつつ元の席へ戻る俺たち。
ドリアでございまーす、と日曜の奥さまみたいに俺の注文した奴が先に届いていた。
「先に食べちゃっていいよ、この後予定あるんでしょ?」
「おう、じゃあお先に」
理解あり過ぎるよこの子、此処でそこらの女子なら何先に食べてるしああん?とメンチを切られるまである。
なんであーしさんに食事制限されなきゃならんのですかね……?
食べ始めの砂を噛む様な回想もそこそこに、少ししてすぐにやってくる季節のパフェ。
甘いモノを食べる所作もまたいちいち女子らしい綾辻さんには、もはや脱帽の思いである。
「旨い?」
「うん、けっこー当たりかも」
ボッチに会話を期待するな、と云いたいが、向かい合っての食事で何も口にしないのもアレだと口を挟む。
そんな俺の葛藤を他所に、綾辻さんはまったく気にした様子も見せずに嬉し気にパフェを頬張る。
なんだかこころがぴょんぴょんするんじゃぁ~。
と、俺の邪念を感じ取ってしまったのか、綾辻はこちらに気づいた様子で、スプーンでひとすくい。
「――食べる?」
ぐは……っ!?
あーん、の姿勢でスプーンを突き出す彼女に、程よくクリティカルな大ダメージ。
目測Cカップの胸部も制服越しにでもわかるように寄せて主張されておられるので、目線を少し下げることも必要も無く視界に入る彼女の全てが完全にテンプテーションのそれである。
致命傷じゃねぇか……!
「い、いやいい、というか、そういうことをあまり男子にやるなよ、勘違いされるぞ……」
「……勘違いしちゃってもいいんだけどなぁ……」
……聴こえてるんですけど? 俺難聴系じゃないからね、意味ありげに漏れた言葉が届いちゃってるんですけど?
しかし女子相手にそんな振り回されてまた味わいたくも無い痛みを知るのも御免であり、俺は聞こえないふりを必死でしつつ目線を背けていた。
「? 小町……?」
「あ、お兄ちゃんだー」
そして視界に入る妹と、その隣にいる男子の姿。
ふむ、彼氏か?
思索に耽る俺を他所に、妹はぴょんこと自然に俺の隣へと座り込んでくる。
「彼氏か?」
「ううん、全然違うよ? 相談があるんだって」
全然違うっすか……。と項垂れる少年はさておき、連れてきたんなら最後まで面倒見ろよ。
店員に席を同じにしてもらうように云って、席順をシャッフル。
結果として綾辻俺小町の対面に少年Aの状態が出来上がった。
……どうしてこうなった。
「ところでお兄ちゃんこのひとだれ?彼女?彼女なの?小町がいるのになんで彼女造るの?ねえなんで?」
「はじめましてお兄さん川崎大志っす! 比企谷さんとは同じ塾で……」
「比企谷くん、コップどっちかわからなくなっちゃったけどいい?」
「お前ら同時に喋るなよ。あと彼女じゃねーから。それと綾辻、嫌なら店員に云って交換してもらえ」
やや聞き取り辛いながらも、聴こえた言葉に色々と応える俺。
確かに難聴系ではないと云いましたがこれは些か違うのではないですかねぇ、と名も知らぬ世界の神へと悪態を吐くのも已む無しである。大体乾巧が悪い。
「で、その相談とやら、俺が訊いても良いモノなのか?」
「う、うっす。ウチの姉ちゃん総武に通ってるんで、もしかしたら顔を知ってるかもしれないし……」
「川崎、っつったら、うちのクラスでは銀髪ポニテしか思い浮かばん」
「あ、それです」
え、ビンゴ?
世間の狭さに驚きつつ、世界の因果律のふり幅にもうちょっと仕事しろよと云いたくもある。これも乾巧ってやつの所為なんだ。
「……どうしてお兄ちゃんはそのひとのこと知ってたのかな?普段他の人に興味ないのに?美人?美人なのそのお姉ちゃん、ねえ大志君?」
「え、あ、うん、俺が云うのもなんだけどけっこー美人……ひっ!?」
「「へぇ」」
何故かカワサキタイシが息を呑んだが、俺にはなんのことだかわからないな。
両脇が寒くなった? ははは、エアコン利き過ぎじゃね此処。
そんなわけでほのぼの日常回
作中だとゆきのんが平塚先生を上手いこと動かした感が強いですが、実際のところは先生も生徒の事情を知っているから、お互いの目的を把握した結果、先生も八幡のことをやたらと目を掛けていたんじゃないかな、と思いました
妄想ですけどね
え、今後の出番?さあ…?