B級の比企谷くん【ワートリ×俺ガイル】   作:あなたのハートにイオナズン!

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高評価をいただいたので決死の連日投稿…!



総武に蔓延る悪の華、チェーンメールを撃退せよ!

 

「比企谷、これはなんだ?」

 

「なにって、……社会科の職場見学の希望表、ですか?」

 

 

 中間考査も無事終えて、川崎の成績も難なく結果を出せたと思ったのも束の間のある日。

 俺は何故か生徒指導室に呼び出されていた。

 

 呼び出した主犯改め容疑者の平塚先生は、少し前に提出した希望調査プリントと呼ぶべきそれを手にし、上から目線で告げる。

 

 

「見学希望先『総武高職員室』、理由は『先生方の仕事に興味があります』。……お前これじゃあ職場見学として成立しないじゃないか、むしろいつも見てるだろう」

 

「いつもは仕事しない姿しか見てないので、」

 

「しとるわ!? 特に私は誰よりも仕事してる自覚があるからな! 若手だから他の先生方に頭が上がらなくていっつも仕事を割り振られる!」

 

 

 流石にそんなことは無いと思うのだが。

 そもそも、普通の大人ならちゃんと成果を上げてくれるひとに仕事を割り振るのは当然の話で、それでも仕事を振られるというのならば信頼されているか、現状ではまだまだ未熟なのでスキルアップを求められているかのふたつの理由が挙げられる。

 それでもこのひとが特に仕事をしているように見えないのは、こうして生徒に仕事場の愚痴を漏らして『裏』を曝け出してしまっている部分がある所為でもある。

 あんまり明け透けなのは如何なものかと思う。

 接客業として例えると、『店員』が『先生』なら『生徒』は『客』だ。

 客に裏を見せるなよ。

 

 

「というか、キミには前からも言っておきたかったんだ! なんだあの進路調査票は!? 『幸せになれるのならどんな仕事にでも就きたいです』って! 回収した担任が目元を押さえて滂沱の涙を流してたぞ!? 上条当麻かキミは!?」

 

「先生、其処は伏字にしないと」

 

「知るか馬鹿者! その時は担任の腫れ物に触らぬような態度で流されたがな、ふざけ半分で進路希望を書くような生徒に甘えなど許されん!」

 

 

 ふざけてはいなかったのだが、この人は俺の何を知っているというのだろうか。

 というか、それほど変なことを書いた覚えはない。

 幸せな将来を得たいのは誰だって普通に思うことで、なんなら今も昔も幸せな思い出だけがあればいい、と思うのが人間だ。

 けど現実は甘くなく、満足のゆく過程を得られる者など何処にもいない。

 だからこそ将来こそは、と希望を見出すというのに、何故それを否定されなければならないのか。

 

 と、そんなことを説明しようと思ったが止めた。

 どうせこのひともただの先生だ、生徒の意見など聞かずに『そういうモノなのだ』と切り捨てることが仕事だろうし。

 わかってもらえることこそが幸せなのかもしれないが、だからこそ得られないモノを追い縋る俺はひょっとすれば至極滑稽な生き方をしているのだろうか。

 などと、ちょいとノスタルジックな思考を切り替える。

 チクショウwww中二クセェwww

 

 

「そんなことよりですね、うちは確か進学校だった気がするのですが、」

 

「そんなことをぉ? 言い分に何か含みがあるようだが?」

 

「そんなことは在りません。さておき、普通に受験を目指す者が大半の筈なのに高校二年のこの時期に社会科見学ってとっても不思議ミステリー」

 

 

 魔探偵助手の女子高生みたいに取って付けると、ふいと視線を逸らす平塚先生。

 ……うん? 話を逸らすなと怒られると思ったのだけど、意外にも反応が顕著。

 ……何かあるのか、理由が?

 

 

「まあ、あれだ、大人の事情ってやつだ。あるだろ、そういうの」

 

「そういうのと云われても」

 

「……まあ、理事側の意向だ。具体的に言うと『とある会社』につなぎを持ちたい上らが生徒を利用して今回の決定を下した、そして私が監督役で『とある会社』に同行することになっている。そんなわけで、全二年の行き先は決定されている、ボーダー本部だ」

 

 

 希望調査意味ねぇじゃねえか。あ、生徒のほとんどが希望した、っていう大義名分を掲げるわけか。

 わー、聞かない方が良かったー。

 

 特に糾弾する気はなかったのだが、聡い生徒がいる弊害なのか裏事情まで語る平塚先生。

 大人の汚さが無駄に露呈した瞬間である。

 ていうか、自分で聡いとか言っちゃったよ。やだ、八幡てば意識たかーい。

 

 

「そんなわけで、キミみたいに他の仕事場を要求した生徒は、こうして行き先を差し替えるに説得ないし説教ないしを与えることになっている。全部が全部キミの様にフザケタことを書いているわけではないのでな、説教になったのはキミくらいなもんだ」

 

 

 説教だったのか……。

 愚痴かと思ってた。

 

 

「くれぐれもこのことはオフレコで頼むぞ、表向きは日々勉学に費やす生徒たちの息抜きを兼ねているわけだからな」

 

「心配しなくても、そんなことを話す友人なんて俺にはいませんよ」

 

 

 何の皮肉だチクショーめ。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 そんな話があった翌日のこと。

 

 

「ねえ、八幡はもう決めちゃった?」

 

「ん?」

 

「職場見学の相手だよ、先生は3人で1組作れって言ってたじゃない」

 

 

 大天使トツカエルのご降臨かと思いきや、ボッチには随分と辛辣な託宣を下された。

 組を作れ、だと……!? 俺と組んでくれる奴がいると思ってんのかァァァーーーッ!?

 

 

「え……!? つ、作ってどうするんだ? 職場見学っていうくらいだから普通は個人行動だろ……!?」

 

「八幡のいう普通はよくわからないけど、3人で話し合って行きたいところを決めるそうだよ? でも候補に挙がっている会社はもう出てるから、けっこう集中するのかもねー」

 

 

 馬鹿な! 自分の将来の為だろ!? 他の奴の目を気にしてどうするんだ!

 ……と、普通ならば此処で泣き言の一つでも入り、なあなあのうちに余った組に入れられて出発、最後にはとほほもう職場見学なんてこりごりだよ、みたいな昭和の漫画みたいなオチで〆られること請負であったのだろう。

 が、今回は違う。

 何故ならば行き先は既に決定されているのだからな、俺が組に入れて貰えなくても、結果だけは分かり切っているのさ……!

 

 

「ま、何処に入れられても同じだろ。たぶん誰かが余るだろうから、そいつらと組むんだろうさ」

 

「え、……むー、八幡、あのさ、もし良かったら、」「はぁ!? ふざっけんじゃねーよ!!!」

 

 

 と、教室中に広がる不和の声。

 一緒のタイミングで叫ばれたことで、眼前の大天使はびくっと身を竦めていた。そんな仕草までカワイイ。

 それはさておき、誰だ、戸塚のエンジェルボイスを途絶えさせた糞虫は……!?

 

 

「お、俺はちょっと冗談のつもりで、」

 

「冗談でも云っていいこととわりいことがあんべや!? 俺がブルースクエアの下っ端とかって、馬鹿にしてんにもほどがあんだろーが!」

 

「そうだよねー、せめて黄巾賊とか」

 

「そういう話じゃないよね!?」

 

 

 妙に険悪風味で騒いでいるのはトベ何某(名知らず興味なし)。

 その雰囲気から察するに、いつもつるんでいるカースト上位組内部のいざこざのようである。

 ボッチとしてはイイゾ、もっとだ、モット争え……! とダークサイド全開でほくそ笑むところであろうが、その雰囲気の悪さが伝播してクラス内部が空気悪い。

 以前の三浦の時ほどではないが、戸塚を怯えさせているだけで私刑(ギルティ)である。

 というか、同じグループの眼鏡とお団子、漫才してないで少しは宥める方向に。

 女子の方はどうにも他人事風味な気配であった。

 

 

「まあまあ、落ち着けよ戸部。大和だって悪気があって云ったわけじゃないって」

 

「隼人くんは黙ってるっしょ! だいたい、乱闘騒ぎ起こして出場停止食らったやつに云われたくないっしょ!?」

 

「お、お前それ言う!? 言っちゃう!? ていうかそれ根も葉もねーよ! ガセネタだよ!」

 

「だったら俺のもそーだろーがよ! 冗談で済ませちゃいけないことってあるっしょぉ!?」

 

「お、おいお前ら、そんなに騒ぐなよ、恥ずかしいだろ」

 

「「三又童貞は黙ってろ!!!」」

 

「どどど童貞じゃねーわ! ていうか三又でもねーわぁ!」

 

「もう止めろお前らァ!」

 

 

 誰が何をしゃべってんのかよくわからなくなってきたな。興味も無いが。

 リーダーと思しき金髪の優男が叫ぶが、燃え盛るほどHEATした3人は止まらない。

 幾ばくか騒ぎ立てて、その騒ぎは結局担任が来るまで無駄に続いた。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「おーす、ヒキガヤくん。俺と、やらない?」

 

「やらねぇよ帰れ」

 

「ちょ、ちょー、待ってよー。ヒキガヤくんマジ辛らつだわー、態度変わんねぇわあー」

 

 

 何の話か。

 

 随分と騒がしかった朝とは打って変わって、昼休みになってトベなんとかは購買帰りの俺を捕まえて青いツナギの兄さんには全く及ばぬネタで被せてきた。

 邪魔なので振り切ろうとするが、別に用事があるのか反復横飛びのようにディフェンスを繰り返す。

 

 

「10人に増えてから出直して来い」

 

「いやそれ無理だからね、つか、そういう話したいんとちゃうんよ」

 

 

 暗に禿げてから来いという皮肉を込めたのだが通用することは無かった。

 というか、普段と比べると云うほど騒がしくも無い。

 朝の騒ぎを引きずっているのか、コイツのグループ男子は本日随分と大人しめ、というよりは内部分裂が進行中って感じの険悪さが垣間見えていた。

 巻き込まないでほしいんだけどなぁ。

 

 

「いや、あのさー、ヒキガヤくんって今度の職場見学、もう組作っちった?」

 

「いや、まだだが」

 

 

 そういえば戸塚の科白が遮られたままである。

 あの後何か言おうとしていた戸塚の言葉がなんだったのか、それを今一度知るすべは無いモノだろうか。

 

 

「あ、じゃーさ、俺と組まねぇ? 行きたいところはヒキガヤくんに任せるっしょー」

 

 

 と親指を立てるトベ何某。

 組んでくれるならば有り難いが、コイツはあっちのリア充グループで組むと思っていた。

 同情か? 潰すぞ。

 

 

「同情か? 潰すぞ」

 

「なんでそんな返事になるん!? つかヒキガヤくんてマジトーンで冗談いうから分かり辛いわぁー!」

 

 

 誰が冗談と云った。

 が、思わず内心が漏れたのも悪いか。

 まあ、大方いつもの奴らとは喧嘩した手前気まずくて顔を合わせづらいとかそんなだろう。

 平塚先生の話では行き先は結局同じなのだし、形だけでも組むのも問題は無いか。

 

 そんな青春群像劇に内心反吐を吐きつつ、組み分け程度の利用ならばお互い様なので承諾する。

 その後、戸塚が俺と組もうとしていたと後聞きし浄化される俺がいた。

 やっぱり戸塚は大天使、はっきりわかんだね。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 禄でもない噂がチェーンメールでばらまかれて以降、俺のグループは崩壊寸前だった。

 何が理由かはよくわからないし、俺の友達を誹謗中傷する内容は到底信じられるような話じゃなかったが、自分の悪い噂なんかを悪意ありきでばらまかれて面白い奴なんていない。

 その空気は延々と続き、何とかできないものかと生活指導の平塚先生のところに相談に行ったのだが、先生はそれならちょうどいい部活がある、と雪乃ちゃんのやっている相談部を紹介しただけだった。

 そして、それも解決とは言い難い展開にしかならなかった。

 

 彼女は、彼女自身も悪意に晒された経験があるからこそ、今回のチェーンメールに関しては犯人を特定して根絶やしにするのが一番だと力説するだけだった。

 其処に結衣がいたのは予想外だったけど、結衣はチェーンメールの発生した原因を言い当てたし、ひょっとしたらそういうことに向いているのかもしれない。

 しかし、だからこそ雪乃ちゃんの提示した解決方法は許可できないと、彼女たちの手伝いを俺は振り切ってしまう。

 悪いことをした、今度何かで挽回しないといけないな。

 

 彼女たちの推測だが、今回の犯人は俺のグループの誰かとなるらしい。

 とてもそうだとは思えないのだが、色々と理屈付けて説明されると確かに、としか思えなくなってきていた。

 だが、だからこそ犯人を糾弾するのでは、俺のグループは崩れてしまう。

 折角の中の良い奴らを、ひとりでも欠けさせるなんてダメだ。

 話し合えば、きっと誰であろうと分かってくれるはずなんだ。

 

 そうして初めてみたのは、話題を誘導しつつ冗談のように『誰か』を探る心理戦。

 しかし、其処でも俺は計算を間違えた。

 

 ――そこは空気を読んで笑い飛ばすところだろう! なんでマジになって切れてるんだよ戸部!

 

 直接口にしたのは大和だったけど、誘導したのは間違いなく俺だ。

 そのことには誰にも気づかれていないみたいだが、いつもムードを作ってくれるから勘違いしていた、戸部だって怒るときは怒るってことを、俺は知らないうちに忘れていた。

 いや、もしかしたら気の良い空気を作ってくれているアイツに、知らずと甘えていたのかもしれない。

 俺が引っ張っていかなくちゃならないグループなのに、本当に済まないことをしたと思う。

 戸部にもきちんと、今度何か奢ってやらないとな。

 

 しかし、どうするべきだ。

 これじゃあ問題は解決しないし、グループだってバラバラになったままだ。

 折角仲のいい奴らが素晴らしい形で揃って居るのに、朝あんなことがあった所為で休み時間のたびに集まっていたグループは昼休みに入ってもばらけたままだ。

 

 いや、諦めて堪るか。

 まだ話し合う余地はあるはずだ。

 とりあえず、戸部が購買から帰って来たら何か話でもしよう。

 えーと、結衣が云うには、みんなが俺と同じグループになろうとしていたからこの不和が起こったわけで、じゃあいっそ本音を明かせば良いんじゃないかな。

 でもいきなりはダメだ、まずは先手として「そういえば、戸部は何処か希望はあるのか? 職場見学」とこんな感じでいいかな。

 そうしたらみんなが自分の行きたいところを口にして、誰と組めばいいのか、ということも決まるはずだ。

 うん、なんだ、簡単なことだったんじゃないか。

 

 あ、帰ってきたな。

 よし、それじゃあ――

 

 





葉山君の頑張り(笑)にご期待くださいwwww


冗談です
次回はボーダー本部です

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