次回から第2部開始です。
博麗大結界によって隔離された外の世界。その境目となる場所に一機の円盤が浮遊している。その中には複数の宇宙人がいた。
体は薄茶色で鱗を何枚も張り付かせたような体表を持っている。頭部はまるで人間のお尻に見える形で、その顔つきは醜悪である。
その宇宙人はモニターで結界が張られている地点を見定めていた。
『いいか。我々は間もなく幻想郷に突入する。そしてそこに住む全ての生物を根絶やしにするのだ!』
『はっ!』
円盤のボスと思われる星人が部下の星人達に告げると、部下達は足並みを揃えて頷いた。
『よし、突入だ!』
『了解!』
その合図と共に円盤は結界が張られている地点までスピードを上げて駆け抜ける。しかし円盤は何かに激突した様に強い抵抗によって阻まれる。
『ボス! 機体が一部損傷!』
『構うな! そのまま突き破れ!』
円盤はそのまま結界を破ろうと何度も激突する。結界にひびが入るが、その頃には機体のダメージも大きくなっており、煙が上がり始めていた。
そして強く結界に激突すると結界が破壊され、穴が出来る。しかしそれと同時に円盤も爆発を起こし、墜落していく。
『ボス! 機体損傷大! 墜落します!』
『ぬわーーーーーー!?』
そのまま円盤は猛スピードで博麗神社を超え、霧の湖の付近で墜落し爆発炎上した。しかしこれは博麗神社で起こっていたウルトラマンと闇の巨人の戦いが重なった事もあり、天狗は大きな記事にはしなかった。
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ダークケイオスとダークディスペアとの戦いの翌日、太陽が空に昇る時間帯。博麗神社では霊夢らによって宴会が盛大に行われていた。
今回の異変に関わった者、関わらなかった者分け隔てなく集められ、大広間にはかなりの人数が飲み食いをし、騒いでいた。
その中には当然、ヒカルとショウの姿もあったが、二人は現在窮地に立たされていた。
博麗神社に住み着いている鬼、伊吹萃香が徳利を片手にヒカルとショウに迫っている。
「おい人間~! わたしら鬼の薦める酒が飲めないとは言わないよな?」
萃香の顔は赤みがかっており、酒を飲んで酔っ払っているのは容易に想像がついた。ヒカルは萃香を宥めようとしている。
「い、いや、オレらまだ酒飲める年齢じゃないし」
「そりゃ~外の世界での話だろ~? さあ、飲んだ飲んだ~」
萃香が顔を二人に近づけた時、突如天井にスキマが開き、そこから伸びた腕がヒカルとショウを引きずり込んでいった。
「お、おりょ? 何処に消えたんだ?」
萃香が天井を見上げるが、その時には既にスキマは閉じられていた。萃香は口惜しそうに頬を膨らませながら、また徳利に口を付けるのだった。
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「いてっ! ……ここは」
「紫のスキマの中か」
ヒカルは尻餅をついて辺りを見渡し、ショウは綺麗に着地して周囲を確認する。ここは確かに紫が使うスキマの中で間違いなさそうだ。すると空間の奥から紫とその式である藍がやってくるのが見えた。
「礼堂ヒカル、ショウ。今回の件については貴方達には感謝するしかないわ。とりあえず、礼を言わせてちょうだい」
「こっちとしては、お前が黒幕で無かっただけ安心した」
「そうだな。……ってとりあえずってどういう意味だ?」
ヒカルの疑問に紫の隣にいた藍が答える。
「まだ異変は終わっていないから、です」
「どういう事だ?」
ショウが表情をより引き締めながら尋ねると、今度は紫が口を開いた。
「ダークディスペアが最期に言っていたと思うけど、本当の黒幕は別にいるみたいなのよ」
確かにダークディスペアは最後、『あのお方』と叫びながら爆散した。そいつこそがこの異変を引き起こしているのだろう。
「そいつが誰なのか、紫は知っているのか?」
ヒカルの問いかけに、紫は首を横に振る。
「誰かは分からないわ。それさえ分かれば……」
「ディスペアとケイオスがやられた事が分かれば、幻想郷に乗り込んでくる可能性はある」
「そうね。けど、流石に今回の戦いだけでも幻想郷にそれなりの被害が出ている。乗り込まれる前に博麗大結界の修復と強化を同時にしないといけないわ」
紫としてはこれ以上、幻想郷に被害が出るのを避けたいのだろう。霊夢やレミリア達が言っていた幻想郷の賢者の二つ名の通り、幻想郷の事を第一に考えているのがよく分かる。
「とにかく、本当にありがとう。敵もすぐには来ないと思うから少しの間、元の世界に戻るのもいいんじゃない? 特にショウは」
そう言われてヒカルは思い出す。自分はともかく、ショウは何も言わずにここに来ているのだと。しかしシショウは不機嫌そうな目を紫に向けている。
「誰のせいだと思っている」
「ごめんなさいね、あの時は私も必死だったから。有無を言わさない方法を取らせてもらったわ。とにかく、少しの間羽を伸ばしてきてちょうだい。何かあればすぐスキマで呼ぶから」
そう言ってスキマを開く紫。開いたその先にはUPGのライブベースが見えている。
「ああ、サンキューな紫!」
それだけ告げ、ヒカルとショウはスキマから飛び込んだ。それを柔和な笑みで見送る紫、更に藍がゆっくりと頭を下げているのが見えた。そして二人は元の世界に帰還するのだった。
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霧の湖付近。辺りに焦げ付いた臭いが充満している。そして地上には何かの残骸が散らばっている。その中に倒れ込んでいるバド星人が二体いた。その一体が目を覚ます。
『う、うう……ハッ! ボス、ボス!』
一回り体格の大きなバド星人のボスを揺さぶると、ボスはゆっくりと目を開いた。
『ぐ……ここは……』
『どうやら幻想郷に到着したようです。ですが、宇宙船が……』
見渡すと、そこら中に宇宙船の残骸があった。ボスは何かを探す様に辺りを走る。
『他のメンバーはどうした!?』
『……みな、いません。恐らく……』
そこまで言うと、ボスはギリッと歯ぎしりをする。
『そうか……すまない、みんな。みんなの仇は必ず……!』
『いや、ただの墜落ですよねボス? 仇なんていませんよね?』
『待っていろ幻想郷! この恨みは絶対に晴らす!』
『あんた人の話聞いてますか!?』
一人突っ走るボスにため息を吐きながら、バド星人の部下はボスを追いかける。暫く走ると、大きな館がそびえ立っているのが見えた。真っ赤に塗られた外壁が印象的なそれは否応が無しに目を惹きつける。
『ここは……』
『なんだ?』
その時、ボスのお腹から腹減りの音がなった。部下は呆れた様にため息を吐く。
『全く、こんな時によく腹を空かせられますね』
『自然の摂理だからな。仕方ないな。あの館の住人から食い物を分けてもらうか。地球産の食い物は味がイマイチだが何も食わないよりはマシだ』
『俺達の目的ってなんでしたっけ……?』
ボスは部下の言葉を無視して館に向けて歩を進める。そして館の門の前に到着すると、緑色の服を着た女性が立ちながら寝ていた。
『いやボス、俺達この姿で声を掛けたら間違い無く不審者扱いされますよ?』
『大丈夫だ、問題無い』
『問題あるから言ってんでしょうが!?』
すると、声に反応したのか女性が目を開けた。
『ほら見ろ、お前が大声出すから』
『ぐ……』
逃げようかとも考えたが、時既に遅し。女性は大きなあくびをした後、じっとこちらを見つめている。やはり不審だと思われているに違いない。
「……ええと、紅魔館に何か御用でしょうか……?」
『いや、実は道に迷ってしまって。それで腹も減ったから何か食べ物を分けて貰いたいのだが』
「あ、それなら少し待っててください」
それだけ言うと、女性は館の中へ入っていった。部下はほっとした面持ちで胸を撫で下ろした。
『にしても、俺達の姿を見ても何も言いませんでしたね』
『きっと心が大らかなのだ。うん、そうに違いない』
『……って、ボス! 俺達幻想郷の全てを根絶やしに来たんでしたよね? 今こそチャンスじゃないですか!』
『……地球にはこんな言葉があるそうだ。腹が減っては戦は出来ぬと』
『あんたホントはやる気ないでしょ!?』
そんな事をしていると、先程の女性が戻ってきた。しかしその手に食べ物は無い。
『ん? すまない、食べ物は』
『あ、ここのお嬢様が貴方達に食事を提供してやってもいいと仰るので、どうぞ上がってください。ちょうどお昼ご飯作ってたみたいで』
『本当か!? すまない、恩に着る!』
『……はあ、まあいいか……』
ボスが喜色満面の笑みを浮かべているのを見て、部下は半ば投げやりな面持ちで女性に付いていく事にした。
館内部に入ると、中は外観よりも広い印象を受けた。仕組みがどうなっているのか不思議に思いつつ、二人のバド星人は女性に付いていく。女性が大広間のドアを開け放つと、まず目に入ったのは大きなシャンデリアと真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブル。そして豪勢な料理の数々だった。
「お嬢様、先程言った客人を連れてきました」
お嬢様と呼ばれた人物に顔を向けると、黒い羽を生やした小さな少女が椅子に座っていた。その隣には青と白の服に身を包んだ知的そうな顔つきの女性が立っている。
「ようこそ、紅魔館へ。貴方達の名前を窺おうかしら?」
『あ、えーと……俺はウィーク。こっちは部下のノーだ』
『ど、どうも』
見た目とは裏腹に威厳のある話し方をする少女に、二人は縮こまってしまう。
「私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。こっちはメイド長の十六夜咲夜に門番の紅美鈴」
「あ、そういえば自己紹介まだでしたね。よろしくお願いします! あ、私は門番の方に戻りますので後はごゆっくり!」
「……よろしくお願いします」
門番の方は明るく挨拶したが、メイド長の方は明らかに怪訝な表情をこちらに向け、レミリアに耳打ちしている。しかしレミリアはそれを歯牙にもかけないといった感じで首を横に振った。
「口に合うか分からないけど、まずは食べてちょうだい。それから貴方達の事情を窺おうかしら」
レミリアに促され、まずは一口肉を頬張る。やはり地球の食べ物は舌に合わない。それでもボスのウィークは余程腹が減っていたのかがっついて食べている。
『うん、うん! ええぞ! ええぞ!』
『とりあえず、喋りながら食べるのやめましょうよ……』
そして一通り食べ終わった後、ウィークは自分たちの身に起きた事を話した。流石に幻想郷の全てを根絶やしに来たとは言えないので、宇宙旅行の際に地球に寄ったら事故に遭ってしまったという事にしておいたが。
「なるほどね……私も以前月に行った事があるのよ。ねえ、咲夜?」
「はい。そうですね」
レミリアと美鈴は興味津々といった感じで話を聴いていたが、咲夜はどうにもこちらを怪しんでいる様にしか見えない。表情から警戒の色が消えていないのだ。まさか、こちらの真の狙いを感づかれてしまったのかと不安になる。
「それで、墜落した宇宙船ってのはこの辺りに堕ちた訳?」
『ええ。湖が近くに』
「霧の湖ね……全く気付かなかったわ。大変な事がついこの間まで起きていたから」
『はあ……』
レミリアがずい、と体を前のめりにする。
「宇宙船が直る見込みは?」
『無いですな。だからどうしたものかと……』
ウィークがやや芝居がかった口調でそう言うと、レミリアは羽をパタパタさせながらこう告げた。
「なら貴方達。暫くここで働く気は無いかしら?」
『え?』
『え?』
「お、お嬢様!?」
その言葉を聞いたウィークとノーは唖然とし、咲夜は何を言っているのかという驚愕の表情を浮かべる。
「どうせ帰るあてが無いのでしょう? ならこれも何かの縁よ。宇宙船が直るまでの間、ここにいるといいわ。宇宙船に関しては私に任せてくれればいい」
『ふーむ……』
ウィークは大真面目に考えていたが、ノーはすかさず小声でウィークに口を挟んだ。
『ボス! 何真剣に考えているんですか!? 誘いに乗る理由なんて無いでしょう! 目的マジで忘れてるんですか!?』
『いやまあ、そうなんだけどさぁ。寝床すら無いんだしさあ』
『…………』
もはや、ノーは言葉を失うしかなかった。ふと視線を移すと、レミリアサイドでも咲夜がレミリアに物申していた。
「お嬢様、あの様な素性の知れない者達を雇うのは……」
「なら咲夜、お前はあの二人に野垂れ死にしろという訳?」
「いえ、それは……」
「いいじゃない。少なくともホフゴブリン共や妖精メイド達よりは使えそうなオーラを感じるわ。見た目以上にね」
『さりげなく上から見られている気がするのは気のせいだろうか……』
ノーがそんな事を思っていると、突然館が大きく揺れた。何事かと思うと門番に戻ったはずの美鈴が大慌てで駆けてきた。
「大変ですお嬢様! 怪獣が!」
「何ですって?」
血相を変えて立ち上がるレミリア。咲夜も動揺した顔を見せる。
「嘘でしょ? 紫は自分が解放されたから怪獣が出る心配は無いって」
「だからあんなスキマ妖怪の言葉を真に受けちゃダメなのよ。ショウがいない以上、私達で何とかしなきゃね」
レミリアが立ち上がる。それをウィークが手で制した。
「何かしら?」
『ここは俺達に任せてくれ』
「……え?」
『ボ、ボス!? 何言ってんですか!? しかもさりげなく俺まで巻き込んでません!?』
『バカ野郎! 飯の礼だ! そしてこの戦いに勝った暁には俺達を雇ってくれ!』
『あんたやっぱりアレをやる気最初から無かっただろう!?』
「アレ……?」
咲夜が怪訝そうな顔を見せる。しまったとノーは顔を青ざめさせるが。
「なら、貴方達の強さを見せてもらうわ」
『よし、そうと決まれば出撃だ! 行くぞノー!』
『ああもう、こうなったらやってやりますよ!』
ノーはやけくそでウィークに付いていく。ウィークが窓を開け放つと、二人はそこから飛び降りる。そして勢いそのままに巨大化する。
「なっ……」
「あれもウルトラマンと同類なのかしら、咲夜?」
「むしろケイオスやディスペアの類ではないですか?」
美鈴が呆然とする中、レミリアと咲夜はじっと巨大化したウィークとノーを見上げる。
ウィークとノーは紅魔館からやや離れた位置にいる怪獣を見据える。やや細身の黒い体躯に頭部の鋭利な角が特徴的なその姿にウィークはボソリと呟いた。
『凶暴怪獣アーストロンか。宇宙の帝王の名にかけて、一瞬で終わらせてやるぜええええ!』
『やけくそだああああ!』
ノーはウィークと共にアーストロンに突っ込んでいく。しかしアーストロンは徐に口腔を開くと、火炎弾を二連射で発射してきた。突然の攻撃に体が反応出来ず、ノーとウィークは火炎弾の直撃を受け、吹き飛ばされた。
『ぐあああああ!?』
『ぎょえーーー!?』
二人はばったりと倒れ込むと、そのまま人間サイズに戻ってしまう。早い話が負けたのだ。
「え……」
「弱い、わね」
窓から見下ろす三人の視線がとても痛い。立ち上がろうにも火炎弾のダメージが深く立ち上がれない。すると二人の傍を颯爽と通り過ぎる小さな影が見えた。
「お姉さま、こいつはフランに任せて!」
「フラン!?」
二人はレミリアにフランと呼ばれた金髪の少女に視線を移す。するとフランは四人に分身してみせる。アーストロンの火炎弾が容赦なく放たれるが、フランは軽い身のこなしでそれを全て躱してみせる。
「禁忌『フォーオブアカインド』! からの『レーヴァテイン』!」
四人のフランが続けざまにアーストロンを斬りつける。最後の一人が放った攻撃がアーストロンの角を破壊した。するとアーストロンは急に苦しみ始め、逃げる様に地中へ潜っていった。思い出した様にウィークが口を開く。
『そういや、あいつ角がウィークポイントなんだったな。クソ、最初からそこを狙っていれば』
『いや、俺達はそれ以前の問題なんですけどボス』
倒れたままそんなやり取りをしていると、フランがこちらを覗き込んできた。
「お姉さまのお客さん? 私はレミリアお姉さまの妹のフランドール・スカーレット! フランって呼んでね!」
フランの眩いばかりの笑顔に、ウィークがときめいた様な顔を見せる。
『うおおおお……! 天使だ、天使がここにいるぞ! ノー、やっぱり俺はここで働くぞ! 天使のために!』
『ノーーーーーーー!』
ノーの叫び声が、辺りに木霊する。こうして二体のバド星人は帰るまでの間、紅魔館で働く事になったのだった。
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外の世界でバド星人達が幻想郷に突入した地点。そこに黒いコートを身に纏った男が立っていた。男は何かを呟きながら掌を結界に向けている。すると宇宙船が突入した部分が浮かび上がる。男は口角を吊り上げながら下卑た笑みを見せる。
「感謝するぞバド星人。これで突入が容易になった。幻想郷……そこに住む全ての者に、終焉をもたらしてやる……」
男は笑みを浮かべたまま、結界の中に入り込んでいった。
ヒカルとショウは雫が丘に戻ってつかの間の休息を取っていた。しかし、それは長くは続かなかった。紫からの連絡に二人は幻想郷に興味を抱いたサクヤを伴って再び幻想郷へ向かう。
次回、サーベル暴君異変の章