魔法の森まで退却した闇の巨人、ダークケイオスは変身を解いて幽々子の姿に戻る。そしてスキマが無造作に開いているのを見つけると、その中に入り込む。
無数の目に監視されている様な不気味さを感じながら、幽々子は呼びかける。
「紫、いるんでしょう? それとも寝ているのかしら?」
幽々子の声がスキマ内部で反響するが、それから少し遅れて紫の姿が見えた。
「ごきげんよう幽々子。闇の力の使い心地はどうかしら?」
「……それより、どういう事なのかを説明して欲しいわね」
黒い棒状のアイテムを紫に突き付けると、彼女は苦笑しながら答える。
「どうもこうも無いわ。貴女は闇の力に選ばれただけ。私の闇の力の一部を使いこなす器として」
「親友を器として扱う時点でどうかしているわね。気でも触れたのかしら?」
紫はその言葉にピクリと反応し、やるせない表情になる。それが幽々子には引っ掛かりを覚える表情だった。
「そうね、そうかもしれないわ。幻想郷を絶望で染めるなんて私らしくないわよね。でも、こうするしかないのよ……」
「紫……何があったの?」
しかし、紫はその問いかけには反応せずに指を鳴らす。すると柔らかい金髪と赤い目が特徴的な異形の人物と同じ金髪と青い目の人物が現れた。その姿は明らかに人間のそれを逸脱しており、幻想郷と隔絶されている外の世界とは全く違う世界からやって来た存在に見える。
「暗黒星人ババルウ兄弟、アカサギとアオサギ。貴方達に任務を与えるわ。ウルトラマンと人間の絆を作らせないという任務を」
『お任せください、紫様。して、どの様に?』
赤い目をした方の星人が尋ねると、紫はくるりと後ろを向いた。
「手段は任せるわ……。霊夢達や紅魔館の連中はともかく、人里の人間達とウルトラマンの接点は薄い。ウルトラマンの力の源はそこで出会った人間達との絆よ。ならその絆を作らせず、逆に敵意を向けさせる。それで充分よ」
『かしこまりました』
二人の星人の姿が消えると、紫は口元に笑みを浮かべる。その姿に幽々子は言い知れぬ不安を覚えるのだった。
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レイキュバスを撃破した後、ショウは変身を解いてヒカル達のいる場所へ向かう。ヒカルはダメージが大きいのか、霊夢と魔理沙に支えられながら立っていた。
「大丈夫か?」
「何ともないぜ、って言いたいけど無理だな……今回は危なかったぜ」
ヒカルが自嘲気味に笑った後、目を細める。
「あの黒い巨人は、何だったんだ?」
「幽々子様があれになったなんて、信じたくない……」
緑の服を着た少女が辛そうにしている。その隣には何かが浮いていた。
「あれはお前の仲間なのか? 言い忘れたが、俺の名はショウだ」
「あ、申し遅れました。私は白玉楼という場所で庭師をしています魂魄妖夢と申します」
「妖夢は半人半霊、つまり半分人間半分幽霊ってこと」
「ホント、この世界には何でもいるんだな」
霊夢の言葉にヒカルが苦笑いを浮かべると、魔理沙はそれがさも当然である様な顔をしていた。ショウからしても、吸血鬼であるスカーレット姉妹や魔法使いのパチュリー、特殊な能力を持った人間である咲夜がいるので今更驚く事でも無いのだが。
「で、あの黒い巨人になってたのが妖夢のご主人様の西行寺幽々子。あっちは本当の亡霊よ。でも、なんで幽々子があんな事になった訳?」
「……最初は、幽々子様が変身したのとは別の黒い巨人が白玉楼を襲ってきたのよ」
妖夢は全てを話した。白玉楼に突如黒い巨人が現れ、自分と幽々子を襲ったこと。巨人と戦ったがまるで歯が立たなかった事。そして気づいたら幽々子が黒い巨人に操られていた事を。
「じゃあ、そいつが今回の異変の黒幕なんじゃねえか?」
魔理沙の言葉に、霊夢も頷く。
「多分ね。本当なら私が退治してやりたいところだけど」
霊夢が悔しそうに歯噛みする。それが無理なのは、これまでの戦いでも分かっている事である。だからこそ二人のウルトラマンに頼らざるを得ない状況が歯がゆいのだろう。
「とにかく、私達は私達で出来る事を探してみるわ。あんた達は怪獣を退治するのをお願い」
「ああ」
「言われるまでもない」
そこで話し合いは終わり、ショウは紅魔館へと戻っていく。ヒカルも霊夢らと共に博麗神社へと戻るのだった。
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それから三日後。射命丸文は愛用のカメラを片手に人里を訪れていた。目的は先日人里に現れたという巨人と怪物に関する新たな情報を手にするための取材であったが、人里を廻っている内に咲夜と美鈴が並んで歩いているのを目撃し、後を付けていた。
紅魔館の付近でも人里に現れたのと同じ様な怪物や巨人が出現したという目撃情報が相次いだため、その真相を確かめたいと思っての行動だった。しかし、その事について二人が文に対して喋る保証は無い。そのため、二人の会話でその話題が出ないか根気強く待つことにしたのだ。
(とは言っても、人通りが多い場所じゃおいそれと話す訳無いですよね……仕方ない、人里を出たところを狙いますか)
「本当、助かったわ美鈴。貴女がいると荷物をいつもより多く持てるから」
「はは……こんなので良ければ幾らでもお手伝いしますよ」
それにしても、咲夜はともかく門番たる美鈴が人里に来ているのは何故なのだろうと思っていると、その答えが漏れ聞こえてきた。
「門番はショウがやってくれているし、正直美鈴よりショウが門番した方が安心よね」
「咲夜さん、そんな明け透けに言わなくてもいいじゃないですかぁ」
「なら、居眠りしない様にしなさい」
(ん? ショウ? 聞きなれない名前ですね……新しい人でも雇ったのでしょうか?)
文が訝しんでいると、突然空から光が舞い降りた。それは多量の土煙を起こすと、ゆっくりと上体を起こした。
『……ツェアっ』
そこには黄色いV字のクリスタルを輝かせる、赤と黒、そして銀色の巨人が悠然と立っていた。
(え、あ、あれは……この前現れた巨人!? なんでまた人里に?)
周囲の人々も何事かとざわめくが、一番反応していたのは他ならぬ咲夜と美鈴だった。
「し、ショウ!? なんでここに……!」
「ていうか、怪獣がいないのにどうして……」
明らかにおかしな様子の二人に、文は確信する。この二人は巨人の何かを知っていると。文が二人に接近しようとしたその時、地響きが起こって文達を含む多くの人が揺れによって倒れ込む。見ると、あの巨人が家を踏み荒らすように蹴散らしていた。
「な、巨人が人里を……? え、どうして……」
突然の事に文の頭は理解が追い付かない。それは他の人達も同じであった。
「え、あの巨人って前に化け物を倒した奴だろ!? なんで里を荒らしてるんだよ!?」
「やめて! 近くに私の家が……!」
「なんなんだアイツは!?」
巨人が里を破壊していく様を唖然とした様子で見つめる人々……。その中には咲夜と美鈴も当然含まれていた。
「な、何してるのよショウ!?」
「い、一体これは……ショウさん!」
(やっぱり、あの二人はあの巨人の正体を知っている……今はそれより)
「……! 美鈴、ちょっと待ってて」
咲夜は何かを思いついた様に顔を上げると、その場から消える。時間を止めて移動したのだろう。
「え、ちょ、咲夜さんっ!?」
温厚な美鈴だけなら好機だが、今はあの巨人の存在が邪魔だ。逃げないとそろそろ危ないと思ったその時。
『待て待てーい!』
威勢のいい掛け声と共に現れたのは、金髪を掻きあげながら軽快なステップを踏む赤い目の巨人。金髪の巨人は辺りの惨状を見渡しながら拳を震わせた。
『この様な所業、何故行う!? 何者だ、名を名乗れい!』
『……ウルトラマン、ビクトリー』
前は里を守り、今は里を破壊した巨人はそう名乗った。
『我が名はババルウ星人アカサギ! 悪党は成敗してくれる!』
そしてビクトリーと名乗った巨人に立ちはだかった巨人、もとい星人はかなり大げさな口調で自らの名を告げるのだった。
『オリャアア!』
そしてアカサギと名乗った星人がビクトリーに飛びかかる。ビクトリーも一心不乱に殴る蹴るの反撃を加えてアカサギを攻撃するが、アカサギは怯みながらも反撃していく。そこに。
「美鈴!」
「咲夜さん、ショウさんは!?」
「今こっちに向かってるわ」
「やっぱり……!」
咲夜が戻ってきた。美鈴は咲夜の言葉を聞いて何か納得した様な声を上げる。
『ウリャア、デリャア!』
『グワアアア……!』
ビクトリーが次第に劣勢になっていき、やがてアカサギの鋭い蹴りがビクトリーの腹部を完璧に捉えた。
『グハアアア!? グ、ア……』
その一撃を貰ったビクトリーは動かなくなり、光となって消滅した。アカサギの勝利を見届けた人々はやがて歓声を上げた。
「いいぞー、アカサギー!」
「よくやった、アカサギ!」
アカサギを称賛する声が心地いいのか、アカサギはもう一度金髪を掻きあげる。文もアカサギの姿をカメラに収めていくが、その視界の隅で。
「あの怪人は一体……」
「そもそも、あのビクトリーはなんなの?」
何かぶつぶつと呟いている美鈴と咲夜の姿が見えた。一瞬、気になったがそれより今は里を救った英雄の姿を収める方が先だ。これでまた新聞が売れる。文はそんな事を考えながらシャッターを切り続けた。
(あやや!?)
するとまたしても光が降り立ち、土煙を撒き散らす。そこにいたのは――。
「あっ、またビクトリーだぞ!」
「生きていたのか!」
「アカサギ、もう一度やっつけろー!」
そう、先程アカサギが倒したはずのビクトリーが再び現れたのだ。その姿に人々はアカサギがもう一度打倒することを期待する。
『ん……? なんか予定と違うけどまあいいか。ウオリャア!』
アカサギが猛然と飛び掛かるが。
『ツェアッ!』
『ゴハアッ!?』
なんと、先程までと打って変わってアカサギがあっさりと蹴り飛ばされてしまった。もんどりうって倒れ込むアカサギ。起き上がったところをビクトリーは足のクリスタルを輝かせて容赦なく蹴りつける。
『ビクトリウムスラッシュ!』
『ガハ、ゴアッ、ガアッ!?』
ついさっきまでの奮戦が嘘の様に、アカサギが追い詰められていく。その姿に里の人達は動揺を隠せない。
「お、おい、あいつ強いぞ!?」
「もしかして、さっきは本気を出してなかったんじゃ……」
「くそ、負けるなアカサギー!」
「アカサギー、頑張れー!」
人々はアカサギに声援を送る。それに対して、ビクトリーが何故か戸惑う様な仕草を見せる。
「え、どうなってるの……え?」
「ついさっきまで、ショウさんじゃないビクトリーとあの怪人が戦ってあの怪人が勝ったんです……そこにショウさんが来て……」
「……もしかして、ショウは敵だと思われてるの?」
咲夜と美鈴も、ビクトリーと同じ様に狼狽えていた。その隙を逃さず、アカサギはビクトリーの顔面にストレートパンチを見舞う。
『ウア!?』
吹き飛ばされるビクトリーに、人々は歓声を上げる。そしてアカサギを応援する声はますます大きくなる。
『ダリャアア!』
『グウッ……!』
アカサギが連続パンチを打ち込み、ビクトリーを怯ませる。しかし、僅かに距離が出来た事で今度はアカサギに隙が生まれた。
『ウオリャ!』
ビクトリーの鋭いローリングソバットが炸裂し、アカサギが吹き飛ぶ。
『ウオアアア!?』
アカサギはそのまま光となって消滅してしまった。
「ああ、アカサギ!」
「こいつ、なんて事を!」
「また里を壊すつもりか!」
「帰れー!」
人々のビクトリーに向けられる声にビクトリーは狼狽えながら辺りを見渡す。そして、逃げる様にその場から飛び去った。
「くそ、逃げやがった!」
「いつまた来るか分からないぞ。早くアカサギを探さないと」
「アカサギー!」
とりあえず騒動は落ち着いた。文としては最後以外はいい写真が撮れたので満足しているが、それでも。
「ショウ……」
「ショウさん……」
咲夜と美鈴の様子が気になって仕方なかった。
********
『いっつつ……おいアオサギ、どうなってんだよ!』
ビクトリーに蹴られた箇所を押さえながら、アカサギはアジトにしている廃屋に戻る。そして先に戻っていたはずの弟、アオサギに怒鳴りつける。
『るっせえな、そんなに怒鳴るな兄貴』
『お前、ビクトリーが負けて万々歳だったはずなのに何復活してんだよ!?』
『あれは俺じゃねえよ! 本物が来たんだよ!』
『……マジか?』
『マジだ』
アカサギの目が点になった表情に、その弟アオサギはため息を吐く。それでも。
『けど、兄貴がやられた事で人間のビクトリーへの印象は最悪になったぜ。予期せぬ相乗効果って奴だ』
『そのために痛い思いをしてちゃ、意味ないだろうがよ……』
『ああ? 俺が一番痛い思いしてんだろうが、やられ役だぞ?』
今にも掴みかかりそうな勢いで睨み合うババルウの兄弟だが、赤目のアカサギがやがて大きく息を吐いてその場に座り込んだ。
『やめだやめだ。とりあえず、今は作戦成功を祝おうぜ』
『それもそうだな』
アオサギはビクトリーの姿になり、くぐもった笑いを漏らす。
『それにしても、人間って奴は単純だな。ちょっと壊したくらいですぐ敵扱いだ。あんなに扱いやすいのもそうそういないぜ』
ビクトリーの姿から本来の姿に戻り、壁に寄り掛かる。兄であるアカサギはその場に寝転ぶ。
『ま、目の前で起きている事が人間にとっては全て真実なんだ。そこに裏があるなんて考えもしない、まさに単細胞な生き物なんだよ』
兄の言葉に弟は納得した様に頷く。そして、次なる作戦について二人で話し合うのだった。
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「……何よこの記事!」
翌朝の紅魔館のリビング。昼更かしをしていたレミリアは無造作に届けられていた文々。新聞の一面記事を読んで新聞を細切れにした。その残骸を咲夜が即座に片付けたが、彼女の表情もまた晴れないものだった。
その記事は昨日の人里での出来事が詳細に記されており、里を救ったはずのビクトリーが本当は幻想郷を狙う侵略者であり、それに立ち向かったアカサギこそ本当の救世主であると書いているものだった。ショウは苦い表情を見せる。
「俺が迂闊に出ていかなければ」
「それは違うわよショウ! あんたは何も悪くないわ!」
「そうだよ、悪いのはビクトリーの偽者だよ!」
レミリアに続き、フランもショウを励ますが咲夜は心苦しそうに二人に告げる。
「ですが……姿は紛れもなくビクトリーそのものでした。美鈴曰く戦い方がショウのそれとは違ったそうですが、知らない人からすれば些細な事。今のビクトリーは紛れもなく里の人達にとっては敵です」
「うー……だったらどうすればいいのよ」
「偽物の化けの皮を剥ぐしかないと思うわよ?」
パチュリーと小悪魔がリビングに入ってくる。確かにパチュリーの言う通り、今はそれしか方法が思いつかない。そしてショウはこれを実行している犯人がババルウ星人である事にヒントを見出していた。
(単純な話だが、ババルウ星人がもう一体いて、そいつがビクトリーに化けている。そいつの尻尾を掴めば)
変装の名人相手にはなかなか骨の折れる作業になりそうだが、やらなければいつまでも敵扱いだ。ショウは決意を瞳に宿すのだった。
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アカサギとビクトリーの件は当然、博麗神社にも届いていた。ヒカルが新聞を手に取って複雑な表情を見せる。
「……これ、どう見ても偽者よね?」
霊夢が覗き込みながら言うので、ヒカルは頷く。ショウがこんな事をするはずがないのは明白だからだ。
「何だかみょんな事になってますね……」
妖夢も新聞を覗き込む。昨日は妖夢も博麗神社に泊まっていったため、彼女も一緒だった。妖夢曰く幽々子がいないので、暫く博麗神社で世話になる予定らしい。それを霊夢が了承しているのは知らないが。
「とにかく、ショウに会ってみる。あいつの事だから自分一人で解決するとか言いそうしな」
朝食のご飯を勢いよくかき込み、ヒカルはそう決める。仲間の潔白を証明するために。
朝食後、ヒカルは霊夢から紅魔館への行き方を教えてもらい、単身で紅魔館に向かった。門の前に到着すると、門番である美鈴が立っていた。
「あ、ヒカルさんでしたっけ? おはようございます」
「ああ、おはよう美鈴。ショウはいるか?」
「いらっしゃいますよ。……もしかして、昨日の件についてですか?」
「ああ、そうだぜ」
それを聞いた美鈴は不安そうな表情をヒカルに向ける。
「ヒカルさんは分かっているとは思いますけど」
「当り前だろ? 俺はショウに協力するだけだぜ」
それを聞いて安心したのか、美鈴は笑顔で館内へと案内してくれた。ドアを開けて中に入ると、一面真っ赤な内装に目が痛くなる感覚に襲われるが、すぐに慣れた。そして美鈴がリビングのドアを開けると、そこにショウはいた。
「ショウ」
「ヒカル」
目が合うと、ヒカルはアイコンタクトで頷く。ショウもその意味を察したのかすぐに頷き返してきた。
「あら、あんたは……味方はここにもいたわね。これもまた運命って事かしら」
レミリアがティーカップを手にしながら呟く。その意味はヒカルにはよく分からなかったが。
「ショウ、どうするつもりだ?」
「……奴がもう一度現れるのを待つ。まずは人里に行く」
「なら、オレもついていくぜ。偽者はきっちり退治してやる」
ここに来て霊夢の口癖でも移ったかと苦笑しながら、ヒカルはショウと肩を並べて外に出る。二人揃っての戦いが、幕を開ける。
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人里の人目に付かない場所にババルウ星人の兄弟は人間態になって潜んでいた。兄は赤い服、弟は青い服を着ていたが、弟の方は不満そうな表情を見せている。
「なんだよアオサギ、何をぶー垂れてやがる?」
「兄貴はいいよな。救世主とか祭り上げられてるんだからよ。俺はずっと悪役のまんまだ」
アオサギは新聞を片手に取り、アカサギに見せつける。アカサギは呆れながら答える。
「仕方ないだろ。どっちかが悪役をやんなきゃ、この作戦は成り立たない。今回はそれがお前だってだけだ」
弟を宥める様に言うが、アオサギは納得している様に見えない。仕方のない弟だと思いつつ、アカサギは立ち上がる。
「そら、行くぞ。今日も作戦開始だ」
「…………」
アオサギはアカサギを睨むように見ると、その姿をビクトリーの姿へと変えて巨大化していく。当然、それは里の人達の目に触れる。
「あ、ビクトリーだ! また現れたぞ!」
「くそ、アカサギは何処にいる!?」
「早く逃げるぞ! 破壊される!」
人々が逃げ惑う中、アオサギは破壊活動を始める。その動きは投げやりの様に見える。
(兄貴はいつもそうだ。いつも自分だけ美味しい思いをして俺に嫌な事を押し付ける。今回だってそうだ。なんで俺がいつも我慢しなきゃなんねえんだ!)
荒っぽく家を蹴りつけながら里を蹂躙していくと、光がアオサギの目の前で溢れていく。兄が巨大化してビクトリーとなったアオサギの前に立ちはだかる。
「アカサギだ! やっぱり来てくれたぞ!」
「今日こそビクトリーを倒せ、アカサギ!」
「行けー!」
人々の声援を背に受けて気持ちいいのか、兄は髪を掻き上げる。その浮かれた態度がアオサギは気に入らなかった。やけくそで兄を何度も蹴りつけ、ダメージを与えていく。今までの鬱憤を晴らすように。
『ぐおっ!?』
(おい、バカ! いい加減反撃させろ!)
アカサギが何か言っている様に思えたが、アオサギは無視して更に蹴っていく。その様子を見た人達から更に声援が飛ぶ。
「やっぱり強いぞビクトリー……」
「負けるなー、アカサギー!」
(どいつもこいつも、アカサギアカサギって! ああイラつくぜ!)
攻撃すればするほど兄への声援は増すばかりなのに、アオサギは兄を攻撃せずにはいられなかった。
********
「あいつの攻撃、何だか苛立ちをぶつけているみたいだな」
「何にイラついているかは知らんが、これ以上好きにはさせない」
人里に入ったヒカルとショウは早速目に映ったババルウ星人と偽ビクトリーの様子を見てそう呟いた。ショウが懐からビクトリーランサーを取り出す。ヒカルはまずは見守る事にする。
【ウルトライブ! ウルトラマンビクトリー!】
ショウの身体が眩い輝きに包まれ、ビクトリーの姿になっていく。人々は突然現れた二人目のビクトリーに目を見開いた。
「え、ビクトリーが二人!?」
「どうなってんだ!?」
「分身でも使ったのか!?」
ざわめく人々だったが、偽ビクトリーとなっているアオサギはその姿を見た途端に笑い始めた。
『は、ははははは! 本物が来たじゃねえか! これなら俺も化ける必要ねえよなあ!』
最初に現れた偽ビクトリーの体が光に包まれると、金髪に青い瞳が特徴的なババルウ星人が現れる。
「こ、今度はアカサギが二人!?」
「び、ビクトリーが化けたのか!?」
『……ああ、うるせえな人間ども!』
苛立ちが最高潮に達していたアオサギは里の人間を踏みつぶそうと足を大きく踏み出す。
「うわああああ!?」
「きゃああああ!?」
『……!?』
『な、バカやめろ!』
ビクトリーが動く前に、アカサギが動いた。アオサギに飛び掛かり、必死に止める。アカサギが止めたおかげでアオサギの動きが止まり、人々は逃げる事が出来た。そこに。
『フハハ……』
『あいつは……!』
先日現れた黒い巨人、ダークケイオスが人間サイズで空に浮いていた。
『アオサギよ。そんなに正義の味方がやりたいのなら、その望み叶えてやるぞ?』
ダークケイオスが指を鳴らすと、黒いオーラがアオサギを包み込んだ。
『ウアアアアア……!』
『アオサギ!?』
いつの間にかダークケイオスの姿は消えており、黒いオーラに包まれ、血走ったような目になったアオサギがアカサギとビクトリーの前に立つ。
『ハアアア……!』
アオサギは徐に刀を取り出すと、アカサギに向けて振り下ろした。
『……え?』
アカサギは袈裟懸けに斬られた部分を呆然と見下ろした。瞬間、血飛沫が舞い上がって人里を赤く染めていく。アカサギはゆっくりと倒れ込む。
「あ、アカサギ!?」
「あ、アイツどうしちまったんだよ!?」
刀を持ち、正気を失った目を見せるアオサギに人々は震えあがる……。アオサギはそんな人々に向けて凶刃を振り上げる。
「う、嘘だろ……斬られる!」
自らを庇う様に腕でガードする人々の前に、ビクトリーが出た。
【ウルトランス! サドラシザース!】
『ウオリャ!』
振り下ろされた刃を、鋏で受け止めた。その姿を人々は確かに目撃し見上げる。
「……俺達を庇ってくれたのか?」
その問いかけに、ビクトリーは頷く。そして刀を弾き飛ばすと、人々を、アカサギを守る様に身構える。
『ツェアっ』
『ウア、アアアアア!』
アオサギはもう一度刀を手に取ると、身構えてビクトリーの動きを観察する。ビクトリーは右腕を戻すと、今度は青い笛を取り出した。
【ウルトランス! ウルトラマンヒカリ!】
『ナイトティンバー!』
「俺も行くぜ」
ヒカルもギンガスパークを取り出し、ギンガのスパークドールズをリードする。
【ウルトラーイブ! ウルトラマンギンガ!】
「ギンガーーーーー!」
ヒカルの体が光に包まれ、ギンガとなっていく。新たな巨人の出現に人々は戸惑うが、その神々しい輝きが味方であると訴えかけた様だ。
『邪気よ、静まれ!』
ビクトリーが笛を奏でると、澄んだ綺麗なメロディーが流れる。そのメロディーは癒しの旋律となってアオサギを包んでいく。
『ギンガコンフォート』
ギンガもクリスタルを緑色に輝かせると、浄化光線を降らせていく。するとアオサギの血走った目が元に戻っていく。
『……俺、は……』
アオサギがふと目線を下に向けると、倒れている兄の姿を見つけた。
『兄貴!?』
アオサギは兄を抱える。かろうじてうめき声が聞こえたため、生きてはいるようだ。アオサギはギンガとビクトリー、そして里の人々を見る。
『……そうだ。俺がこいつに化けていたんだ』
アオサギはビクトリーを指差す。
『そしてこの里を攻撃したのも俺だ。責めるなら俺を責めろ』
『……なんで、そんな事を?』
ギンガの中にいるヒカルが問いかけると、アオサギは答えた。
『お前達と里の人間との絆を作らせないために、だ』
『…………』
ショウは無言のままじっとアオサギを見る。
『指示したのは、誰だ?』
『……そいつの名は』
そこまで言いかけた時、黒い光弾二発がアオサギとアカサギを同時に貫いた。
『が、あ……』
『なっ……!』
ギンガとビクトリーが光弾が飛んできた方を見ると、いなくなったと思っていたダークケイオスがギンガ達と同じサイズでそこに立っていた。不気味な黒い巨人の出現に、人々はパニックに陥る。
『誰が口を開いていいと言った……?』
ケイオスの出現にギンガとビクトリーは身構えるが、ケイオスはすぐに消滅する。そして後には二人のババルウ星人の遺体が残るだけだった。
『…………』
『……ダーク、ケイオス……』
「そ、そんな……アカサギ……」
ギンガとビクトリーはやるせないように俯き、里の人も呆然と物言わぬ二人を見上げた。やがて二人の遺体は光となっていき、消滅していく。何とも言えない重苦しい空気が人里を包み込んだ……。
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それから少し時間が経ち。突然寺子屋の前でスキマが開いた。その中から放り出される様にしてある人物が出てきた。大きめのハットを被り、革ジャンを着た青年が辺りを見渡す。
「ここは……何処だ?」
青年はハットを押さえながら立ち上がり、呟いた。
次回予告
アカサギとアオサギの死で人里には重い空気が流れていた。そこに追い打ちをかける様に新たな怪獣が人里を襲う。そこに現れたのは、ギンガでもビクトリーでもない巨人だった。
次回、偽ノ魔王獣異変の章