わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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おまつりのそらはめまぐるしいのである

 それにしても今日はやかましいのである。

 なんでも神社でなにかしらのお祭りをするからと屋台がどんどんやってきているのである。

 吾輩は昨日ふとたちとお昼寝をした草の上でくつろぎながらそれを見守っているのである。仮に不正があれば吾輩は見逃さぬ。いまのところは何もないようではある。

 昨日は吾輩たちが起きてみると掛け布団を掛けられていたのである。誰が掛けてくれたのであろうか。吾輩はとんと分からぬ。親切なものもいるのだと吾輩感心していたところだ。

 そんな吾輩も今日はかぼちゃのようなスカートの上で丸くなっているのである。

 

「…………」

 

 吾輩を膝の上に載せたままじっと神社の広場を見ているのは、昨日知り合ったこころである。全く表情が変わらぬから、吾輩をしてもこころのことはよくわからぬ。しかし、この少女の周りに妙なお面が浮いているのが不思議である。

 たまに近くに寄ってきた時には吾輩のぱんちで追い払ってやるのだ。

 おお、話をすれば吾輩の隣に笑った女のお面が近寄ってきたのである。……怖いと思ってはいかぬ。吾輩はすくっとスカートの上で体を伸ばしてから、パンチするのである。

 

「いて」

 

 なんでこころが痛がるのであろう。それに全く表情が変わっておらぬ。

 

「あばれるんじゃない」

 

 何か言いながら吾輩の背中をこころが押さえつけてきたのである。吾輩はその手には乗らぬ。するりと草むらにおりたのである。それにしてもこころの履いているスカートは穴だらけであるな。

 なんでであろう、吾輩こういう狭い空間があると入ってみたくなってしまうのである。スキマの中に顔を入れてみようするのである。

 

「は、はいるな、はいるな」

 

 途中でこころに抱き上げられたのである。しばしこころの無表情な顔とにらめっこするのである。人里ではよくにらめっこを人の子から挑まれるのであるが、吾輩負けたことはないのである。

 相手が勝手に笑顔になるのである。吾輩は特に何もしておらぬ、目の前でじっと相手の顔を見ているだけにすぎぬ。それでも負けたことはないのである。偶に巫女にも勝つのだ。

 吾輩はむてきである。

 ふふ、そうとも知らずに吾輩ににらめっこを挑んだことを悔いるのである。こころよ、さあ笑うがいい。

 

 …………………………

 

「なぜ見てくる?」

 

 それは吾輩の台詞である。本当にわずかも表情が動かぬ。まさかこやつは、にらめっこの達人なのかもしれぬ。しかし、吾輩とて負けられぬ。にゃあと鳴いてみるのである。にらめっこで吾輩が鳴くと相手が笑顔になることもしばしばである。

 

「にゃあ」

 にゃあ

 

 ううむ、けっちゃくがつかぬ。鳴き合っているだけではいたしかたないのである。

 吾輩はちらりと見て、そっぽを向いてみたりとひじゅつの限りを尽くしたのであるが、こころは一向に笑わぬ。にらめっこをして吾輩は生まれて初めて苦戦しているのである。けいねにも吾輩は負けたことはない。

 

「わかったわ。お散歩をしたいのね」

 

 こころはそういうと吾輩を抱いて立ち上がったのだ。軽やかに屋台の準備が進む広場へ足を進めているのである。もしかしてこれはにらめっこではなかったのかもしれぬ。こころのこみゅにけーしょんだったのかと吾輩は思うのである。

 それはそうとだっこされたままの移動は楽ちんであるな。

 

 ★

 吾輩は昔からお祭りの雰囲気が好きである。こころと一緒に神社をあてどもなく歩き回り、たまに縁側に座って休んだりしたのである。

 お天道様もお家に帰っていく。吾輩はそれを名残惜しくいつも見守っているのである。

 お月様はいつもいつの間にか空にあがっているのである。吾輩に昇ってくるところをみせぬ。いつかはかならずどこから昇ってくるかを暴くのである。

 こころと一緒に縁側から空を見上げると、夕焼けと黒い空がまじりあっているのである。黒い方にはお星さまがだんだんとやってきたのである。

 

「いこ」

 

 こころの言葉ににゃあと答えて、吾輩は縁側から軽くジャンプしたのである。

 境内にいくつかの屋台が立ち並ぶと里からだんだんと人が集まってくるのである。

 その内に人の子などが走り回り始めたり、もう何かを焼いている屋台のいい匂いがしたりするのである。

 それでいて、だんだんと暗くなってくると赤い提灯が空に浮かんでいるのである。あれは糸かなにかでつるしていると吾輩はちゃんとわかっているのである。

 

「うまいなぁ。これ」

 

 吾輩はこころの後ろを歩いているのである。こころはさっきヤツメウナギなるものの串焼き貰って食べ歩きしているのだ。これはいかぬ。ちゃんと吾輩が注意してやるのである。

 

「…………これは食べれない」

 

 こころが吾輩をちらりと見てから言うのだ。いや、吾輩はねだっているのではないのである。それにしても今日は何の祭りであろうか、さっきちらりと見た巫女が何かを売っていたのである。

 

 まあ、いいのである。

 楽しいことは毎日しても、きっと楽しいのである。

 しかし、人が多くなってきたのである。吾輩踏まれぬかちょっと心配なのである。

 

 むむ。吾輩の前から歩き食いをしている少女がやってくるのである。肉まんのような物を口に咥えて楽しそうにしているのであるが、吾輩は一つ「にゃあ」と注意するのである。

  頭におだんごのような髪飾りを二つ付けた少女であるな。

 少女は吾輩の毅然とした鳴き声に驚いているのである。しかし妙な格好である。頭はこころと同じような桃色であるが、片手には包帯でぐるぐる巻きにして、片手にはくさり? を巻いているのである。胸元には大きな花をつけているのである。

 

 これはおしゃれであろうか。吾輩にはとんとわからぬ。

 まあ、なにはともあれ歩き食いはいかぬ。

 

「……ご、ごめんなさい。わ、私が猫に……」

 

 なんか謝られたのである。

 ううむ。吾輩の言葉がわかったのであろうか? いや、そんなわけはないのである。そうであれば吾輩もこみゅにけーしょんには苦労せぬ。こころもそう思うであろう?

 

 

 うむ?

 にゃあ?

 みゃあみゃあ?

 

 

 こころがおらぬ。というか周りに知った顔がないのである。

 こころが迷子になってしまったのである! 

 これはいかぬ、どこかで泣いているかもしれぬ。吾輩はあわてて体を伸ばして探してみるのである。さっきの包帯の少女もどこかへ行っているのである。

 

 というか、おぬしは誰であろうか。

 吾輩の後ろに小さな女の子が泣き顔で立っているのである。どこかで見たことがあるのである。たしか人里の子供……迷子であろうか! 遊んだ記憶があるのである。もしかして親と離れて、知り合いの吾輩に助けを求めにきたのであろうか。

 な、泣かないのでほしいのである。安心するのである。吾輩は少女になあごと声を掛けるのである。

 人の足が吾輩の前を通り過ぎていくのである。

 吾輩はきゅうしたのである。だれも見捨てるわけにはいかぬ。

 どうすればいいのか、吾輩は深く考えるために眼を閉じたのである。

 それから眼をあけると、目の前につくりのしっかりとした靴があったのである。

 

 見上げれば赤い瞳が吾輩と少女を見下ろしているのである。

 緑の髪を片手でよけながら優しい顔をしているのである。吾輩はふと、綺麗なお花を見た時のような気持になったのである。

 少女はひまわりのような色のリボンをして雨でもないのに傘を持っているのである。

 

「おじょうさん、子猫さん? まいごかしら?」

 

 緑の髪をした少女は言ったのである。がやがやと周りの声がするのにしっかりと吾輩にも聞き取れるきれいな声である。

 

 しかし、吾輩は、迷子ではない。

 

 

 




削るところが無さすぎて、くせんしました

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