わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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どんなかたちのであいもいいものである

 祭りの時に空をみると不思議なのである。

 提灯がゆらゆらしていて、吾輩の周りは明るいのであるが、空の上は暗いのである。

上を見ながら吾輩は人に踏まれぬように歩く。

そうやってしさくにふけってみるのである。

 それにしてもいい匂いがそこらじゅうからするのである。吾輩もおかねがあればやたいとやらで何かしてみたいのである。それにしても不思議である。おかねなんて噛んでも、嘗めてもおいしいものではない。

 あんなものを取り合う物ではないのである。それよりも煮干しのほうが吾輩は嬉しいのである。

 

「猫さん。付いてきているかしら」

 

 吾輩を呼ぶ声がするのである。ちゃんと付いてきていると吾輩は前をむいて、にゃあというのだ。

 緑の髪の女子がいるのである。

吾輩のことを迷子と間違ったことはまあ、吾輩の広い心にはなにほどのことでもない。緑の髪の女子は吾輩を頼ってきた迷子の少女と手を繋いでいるのである。

 どうやら迷子の少女のほごしゃを探すことを手伝ってくれるようである。吾輩はほっとしているところである。

 

「猫さんの飼い主はどこにいるのかしら?」

 

 吾輩に飼い主などおらぬ。自由気ままにどこにでも行くのである。

 緑の髪の女子はずっとえがおである。迷子の少女もそれにつられて笑顔になっているのである。

 うむ、よいことである。

 会話にぴくぴく聞き耳を立ててわかったのである。どうやらこの緑の髪のおなごは「ゆうか」というらしいである。

 吾輩はその名前を忘れぬようにしっかり覚えたのである。吾輩は記憶力にはすこしじしんというものがあるのだ。いちじいっくたがうことはない。

 ゆーかと迷子の少女の後ろを吾輩はてくてくついていくのである。

 ……ゆーかの足取りが遅いのである。もしかして吾輩や少女に合わせているのであろうか、吾輩は二人の後ろを歩かなければ踏まれぬかもしれぬ

 屋台の前で2人が止まったのである。

 お、りんごあめであるな。吾輩あれを食べたことはないのである。

 りんごあめの屋台をやっているのはどうみても河童であるな。いつも暑苦しそうなへんな青い服でいるからわかりやすいのである。

 

「そうね。ひとつ」

 

 ゆーかがりんごあめを貰っているのである。そのまま迷子の少女にあげたのである。

 吾輩には……いや、なんでもない。

ねだるなど紳士ではないのである。ところでりんごはどこで手に入れているのであろうか。

 もしや妖怪が作っているのであろうか?

 いやいや、たぶん人里で作っているのであろう。吾輩も山芋を掘り出してみることもあるのである。あとで口がひりひりするから食べぬ。掘り出すだけである。

 りんごも地中に埋まっているのであろう。吾輩は今度見つけるつもりである。それは食べてみるのである。

 

 縁日はいろんな屋台があるのである。

 ゆーかよ射的をするのはいいのであるが、あっちを狙うのである。吾輩にじゅうを向けるではない。それを迷子の少女も真似ているのである。

 おそらくわからぬであろうが、吾輩よりも背の高い2人にじゅうを突き付けられる吾輩の身にもなってほしいのである。そうそう、ゆーかよじゅうを引くのである。

いや、店主をじゅうで脅すでない。いいけいひんをまえに、とは何を言っているのであろうか? 

迷子の少女に狙わせているのである。あ、あたったらしいのである。吾輩からは見えぬ。

 

しばらく歩くとゆーかと迷子の少女がまた立ち止まったのである。

縁日は子供が遊ぶものがいっぱいあるのである。こう周りを見回すと人の子はいっぱいいるのである。

うむ? あそこで何かを食べている子供は着物をちゃんときてはいるのであるが、頭にお椀のようなものを被った妙な格好をしているのである。いや、なんで頭にお椀を被っているのであろうか。おしゃれというものであるな。

吾輩もお椀を被ったらお洒落であろうか……? とんとわからぬ。

 

「猫さん」

 

 ゆーかの声がするのである。後ろを向いてみると手にほかほかの串にささったヤマメを持っているのである。屋台でもらったのであろう。

屈んで吾輩の前に持ってきてくれたのである。

 にゃあ、にゃあぁ。

 いかぬ、我を失っていたのである。吾輩は紳士としてちゃんと挨拶をしてからいただくとするのである。

 ゆーかよ、さあ吾輩にくれるのであるというさきから吾輩の前でもぐもぐたべるのをやめるのである、ちょっとくらいほしいのであるそこがいちばんおいしいのであるああ、えがおでたべるのをやめるのであるふぎゃあ! なああご。

 

 なんで吾輩を呼び止めたのであろうか!? 

 ゆーかは自分で食べているのである。それもすごくうれしそうなのはなんでなのであろうか。ううむ、そんな食べ終わった串などいらぬ。

 

 いや、この串ちょっと味がするのである。少しだけ嘗めてみるのである。ううむ。このあたりがちゃんと味がするのである。ゆーかが頭を撫でてきたのである。

 

 

 ゆーかと少女と吾輩で縁日を回ってみたのである。

 お団子をもぐもぐしているきんぱつのウサギのような耳の少女の足を踏んでしまったのである。まあ、お団子のかけらを貰ったから許してやるのである。

 ちらりと小傘の顔を見たのである。ゆーれい屋敷をしているようであるが、なんだか笑い声が聞こえるのである。

 それでも吾輩は2人から離れられぬ。

迷子の少女はゆーかを笑顔で見上げているのである。。

ゆーかは迷子の少女を笑顔で見下ろしているのである。

笑い合いながら、歩いていくのであるな。

うむ? ということは吾輩も笑顔なのであろうか。吾輩は鏡はあまり見ぬ。水面にうつる吾輩の顔をたまに見る程度である。だから笑顔がよくわからぬ。

 とりあえずにこにこしているゆーかと笑顔の迷子の少女が吾輩を見下ろしているのである。吾輩はそれでいいのである。

 

 ふと、声がしたのである。

 誰かを呼んでいるのであろう。

 ゆーかと手を繋いでいた迷子の少女が「あ」と声を出して駆けだしていくのである。人をかき分けておとなのにんげんに抱き付いているのだ。おそらく親であろう。

 吾輩がゆーかをみると、まだ笑顔のままで片手を迷子の……いやもうただの少女に向けて小さく振っているのである。ほんのり吾輩は寂しくなってしまうのである。

ゆーかはどうであろうか。

 吾輩はにゃあと聞くとゆーかは吾輩をゆっくりと見下ろして優しそうな顔をしているのである。しかし、吾輩はさっきのヤマメのことは忘れておらぬ。油断はできぬのである。

 

 提灯の明かりがゆーかを照らしているのである。ほんとうにやさしいとおもってしまうようなかおであるな。髪がきらきらしているのである。

周りをひとが歩いていくのである。

吾輩もこころを探さなければならぬ。

 

「猫さんも行くのかしら?」

 

 仕方ないのである。吾輩はもうひとりの大きな迷子を捜さねばならぬ。

 吾輩はにゃあとゆーかに挨拶をしてから、後ろを向いて歩きだしたのである。

 

 またね

 

 後ろから聞こえてきた声が吾輩には聞き取れなかったのである。

 ゆーかが吾輩に何か言ったのかもしれぬ。だから吾輩は振り返ってみると、そこにゆーかはおらぬ。

 

 こんなにひとがいっぱいいるというのにほんのりさびしいとはなんでであろうか? 吾輩にはわからぬ。明日にはきっとまたどこかであえると分かっているとしても、こうなんとなくそう思ってしまうのは吾輩にはえいえんの謎かもしれぬ。

 

 それでも吾輩はもう振り返ってはおれぬ。

 いろいろとやることは多いのである。なに、吾輩にはわかっているのである。きっとまだまだ何か楽しいことがあるに違いないのである。

 

 

 

 

 

 

 


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