急に吾輩は抱きかかえられて空にあがっていくのである。ううむ。あれである。下を見たら祭りの火がだんだんと遠くになっていくのであるから、ちょっと怖いのである。
吾輩が上を向くと、少女の顔が見えたのである。緑の髪をした少女であるな、なにが面白いのか笑顔である。いいことなのである。
おお、ちょうど上にふんわりした雲が迫ってくるのである。吾輩は一度雲を食べてみたいと思っていたところである。吾輩は口を開けてみるのである。
少女と吾輩は雲に突っ込んだのだ。
目の前が真っ白になったのであるが……雲は味がせぬ。人間の食べるわたがしも雲の親戚だと思っていたのであるが、現実は甘くないのである。
そう吾輩が思うと、急に視界が開けたのである。吾輩は眼を疑ったのである。
満天の星空とお月様がいつもより近いのである。
下にはふかふかの雲が敷き詰められているではないか、空の上とはこんなにも綺麗だったのであろうか。でもちょっと寒いのである。吾輩は少女ににゃあと訴えてみるのである。
「はじめましてねこさん」
うむ。初めましてなのである。別にさっきのは挨拶ではないのであるが、まあいいのである。吾輩は紳士なのであるから、ちゃんと挨拶はするのである。それにしても空の上で挨拶するのは初めてなのである。何事も経験であるな。
「私は古明地こいし。猫さんはこんばんは」
にっと歯を見せて笑うのが似合っているのである。こいしよ、吾輩は吾輩なのである。
こいしは吾輩を両手で持って、向かいあったのである。こいしの周りに紫の目玉のようなものが浮かんでいるのは何であろう? パンチしたくなるのである。
「今日はおまつりなのに誰も私に気が付いてくれなかったの」
ううむ……確かに何事もみんなでやった方が楽しいのであるな。そう言えばふとはどうなったのであろうか、結局ゆゆこが全て食べていたのであるが勝敗が分からぬ。まあ、ふとが食べられるわけでもない、大丈夫であろう。
「でも、寒い」
そうであるな。吾輩も寒いのである。おお、吾輩のお腹に顔を当てるではない。
こいしは吾輩を抱いたままくるくるとゆっくり飛んでいくのである。まるで空の上で寝そべるように吾輩を抱いているのである。
空にはお星さまがきらきら光っているのである。吾輩は結構高いところに来たと思ったのであるが、上には上がいるのであるな。お星様は飛ぶのがうまいのである。吾輩も鳥くらいにはなれればいいのであるが、
それにしても綺麗であるな。吾輩はお月様にもにゃあと挨拶しておくのである。
「しずかだなぁー。ねえ猫さん」
なんであろうか?
「いま私は貴方の後ろにいるの」
……うむ。まあ吾輩を抱いたままであるから、後ろと言えば後ろであるな。こいしは吾輩をじっとみていうのである。
「猫さんは電話って知ってる?」
もちろんである。
よく村の子供達が作っている糸のついたやつであろう。遠くでも声が聞こえると評判のあれであるな。なんで急にそんなことを聞くのであろう。吾輩は首を傾げたのである。
「わからないかー。メリーさんって有名じゃないかもね。幻想郷では人の後ろをとっても電話が掛けられないのが問題よね」
いや、わかるのである。今首を傾げたのは分からない合図ではないのである。
しかし、めりいとやらには会ったことがないのである。話からすれば糸のついたあれを人の後ろから掛けてくるのであろう。……奇妙な奴であるな。一度見てみたい気がするのである。やっていることがこがさと似ているのである。知り合いであろうか。
こいしと吾輩はそんな形でのんびり空の上で泳いでいくのである。
「そうだわ」
急に声を出したこいしを吾輩が見るのである。こいしも吾輩を見ているのである。
きらきら光るこいしの瞳はまるでお星さまのようであるな。にこにこしているのはいいことなのである。
「さっき能だとか、踊っているお面をいっぱい持っているのが注目を浴びていたわ。私もダンスがうまくなればみんな話しかけてくれるかも?」
さっきからそうであるが、こいしはいろいろと突拍子がないのである。それでも嬉しそうに吾輩を抱いて、くるりくるりと空を泳いでいくのである。楽しそうなのはいいことであるが落とさないようにして欲しいのである。
「そうと決まったら練習をしないと、どこかに練習相手はいないかなぁ」
これ見よがしにこいしが吾輩を見てくるのである。いいのである、吾輩だんすはしたことがないのであるが、これも経験なのである。こいしは吾輩が何か言う前に、吾輩を左手で抱いて、右手で吾輩前足を持ったのである。
「こんなに素敵なダンスホールがあるんだから。踊らないと損だもん!」
こいしよ、だんすほーるとは何であろうか?
ここは空の上である。雲の上で踊る吾輩たち。見ているのはお月様とお星さまたちだけである。吾輩は疑問に思ったのであるが、こいしが吾輩を抱いたままくるりくるりと踊り始めたのである。
こいしが何か歌っているのである。
気持ちよさそうにしているのである、綺麗な声であるな。これはいんぐりっしゅかもしれぬ。吾輩もなーごと合わせてみるのである。
こいしは吾輩をみてニット笑うと、またくるっと回ったのである。吾輩は初めてだんすをしたのであるが、こんな感じでいいのであろうか。なかなかうまくできているのかもしれぬ。吾輩にはさいのうがあるのであろうか。
いやいやここで慢心してはいかぬ。吾輩は紳士であるから、謙虚にならねばならぬ。
「ねこさん。今度地底に遊びにこない? お燐も喜ぶかもしれないわ」
おりんとやらが喜ぶのであればいかねばならぬ。吾輩誰かが喜ぶのであるならどこにもでも行くのである。
吾輩の返事も待たずにこいしはまた歌いながら踊るのである。
☆★☆
今日は疲れたのである。
吾輩はあれからこころいくまで踊ってからこいしと地上に下ろして貰ったのである。そう言えばこころはどうなったのであろうか、もう祭りも終わっているのかもしれぬ。それでも心配ではあるな、吾輩は神社に急ぐのである。
それにしてもこいしも吾輩をよくわからぬ人里の一角に下ろして、急に消えたのである。全くどこに行ったのかわからぬ。掴みどこのないやつであるな。ふと以上である。
ともあれ吾輩は神社にたったか急ぐのである。疲れてはいるのであるがこころも泣いているのかもしれぬ。結局ゆーかと遊びふとと遊びこいしと踊ったのである。なかなか充実していたのかもしれぬ。
吾輩はいつもの石段を駆けあがるのである。逆に人々が石段を下りていくのである。
――たのしかった
おお、もう終わっているようであるな。
口々に楽しかったと言いながら帰っていくのである。
吾輩はふと立ち止まったのである。それから後ろ足で頭を掻いてみるのである。祭りが終わったと聞くと……妙に寂しくなってしまったのである。なんでであろうな。
「お」
と声がするのである。顔を上げるとそこにはようむがいたのである。相変わらず刀を腰にぶら下げているのである。
「どこに行っていたの? 迷子になったかとあいつが探していたわよ」
あいつとは、アレであるな。ふとであろう。
うむ? ようむよ、なんでそんなに吾輩を見てるのであろう。照れるのである。
「こいつを、百物語の間抱いていれば……怖さがまぎれるかも」
なんだか眼が怖いのである。ようむが両手を広げて吾輩を抱っこしようとするのである。
「こ、こわくない、こわくない」
いや、怖いのである。普通に近寄ってほしいのである。