ほうほうとどこかで鳥が鳴いているのである。
吾輩は吾輩を捕まえようとしてくるようむに連れられて神社の広場にやってきたのである。なんだか必死であったので吾輩は人助けのつもりで来たのである。
吾輩とようむは紅白の掛物がされた、大きなやぐらにあがったのである。そう言えば青い髪の少女が立てていたのである。
高さは神社の屋根よりは少し低いのであるが、上がってみれば大勢で寝そべることができるくらい広いではないか。周りにはぼんぼりが輝いているのである。
「あら、猫さんを連れてきたの? ようむ」
すでにゆゆこが座っていたのである。扇子で顔を半分隠しながら吾輩を見てきたのである。ひさしぶり……いや、さっき会ったのであるな。吾輩はちょっと空の上まで行っていたのである。お月様が綺麗であった。
「ねこさんこっちに来てもいいわよ」
ゆゆこが膝を叩いているのである。吾輩は軽く返事して近寄っていくのである。
「だ、だめですよ。幽々子さま! この猫は私が」
「妖夢。今から百物語をするのがあんまりこわいから、その間ねこさんを抱いて怖さを紛らわせよう、なんて考えていないかしら」
「…………………」
うむ? ひゃくものがたりであるか、それは何であろう。そう言えば蝋燭がいっぱいあるのである。ようむよ、にゃあ。ようむ? 何であろう赤い顔で固まっているのである。
「そ、そそそそ、そんなことあるわけないじゃないですか!」
びっくりしたのである。急に大きな声を出されたので吾輩耳がぴくぴくしたのである。
「こここ子供じゃあるまいし。私はただ猫が迷子になっていたのを保護しただけですよ。決して幽々子さまがおっしゃられたようなことはありません」
ようむが滝のような汗を流しながら何か言っているのである。それからその場に座って幽々子に言ったのである。
「も、もちろん幽々子さまが猫を抱かれていても、い、いいですよ」
「そーう? じゃあ猫さんこっちにいらっしゃい」
うーむ、吾輩はその場でゆゆことようむを交互に見比べてみたのである。よくわからぬがようむが何かに怯えているのは分かったのである。
ゆゆこが吾輩に手を差し伸べてきたのである。吾輩は肉球でその手に触ってからにゃあと答えるのである。そしてくるりと後ろを向いて妖夢の膝の上に乗ったのである。
「あら」
済まぬ。ゆゆこよ。吾輩は紳士であるから困った者がいれば見過ごすことはできぬ
吾輩が上を見ればようむが眼をぱちぱちさせているのである。吾輩は挨拶を忘れぬ。ちゃんとにゃあと言っておくのである。ちょっと膝の上を借りるのである。
「ふふ、妖夢。まるでこの猫さんには私たちの言葉がわかっているかのようね?」
「ま、まさか。これは、たぶんこの猫……」
なんであろうか、吾輩は初めて会った時から刀を振り回すのはどうかと思う以外、おぬしのことを悪く思ったことはないのである。仲良くしたいものであるな。今度お昼寝をするのである。
「私のことを慕っているのかもしれません」
……ううむ。ふと、と同じ程度のことを言うのはやめるのである。
☆
時間がたつにつれてやぐらの上に人が上がってきているのである。おお、巫女である。吾輩ちゃんと挨拶をするのである。巫女は吾輩をみてため息をついているのである。
「……はあ、なんで普通にいんのよ。まあいいけど」
次はまりさもきたのである。相変わらず大きな帽子であるな。吾輩が挨拶するのである。
「おっす」
軽い挨拶をであるな。吾輩気に入ったのである。
ところでようむよ、膝が固いのである。正座しているからであろうか、吾輩座り心地がよくないのである。もっと楽にしても苦しゅうないのである。
「…………」
固まっているのである。吾輩は仕方なくようむの膝の上で一番過ごしやすいぽーずをあれこれ研究してみるのである。ごろごろ、ううむ。これでもないのである。ごろごろ、おおうひざこぞうがいたい。
そういえばさっきからゆゆこたちの言う「百物語」とはあれであるな、怖い話をするらしいのである。怖い話であるか……ある日突然にぼしがこの世から無くなってしまったら、吾輩あまりの悲しさににゃあにゃあ鳴いてしまうかもしれぬ。
考えるだけで恐ろしいのである。そんな話を百個もするのであろうか、にぼしがいくつあっても足りぬ。いや、百個あれば足りるのであろうか。いやいやそれであるなら吾輩が食べたいのである。……これは難しい問題であるな。
「こいつ、のんきですね」
ようむよ吾輩は今難解なことを考えているのである。
「きっとにぼしのことを考えているのよ。妖夢も一緒に考えてあげなさい」
ゆゆこよ! 吾輩は今その通りのことを考えていたのである。もしかするとゆゆことはこみゅにけーしょんが取れるかも知れぬ。吾輩そう思ってゆゆこを見たのである。ゆゆこも吾輩ににっこりと笑いかけているのである。
「いや、幽々子さま……にぼしなんてどこにもないじゃないですか」
ようむよ修行が足らないのである。
「妖夢。修行が足らないわね」
また、意見があったのである。吾輩とゆゆこは気が合うかもしれぬ。ゆゆこは膝で吾輩たちににじり寄ってきて、吾輩の頭を撫でてくれるのである。ゆゆこの手は綺麗であるな。
「いい、妖夢」
吾輩を撫でながらようむにゆゆこが言うのである。
「猫の気持ちになるには猫と同じことをしないとわからないわ」
「え。猫の気持ち……ですか?」
「そうよ。虎穴に入らずんば虎子を得ずというじゃない、猫の穴に入ってみないと猫を手にいれることはできないわ」
「え? え?」
ううむゆゆこの言葉は深いのである。吾輩にはよくわからぬ。それより撫でる手付きがいいのである。気持ちいいのである。ようむはこんわくした表情をしているのである。まあ、あれである。むずかしいことはてきとうに考えておけばいいのである。
「妖夢」
おお、ゆゆこが吾輩のなでなでを中断したのである。そしてなんと、ようむを撫で始めたではないか。
「は、はずかしいです幽々子さま」
「猫の気持ちになりなさい」
「……ね、猫ですか」
にゃあにゃあ。吾輩も撫でていてほしいところである。吾輩は顔を後ろ足で立ってゆゆこに前足を何度か振ってみるのである。ゆゆこはそんな吾輩を見て言うのである。
「ほら、妖夢。お手本通りにしなさい」
ようむが吾輩をちらりと見てきたのである。何であろうか。
「にゃ、にゃあ」
……ようむが吾輩のぽーずを真似してきたのである。ううむ。顔を真っ赤にするくらいならば、なぜ真似をするのであろうか。 それに周りを見ればいつのまにやら大勢が座っているではないか。みながようむを見て微笑んでいるのである。
「に、にい」
ようむもそれに気がついて変な声を出しているのである。吾輩をそんな抱きしめたら苦しいのである。ゆゆこも微笑んでいるのである。扇で半分顔を隠しながらであるな、吾輩もそれをこんどしてみたいのである。
まずは扇を用意せねばならぬ。
それよりも苦しいのである。ようむよ、抱くのは吾輩も文句は言わぬ。だが恥ずかしいからと言ってそこまで強く抱かれると胸元というか壁に押し付けられているかのようである。
ええい、苦しいのである。
吾輩はうなうなと体を抜け出させたのである。吾輩やぐらの隅に避難したのである、なんとなく下を見れば、広場に浴衣姿の少女が立っているのである。緑の髪でなんであろう、右だけ長いのである。
おう、そんなことよりも百物語が始まるのである。ようむよ痛いのは吾輩嫌なのである。