幻想郷はどこもかしこも吾輩の庭である。
吾輩は日陰にある、よさげな岩の上でのんびりだらりとしてみたのである。こうごつごつしているところが冷たくて気持ちいいのであるが。吾輩は前足をしっかりとなめて、きれいにしておくのである。
なんといってもこれから初めての地底なのである。おめかしせねばならぬ。
ぺろぺろ、にゃむにゃむ。……うむ!
吾輩はどこにでもいくのである。幻想郷はどこもかしこもが吾輩のにわであると重ねて言うのだ! ……なんとなく気合が入ってしまったである。
はずかしい、吾輩は岩の上できょろきょろとだれもみていないか見てしまったのだ。誰も見ておらぬ、吾輩は安心してさらなるけなみのめんてなんすを開始したのだ。
それにしてもこれはすごいのである。
吾輩は地底にどうやって行くかはしらなかったのであるが、吾輩の目の前におおきなおおきな入り口があるのだ。まっくらでおおきな穴が吾輩の前の地面に開いているのだ。
吾輩は地面におりて、その「おおきなあな」をのぞきこんでみたのである。そこがくらくてよくみえぬ。手じかにあったこいしをおとしてみたのである。
ひゅうーとおちていってみえなくなったのである。
こいしも怖かったかもしれぬ。悪いことをしたのだ。
―――いてっ!
なんか下の方で声がしたのである。しかし、相手は見えぬ。誰かは知らぬがすまぬ。わるぎはなかったのである。吾輩ははんせいしつつ、とてとて穴から離れていくのである。
それにしてもおそいのである。こがさはなにをやっているのだろうか。
「そろそろいきませんか~」
なんだか情けないこがさのこえがするのである。吾輩はそちらに歩いていくのだ。みればこがさがもみじの肩をもんでいるのである。なぜであろうか。
もみじはその場にしゃがんで大きなため息をついているのである。やはりつかれているのかもしれぬ。吾輩はこがさの足元に歩いて行く。
「はあ、なんで地底なんかにいかないといけないんだ……」
「まあまあ」
こがさがもみじを慰めているのだ。吾輩もしゃがんでいるもみじの前に回り込んで、にゃあと声をかけてあげたのだ。もみじはため息をつきながら吾輩を撫でてくれるのだ。
「おまえ、なにも考えていなさそうでいいね」
しつれいである。吾輩は撫でてくる手を首を振って払ってみるのだ。こうぎである。
するともみじは吾輩の鼻を指で押してきたのだ。まけぬ。まけぬのだ、吾輩はそのゆびをなむなむと舐めてやるのである。にげるではない。吾輩はもみじの手をつかんで舐めるのだ、なんであろう、くせになる。
はむはむ、なむなむ。
「こらっ」
びくっ。
吾輩はおどろいてもみじをみると、なんだかやさしそうな眼で吾輩を眺めていたのである。それからもみじは立ち上がって、言うのだ。からりと腰の刀が音を立てている。
「しかたない。まがりなりにも休みだから、せいぜい楽しもう。……鬼の皆さまのことはできるだけ考えないようにしよう……」
「そうそう。これを逃す手はないね!」
こがさが元気に言うので、吾輩もにゃあにゃあと相槌をしてあげるのである。なんだかこがさとは息があっている気がするのだ。もみじもくすりとしているのである。吾輩の勝ちであるな。……いまのはてきとうなのである。
でも、まあ、あれである、どんな時でもたのしくすることはいいことだと吾輩は思うのである。
「よし、いこう」
もみじの声に吾輩とこがさがおーとにゃーで合わせたのだ。
「ほら、おいで」
……? なんでもみじは吾輩をつかもうとするのであろうか、吾輩は意味もなく逃げてしまったのである。こがさのスカートの間をくぐりぬけて、草むらをとっとと歩くのである。
「わぁ」
こがさの声がしたので吾輩は後ろを振り向いてみるのだ。不覚である。
「捕まえた」
もみじにつかまってしまったのである。鬼ごっこであろうか。吾輩はみゃあともみじに聞いてみるともみじは困ったような顔をしているのである。
「おまえ、飛べるのか」
やってみねばわからぬ。しかし、ちょっと怖いのである。
なるほど地底に行くには飛ばねばならぬのであるな。吾輩はもみじにつかまることにしたのだ。だっこである。こういうのをたくしーというらしいのであるが、吾輩は「たくしー」を知らぬ。たくわんの仲間であろうか?
「それじゃあ小傘もいくぞ」
「はーい、いて」
こがさが石につまづいた。持っていたかさが勢いあまって吾輩ともみじに振られたのである!
「……ひゃあ」
もみじが情けない声をだして横に飛んでいるのである。うむ? こがさともみじがそれぞれ遠くに見えるのである。くるくるせかいが回っているのだ。これはもしや、吾輩離されたかもしれぬ。
……! 地底の穴に落ちていくのである。おお、体が動かぬ。手足をじたばたしてみるがつかむところがないのである。どんどんお空が遠ざかっていくのである。もみじよ助けてほしいのだ。
「助けにいくからまっていろ! えっと、ねこ!」
もみじが吾輩を呼ぶ声がするのである。吾輩は安心して落ちることにしたである。こういうときは慌ててはいかぬ。落ち着いておちることがいいのである。
「おや、猫のお客さんとはめずらしいねぇ。おいそぎ?」
にゃあ! いきなり真横から話しかけられたのだ! みれば、吾輩の横をねそべるような格好で一緒に落ちていく少女がいるではないか! めずらしいのである。
まあ、急ぎといえば急ぎであるな。体が勝手に急いでいるのだ。
そんな吾輩に少女はのんびり話しかけてきたのである。落ちていくときでもれいせつを忘れぬ吾輩も姿勢を正したのである。くるくる回って目が回るのであるな。
「私は黒谷ヤマメ。いごおみしりおきお、なんて言ってみたり」
なぬ!? ヤマメ? 地底にもいるのであろうか。食べたいのである。
吾輩はみゃあみゃあとくろたにに聞いてみるのである。ヤマメのことははだいすきなのである。くろだによ
「猫さんは地底にいくのかい。最近温泉がいい感じらしいから、楽しんでおいで」
くろだにはからからと笑っているのである。頭のリボンが揺れているのである。とても楽しそうであるな。吾輩はまんぞくである。なんとなく誰かが喜んでいるのはいい気分である。だからヤマメを欲しいのだ。
「猫。そいつから離れろ!」
白い光が落ちてくるのである。
いや、もみじであるな。すごい速さで吾輩をつかもうとしているのである。
「よっと」
にゃあ! くろだにが吾輩のしっぽをつかんで投げたのである。そのせいでもみじにつかまれなかったのである。おおはやい、おちていくのである。吾輩の下は底がみえぬ。
「邪魔をするな、土蜘蛛」
「おやおや、友好じゃないなぁ。あの黒い髪のやつといい、なんで天狗がこうもけんかっぱやいのかねぇ」
もみじとくろだにが落ちながらにらみ合っているのだ。どうでもいいのであるが、吾輩は尻尾をさすりたいのである。きょろきょろしても吾輩は飛べぬ。
「きゃっち」
おお、吾輩を柔らかいものが包んでくれたのである。みればこがさではないか。おぬしがすべて悪いのである。しかし、吾輩は過去はとわぬ。許すのである。こがさは吾輩を抱いてくれてすいーと空を飛ぶのだ、うらやましいのである。
「どうせ地底に行くんなら、地下に落とされた妖怪達の力を味わうがいい。毒符『樺黄小町」!」
「白狼天狗の力をなめるな。牙符『咀嚼玩味』」
もみじとくろだにがふところからカードを取り出したのである、綺麗であるな。ううむ、吾輩はどちらを応援するべきであろうか。
椛VS地底アイドル(深く書くとは言っていない)