吾輩はしんけんに応援しているのである。
こがさももみじも頑張ってほしいのである。お風呂から先に上がってはいけぬ。ううむ、しかし両方が勝つ方法はないのであろうか、そうすればみんな楽しいのかもしれぬ。
吾輩は両前足を後ろからくろだににつかまれたままである。
くろだには吾輩の肉球を押したり、押さなかったりしているのである。いったい何をしているのであろうか、吾輩にはとんとわからぬ。
ぷに、ぷに
くろだによ無言で吾輩の前足を触るのはなんでであろうか。くすぐったいのである。
はっ、これはもしやまっさーじというものなのかもしれぬ。吾輩本格的なまっさーじは初めてなのである。おおう、くろだにが吾輩の肉球をさわってやまぬ。
「柔らかいなぁ。こいつ」
そうであるか、吾輩は照れるのである。
「はあ、はあ」
おお、もみじがお風呂の縁に手をかけたのである。上がるのかもしれぬ。くろだにも吾輩の前足を離してもみじの手を取ったのである。
「てい。天狗なんだかもう少し頑張って。賭けてんだから」
くろだにがもみじをお風呂の中へ押し戻しているのである。吾輩にはよくわからぬ。とりあえず、にゃあと応援するのである。もみじよ頑張るのである。こがさはお風呂の中で口を開けてほうけているのである。
おお、こがさが湯舟にしずんでいくのである、こ、これは由々しき自体かもしれぬ。吾輩が助けねばならぬかもしれぬ。体が前に進まぬ。尻尾を誰かがつかんでいるのである。
吾輩が驚いて振り向くと船長がひしゃくをもって吾輩の尻尾をふにふにしているではないか、何をしているのであろうか。いや、それどころではないのであるからして後にしてほしいのである。
「猫さんも尻尾って柔らかいですね」
照れるのである。いや照れている場合ではないのである。こがさを助けねばならぬ。吾輩は船長の手から逃れようと身をよじってみるのである。すると船長がひしゃくの先の部分を吾輩の頭にすっぽりかぶせてきたのである。
「……にやにや」
いったい何がしたいのかわからぬ! 吾輩はひしゃくをかぶっている暇はないのである。目の前が真っ暗である。早く外すように「にゃあ!」と吾輩はいげんをこめて訴えたのである。
吾輩が必死になってひしゃくを振り払う。目の前がぱっと明るくなって吾輩は驚いてしまったのである。むむ、いかぬ。お風呂に青い髪が浮かんでいるのである。顔が見えぬ。たぶんあれはこがさである。
今行くのである。吾輩はさっそうと飛び出したのだ。
「危ないっ」
吾輩は空中で捕まえられたのである。見上げるとぱるすぃではないか。
「いきなり飛びこんで、溺れたいのかしら?」
吾輩を抱っこしてきたのであるが、吾輩今は忙しいのである。こがさが普通に沈んでいるのである。吾輩がさっそうと助けようとしていたのである。ぱるすぃよ手を離すのである。吾輩はぱるすぃの目を見て訴えるのだ。
「おおきな瞳をして、妬ましいわ」
おお、やっと吾輩をぱるすぃがほめてくれたのである。吾輩は満足である。……ちがう、吾輩満足している暇はないのである。体をよじってぱるすぃから離れるのである! こがさよ今行くのだ。
「よっと」
くろだにが吾輩の前足を捕まえたのである。
「やわらか、やわらか」
ぷにぷに、ぷにぷに。
にゃあ! 吾輩は一喝するのだ! くろだにが驚いて離したすきをついて今こそ――頭にひしゃくがかぶさってきたのである。吾輩はその場で地面に倒れたのである。
やってられぬ。こんなことをするのは船長しかおらぬ。同じことをする暇は吾輩にはないのである。なんとかひしゅくを振り払うと吾輩は即座にぱるすぃを警戒したのだ。くろだにと船長の後はきっとぱるすぃなのである。
吾輩は同じ手は二度は食わぬ。……くろだに達の分は二度してしまったのであるが。今度こそはちゃんとかわすのである。
さあ、来るのである。ぱるすぃよ。
そんな吾輩の前足をくろだにが捕まえてこようとしてきたのである、吾輩は即座に反応したのである。横に飛んでよけるのだ! ぱるすぃは吾輩を見ているだけである。
「おっとっと」
くろだにがよろけているのである。吾輩を簡単に捕まえられると思っては困るのだ。
そこに襲い来るひしゃく!
吾輩は読んでいるのである。ころころ転がってかわすのだ。船長が吾輩に向かって何か言っているのであるが、どうでもいいのである。こやつと会ってから意味が分かったことがないのである。
それよりもなんだか楽しくなってきたのである。吾輩は負けぬ。かかってくるのである。
ぐるぐるー
じりじりと吾輩とくろだに、そして船長は間合いを詰めるのである。吾輩は負けぬ。よくわからぬが遊んでくれているのであるな、吾輩は遊ぶことは大好きなのである。なにか大事なことを忘れている気がするのであるが、なんであったかわからぬ。
吾輩は逃げ回るのである。絶対につかまったりはせぬ。ひしゃくとくろだにをかわすのである。楽しくて仕方がないのである。そういえばこがさたちも遊んでくれればいいのであるが……思い出したのである。
吾輩はあわてて湯舟をみると、目をくるくる回しているもみじがこがさを引き上げているのである。
こがさも目がくるくるしているのである。体は真っ赤であるな。さすがはもみじである。ちゃんとこがさが沈んでいることを見ていたのであるな。吾輩にはわかっていたから遊んでいた……正直にならねばならぬ……楽しくて忘れていたのである……。
「すきあり」
船長であるな、そうはいかぬ。
吾輩は横に飛んで後ろからのひしゃくをよけるのだ。油断しているわけではないのである。船長はよろけて、そのままドボンと湯舟に飛び込んだのである。ばっしゃーんと波が吾輩にかかってくるのである。
ふるふる、ふるふる。
吾輩はしぶきを落とすのである。体を震わせていると水はちゃんと落ちることを吾輩は知っているのである。ふるふるして、体を震わせるのだ。
ちゃんとお風呂の中にはこがさともみじと船長が浮かんでいるのである。船長はどこか打ったのかもしれぬ。
……あれはダメな気がするのだ。吾輩は一番吾輩の話を聞いてくれそうなぱるすぃの足元ににじり寄ってにゃあにゃあと言ってみるのだ。助けてあげてほしいのである。一応船長もなのである
「どうしたの? ごはん? 妬ましいわ」
ごはんではないのである。
ええい、仕方ないのである。吾輩は自分の力で助けに向かおうとしたのである。
「やれやれ。これじゃあどっちが勝ったかわからないわ。よっと」
くろだにが三人を引き上げて石畳に並べているのである!
すまぬくろだによ。吾輩は言っても分からぬかと思ってしまったのである。ちゃんと謝らねばならぬ。吾輩は近づいてみるにゃあというのだ。
「なに? おなかすいたの?」
おなかはすいてないのである。
吾輩はそんなにはらぺこに見えるのであろうか。まあ、いいのである。吾輩はこがさたちが無事で一安心である。船長を踏み越えて吾輩はこがさの顔の前に移動したのだ。
顔が赤いのである、こがさよ大丈夫であろうか。吾輩はほっぺたをぺろりと軽くなめてみるのである。こがさはうっすら目を開けているのである。
「私は……ごはんじゃないわ……」
わかっているのである。吾輩はこがさのほっぺたにかるくパンチをしてしまったのである。ふう、もみじは大丈夫であろうか。うむ、目をしっかり開けているのである。
「ああ、おなか減った……そうめんが食べたい……」
吾輩の周りはごはんのことしか言わぬ。