吾輩はさっぱりしたのである。
やはりお風呂はいいのである、吾輩は綺麗好きであるからして温泉は大歓迎なのである。吾輩達はお風呂から出て旅館に戻ってきたのだ。
吾輩は知らなかったのである。
おふろから上がってから畳の上で転がると気持ちいいではないか、ごろごろ、ごろごろ、ううむやぶさかではない。ここでヤマメがあればいいのであるが、くろだにはまだ吾輩にくれぬ。
もみじとこがさは真っ赤な顔で横に寝ているのである。これはあれであるな、ゆかたというものに違いないのである。あわい色をした服を二人だけ着てずるいのである。吾輩はゆかたを着たことはないのである、試してみたいのである。
吾輩はこうぎの意味を込めて寝転んでいるこがさの顔をぱんちするのだ。こがさは赤い顔で吾輩を見ているのだ。な、なんであろうか。
「うりゃぁ」
こがさが吾輩のほっぺたをつついてきたのである。吾輩は顔を振るのである。
まけられぬ。吾輩はこがさのほっぺたに肉球を押し付けてみるのだ。するとこがさも吾輩を腕でひきよせてなでなでし始めたではないか。いや、違うのである。今はなでなでするときはではない……。
せなかのあたりがいいのである。ぉお、うむ。うむ。
「なんだか猫さん毛並みがつやつや」
きっとおんせんのおかげであるな。吾輩は照れてしまうのである。
こがさも髪がきらきらしているのである。吾輩がほしょうするのである。寝転びながらわがはいとこがさは遊んでいるのである。吾輩は重大なことがわかってしまったようなのであ。
おふろ上がりに畳の上でごろごろしながらあそぶと、たのしい。
またひとつしんりに近づいてしまったのかもしれぬ。吾輩は勉強家なのである。けいねもそういっていたから間違いはない。吾輩はそのままそのばでころころと背中を畳につけて寝転んでみる。
するとこがさが吾輩のお腹をなでなでするのである。うむ。うむ。なかなかよいてくにしゃんであるな、
「うわ! 猫」
なんであろうか、もみじが吾輩を呼んでいるのである。するりとこがさの手から逃れて、吾輩はとことこもみじの方に歩いていくのだ。もみじよ何であろうか。
もみじはこちらに背を向けているのである。吾輩を呼んだのであるからこっちを見てほしいのである。そうしなければ恐ろしい目にあうことになるであろう、遊んでやらぬ。
やっともみじがこちらを見てくれたのである。
遊ばぬとは言いすぎたのかもしれぬ。泣かないでほしいのである。
「こいつはお前の友達か?」
うむ? ともだちであるか。こがさはともだちである。
もみじが体を起こしてこっちを向いたのである。するとそのひざ元に一匹の黒猫が乗っかっているではないか。
にゃあ。
にゃあ。
吾輩達は挨拶をしたのである。なかなか礼儀がわかっているやつであるな。もみじも黒猫をなでなでしているのである。
「あ、こいつ尻尾が二つに分かれている。……化け猫だったのか」
もみじが黒猫の尻尾をつかんでいるのである。黒猫は身をよじってもみじの膝から降りてきたのである。吾輩と相対するのである。
まあいいのである。吾輩達は干渉せぬ。それよりもこがさと遊ぶのである。
「あ、あれ? 猫さん同士でお話とかしないんですか?」
不思議な顔で吾輩にこがさが言ってくるのだ。吾輩は首をかしげるのである。猫の集会はそれぞれがぷらいべーとを大事にするのである。さっき黒猫とは顔を合わせたのであるからしてこれ以上することはないのである。
まなーを大事にするのが吾輩である。
それよりもこがさよ吾輩と遊ぶのである。さあ、好きにするのである。吾輩はその場に座り込んだのである。
すると横に黒猫がやってきておなかを見せたではないか。そのまま、にゃあにゃあとこがさにアピールしているのである。
吾輩も負けてはられぬ。こがさよこちらである。吾輩はこがさに近づくのである。すると黒猫はごろごろとしながらこがさに鳴いているのである。
「う、うう。よくわからないけど猫が二匹もなついてくれている。む、むふぅ」
こがさがなんだかうれしそうなのである。ほっぺたをゆるませて頭を掻いているのである。そんなことよりも吾輩はこがさをじっと見るのである。さあ、吾輩と遊ぶのである。
すると黒猫はさらにこがさに近づいて膝の上に乗ったのである。こやつ、できるのである。
にゃあにゃあ、と吾輩が鳴けば。
みゃあみゃあと黒猫が鳴いているのである。
しれつなあらそいである。吾輩はこがさと遊ぶのである。これは譲れぬ。
ちょっと後ろをみるともみじが物欲しそうなめをしていたのであるが、吾輩と目が合うとあわててそっぽを向いたのである。
……………。吾輩は紳士である。さびしがりやなもみじを放ってはおけぬ。吾輩は立ち上がってこがさに背を向けたのである。ここは黒猫に任せたのである。もみじよ、もみじよ。ゆかたのすそのあたりを吾輩は甘くかんでみるのである。
「こら」
もみじに怒られたのである。吾輩はそのまま。あぐらをかいているもみじの膝の上に乗ったのである。なかなかいいのである。吾輩は満足である。
「まったく。なんなんだおまえ」
もみじが何かいいながら、吾輩を撫でてくるのである。いや、くすぐってきているのであるな! 吾輩は身をよじって膝の上でていこうするのである。目線のすぐ上でもみじが笑っているのである。
吾輩は満足である。吾輩は誰かを仲間はずれにはせぬ。
見れば黒猫もこがさの膝の上にいるではないか、ううむ。こがさとも遊びたかったのであるが仕方ないのである。もみじはいいやつであるかして、吾輩は好きである。
もみじとこみゅにけーしょんができればいいのであるが……黒猫よそう思わぬであろうか。
黒猫が吾輩をじっとみているのである。吾輩も負けずにじっとみようとすると、もみじがこちょこちょしてくるのでできぬ。
「ここか」
そこではないのである。首筋のあたりをもみもみしてくれると助かるのである。
吾輩も黒猫を見たいのであるが、多忙な吾輩は目を合わせることもできぬ。しかし、黒猫はいつの間にかこがさの膝の上から降りているのである。そして吾輩にいったのである。
「なぁご」
うむ? こいと言うのであるか。
それだけ言うと黒猫はたったかどこかに行こうとするではないか、吾輩はあわててそのあとを追うのである。
「あ、こら」
すまぬもみじよ、なんだかよくわからぬがお誘いをされたのである。吾輩はもみじの膝から飛び降りて、こがさの横を通り過ぎようとしたのである。
「わっ!」
びくっ。いきなりこがさが吾輩に何か言ってきたのである。しまったのである。立ち止まってしまった。こがさは舌を大きく出して笑っているのだ。
「驚かせて、止まらせる作戦成功!」
にゃぁ。
どこからか声がするのである。あの声は言っているのだ。吾輩に来るように言っているのである。吾輩は捕まえようとしてくるこがさの手を抜けて、旅館の入り口まで走り去っていくのである。
たったか、たったか。
結構走った気がするのであるが、黒猫が見当たらぬ。ううむ、地底の町並みは初めてで勝手がわからぬ。どうするか考えながら首筋を掻くのである。おお、気持ちいい。
「そこいくねこさん」
うむ? おお、赤い髪と黒い服をきた者が立っているのである。さっきお風呂であった、たしかおりんであるな。吾輩は道に迷って黒猫を見失ったのである。
「ほうほう、それは大変だねぇ。そこのお屋敷ならなにかわかるかもしれないよ」
お屋敷、であるか? 吾輩ははじめてである。
こいしさまと姉のまつところへ