わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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ひざのうえでくつろぐのである

 ティーポットという言葉を吾輩はちゃんと覚えているのである。吾輩は椅子に座ったこいしの膝の上に座っているのである。なんであろうか、椅子が何重にもなっているみたいで豪華かもしれぬ。

 こいしの前におかれたカップに紅茶が注がれているのを吾輩はじっと見はっているのである。こう、こぼれてはいかぬ。ちゃんと見はっておらねばならぬ。

 こぽこぽ。

いい匂いがするのだ。吾輩はお茶を飲んだことはないのであるが、このにおいは嫌いではないのである。

 

「さとりおねえちゃん。お砂糖どれくらいいれてもいいの?」

「ほどほどにしておきなさいこいし」

 

 紅茶を入れてくれているのはこいしのお姉ちゃんなのである。名前はさとりというのであるな、姉妹そろっていい名前である。こいしにちゃんと言ってやらねばならぬ。

 

「ありがとう」

 

 なんでさとりが吾輩にお礼を言うのであろう。ううむ、わからぬ。吾輩はまだ何も言っておらぬ。こいしが吾輩を見ているのであるが、どうしたのであろう。

 

「猫さんお姉ちゃんが砂糖はほどほどにしておきなさいって、猫さんはどれくらい食べるの?」

「こいし……猫に砂糖をあげてはいけないわ」

 

 吾輩は砂糖を食べたことはないのであるが、ダメであるか。残念である。とても残念なのである。

 しかし、ちょっとくれぬであろうか、巫女にお土産でもっていけば喜ぶかもしれぬ。セミの抜け殻は巫女にあげても喜ばぬのである。ぜいたくものであるな。巫女は。

 

「えーでもお燐は食べるけど。ま、いっか。クッキー。クッキー」

 

 こいしがテーブル上のクッキーを手に取ってぽりぽり食べ始めたのである。巫女はこの前たくわんをぽりぽりしていたのである。クッキーもたくわんも吾輩は食べたことはないのであるが、きっとどっちもおいしいのであろう。

 さとりは紅茶を入れて自分で飲んでいるようであるな。紅茶は、熱そうで吾輩は厳しいやもしれぬ。しかし何事も挑戦をせねばならぬのだ。

 吾輩は身を乗り出してクッキーに前足を伸ばしてみるのである。

 

「こら、め」

 

 さとりに怒られたのである。

ううむ、わからぬ。それにしてもこいしよ、吾輩の頭に食べているクッキーの粉が落ちてくるのである。吾輩は気になって仕方ないのである。さとりよ、なんとか言ってやるのである。

 

「こいし、もっとお行儀よく食べないとだめよ」

「はーい」

 

 おお、なんとか言ってくれたのである。吾輩は感動したのである。こいしもぽりぽりごくりとしてから吾輩を抱っこしてくれているのだ。

 

「そういえば猫さんは温泉に入ったのなら、今度はどこに行くのかしら?」

「その猫はこいしがつれてきたんじゃないの?」

「ちがうよお姉ちゃん。あのへんな傘を持ったのと天狗が連れてきたの」

 

 変な傘とは失礼である! なすびみたいな傘である。というか、吾輩はこがさともみじと一緒に来たのである。二人ともいいやつなのである。吾輩が保証するのだ。

 

「ふーん。そう」

 

 さとりはおいしそうに紅茶を飲みながらそう言ったのである。

それに吾輩はとても大切なことを探しにこの地底に来たのである。なんでも、心の読める妖怪がいるというではないか、吾輩はぜひとも会って話がしたいのである。

さとりが吾輩をじっと見てくるのである。

吾輩は照れるのである。いきなりどうしたのであろうか。

 

「こちょこちょ」

 

 こいしよ、吾輩をくすぐるのはやめるのである。

そう、顎の下なら構わぬのだ。吾輩そこは大好きである。うなうな、吾輩はこいしの膝の上で体をひねってみるのである。

 

「猫さんふかふかだね」

 

 おなかを撫でながら言うのである。吾輩はちゃんと毛並みのけあをしているのである。吾輩は紳士であるからして、みだしなみにはうるさいのである。

 

「ふふ、ふふ。紳士って……ふふ。そうね。紳士はみだしなみに気を付けないといけないわ」

 

 うむ? さとりが笑っているのである。吾輩はよく聞こえなかったのであるが、何か言っているように聞こえたのである。なーお。こいしよ、なぜさとりは笑っているのであろうか。

 

「あはは」

 

 いや、こいしもなぜ笑っているのであろうか、吾輩にはとんとわからぬ。愉快なことがあるのなら吾輩にも教えてほしいのである。ずるいのである。

 

「ふふふ」

 

 さとりも笑っているのである。そもそもさとりはなぜ笑っているのかわからぬ。さとりは手に持ったコップを置いて、組んだ両手の上に顎を載せたのである。吾輩もあの格好をしてみたいのであるが、できぬ。

 

「こいし。あなたは相手とのコミュニケーションで大切なことは何だと思うかしら?」

「お姉ちゃん。砂糖取って」

「……はい」

 

 さとりは優しいのである。砂糖の入った箱をちゃんと取っているのだ。吾輩はそういういいところを見逃さぬのである。

 

「そうね。いいところを見逃さないことね」

 

 さとりも同じ考えなのであろうか、吾輩と同じことを言ったのである。ううむ? わからぬ、吾輩はなんとなく不思議に思うのである。まるで吾輩の思っていることがわかっているかのようであるな。

 

「はい、ご名答」

 

 ゴメイトウとはなんであろうか。お米の仲間やもしれぬ。さとりよおなかが減ったのであろうか?

 なんだかさとりがかっくり肩を落としているのである。そこまでおなかが減っているとは吾輩にはわからなかったのである……。

いや、なにか悪いことでもあったのであろうか、吾輩に話をしてみるのである。吾輩は悩み事を聞くのは得意なのである。何時間でも聴いているのである。

 

「……」

 

 にゃー。

 さとりよ遠慮することはないのである。吾輩の心は神社よりも広いのである。吾輩は困った人を放ってはおけぬのである。

 

「紳士、ね」

 

 おお、そうである。吾輩は紳士なのである。

 吾輩はこいしの膝の上できりりと顎を上げて、胸を張ったのである。なんとなくこうしていると誇らしいような気がするのである。……いや、薄々わかっているのである。さとりはきっと吾輩の思っていることがちゃんとわかっているに違いないのである。

 こう、いざ話ができると思うと吾輩は照れてしまったのである。前足で頭を掻いて見るのだ。

 

「猫さんここがかゆいの?」

 

 こいしが頭をかいてくれるのである。いや、別にかゆいわけではないのであるが、それでもこうそのあたりがいいのである。なでなでされるのも吾輩は好きなのである。

 

「お姉ちゃんも撫でてあげたら? ほらほら」

「こいし、猫を持ち上げて私の顔につけようとするのは、やめ、やめ、やめなさ、むぐ。こ、こいし」

 

 こいしが吾輩を持ち上げてさとりに押し付けるのである。吾輩はなされるがままなのである。下手に前足を上げたらさとりの眼にあたってしまうかもしれぬ。

 

「おお?」

 

 さとりがこいしから吾輩を取りあげたのである。今度はさとりの膝の上であるな。なかなか落ち着く場所である。おお? こいしもさとりの膝の上に顎を載せているのである。何をやっているのかわからぬ。

 

「こいし……まあ、いいわ。そうね。なんで私に会いたかったのかしら、紳士さん?」

 

 吾輩が顔を上げるとさとりが見ているのである。

 そうであるな、吾輩は巫女ともっと仲良くなりたいのである、

 

「そう。巫女ってあの紅白のことね」

 

 こーはくであるか、そうであるな。赤かったり白かったりするのである。

 

「にゃーにゃー」

「こいし……なにをしているの?」

「猫さんだけずるい」

「…………」

 

 さとりが吾輩とこいしの頭をなでなでするのである。

 

「……仕方ない子たちね。話が進まないわ」

 

 吾輩とこいしは膝の上で満足げにしてしまうのである。

 

 

 




次回か次々回にさわがに回(謎)

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