ごおぉおお
吾輩の耳に風を切る音がするのである。
「わぁああ!」
こがさの叫び声がうるさいのである。吾輩はこがさに抱かれたままぐいぐいと空を上っていくのである。したをみれば地底の街のひかりがどんどん遠くなっていくのである。なんだか寂しい気もするのであるな。吾輩はしみじみと思うのである。
これはきょうしゅうーというやつかもしれぬ。
「わぁああわあぁ!」
ちょっとうるさいのである。こがさも地底とのお別れをするのである。遠ざかっていく地底の街に吾輩はちゃーんとあいさつをしたのである。またねを、しないといけないのである。楽しいことにはまた会いにいかなければならぬのだ。
もうみえなくなったのである。
吾輩はくしくしと頭をかいてみるのであるが「ね、猫さんう、うごかないで、と、とまらない」とこがさに言われたのである。そうはいっても痒いのであるが……しかし吾輩は紳士であるから、ちゃんと言うことは聞くのである。
そういえば先に空のおほしさまになったもみじはどうしたのであろうか、ちゃんと地上についていたらいいのであるが、吾輩はしばしちんししこうをしてみるのである。それにしてもヤマメをたべられなかったことは残念である。
おお、いかぬ。もみじのことを考えていたらヤマメを思いうかべてしまったのである。はずかしいのである。
「あ! 空」
うむ? 吾輩はこがさの声におもわず空を見ようとしたのであるが、こがさのあごが邪魔で見えぬ。手でどいてくれるようにアピールするのであるが、「わ、わ」と驚くだけでこがさはどいてくれぬ。
ごおぉお。
むむ、あれは出口であるな。こんなに早く帰ってこられるとは思わなかったのである。もう少しのんびりしてもよかったのやもしれぬ。吾輩とこがさはそのまま空にぽっかりとあいていた「でぐち」に飛び込んだのだ。
きらっ
なんだかまぶしいのである。吾輩は思わず目を閉じてしまったのである。こがさの服に顔をすりすりしてから首を振ってみるのだ、するとばっと何かを開く音がしたのである。
「猫さん猫さん」
こがさよ、なんであるか。と目を開けてみると吾輩はぱちぱちと瞬きすることになったのである。
空にいっぱいのお星さまのお出迎えである!
きっと地底から帰ってくる吾輩を歓迎してくれたに違いないのであるな。それにぽっかりとお月様も顔をだしているではないか、吾輩とお月様は知り合いであるからして、ちゃんとわかっていたのである。
わがはいとこがさはゆらゆらと降りていくのである。
さっき開いた音はこがさが傘をばっとひらいていたのであるな。片手で空に突き上げているのである。
「あ、流れ星」
どこであるか? ないではないか!
「流れ星ってはやいですよねー」
きっと忙しいのである。家に帰っているのかもしれぬ。
遠くにはぽつぽつと明かりも見えるのである、きっと人里であるな。それにしても夜風も気持ちいいのである。おお、あそこで木の枝に引っかかっているのはもみじであるな。
「く、くふふ」
こがさが笑いをこらえているのである。もみじをちゃんと心配しないとだめなのである。そう思ってこがさのほっぺたを肉球触ろうとすると突然こがさが動いたのである。
「ふげっ」
おお、またぱんちみたいになってしまったのである。動くからである。もうしわけないのである。こがさは吾輩をむーと見てきたのである。なあなあとこがさが抗議をしてきたから、吾輩もにゃあにゃあ返してみたのだ。いみはわからぬ。
ゆっくりと地面に降りていくのである。
吾輩とこがさはこみゅにけーしょんをしているのかもしれぬ。
言葉はわからぬが、言いたいことはなんとなくわかるのである。
「わかった!?」
こがさが言うのである。もちろんである。今度から肉球で触るときは聞いてから触るのである。
「よし、私が言った通りにうらめしやーって言ったら怖がるように」
そういったのであるか……、まあいいのである。かんだいなこころで受け入れなくてはならぬ。吾輩とこがさはそんな形でもみじの成る木のそばに降りたのである。
「大丈夫? 椛」
「ひどい目にあった……はあ、こんな休日なんていやだ」
もみじも地面に降りてきたのである。
「ふふ、もみじー」
「なんだその顔は」
もみじにこがさが近寄るのである。
「取材活動できませんでしたね」
「……あ! 忘れてた。はあ、まあいいや。鬼の皆さまに怒られたことにしよう」
そういえばしゃめいまるのおしごとをもみじはしていたのである。吾輩はあの時に絵はいいと思うのである。
『そうは問屋が卸しませんよ、椛』
「なっ、その声ははらぐろて、射命丸様! ど、どこに、って私の服の中から声が聞こえる」
もみじがごそごそ服を探ると袖の中から綺麗な「玉」が出てきたのである。そこから何か声が聞こえるのであるな。
『さっき本音が聞こえてきましたね……まあそれはいいです。一部始終はちゃんと聞いておりましたからご心配なく。あなたがカメラを忘れたことも。含めてわかっておりますよー。かわいい椛の失敗です、寛大な心で許しましょう』
しゃめいまるが玉になってしまったのであるな……かわいそうであるな。吾輩よりも小さいのである。
「……いつのまにこんなものを、申し訳ありません」
もみじがしゃめいまるをもって肩を落としているのである。元気を出すのである。
『いえいえ。楽しい旅を満喫できたようですしね、楽しかったのでしょう。猫さんと小傘さんと旅ができて、ね? も、み、じ』
「…………………」
なんだかもみじが赤いのである。こがさもくすくす笑っているのである。吾輩も楽しかったのである。
『まあ、絵も一枚ありますからそれで我慢してあげます。それは提出するように、破いたりしたら尋問裁判沙汰にしますね? それじゃあまた明日に』
「射命丸様……切れた……それにしても絵?」
あれのことであるな。吾輩はちゃんと覚えているのである。
「天狗の新聞に椛がでびゅーですね!!」
こがさが言うのである。
おおでびゅーであるな、でびゅーとはあれである……なんであろうか?
「なっ!? そ、そんな。……今すぐ破…さ、裁判!? あれが山の天狗……あるいは人里に広がる……あ、あぁ」
へたっともみじが座ったので、吾輩もこがさに下ろしてもらったのである。元気出すのである、でびゅーもたぶん悪い意味ではないのである。にゃあ、と吾輩は言ってみるのである。
「あの絵はかわいいから大丈夫ですよ。ほらもう一回出して」
こがさもその場に座ったのである。そうである、こがさよもっと、元気づけるのである。
「いやだ!」
「えーいい思い出じゃないですか! 猫さんもお願いして」
吾輩もお願いするのである。
「猫、お前は私の味方だろう?」
うむ、吾輩はもみじの味方なのである。
「猫さんは私の味方だよねっ。椛から絵をとりだして」
うむうむ。吾輩はこがさの味方なのである。
……? どうすればいいのであろうか、吾輩はわからぬ。わからぬから、こがさともみじの両方を応援するのである。すもうであるな。
「この~往生際が悪い天狗~!」
「離れろ……この付喪神」
吾輩はその場に座り込んでけなみのメンテナンスをするのである。これは毎日しておかねばならぬ。ぺろぺろ、こうやり始めるとなかなか楽しくて終わらぬ。
「とっったー!」
おおこがさが絵をとりだしているのである。もみじも取りそうとしているのであるな。
こがさが取られまいと手をたかだか上げているのである。
あれなら、もみじの絵を星様に見てもらえるのである。
あしたはつづくよどこまでも、ということで次回からなんだろう? なにをはじめるでもなしにつづくよということで、地底編はおしまい