「こら、いたずらしたらだめだろう?」
けいねが顔を近づけて吾輩にいうのである。こわいのである。
吾輩はちからなく「なぉ」として言えぬ。確かにやりすぎであったやもしれぬ。吾輩は弱いものいじめは絶対にせぬである。吾輩は恥ずかしさのあまりくしくしと顔をかいてしまったのである。
そうしているとなずーりんがすおしりをぱたぱたはたきながら近寄ってきたのである。
「まったく。困った猫だな。君が飼い主かい?」
なずーりんが嘘をついたのもよくないのである。にぼしを手に持っているふりをしたのはいかぬ。うそつきはハリセンボンを飲まされるというのである。痛そうであるな……吾輩はなずーりんにねこじゃらしを飲ますくらいで許すのである。
うむ?
けいねが頭をなでながら抱っこしてくれたのである。
吾輩は首を振るのである。こうすると手に頭がまんべんなく当たって気持ちいいのである。
「ああ、貴方は寺で見たことがあるな。いや、この子は私の飼い猫というわけではないけど、いたずら好きでね。迷惑をかけてすまなかった」
「まったく……その猫はよく寺にもやってくるんだ。ご主人様も『今日はこないかな』なんて言っているのは情けない……。おっと、これはこちらのことだね。まあ、飼い主でなくても関係があるならしっかりと躾けをしておいてほしいものだね」
「ほらおまえも、わかったか?」
けいねが吾輩の両脇をもってなずーりんの前に出したのである。
「わっ」
なずーりんは吾輩に恐れをいだいているのか両手をちょっぷするように構えているのである。吾輩もちょっと真似をしてみるのである! こう、前足を動かすのは結構難しいのである。
「意外と仲がよさそうだな」
「だ、誰が猫なんかと」
なずーりんがむきになっているのである。吾輩はなずーりんと仲良くするのもやぶさかではないのである。そう思って一声かけてみるのである。
にゃあ
「ちっ」
ううむ。ごうじょうであるな。けいねよ、こういうときは言ってやるのである。仲良くせねばならぬ。けいねと吾輩は目が合ったのである。けいねはキョトンとした顔で吾輩を見て、うっすらと笑ったのである。
耳元に口を寄せてけいねが言うのである。くすぐったいのである!
「……仲良くなりたいのか?」
にゃあお。吾輩はちゃんと返事をするのである。顔を動かすとけいねのほっぺたに当たったのである。すりすりするとなかなか気持ちいいのである。
「あは、くすぐったいよ」
そういいながらけいねはちらりとなずーりんをみているのである。
いつの間にかなずーりんはお餅をもぐもぐ食べているのである! 吾輩もちょっとほしいのである。
「前にお寺の住職と話す機会があったのだけど、買い食いが多くて困っているそうだ」
「むぐっ。……ごほごほ。い、いきなりなんだい?」
なずーりんよ「かいぐい」はいかぬ。よく吾輩もわからぬがよくないことはよくないのである。けいねが吾輩を抱いたままにやっと笑っているのである。なんか怖いのである。
「いや、前にそんな話をしたことを、ふと思い出しただけだよ。またお寺に行く機会があれば話をするかもしれないけど」
「……へえ、そう。それは好きにすればいいけど。そんなことをわざわざ言うってことはさ、何か言いたいことがあるんだろう?」
「そんなことは一言も言っていないさ。ただ、この子と友達になってくれるならうれしいなとは思っているよ」
ともだちであるか。吾輩はともだちが増えることはいいことである。なずーりんは鼻を「ふん」と鳴らしてそっぽを向いているのである。
「はっ。寺子屋で人間の子供相手にしているとは聞いていたけど、まるで子供に接しているような口調だな。そんな仲良しごっこに付き合ってあげる義理はないね!」
そおっとけいねが吾輩をもってなずーりんに近づいていくのである。
なずーりんはそっぽを向いているのである。細い首が近づいてくるのであるな。ううむ、ここはぺろりと挨拶をするのである。
「そもそも私がどこの馬の骨……? いやまあ、どこの猫かもわからないあひゃぁあ!」
! なずーりんが飛び上がったのである。それから首筋を押さえてへたり込んだ。どうしたのであろうか? 吾輩は悪いことはしてはおらぬ。
「お、おまえ」
首を押さえながらなずーりんが涙目で見てくるのである。いや、そこがじゃくてんとは知らなかったのである。許してほしいのである。けいねも悪いのである。そう思ってけいねににゃあと聞いてみるのである。
けいねも目をぱちくりさせて驚いているのである。
「い、意外と大きな声を出したから驚いたよ。すまなかった。……でもこれも乗り掛かった舟だし、私とこの子の買い物に付き合ってくれないか?」
「な、なんで?」
「河童とかが出している屋台でおいしいものを買ってあげるから」
「……こんなことをし、しておいて。……そ、それくらいで…………」
吾輩もおいしいものが食べたいのである! ヤマメがいいのである! ヤマメである! けいねよ吾輩も。
「こら」
しゅんとしてしまったのである……吾輩としたことが。にゃむにゃむ。
なずーりんも何か考えているようであるな。吾輩と一緒に遊んでくれるなら歓迎するのである。
けいねはへたり込んでいるなずーりんに片手を差し伸べたのである。吾輩は片手にしがみついているのである。
「それじゃあ決まりだな。ルーミアもどこに行ったか分からないから探さないといけないし。この子を頼むよ」
「ふん……ここまで強引にされたらす、少しくらいは付き合ってあげてもいい。わっ」
うむ! 気が付いたらなずーりんの腕の中にいたのである。ううむ腕が細いのである……こう捕まるのがたいへんであるな。肩につかまろうとするとなずーりんに抱きしめられたのである。
「こ、ら。暴れるな。な、なんでこいつを私が持たないといけないんだ!」
なずーりんよおとなになるのである。わがままを言っていては大きくはなれぬ……うむ? ちょっと違ったかもしれぬ。吾輩は恥ずかしいのである。
にゃあにゃあ。
吾輩は抱っこされながらなずーりんの顔をじっと見て、そういったのである。おお、すごく嫌そうな顔をしているのである。にゃあにゃあとさらに抗議するのである。
「にゃあにゃあうるさいいにゃあ……う、うるさいな!」
「くす」
けいねが笑ったのである。なずーりんは顔を真っ赤にして何か言っているのであるが、うるさいのである。うるさいので、なずーりんの胸元に耳を押し付けてみるのである。かべのようでいいのであるが、片方の耳しか隠せぬ。
「おーい」
うむ? どこかで聞いた声がするのである。おお、にとりであるな。
なんだか怒った顔でこちらにやってきたのである。
「なんで、私の後ろをついてくるだけなのにはぐれるんだよ。慧音もなかなか帰ってこないし。あ、なんだ、新しいカモ……お客さんがいるのか、じゃあいいや」
「おい。君。今なんていった」
なずーりんはカモであるか、なら飛べるのであろう。聞いた話によればカモはネギを背負って飛んでくるそうである。なずーりんよ、ネギはどこに持っているのであろうか?
「なんで私のことをじっと見つめてくるんだ……この猫」
いや、ネギをもってはおらぬな。今日はお休みであろうか?
「まあ、いいじゃないか」
おおう、けいねがなでなでしてきたのである。考え事をしている途中にされると気持ちいいのである。
「どうせ、お茶碗を買いに来たんだからそっちを先にしよう。にとり」
「はいはい。今度はついてきてね」