とっとっと。
廊下を走ると音が鳴って吾輩は好きなのである。
きゅー。
おお、止まろうとするとすべるすべる。しかし、吾輩はそこはちゃんとしているのである。こう体重をかけると止まることができるのである。
「まってー」
こまのが追いかけてきたのである! 吾輩は捕まるわけにはいかないのである。捕まったら追いかけっこが終わってしまうではないか。ということで吾輩は縁側からジャンプするのである。ふさぁと雑草を踏んで着地するのである。
「あっ、外に」
こまのが靴を履いているのである。吾輩はちゃんと待つのである。吾輩は紳士であるからして、焦ったりはしないのである。おお。履き終わったのであるな。逃げるのである。
うむ? 追いかけてこないのである。後ろを振り返ると、両手を組んでこまのが仁王立ちをしているのではないか、吾輩は遠くから何をしているか観察してみるのである。
こまのは吾輩の方をむいてポケットから何かをとりだしたのである。手のひらに何か載せて吾輩に見せているのである。
「猫さん。ほーらおいしい煮干しですよ」
あやしい……。
あやしいのである。吾輩はこのしゅほーに一度引っかかったことがあるのである。なずーりんと同じことをせぬとも限らぬ。吾輩は一度されるとちゃんと覚えているのである。
「ほらほらー。私がたべちゃいますよー」
こまのが膝を曲げて手のひらを地面に近づけてきたのである。吾輩は一歩前に出たのである。……! なんで一歩前に出たのであろうか、煮干しをおもうとううむ、よだれがでるのである。舌で口元を拭いてみるのである。
うろうろ。
近づこうかどうしようか迷うのである。こまのが嘘をつくとは思えぬが……裏でなずーりんがいるかもしれぬ、ううむ。なずーりんは悪い子である。今度「めっ」としてあげねばならぬ。
吾輩とこまのはそういう風ににらみ合いがつづいたのである。しかし、吾輩はもう迷わぬ。しゅたっと駆け寄ったのである。
「やった。さあ、おいしいですよー」
吾輩は素早くこまのの掌に載った煮干しをハムハムするのである。偽物やもしれぬがおいしいのである。
「それ、あれっ」
こまのが吾輩を掴もうとしたのですぐに逃げるのである。はむはむ。偽物にしてはおいしいのである。こまのの股の下を通って後ろに行くのだ。さらに軒下に潜り込むのである!
ふう、一安心であるな。吾輩は満足である。
「こ、こらーまてぇ」
おお、こまのがよつんばいで軒下に潜り込んできたのである。しかし四本足で走るのは吾輩の方が上ある!
「あいたぁ」
うむ? こまのが頭……いやとがった角を天井にあてて痛がっているのである。
「いた~」
さすりさすりしているのであるな、吾輩はいてもたってもおれぬ。こまのに近づいてにゃあ、と聞いてみたのである。
「あ、心配してくれている? いい子だなぁ。……それ」
捕まりそうになったので吾輩はすばやく動いたのである。ごちん、とまたこまのは頭を打ちついているのである。
「~~!」
スキをついて吾輩を捕まえる気であったな……吾輩はまだ捕まるわけにはいかないのである。楽しい……いや、これは捕まったら負けな気がするのである。こまのは涙を浮かべながら吾輩を追いかけてきたのである。
吾輩はたったか逃げるのである。
しばらく軒下であそ……逃げ回ってからしゅたっと外に出たのである。おお、お天道様も綺麗であるな。暗いところからでてくるとまぶしいのはなんでであろうか、吾輩は後ろ足でくしくしと首元をかきながら考えたのである。
「……はあ、はあ」
軒下からこまのの出てきたのである。なんだからお洋服が汚れているのである。
「ううー。いい加減に捕まってください」
迷うところであるな。
しかし、吾輩は走り出したのである。こまのも後ろから走ってきているようである。いつの間にかはだしであるな。床下に隠してきたのであろうか? 吾輩もきらきらするものがあれば大切に隠すことはよくあるのである。
おお、お賽銭箱である。吾輩はひょいと飛び乗ってみるのである。ここにいると巫女から怒られるのであるが、なぜか上りたくなってしまうのである。
「はあ、はあ。追い詰めましたよ。ほら、怖くありませんから、こっちに来てください」
息を切らしながらこまのも賽銭箱の前にきたのであるな。
こまのが両手を広げて吾輩をまねているのである。吾輩はなんとなくあくびをしてみて、ゆっくりと考えてみるのである。じいーとこまのを見てみるのである。
「う、そんなつぶらな瞳で見られても困ります」
照れるのである。しかし、こまのはそーっと吾輩に手を伸ばしてきたのである。手のひらには煮干しが載っているのである。くんくん。これは本物である。吾輩にはわかるのである。さっき食べたものも本物やもしれぬ。
「おとなしくしてー」
はむはむ。ぺろぺろ。
「あ。あは。手がくすぐったいですよ」
あうんの手は煮干し味であるな、ぺろぺろ。
「はぅ」
なんだか今日はいっぱいおいしいものが食べられた気がするのである。あうんよ? うむ? 「こまの」より「あうん」の方が言いやすいやもしれぬ。吾輩はにゃあと呼んでみるのである。
「にゃーお?」
小首をかしげながらそれでもにっこりとあうんが笑ったのである。気に入ったのであろう。それはそうと吾輩はあうんの手に「乗って」見るのである。
「わ、わわわ」
そのまま手を駆けのぼって、肩を通るのである。
「え、えええ?」
もみじとやったことがあるのである。またうまくできたのである、吾輩は後ろ足で肩を蹴って地面に降りたのである。むむ……うまくできてうれしいのである。
吾輩は絶対につかまらぬ。
振り向くとほっぺたを膨らませたあうんがいたのである。
「も、もうーゆるさないわっ」
足を鳴らして両手をあげたあうんが叫んだのである。まだ、遊ぶのである! 吾輩は立ったか走り出したのである。おお、あうんがさっきよりもかなり早いスピードで追ってくるのである。吾輩も負けてはおれぬ。
とりあえず神社の裏手に回るのである。このあたりの塀をよじよじのぼると、神社の屋根の上に行けるのである。吾輩はものしりである。あうんもよじよじ昇っているのであるな。
吾輩は瓦をとてとて歩くのである。ううむ、……これは。
あうんも瓦に裸足で登ってきたのである。吾輩とあうんは屋根の上で対峙したのである。
「ふ、ふふふ……あっつーい!」
あうんがあんよをふーふーしているのである。瓦はお天道様があっためているからダメである。吾輩も降参である、おしりをつけてあんよをふーふーしているあうんの懐に飛び込んだのである。
あうんが目をぱちくりさせているのである。そこで吾輩は事情を説明してみたのである。
にゃあにゃあ
あうんに吾輩の言葉は通じたのかわからぬが、
「……やっとつかまえましたー」
ぎゅーと抱きしめられたのである。悪くはない気がするのである。しかし、ちょっと息苦しいのである。ごろごろ喉を鳴らして抗議してみたのであるが、あうんは吾輩を離さぬ。すりすりと吾輩の背中に顔を押し付けいるのである。
「こらぁああー!」
びくっ!
「れ、霊夢さん!」
吾輩とあうんは一緒にびっくりしたのである。下を見ると巫女が両手を組んでぷんぷんしているのである。その横に帽子をかぶった青い髪の少女がいるのである、はて見たことがある気がするのである。
「あんたら、神聖な社殿の屋根で何をしているの? 早く降りなさい!」
「は、はいぃー」
あうんは吾輩をもったまま。飛び降りたのである。