吾輩は縁側の下に潜り込むがすきなのである。
日陰になっているからちょうど涼しい。そういえば前に雨の降ったとき「ふと」と会ったのも軒下であった。今元気にしているのであろうか……いやいやたぶん元気である。見なくても分かるのである。
「それで霊夢。今度の宴会には協力をさせてあげるわ」
てんしと巫女が座って話をしているのである。吾輩は軒下から聞いているから、ぶらぶらと動くてんしの足しかわからぬ。うむむ、ちょっとぱんちしてみたくなってしまうのである。さっきまで履いていた靴は脱いでいるのであるな……あまり見ないながーい靴である。
「……別に宴会をするのは構わないけど、いつやるきなの。酒が飲めるとすればどうせすぐあつまるだろうけど……へんなのださないかぎり……」
声が聞こえてくるのである。しかし、最後の方はよく聞こえなかったのである。
「明後日くらいね」
「はやっ! あ、でもそれは無理よ。たしか紅魔館でぱーてぃーをやるってレミリアが言っていたわ」
「レミリア? 誰? そんなのどうでもいいわ。紅魔館ってあれね、あの湖のほとりにあるあばら家の」
「あ、あばら家? そ、それならわたしの神社……ごほん。とにかくよ、天子。先に招待状ももらっちゃったし。たぶんあいつのことだからたっぷり酒も用意しているはずよ」
とてとて足音が聞こえるのである。
「霊夢さん! お茶を用意しました。あれ? よだれがでてますよー。はいふきふきしますね」
「!……っ。あうん。や、やめなさい!」
「さっきまで幸せそうな顔をしてましたし、たぶんおいしいもののこととか考えていたんじゃないですか?」
「……そ、そんなわけないじゃない! そんな顔してないもん!」
おいしいものであるか! 吾輩は立ち上がった。しかし、吾輩の目の前で縁側からぷらぷら動いてた、天子の足が地面を踏みしめてたちがあったのである。
「霊夢! そんなのどうでもいいじゃない。私が地上の奴らにはとーてー味わえない珍味を食べさせてあげるわ。鬼にも手伝わせてな!」
「鬼? 天子、あんた鬼の知り合いがいるの? ……あ、萃香のことか、でもあいつが手伝うかしら」
「……萃香……? まあいい。天界の宴の一端に触れることができれば地上の奴らもさぞ喜ぶだろう! あひぃい」
おお、なんとなく足を舐めてしまった。特に意味はないのである。こう吾輩は新しいところにくるとにおいをかいでおくことがあるのであるが……たまにこうしてしまうこともあるのである。
「な、なにをするんだ。この猫!」
にゃあ。吾輩は軒下のさらに奥に逃げるのである。
「く……私を慕うのはいいがあのけだものめ……」
てんしの声が遠くに聞こえるのである。吾輩はくるっと回って元の場所にもどるのである。あまり奥に行くと、寒い。それにちょっと舐めただけでああなるとこう、いたずらを……いやいや。何でもないのである。
「比那名居さんのことが好きなんですよ~。はいお茶です」
「ふん。当然。……これは地上のお茶だな。えっとあんたは」
「も、もう忘れたんですか。私は高麗野あうんですよ」
「ふーん……。まずい。お茶か泥かわかったものじゃない」
「ひ、ひどい」
ううむ、吾輩の上では何が起こっているのであろうか。吾輩には座ったてんしの足しか見えぬ。ふと巫女の声が聞こえてきたのである。
「とりあえず、あんたの宴会はまた今度ね。紅魔館の連中は大勢を招待するって噂だし。この床にいる猫も招待されているのよ、一緒にいたから」
そういえば前にれみりあにはあったことがあるのである。……ぶるぶる。さくやのことを思い出してしまったのである。いまだにあのなぞはとけぬ。降りたはずなのに降りてなかったのである。
てんしの足が勢いよくぶらぶらしているのである。
「いいだろう。そこまでいうなら勝手にするがいい。私はほかに協力させてやるやつを探すとする」
よくわからぬが。えんかいとはあれであるな、おいしいものを食べることであろう。しかしてんしは来ぬのであろうか……それはちょっと寂しいのである。
「……はぁ……天子。一緒にいかない? レミリアんとこ」
「…………」
「比那名居さん! 霊夢さんは比那名居さんとどーしても一緒に行きたいんですよ!」
「「なっ」」
おお、巫女とてんしの声がはもったのである。あうんがばたばた動いている音がするのである。
「霊夢さんも寂しくてきっと誘っているんですよ……。比那名居さん」
「ほう……ふふん。そこまで懇願されては行ってやらなければならないな。私としては全く興味はなかったが、これも地上のやつらのことを知ってやるためには少しくらい参加してもいいかもしれないわね」
てんしの嬉しそうな声が聞こえてくるのである。吾輩もうれしいのである。ぱちぱちと拍手が聞こえてくるのである。一体だれが拍手しているのであろうか……。きっとあうんであるな。吾輩はわかるのである。
「あ、あんたねぇ。あうん。ちょっと」
巫女の声がするのである。
「まーまー霊夢さん。ここは押さえて押さえて。天子さんはきっとあのままだったらダメだったじゃないですか。あ、私も連れてってくれてもいいですよ? ね。霊夢さん」
「ああ、もう。まあいいけどさ。レミリアのことだからそううるさくは言わないだろうしね。天子、とりあえず明後日の夕方前には神社に来なさい」
「いいでしょう。たのしみしておきま……楽しみにしておきなさい」
「言葉遣いおかしいでしょ、天子」
吾輩も夕方には神社に来なければならぬ。こーまかんというあばら家で宴会であるか。意外とれみりあもびんぼーなのやもしれぬ。またたびを持っていったら喜ぶであろうか。明日は取りに行くのもいいのであるな。
「それはそうとあうん。あんた、あのネズミとルーミアはどうしたの」
巫女が聞いているのである。吾輩も気になるのである。
「あ、いつの間にかいなくなっちゃったんですけど。ネズミさんの持っていたお茶碗はちゃんと隠しているのでそのうちやってくると思います」
「いや、別にそのまま帰してもよかったんだけど。じゃあ、あいつが来たら適当に相手しておいて。慧音も疲れたからって休ませてたけど、そろそろ」
とことこまた足音がするのである。
「ああ、すっかり休ませてもらったよ。ありがとう」
けいねであるな。吾輩は聞き間違えたりはしないのである。
「しかし、今日はあわただしい日だった。迷子になる子が多いし、喧嘩もあったし……。ほんとに助かったよ霊夢」
「はいはい、どういたしまして。これは貸よ」
「ははは。今度何かお返しするよ、そういえばルーミアたちは?」
「帰ったみたいよ。薄情な奴らね」
「そんなものだよ。むしろ、らしいって安心する。あ、猫は?」
「その下」
吾輩のことであるな。
軒下をひょっこりと覗いてきた慧音と目があったのである。長い髪が地面につかないように手で押さえているのであるな。吾輩を見つけて、にこっとしているのである。
「ああ、いたいた。それじゃあかえってご飯にしようか?」
みゃあみゃあ。ごはん!
「そいつあんたの飼い猫なの?」
みこよ吾輩は飼い猫ではないのである!
「えっ、いや違うよ」
けいねの言うとおりであるな。けいねは吾輩に手を伸ばしてきたのである。
「ほらおいで」
吾輩はのっそり起き上がって近づいていくのである。ここで、てんしの足元を通るときに尻尾でふんわりさすってみたのである。
「ぃいぃぃ」
……てんしが足を押さえているのである。いたずら成功であるな! 満足である!