わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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あらすじ:
ひょんなことから人里に行くもみじとはたてについていく吾輩。はたてはもみじと甘味処に行く約束をしているのであった。


わがはいはのどにつまらせたりせぬ

 とてとてとてとて 

 

 もみじが振り向く! ぴたっ

 

 …………。もみじが歩き出したのである。

 くるっ。その手には乗らぬ! もみじが振り向いたらちゃんと止まるのである。

 

「おい、いつまで付いてくるつもりなんだ? 今日は遊びに行くんじゃないんだぞ」

 

 吾輩は動かぬ。吾輩もついていくのである。

もみじは白い頭をかきかきして、はあとため息をついているのである。

 

「まったく。このままじゃその辺の茂みから小傘も出てきそうだな」

 

 こがさであるか? 吾輩はあたりを見回してみたのである。おらぬ。

 おお、動いてしまったのである! なかなかこーみょーな手を使うのである。もみじよ、おぬしできるのであるな。吾輩は負けた時はちゃんと認めるのである。ころん、と転がっておなかを見せるのである。

 

「……」

 

 もみじがなでなでしてくれるのである。うむうむ。

 

「ちょっと。椛。猫と遊んでないで早く行くわよ」

 

 はたても来てなでなでしてくれるのである。ちょっと怒っているのやもしれぬ。怒ってはいかぬ。吾輩はにゃーと言ってみるのである。

 

「はたてさ……はたても撫でているじゃないですか」

「いや……だってずるいし」

「ずるい? 何がですか。私はあの手この手でやっと取れた休みを使っているんですよ」

「そうじゃなくて猫のこと……って、わかったわよ。そんなに怒らないでいいから」

 

 なでなでしながら話されると吾輩、立ち上がれぬ。ごろんと転がって、するりと抜けてみるのである。こういうのは得意である。さくやと今度会っても逃げきって見せるのである。

 

 

 吾輩ともみじとはたては人里にやってきたのである。吾輩からすればもどってきたのであるが、お山のまたたびは逃げぬ。ゆっくりと行くのである。

 道を歩いているとはたてが「あっ」と声を出したのである。吾輩は思わずそちらを見たのである。茶屋であるな。吾輩はよく知っているのである。お茶と団子を食べるところであろう。

 吾輩は食べたことがないのである。のどに詰まるといわれてもらったことはないのである。吾輩はそこまでおっちょこちょいなのではないから、残念である。

 

「椛、あそこ幟(のぼり) 見て」

 

 はたてが「甘味処」と書かれた幟を見ているのである。

 

「甘味処」

 

 なんと読むのであろうか。吾輩は首を動かして考えてみるのである。ううむ、ううーむ。わからぬ。はたてが喜んでいるからきっといいことが書いているのである。いいことであるか、ううむ。「またたび」やもしれぬ、いやなかなかいい線いっているのではないであろうか!

 もみじよきっとあれは

 

「あまみどころか、はたて……あそこに寄るんですか」

 

 ごろごろ、……間違えたのである。

 

「その中途半端な敬語もやめていいわよ。奢るって約束したし、あそこでちょっと休憩をしていきましょう。ほら、椛」

「えっ? 何ですか」

「いや、席を取ってきて」

「私が? まあいいですけど」

 

 もみじがつかつかと歩いていくのである。吾輩もその後ろをついていくのである。するとはたても吾輩の後ろをついてくるのである。なんだか仲良しであるな。

 茶屋の横に大きな赤い傘が立っているのである。その下に長い椅子が置かれているのであるな。吾輩はちゃんと知っているのである。あそこでのんびりするものであろう。

 もみじがお店のものと話をしている間にはたてがそこに座ったのである。吾輩もぴょんと飛び乗って丸くなったのである。日陰になっていてなかなかいいところであるな。

 

 しばらくするともみじがやってきて吾輩の隣に座ったのである。

 もみじはふうと息を吐いて、吾輩の頭をなでなでするのである。うむうむ、くるしゅうないのである。

 さらにしばらくすると店の者がお茶とあんこのたっぷり乗ったお団子を持ってきたのである。それと吾輩にはお椀にお水であるな。なんだかずるいのである。

 

 にゃあにゃあ。

 

「わっ、お前にこれはやれない。のどに詰まらせたらどうする」

 

 もみじも同じことを言っているのである。

 はたてが「あははは」と笑っているのである。

 

「ほんとっ、よくなついているわね椛。あんたは性格いいから動物にも好かれるのかもね。あっ。このお団子おいしい。それに餡子が程よい甘さ……」

 

 なんだか幸せそうにはたてが食べているのであるな。吾輩は紳士であるから我慢せざるを得ぬ。尻尾をふりふりしてみるのだ。決して怒ってなどおらぬ。

 

「うっ」

 

 急にはたてが青い顔をしているのである。胸をどんどんとたたいて、急にお茶を飲んだのである!

 

「あちゅっ」

 

 妙な声を出してお店の中に入っていったのである。吾輩よりもはたての方が喉に詰まらせているのである! 気を付けて食べなければならぬ。

 

「お水でも取りに行ったのか……。急いで食べるから……はあ」

 

 にゃあ

 全くその通りであるな。はたてはおっちょこちょいなのである。その点、吾輩はそんなことをせぬ。ちょっとくれてもいいのである。

 

「だーめー」

 

 ううむ。ケチなのである。吾輩がもみじににゃあにゃあと催促してもくれぬ。吾輩は仕方なくお水を飲むのである。うむうむ。水であるな。舌でちょっとずつ飲むのである。

 ふと吾輩はもみじを見たのである。

 

 もぐもぐとほっぺたを動かしながら、だんだんとにやけているのである。「ん」と言いながら手をほっぺたにつけているのである。

 幸せそうであるな。吾輩はなんとなくうれしくなってしまうのである。もみじがうれしいのであるなら吾輩はそれでいいのである。我慢してお水を飲むのである。

 

 ぴちゃぴちゃ、舌を出したり入れたりして飲むのである。

 

「うっ」

 

 吾輩が振り向くともみじが青い顔をしているのである。それから胸をたたいているのである。お茶を手に取ってそれから飲むと、

 

「んぐっ」

 

 熱そうにその場でうつむいたのである。おおぉお団子を落としたのである。吾輩は地面に落ちる前に串のところをキャッチしたのである! ちょっと甘いのである。

 

「あんた何をやってるの?」

 

 はたても戻ってきたのである。

 

「い、いや。喉に……。それにお茶が熱くて」

「なんなの、今日の私たち……こんなの文にばれたら一日中ネタにされてからかわれるわ」

 

 二人ともおっちょこちょいであるな。吾輩が一番なのやもしれぬ。

 もみじが吾輩が串を咥えていることに気が付いたのである。

 

「お前、相変わらず曲芸みたいなことができるんだな……小傘と一緒なら一財産築けるんじゃないのか」

 

 もみじよ吾輩はしゃべれぬ。そう思ってじっと見てみるのである。

 

「うっ、いや……ありがとう」

 

 もみじが吾輩からお団子の串を取ったのである。吾輩は食べるのをちゃんと我慢したのであるし、お団子には触っていないのである! ほめてもいいのである。

 

「この子ほんとお利口ね。椛が飼ってみれば」

「なんでそんな話になるの? こいつはついてくると思ったらいきなりいなくなったりしますから大変ですよ。こいつと小傘が一緒にいた時はほんとにたいへ……」

 

 急にもみじが黙ったのである。……汗をかいているようにも見えるのであるな。

 吾輩が振り向くと、のしのしと大きな傘を持った少女が近づいてきているのである。あのなすびのような傘は吾輩も見覚えがあるのである。

 

「は、はたて、ここを離れましょう。早く」

「えっ?なんでよ、まだお団子食べ終わってないわよ」

 

 吾輩はだっと駆けていくのでる。

 

「あっこら」

 

 椛の声が後ろから聞こえるのである。

 吾輩は大きな傘の下に潜り込んだのである。見上げると大きな瞳がぱちくりしているのである。

 

 にゃあ。

 

 吾輩がそういうと、こがさがにっこり笑ったのである。

 

 

 


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