高層ビルが建ち並ぶ大都会、大手企業や中小企業が入って経済を支えている中心地でもある。
この大都会の中に他の高層ビルより豪壮なビルが目立つ。
高さも奥行きも大きく、その中枢部と思われる建物を軸に伸びている円状の建物が四つ。
四つの円状の建物は連絡通路で中枢部と繋がっている。
ここが、『学徒戦略防衛学園』の本部。
零たち学衛隊員はここで座学や訓練を行い、出動があれば出動し事件現場に赴く。
諜報部は出動と言うより潜入。
そのため人知れず潜入場所に潜入し関係者以外は、いつ、潜入したかはわからない。
零は諜報部の長官(学長)である望月香苗の部屋にいた。
「彼はそれ以上のことは知らないと言うことでした」
事後報告を淡々と述べる零に、望月は手を組みどこか笑みを浮かべている表情で聞いていた。
「そう。まぁ、あまり期待はしていなかったけど、その情報さえあれば十分ね」
「……長官」
「はい?」
「自分はいつまで姫川たちの面倒をみなければいきませんか?」
零は声色一つ変えずに不満を漏らす。
「嫌なの?」
彼の不満を分っているのに、不思議そうに首をかしげる。
「任務はこなしますが、姫川は諜報部には向いていません。感情に流されすぎます」
「そうね。でも、冷徹すぎるのもどうかと思うよ? 時には感情を出して相手に漬けこむことも大事よ」
「それに昔の零君そっくりよね」
「その話はやめて下さい。あの頃は自分もここにきて何も分からなかったので」
「もう三年も前になるのね。ほんと、あの頃の零君は手を焼いたわよ」
香苗は、手の掛かった我が子の思い出を懐かしむ顔になっていた。
「長官。本当にやめて下さい!」
零にとっては思い出したくない昔の思い出。
「もぉ~。良いじゃないの~。それだけ、零君も成長したってことよ」
「そうならなければならなかったのです」
表情は崩していないものの、声に元気がなかった。
「そうね。でも、あれは今でも私は思うの。零君のせいではないと」
「いえ、あれは自身が招いたものです」
辛い過去が記憶として甦り零の頭を支配した。
彼にとって最も思い出したくもない過去。
「そう。あまり自分を責めないでね」
「肝に銘じておきます」
軽く一礼し感謝の意を伝える。
「話を戻してさっきの件だけど、東星女学院に潜入してほしいの」
「じ、自分がですか?」
「ええ。彼女たちは生徒であなたは……そうね、体育教師なんてどうかしら?」
「お断りします!」
「え~、何で~? 似合う十ものに~」
「女は抵抗あります」
「えー、でも、ムッツリなんでしょ?」
香苗は悪戯な笑みを浮かべる。
「ムッツリではないです。誰が言ったのですか?」
「十真君よ」
(あの野郎ー!)
「とにかく、自分は別な任務を希望します」
「でも~、零君のメンバーは女の子たちで、この任務にはもってこいなのよ。おねが~い」
腕に抱きつき豊満な胸を押し付ける。
(や、柔らかい……耐えろ!)
顔は平静を装っても健全なる男子だ。意識しないことは出来ない。
「顔赤いぞ~。零君もやっぱおっぱい好きなのね~」
「べ、別にそうゆうわけではありません。暑いだけです」
見苦しい言い訳を述べ、香苗の誘惑に耐えている。
「じゃあ、これでどうだ!」
前に回りこみ抱きついて胸を押し付けた。
胸は形を変え零の身体に柔らかい感触を伝えてきた。
「お願い。零君」
上目遣いで懇願する香苗の顔は男を惑わす力があるほど可愛く綺麗。
「はぁ~。……分かりました。やります」
ついに、骨が折れた零は嘆息し了承した。
「やった。じゃあ、引き続きお願いね。手続きは済ましておいたから、書類は後から渡すからね」
ウィンクし、よろしくと伝える。
最初から零たちに任務をやらせるつもりであった。断ることも想定済みで、そうなれば、自分の色気と誘惑を使い承諾を取る算段も付けていた。
零はムッツリで身体を使った押しには弱いことも香苗には分かっていた。
全ては彼女の計算どおり。
「明日から任務に入ります。では、これで」
笑顔で手を振る香苗に零は一礼して退室した。
「まだ、あのことを自分のせいだと思っているのね。彼の心を彼女たちが開かせてくれればいいんだけど……」
景色を一望できる大きな窓に呟く香苗だった。
零は階段を下りて中央塔の広間にいる。
「零!」
前からやって来たのは、違法風俗店を検挙した十真だった。
「十真か。どうした?」
「訓練帰りだよ。零は?」
「報告だ。そして、また、任務に就くことになった。しばらくは会えない」
「潜入か。どこに?」
「言えるわけないだろ。諜報部の潜入先は口外してはならないと、知っているだろ?」
「分かるけど。昔のメンバー仲間で教えてよ~」
「お前は口が軽いから無理だ」
「おいおい。これでも、俺のお口はチャックが付いているほど堅いぜ!」
「じゃ。その口に今からチャックしてやろうか」
二人は互いに冗談を言い合う。
零も十真には気を許している所があり信頼もしている。零は彼の強さを知っており、昔は共に戦ったこともある。
「ちょっとでいいからさ。教えてくれよ~」
十真は粘る。零の潜入先を知ろうと。
「名前は言えないが、女子高だ」
「なにーーーーーーーーー!?」
大声を出した十真に一斉に周りにいた学員たちは振り向いた。
「おい! 大声を出しすぎだ!」
「わるい。わるい。それ本当かよ!? 羨ましすぎるぞ、毎日、女の子に会えるんだぞ!おっぱいの大きい同級生や後輩、はたまた、先輩とか。美人で綺麗なお姉さんみたいな女子高生。ギャルだけど中身は清楚な女子高生など。やべ、妄想が止まらん」
十真が妄想に心を躍らせている顔に、零は変態だなと思うしかなかった。
そう思えるほど、十真の顔は近寄りがたい笑顔をしていた。
―突如と、中央塔の広間に大音量の音楽が流れる。
勇ましくも威圧感がある曲で、聞くもの全ての者たちに畏怖さえ感じさせるほど。
「おいおいおい! やつらが出動かよ!」
妄想から引き離された十真が慌てる。
「来たぞ」
零が見ている階段から降りてくる異様な集団。
学員服の上に羽織を着ており、腕は通していない。
「ストライカーズか、どこかで大きな騒ぎがあるんだな」
零は慌てもせずに言った。
『ストライカーズ』とは学徒戦略防衛学園の精鋭部隊であり、荒れくれ者たちがいる集団である。出動は少なく何も無い時は与えられた部屋で寝ているか、学衛隊員を捕まえて勝負を挑んだりと迷惑なことも多々している。
元は不良学生などが多い。
「どこでドンちゃん騒ぎするんだか」
「まぁ、暴力団の所に殴り込みとかだろう」
「逮捕と言いつつ、けっこう殴り倒すからなあいつらは」
過激極まりないストライカーズは、平気で暴力団員や過激な犯罪グループなど殴り倒す。
それでも、ストライカーズに学園や文武省からの注意や警告は何もない。
「たまに行き過ぎていると思うよ。まったく、あいつらは」
「それでも、助かっているのは事実だ。悪者になって悪を成敗するのも必要なのだろう」
正義だけでは生徒は救えない事実がある。時には過激な制裁を加えることも必要なことであり、それが悪であることだと分かっていても。
問題は学園が定めた法に犯さないことと、自身の正義を失わないこと。
「それもそうだな。あそこに山仲もいることだし」
「山仲もけっこう容赦はないと思うが……」
二人にはストライカーズに共通の友人がいるらしい。
「ストライカーズに任せておけば組も大人しくはなるだろう。零、これから予定あるのか?」
「あいつらに任務の報告がある」
「そうか。じゃあ、任務頑張れよ!」
「ああ。お前もな」
十真は手を振り去っていく。
その姿を見届け零もメンバーがいる部屋へと歩き出した。
「東星女学院に潜入することになった」
「女子高に潜入!?」
ミーティングルームに結唯の声が響き渡る。
イスに座っている詩穂と綾夏は冷静だった。
「零さん。私たちは分かりますが、零さんはどう潜入するのですか?」
「俺は教師だ。お前らは生徒になる。ターゲットを両側面で監視する」
「では、もう我々の入学手続きはすませてあると?」
「手続きは長官がもうしているらしい。後から書類が届く」
綾夏と詩穂の質問に零はつまらなそうに言う。
「いきなりすぎるわよ! 第一、私たちに休みをくれない気?」
「任務だから仕方ない。やりたくないなら外すぞ?」
文句ばかり言う結唯に零は任務から外すと脅しを掛ける。
「やるわよ。やればいいんでしょ!」
ぷんぷんと怒りながら部屋を出て行く結唯。
「まったく。結唯ちゃんは素直じゃないんだから」
「ご主人様、いつまでも、あのような態度を許しておいていいのですか?」
詩穂はいつも反論ばかりする結唯に心の中で怒っている。
彼女は零の命令は絶対であり零のために動いているようなもの。
詩穂が忠犬であるなら、対して結唯はいつも攻撃的で零に攻撃してくる猫だ。
相対する存在で反発しあうのは仕方がない。
「好きにさせておけ、あいつは反発するが任務はやる」
「そうですね。結唯ちゃんはツンツンしていますが零さんの指示には従いますし」
「二人に、まぁ、なんというか……相談があるのだが……」
(零さんが恥ずかしがるなんて!?)
(ご主人様があのようになるなんて!? これは萌え! ああーカメラあれば撮れたのに~)
珍しく言葉を詰まらせ恥ずかしがる零に、詩穂と綾夏の二人はキュンとなった。
「女が分からない。教師をやる以上、知っておくべきだと思い教えてもらいたい」
「わかりました! 私が零さんに女の子の全てを教えてあげます!」
立ち上がりウィンクをして綾夏は零に女の子の生態を教えることになった。
第二章 東星女学院
私立東星女学院、綺麗な校舎に正面玄関は大きなガラス張りの窓。
お嬢様学校というわけではないが、それなりの学費はあると見受けられるほどに、建物も近代的で普通の公立高校とは違う。
「おーい。転入生を紹介するぞー」
教室で女性教師が騒ぐ生徒たちに転入生を紹介し始める。
転入生となればなかなかないイベントの一つ、そのイベント来たとなれば騒がしかった生徒たちは静まりかえるが静寂とは言えない。
小声で聞こえるのは期待の声ばかり。
「どんな子かな?」
「きっと、地方から来た子だよ」
「ギャルだったりして」
少女たちの想像は膨れ上がるばかりで、転入生が教室に入ってくるのを今か今かと待っている。
「入ってきていいぞー」
先生の合図で教室のドアが開かれ三人の少女が入って来た。
「じゃあ。自己紹介を」
先生が促し三人は自己紹介を始める。
「姫川結唯です。よろしく」
「八葉彩夏です。よろしくお願いします」
「……藤林詩穂です」
「空いてる席に座ってくれ。さっそく、授業はじめるぞー」
三人は各々に空いている席に座った。
「結唯ちゃん。よろしくね。私は香坂望海」
「望海ね。これからよろしく!」
結唯は早速、隣席の娘と友達になれそう。
「前はどこの学校にいたの?」
「静岡の翠誠高校ってところ。でも、有名じゃないからわからないよね?」
「うん……ごめんね」
「いいいよ。いいよ。お父さんの転勤でこっちに来たのよ」
「へぇ~。ここは私立の中でも良い方だから、転入の際に試験とかあったでしょ?」
「少し難しかったけどなんとかなったわ」
東星女学院には編入時に試験があり、それなりの学力がないと編入できない。たとえ、金を積まれようとも。
「結唯ちゃん頭いいんだね」
「悪くはないと思うけど、良くもないわよ。普通って所かしら」
「もし、勉強解らない所あったら教えてね」
「私も分かるところならいいわよ」
「やった」
望海は笑顔ではしゃいだ。
「おい! そこうるさいぞ!」
望海の喜びが先生の耳に入り、望海と結唯は注意されてしまった。