相も変わらず、森である。
なんで森しかないの!
山だからだ。
辺境過ぎて、山しかない。
「まぁ、天上世界は何処でも同じようなものなんだけどさ」
森と原っぱ、時々街や村、
しょうがないと言えばしょうがない。しかし、飽きる。一体いつまで木を見続ければ良いのだ。木がゲシュタルト崩壊しそうである。
「むーへーんーかー」
「良いではありませんか。異族も出ず、平和そのものでござりまするぞ」
「でも、流石に気が滅入るね。枢機卿の気持ちもわかるよ」
「だよね!気が滅入るよね!」
「正しいのは、マサムネだけどね」
「ぶーぶー」
誰も賛同者が居ないことに思わず口を尖らせる。
やはりヘルヘイム所属だからか。彼女達は他のイミテーションと比べて生真面目が過ぎた。面白味に掛ける、というのが私の正直な評価である。
しかし、不平不満を言っても何も変わらない。話のネタも尽きてしまったし、会話で時間を潰そうにも直ぐに途切れて終わってしまうだろう。
つまるところ、時間を潰す術がないのだ。
研究者なら研究者らしく研究資料でも読めばいいのだろうが、生憎と私は他の研究員の方と違って勤勉な研究者ではない。どちらかといえば、やることやってのんびりしたい派である。この移動時間は、仕事中という言い訳を理由にだらだらしてるだけに過ぎない。
現在進行形で私に言いつけられている仕事は創世戦争のやり残しだ。かつてのラグナロク教会の総戦力で成し遂げられなかったことではあるために非常に難易度が高い任務ではあるし、正直自分に割当たられると思っていなかった仕事である。偶然、対象が私の担当する実験場に現れたために、今回の仕事を命じられた。
(私も一応枢機卿なんだけどなぁ)
生憎と、今は同じ地位にあっても、枢機卿内の力は異界存在研究機関では新参者のため私には無いに等しい。拒否することなどできるはずもなかった―――というのもあるが、実際は他のメンバーが研究で忙しいので、一番研究をしていない私が向かわされたというのが理由の大部分を占める。
自業自得であった。
「くっそー、私だってやれるだけのことはやってるんだぞー」
現実問題。
私は元々、大学生だ。ゼミの教授が国際連合異界存在研究機関に異動になり、万が一の場合に備えてゼミ内で一番優秀な私が抜擢されたのが所属の経緯である。万が一の場合というのは、教授が専門とする位相物理学、その中でも異界存在との戦いに有用な、マイナーな分野の研究者が全員死んでしまった場合のことを言う。私は先達たちの後継として、異界存在研究機関に所属した。
そう言った所属の経緯は彼と似ているかもしれない。
まぁ、それはともかくとして、大学生で身分を終えてしまった自分は結局博士どころか、修士の学位すら持っていない。尖りに尖った分野の助手っぽいことをしていただけの私では、他の計画派メンバーとは遅れを取るに決まっている。
もうずいぶんと長いこと生きていたが、やはり個々の実力で国際連合異界存在研究機関に配属された先達たちの背中を遠い。
「追いつこうとも思ってないけどさ」
私の目的は人類の救済だ。それを成し遂げられるなら、私の配役なぞどうでも良い。
主人公でなくても構わない。世界を救う勇者を導びく村人Aで十分だ。
私には世界を救うだけの力はないことは十分知っている。私程度の凡才には世界は救えない。キラープリンセスに頼るしかなく、異界存在の前に屈するしかなかった人類と同じように。
世界を救えるのは、ほんの一握りの特別な力を持った誰かだけ。計画派の研究者たちや時代の麒麟児マック・フューリーのような選ばれた人間しか人類を救う盤面に登ることはできないのだ。
ああ、だけど。
自分が凡人であると自覚しながらも、人類救済の盤面に登った人がいた。
『――ピリリ、ピリリ』
唐突な電子音があった。
これは私の実験施設が破壊されたことの報告だ。
そしてこの時代において、この破壊は一つの事実を指し示している。
「―――先輩」
かつて慕った年上の青年。
実験施設の破壊は彼が私の向かう先にいるということの証明だ。
あの実験施設を発見し得るのは、教皇庁勢力以外では、ブラフマーストラβという高エネルギー兵器を持つ彼だけだ。同胞が無断で実験施設を破壊することは有り得ないため、必然的に彼が実験施設を破壊したことになる。
敵対者である彼に対する態度を既に選択している。
それは先輩を終わらせること。
凡であると自覚しながらも人類救済の盤面に登った先輩は止まらない。自分自身の全てを投げ捨てて、地獄のような日々に堕ちても、足を止めることはない。
だったら、もう終わらせてまおう。
数十億の凡人は選ばれた一握りには勝てない。
凡人である先輩に勝ち目なんて、最初からないのだから。
ぼんやりと窓の外を見つめる。
相変わらずの木、木、木。
けれど、飽きるほど見飽きたこの光景が何処か寂し気に見えるのは何故なのだろうか。