学校からの帰り道、どこからか爆発音が響いた。
歩みを止め、音のしたほうへ顔を向けると、黒い煙がもくもくと空にのぼっているのが見えた。
「へぇ~面白そうだな、ちょっと行ってみるか」
ニヤリと笑い、足早にその場所へと向かった。
───僕のせいだ
「ヒーロー何で棒立ちィ?」
「中学生が捕まってんだと」
捕まってるって…あんな苦しいのを耐えているのか!!?
僕のせいで、僕の自分勝手のせいで、皆を困らせている。迷惑をかけてしまっている……僕の…せいで……
───情けない……
時間ばかりに気を取られた!
情けない……情けない!!!
ガリガリの痩せ男は痛む脇腹を抑えながら、自分の情けなさを恨んだ。
「まだ緑谷は飛び出していないなぁ~」
楽しそうにその様子を見ながら、熾音は呟いた。
とあるビルの屋上、熾音の視線の先には深い緑色のクセッ毛が特徴の少年─緑谷がいた。
何故、緑谷のことを知っているのかというと、熾音は転生者だ。前の世界で、熾音は漫画が大好きな青年だった。色々な漫画を読んだ熾音は当然、僕のヒーローアカデミアも読んでいる。だから知っているのだ。この先の展開も緑谷がオールマイトから力を貰うのも、捕まってもがいているのが爆豪ということも─全部知っているのだ。
だからといって、そこに邪魔をしたりなどしようと熾音は思っていなかった。
前の世界ではあり得ないことが起こっているのだ、ぶち壊したくないと思うだろう?
だから熾音は眺めるだけ、傍観者として、その様子を見る。
「そろそろ助けに行けよ
風になびく青黒い髪が揺れ、群青色の瞳が髪の間から覗く。ニヤリと笑い、群青色の瞳が怪しく光る。
あのヘドロは掴めない!有利な“個性”のヒーローを待つしかない!!
頑張って…ごめん!!ごめんなさい…!!
すぐに救けが来てくれるから…
誰かヒーローがすぐ……
爆豪の苦しそうな顔が、緑谷を動かした。
「!?」
制止の声も聞かず、飛び出した緑谷は自分でも、なんで飛び出したのかわからなかった。
「かっちゃん!!」
色々理屈はあったと思う
ただ、その時は
「君が救けを求める顔してた」
「もう少しなんだから邪魔するなあ!!!」
ヘドロの手が、緑谷に迫る──
「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!!」
誰もが安心するその声の主は、血を吐きながら、拳を握る。
「プロはいつだって命懸け!!!!!!
DETROIT…SMASH!!」
爆豪の身体にまとわりついていたヘドロは風圧で吹き飛ばされた。その風圧で雨が降り、人々はオールマイトの強さを垣間見た。
散ったベトベトは回収され、緑谷はヒーロー達に怒られ、逆に爆豪は称賛された。
その様子を見ていた熾音は楽しそうに笑い、屋上を後にした。
「さて、
傍観者といっても見てるだけなんてそんなつまらないことしたくないよ?
ちょっとは関わっといた方が面白いに決まってる。
ニヤリと口角を上げる熾音はゆっくりと緑谷に会いに行く─
とぼとぼと家に向かって歩いていると、角の道からオールマイトが現れた。
突然のことに驚きながらも、緑谷は何故、ここにオールマイトがいるのか、何故自分の前に現れたのか気になり、聞いてみると、
「抜けるくらいワケないさ!!
何故なら私はオールマゲボォッ!!!」
と血を吐きながら答えてくれた。
血を吐くのにはびびってしまう……。
血を拭いながら、オールマイトは緑谷を見据える。
「礼と訂正…そして提案をしに来たんだ
君の身の上を聞いてなければ、口先だけのニセ筋となるところだった、ありがとう!!」
緑谷はお礼を言うオールマイトに申し訳ない気持ちが強く、俯いてまともに顔を見れなかった。
自分が悪いから、仕事の邪魔をした“無個性”の自分が、生意気に……
「あの場の誰でもない小心者で“無個性”の君だったから、私は動かされた!!」
トップヒーローは学生時から逸話を残す者がいる
逸話を残してきた者の多くが、話をある言葉で結ぶ。
「「考えるより先に体が動いていた」と!!」
オールマイトの言葉を聞き、緑谷は母の言葉を思い出していた。
ごめんねごめんねぇ出久……
そう泣きながら緑谷に抱きつき、涙を流す母の姿。
「君もそうだったんだろう!?」
心臓が、鼓動が、強くはねる。
「……うん…」
「君はヒーローになれる」
オールマイトの言葉が、胸を刺激する。
「頑張んないと…!!」
「あんただっけ?飛び出したの?」
声が聞こえ、体がビクッと跳ね上がる。後ろへ振り向くと、青黒い髪の青年が立っていた。
「あ、あの……」
「ん?ああ、ごめん。さっきのヘドロの事件見てたんだよね~…で、飛び出したのって君かい?」
ニヤリと笑う青年に少しビクつきながらも、答える。
「はい…そうです……」
視線をその青年から外しながら答える緑谷を見て、青年は笑い声をあげて笑った。
「アハハハハ!そんなにビビんなくても平気だよ?お前をどうこうしようなんざ考えてない。だから、そんなに怯えんな」
そう言い、青年は緑谷の頭の上に手をのせて、わしゃわしゃと撫でた。
「えっえっ?」
突然頭を撫でられ、困惑する緑谷だったが、次の青年の言葉で、緑谷は驚いた。
「頑張れよ」
「えっ?怒らないんですか?」
顔を見ながらそう言うと、青年は笑いながら言った。
「あんなキモイモノに立ち向かう勇気があるんだから、俺は怒ったりなんかしねぇよ?」
「なんでですか?」
緑谷の問いに、撫でる手を止め、考える仕草をとると、再びニヤリと口角をあげて、答えた。
「そっちの方が、面白そうだから」
「まぁ、俺が言いたかったのはこれだけ。じゃぁね」
くるりと踵を返し、歩き出そうとする足を止め、緑谷の方へ顔を向けると
「俺は仙ヶ炉熾音、またいつかなあ~」
名乗った。緑谷も、熾音に自分の名を言った。
「僕は緑谷出久です!」
「じゃあな」と手を振りながら、熾音は歩き出した。
「これからどんどん強くなれよ出久、そんでもって、俺と戦ってみようぜ」
楽しそうに呟き、熾音は家に向かい、歩みを進めた。