どうか、暖かい目で見てください。
薄暗く、雰囲気のあるバーに甲高い音が響いた。
音のする方へ視線を向けると、上下黒の作業着を身に纏った青黒い髪をした青年━熾音が、店内へと入ってきた。
「弔ちゃん、黒霧、昨日ぶり~」
陽気な声で挨拶をすると、熾音は死柄木の隣に腰を降ろした。
「チッ、弔ちゃんやめろ」
頬杖を付きながら舌打ちする死柄木に「良いじゃん」と笑いながら言い、熾音はカウンターの向こうにいる黒霧に視線を向けた。
「熾音、今日はいきなり帰らないでください。仕事がありますので。」
そう言い、黒霧は熾音にグラスを差し出した。
「了解。気が利くね、サンキュー」
差し出されたグラスを受け取り、一気に飲み干した。冷たい水が、喉を一気に潤す。
「冷たくてウマイな~」
「昨日の話の続きだ。」
冷えた水に心を癒されながら死柄木の言葉に、熾音は視線だけを向けて言った。
「宣戦布告、付き合うぜ━━弔」
「クソ!マジムカつく…」
死柄木は悪態を付きながら、足下に転がっている石を蹴りつけた。石は遠くの方へと飛ばされ、溝の中に入っていった。
「俺だって外ぐらい出るに決まってんだろが……」
俺はニートじゃねーし
そう呟いた死柄木の言葉に、陽気な声が返ってきた。
「そんなに怒んなって弔ちゃん。ハゲるぞ~」
「お前のせいで苛ついてんだぞ、熾音。あと、俺の毛根は強いからハゲねーよ」
舌打ちをしながら、死柄木は熾音に答えた。
「ハゲないんなら怒らせても大丈夫そうだな~
てか、めちゃくちゃマスコミ来てんじゃん。」
熾音と死柄木の目の前には、カメラマンやアナウンサーなど、マスコミ達が雄英高校の門の前に集まっていた。
「とっとと済ませて帰るぞ…」
面倒臭そうにそう言う死柄木に熾音は欠伸をしながら適当に返事を返した。
「ふぁ~い……にしても暑いね〜こんないい日は外に出るのが一番だよ。そう思うだろ、弔ちゃん?」
「ふざけんな、こんな暑い思いは嫌だね。アジトで寝てる方がいいに決まってる。」
頬を伝う汗を拭いながら、死柄木は吐き捨てるように言った。
「はいニート発言〜」
その言葉をバッサリと切り落とすかのように、熾音も言う。
「おい熾音、俺はニートじゃねぇって言ってんだろ!」
「そう怒鳴るなよ弔ちゃん。目立っちゃうだろ?」
熾音の言葉に、死柄木は後ろを振り向くと何人かのマスコミがこちらをチラチラと見ていたのが目に入った。
「チッお前、絶対殺すからな……」
舌打ちをし、熾音に殺害宣言すると、当の本人は笑みを浮かべたまま死柄木の肩に手を置いて、一言言った。
「おお、殺れるもんなら殺ってみろ期待してるぞ弔ちゃん。てか、早く行ってこいよ俺の個性でお前の姿は逸らしといたからさ〜」
ほれ、とっとと行ってこい。と言うように片手でしっしっと払った。死柄木はため息をつき、舌打ちをしながらマスコミ達の中へと消えていった。
しばらくして、マスコミ達が崩れた門の中に入り始めた。
ドタドタと音がしそうなぐらいの勢いで次々と取材陣が入っていく。その中から必死にこちらに来ようとする細身の男が「助けろ」と言わんばかりの顔で熾音を凝視していた。だが、熾音は助けるどころか何もせず、ただその様子を眺めていただけだった。終いには
うわ凄い状況だな〜
と他人行儀だった。
見ているのも飽きたのか、熾音は死柄木の細い手首を掴み、自分のほうへ引っ張った。
取材陣から逃れられた死柄木の表情はいつにも増して、青白くなっていた。
「どうした弔ちゃん、疲れきっているぞ?」
「お前が、早く、助けに、来ないからだろ…!」
途切れ途切れに言葉を放つ死柄木を見て、熾音は
「面白かったからさ、見ていたくなっちゃってね〜」
と、笑顔を見せながら答えた。
いちいち文句を言うのも疲れたのか、死柄木は大きな溜息をつき、元来た道を戻り始めた。
「あれ、もう帰るのか?」
「何時までもいたってしょうがねぇだろ。ヒーローに捕まるなんてことしたら情ねーだろが。」
死柄木の言葉に、それもそうかと呟き、死柄木の後に続いた。背後で騒ぐ取材陣達の声を聞きながら、熾音も歩き始めた。不意に後ろへ振り向き、ゲートの後ろにある高い建物を見つめると、ニヤリと口角を上げた。
「ここからが本番だぜ、
油断するな、常に気を配れ。
周りを見ろ
お前等の目の前には━━━
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