『弟』を支えた仲間達   作:ロア

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訓練校での僕らと弟達
01


 私は変態である。

 まごうことなき変態だと自負している。純愛からリョナまで幅広く行ける。かなりの練度だと信じて疑わない。

 今は、だが。昔はまだまだ未熟だった。

 

 いきなりなんの話だ、と思うだろう。だが、私が変態であることを理解しつつ、この話を読んでいただかねばならない。

 当時、訓練学校に入学した私は、自分が変態だと信じていて、私ほどの変態はそうそう居ないと考えていた。

 

 だが、変態とはどこにでも居るものだ。

 

「やあ、同室のヤツだな。オレはマリク・ケルビン。陸士志望で歳は12。よろしくな」

 

 訓練学校で割り当てられた寮の部屋に入ると、そう人懐こい笑顔を浮かべて挨拶をしてきた少年がいた。

 極普通の少年だ。髪と瞳の色は赤みがかった茶。ミッドなら珍しくもない色。身長も私とそう変わらない。

 第一印象は『ああ、少年だな』。そんなところか。

 

 だが、このまごうことなき普通の少年が。人懐こい笑みを浮かべてフレンドリーに接してくるこのマリクと名乗る少年が。

 

 彼が私を、私が今まで敬遠していた『男の娘』というジャンルに引きずり込んだのだ。

 

 

~~~~~

 

 

 私は男の娘が苦手だった。

 あのよくわからなさが、あのなんとも言えない矛盾に対する――これを読まれている変態諸兄には大変申し訳ないことだが――生理的な気持ち悪さが、どうにも受け付けなかったのである。

 

 『可愛らしい少女に見えるが、実は男である』

 

 当時の私からすれば、『だからどうした。気持ち悪いのだよ』と言っただろう。

 

 というのも、当時は『ふたなり』と同じものだと考えていたのだ。

 

 『ふたなり』は『可愛らしい少女にグロテスクなイチモツが生えている』というものだ。私は一度、これを見てトラウマになり、以来ずっと避けている。

 

 だが実際は『男の娘』とは別物であることを知った。

 

 その決定的な違いは、『ふたなり』は女、『男の娘』は男だということだ。これを知らなかった昔の自分を張り倒したくなるが、これを知ったときの、身体を電流が走ったような感覚は今も忘れられない。ある意味では、あれは天啓というものだったのかもしれない。

 

 だがしかし、これを執筆している今の私でさえ、『ふたなり』と『スカトロ』だけは受け付けない。どれだけの年月を掛けても、どうしても、生理的な嫌悪感を拭うことはできなかったのだ。

 意気地無しと罵ってくれて構わない。だが私は、やはり『ふたなり』を産み出した先人達の、グロテスクなまでの性への執念に狂気を感じざるを得ない。

 

 話が逸れたようだ。

 

 ともあれ、私は彼に――マリク・ケルビンと名乗った少年に自己紹介を返すことにした。

 

「僕はクォーツ・ディレンドだ。空士になりたいと思ってる。歳は12――同い年だな」

 

 無難な挨拶だ。彼に私が変態であることを悟られてはいけない――最初はそう考えていた。

 その理由を少しだけ記そう。

 

 変態とは、社会的に差別されるものである。

 良い意味では無いだろう。読んで字のごとく、といったところだ。当然、社会の風当たりは強い。

 『犯罪を犯すもの=変態』と認識されてもおかしくないのだ。

 もちろんそれは一部の気違いのせいなのだが、『私は彼奴等とは違う変態です』と言ったところで信じて貰える筈もない。毒がなかろうが実際はあまり汚くないと言われようが、ゴキブリはゴキブリである。そういった認識なのだ。

 実際の意味は生物の変化だとか言うが、ぶっちゃけどうでもいい。

 

 だから私は、変態は影で楽しむものだと思っていた。

 この少年も、私が変態だと知れば軽蔑するだろうと思っていた。

 

 それが間違いだと気付いたのは、彼と握手をしたときだ。

 

 彼と手が触れた瞬間、わかった。

 そう、それはまるで新型同士の感応現象のように――わかる人がいたら是非とも著者と通信して欲しいものだ――お互いのことがわかった。

 

 私が意識を取り戻し、握っていた手から視線を上げると、そこには先程の少年はいなかった。

 

 人懐こい笑顔を浮かべていた顔は、今は歪つ(たのしそう)に嗤っていた。先程の無邪気な少年は、この『男』が猫を被っていたのだろう。まったく、見事な風変わりだ。

 だが、それを見てわかった。気が付いた、と言ってもいいかもしれない。

 

 私も同じように嗤っていたことに。

 

 

~~~~~

 

 

 私はマリクと意気投合した。

 お互いが変態だとわかれば、なんら遠慮することは無い。ただひたすら、私欲を満たすのみ。

 私はマリクと語り明かした。

 一般的な萌え要素はもちろん、変態的な物にも明るかったマリクと語り合うのは楽しかった。

 変態同士の語り合いは、こんなにも楽しく、いきいきとできるのだ。

 今は20歳である著者だが、当時十年ちょっとだった短い人生の中で、一番楽しい時間だった、そう断言できる。

 

 だが、その楽しい時間はわずかの間、止まることになる。

 

 

~~~~~

 

 

 それが当時の、私の人生で一番の転機だったのだろう。

 切っ掛けは、マリクのこの一言だった。

 

「やっぱり、オレは男の娘が最高だと思うな」

 

 その言葉を聞いて、私は急激に頭が冷めていくのを感じた。

 なぜなら、先述の通り、当時の私は男の娘が苦手だったからである。

 だから、こう答えたのだ。

 

「あんなものが好きなんて、変わってるな」

 

 あの時のマリクの表情は忘れられない。地獄の門番もかくやという憤怒の形相だった。

 彼は私の襟首を掴み上げて壁に押し付けた。

 

「足コキが好きなんて言ってる阿呆のお前に言われたかねぇ」

 

 その言葉で、私の表情が歪むのがわかった。

 なるほど、自身の好いているモノを貶されるのはここまで不愉快なものなのか。

 そこまでわかれば、もう遠慮はいらなかった。

 私は腕を振りかぶり、マリクの頬に拳を食らわせる。

 

「ハッ、足コキの良さがわからん奴に、どうして変態を名乗れる!」

「ノーマルなプレイだけじゃなく、様々なプレイを楽しめない奴が、変態を語るな!」

 

 マリクは私を殴り返してくる。

 なるほど、殴られるのは痛いものだ。だが、男に殴られても嬉しくもなんともない。

 その苛立ちを込め、私はマリクに蹴りを入れる。

 

「見た目は女と言えど、男だろうが! 所詮はBL。男好きのホモだろう!」

「ああ、男の娘が好きな奴はホモだろうさ! 否定する奴も居るが、オレは認める!」

「所詮男同士が好き合うだけ。変態を差別するつもりは無いが、認めるつもりもない!」

「違うな! 間違っているぞクォーツ・ディレンド!」

 

 私の拳を受け止め、マリクが吼えた。

 

「男の娘には三種類ある!」

 

 受け止めていない左手を上げ、一つ目、と指を一本立てた。

 

「見た目が女の子みたいであることをコンプレックスに感じていて、それをダシに無理矢理女装させられるタイプ!」

 

 次に、と指を二本立てる。

 

「女の子らしい自身の容姿を認めていて、自ら女装して男を騙したりからかったりして楽しむタイプ!」

 

 最後に、と指を三本立てた。

 

「自身は意識していなく、服装も普通である筈なのに――何故か(・・・)可愛らしく見える、無自覚なタイプだ!」

「それがどうした!」

 

 この時の私の言葉に『まったくだ』と同意してくれる者は読者の中にどれほどいるだろうか。

 もしくは、『そんなこともわからんのか』と憤慨するだろうか。

 

「わからねぇのか!」

 

 マリクはもう一度吼えた。

 

「男だろうが、女だろうが関係無い! 重要なのは――『可愛いかどうか』だろうがっ!!」

「――っ!」

 

 思わず息を呑んだ。

 そうだ。その通りだ。まったくもって、その通りなのだ。

 私は今まで、『男の娘は男が女装しているもの』ということだけに反発していた。

 男の娘と男が交わっていようが、所詮はBL。私の知るところでは無い、と自分の殻に籠っていた。

 

 だが、それは違うと彼は言う。

 彼は私の意見を覆した。

 至極単純で、それ故に強固な意思と説得力を持った言葉で。

 

 そう。つまりはそういうことなのだ。

 

「マリク、僕は――」

「そうだ、友よ――」

「「――ああ、たったそれだけの事だったんだ!」」

 

 こうして、私の好みに『男の娘』のジャンルが追加されたのだった。

 

 ちなみにこの騒動の最中、女子は冷たい目で、男子は楽しそうに笑いながら、我々を見ていたのだった。

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